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CH6 自覚

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受付で、男が二人分の金を払う。

受付に座った若い男もまた、ヌメりを帯びた視線で彼を見る。

薄っぺらい浴衣とタオルを渡される。

サウナと言えば、男女別に脱衣場が別れているのかと思っていたが、脱衣場は一つ。

そこには、男性しかいない。

建物が丸々サウナの施設になっているようで、案内板を見ると、一階は脱衣室とロビー、2階が大浴場とサウナ、3階が広間、4・5階が有料個室となっている。

脱衣室にはロッカーが迷路のように置かれている。

彼は労働者風と別の列のロッカーに向かう。

彼は、この場所についてしっかりと把握していたわけではない。

が、脱衣場の横のロビーにたむろする男達は、若い者から年配まで雑多だ。

入場料は確かに労働者風に払ってもらったが、他にも彼になびきそうな者達がいるはず、、、

本能が彼に告げる。

サウナ代は払ってもらった。

だが、その対価に何かを約束したわけではない。

彼は、ロッカーの扉を空け、服をさっさと脱ぎ捨てた。

急いで服を脱いだのだろう。

労働者風が腰にタオルを巻き付けただけの格好で、彼の裸体を賛美するように眺めている。

彼は、労働者風を感情の無い目で見る。

肉体労働で鍛えたのだろう。

実用的に鍛えられた筋肉に覆われている。

美味しそう、、、

彼は思った。

労働者と連れだって脱衣室を出る。

若々しい彼にロビーにいる者達の視線が集まる。

白髪頭の上品な紳士、、、

和柄の入れ墨の入った目の鋭い男、、、

ホスト風の若い男性、、、

サラリーマン風、、、

学生風、、、、

タオルを腰に巻いただけの者も混じっているが、ほとんどの者が丈の短い浴衣をお揃いでつけている。

お揃いなのは身に付けるものだけではなく、彼に対する称賛の視線も同じだった。

その熱い視線の数々を意に介さないと言うように彼は、堂々と歩く。

その横で、労働者風がこれは俺の獲物だと言うようににらみを効かせている。

だが、労働者風ではなく、彼がアドバンテージを握っているのは明らかだった。

彼と労働者風は2階に向かう階段へと向かう。

2階は大浴場。

着たばかりの浴衣とブリーフを脱ぎ、籠に入れると、彼は大浴場に続く硝子戸を開ける。

従者のように労働者風が着いてくる。

「あの扉がサウナ室だよ、、、」

へりくだった説明口調になっている。

彼と会話することによって、他の男達を遠ざけようとしているのだろう。

彼はマイペースだ。

身体を洗う前に、サウナ室を覗きに行く。

え?

サウナ室の扉の硝子窓から中を覗く。

表情の少ない彼の目に、珍しく驚きの色が浮かぶ。

そこに警察官がいた。

サウナ室の壇上になった台の一番上の列の真ん中にドンと腰掛け、筋肉を強調するように背筋を伸ばし腕を組んでいる。

大股開きで股間を強調している。

彼は驚きでじっと見つめた。

「おい、あいつはよせ」

後ろから労働者風が焦ったように言う。

「あいつは、タチンボだ。金を取るんだ。良い歳をしてサウナで身体を売ってるんだ、、、あいつに惚れるとむしり取られるぜ、、、、」

なるほどね、、、

彼は思う。

サウナ室の扉を離れ、そしてそこから一番遠い洗い場へ行く。

労働者風が追いかけるように隣に座る。

そんな労働者風を無視し、彼は考える。

見られちゃいけないよな、、、

外には出るなと強く言われていたし、、、

こうやってお金を稼いでたんだ、、、

珍しく色々頭を巡らせながら、彼は身体を洗う。

「背中を流してやるよ、、、」

そう言って近寄ろうとする労働者風に、手で断る。

まだ、早い、、、

本能が告げる。

湯船に入る。

両手足を伸ばす。

気持ちが良い。

彼は屈託無く、お湯の下で身体を伸び伸びと広げる。

均整の取れた体格、滑かな肌。

お湯を通し、惜しげもなく晒される。

しかし、そんなことは気にしない。

ふう、、、

一息つき、洗い場を見ると、ロビーに居た何人かが、もう一風呂浴びた雰囲気だったのに、また風呂場に来て、遠目で彼を見ていた。

彼を追ってきたのが歴然だ。

ふーん、もしかして、選びたい放題?

彼は、自分の魅力を自覚し始めた。

壮年の男が入ってきた。

その男は風呂場だと言うのに、不似合いに万札を何枚か握りしめている。

手首には高価そうな金の腕輪がピカピカ光っている。

男はサウナに入っていった。

しばらくの後、サウナ室の扉が開く。

警察官が横柄な表情で出てきた。

手には万札を握っている。

金ピカ腕輪がその後を着いていく。

金ピカの目、欲情と憎しみが混じりあったような暗い光が宿っている。

「ああやって、売るんだ。あの金の腕輪の男、地元の不動産屋だが、相当、注ぎ込んでるって話だ。あと三人ばかり入れ込んでいる男がいて、競うように金を貢いでいるらしい」

彼は、その言葉をまるで他人事のように聞く。

「おいっ」

?

急にホスト風の男が声をかけてきた。

若作りだが、30前後か?

整った顔立ち、身体も鍛えられている。

「小遣い欲しいか?」

その上からの物言いに、彼は軽くイラッとして、無視しかける。

労働者風がホスト風を睨み付ける。

「無視すんなよ。一発やらせれば三万やるよ」

金は欲しかった。

が、横柄な物言いに従う気は無かった。

「なんだ、このホスト野郎、偉そうに」

「うっせえよ、おっさんは引っ込んでろ」

「ふざけんなっ!」

湯船に険悪な空気が漂う。

彼は、やってられないと言う風に肩をすくめるとそっと湯船を出た。

湯船では二人の口汚いのの知り合いが続いている。

タオルで体を拭いていると、誰かがそっと近くにきた。

見ると日に焼けたガタイの良い男。

歳は五十前後だろうか。

精力溢れる大人の男の雰囲気だ。

手にした鍵を彼に見せる。

「喧嘩は無粋だね。良かったら、上の個室でゆっくり話さないか?楽しく君と時間を過ごしてみたい。もちろん、三万なんてはした金で君を拘束しようなんて気持ちはない。楽しませてくれた分の俺いはしよう」

彼は、頷いた。

この後、どうなるかは判らない。

だが、ホスト風の提示した三万よりは良い目を見ることが出来そうだ。

そのためには、自分の振る舞い次第と言うことも彼には、判っていた。

もちろん、金のために意に削ぐわぬことをするつもりはなかった。

彼から手を伸ばし、その男の腕を取った。

二人は、階段を上っていった。




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