ブラックマンバ~毒蛇の名で呼ばれる男妾

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CH8 階段

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単調な生活に変化が加わった。

ホテルの部屋で一人過ごし、夕方、あるいは夜、二人分の弁当を買って戻ってくる警察官を待ち、身体を交え、飯を食うだけの単調な生活。

サウナを訪れた夜、疲れた顔をして戻ってきた警察官。

何時ものように彼にハグをしてきた。

その瞬間、彼の背にゾワッとした感覚が走る。

その瞬間、彼の脳裏に浮かんだのは、

“ブスイ、、、”

という単語だった。

無粋、、、

不粋、、、

大人の男が口にした言葉。

彼には意味はよく判らない。

が、カッコ良くないことであるのは、大人の男の口調で伝わった。

目の前の警察官は、彼の目にくすんで映った。

こんなにシワシワで、小さかったっけ?

彼は思う。

すっと彼はハグを避ける。

ギョッとしたような表情を浮かべる警察官。

縋るような目。

その上目遣いの視線もうっとうしく感じる。

「どうした?」

初めての彼の拒絶に、警察官が言う。

「俺は疲れているんだ。仕事をしてきたんだ。癒してくれ」

仕事、、、

サウナで裸を晒して、物欲しげな目で彷徨く。

自分にすがってくる男には横柄に高値を要求し、すがってくる男がいない時には安値でオナニーを見せると持ちかけ、欲情した相手がそれ以上を求めてくると高値を吹っ掛けるという。

股間を強調し、筋肉質の身体を強調しながら物欲しげな目で歩いている姿を彼は思い出す。

大人の男の余裕に満ちた彼への接し方を知ってしまった今、目の前の警察官が小さく薄っぺらに見えてくる。

「まずは、飯を食おう。今日は奮発して焼肉弁当だぞ、、、」

あの金の腕輪の不動産屋からむしりとった金だろう。

彼は、大人の男に連れられ、もう食事を済ませてきていた。

食欲はない。

警察官は一人で弁当を開け、食い始めた。

貪り食う警察官の姿を、彼は冷ややかに眺めていた。

                                 ※

公衆電話を使うのは初めてだった。

彼は珍しく緊張した。

初めて公衆電話を使うということ、そして、あの大人の男がちゃんと相手をしてくれるかどうかへの不安もあった。

“ああ、やはり君か、、、”

優しい声がする。

“なぜ判ったか?そりゃ、このご時世、公衆電話からかかってくる電話は、イタズラ電話か、携帯を持ってないヤツからのものだ。少なくとも、これはイタズラ電話じゃないし、私の知り合いで携帯電話を持っていないのは君だけだ”

なるほど、、、

と彼は思いつつ、ホッとする。

待ち合わせの約束はあっさり決まった。

“仕事?若い者に任せて、私はさっさと切り上げるさ”

大人の男の名刺には長いカタカナの会社名とCEOという肩書きが書かれていた。

彼が指定したのは高級なホテルだった。

が、もちろん彼は、始めて聞く名だった。

“今、現金は持っているかい?ならタクシーに乗り、ホテル名を言えば連れていってくれる。領収書を貰っておいてくれ。ちゃんとタクシー代は払う”

古びた町から乗ったタクシーは、こんもりとした木々に囲まれた公園、堅牢なビルの並んだオフィス街と進み、一際高いビルへと近付いていった。

タクシーが車止まりに着くと、制服のホテルマンが扉のところまで飛んでくる。。

「いらっしゃいませ」

丁寧な口調に、彼は気後れをする。

待ち合わせに指定された2階のラウンジの場所を聞く。

ホテルマンは丁寧に生き方を教えてくれた。

ロビーにはこんなに大きな花瓶があるのかと思うような陶器の壺に季節の花々が活けられ、巨大なシャンデリアがぶら下がっている。

キチッとした服を着こなした上品な人々が広いロビーを歩き、歓談している。

フカフカした絨毯の上を歩き、デコラティブな階段を上る。

正面に言われた名前のラウンジがあった。

これまで彼が知っている喫茶店とは明らかに質の異なる店。

丁寧すぎて冷たさすら感じるホテルマンに席まで案内される。

フカフカのソファ。

彼は自分が場違いなところにいるという居心地の悪さを感じる。

彼の目が真ん丸になる。

手渡されたメニューの値段を見てだ。

何を頼めば、、、

メニューに並んだ見慣れぬカタカナの名前に気後れし、唯一、パッと分かったコーヒーを頼む。

「待たせたね」

ほどなく大人の男が現れた。

優雅な物腰。

前に座る。

「コーヒーか。ま、この時間からアルコールでもないか、私もノンアルコールにしよう」

そして、紅茶をオーダーする。

そして、優しい目で彼を見る。

「今日は、ゆっくりできるのかい?」

ゆっくりもなにも、彼には普段から用事はない。

「若いのに、何もしないのはもったいない。時間には限りがあるんだよ」

そして、彼のシャツ、ズボンを見る。

シャツは纏め売りの安物、ズボンは一本しか持っていない。

だから、サウナで始めて会った時とほとんど同じ服装だ。

「部屋でゆっくりする前に、買い物に行かないか?」

買い物?

彼は不思議に思う。

互いの身体を貪ることになると思っていたのに、買い物って?

彼は、当然に、大人の男はすぐに彼の身体を求めてくるものだと思っていた。

「不思議そうな顔をしているね。君は原石だ。どう輝くか磨きたくなった。まずは、服を買いに行こう」

彼の目が輝いた。

自分が登り階段の一段目に足をかけた気がしていた。





    
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