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CH9 研磨

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彼は、足がすくむという経験を初めてした。

アルファベットの並んだ店名、高級そうな外観の店の内部はさらに豪華で彼を拒絶するような圧を放っている。

黒いスーツを着た男がスッと近づいてくる。

彼は、大人の男の背の後ろに隠れるように足を進める。

「今、流行りの服を教えてくれ、彼に似合うような」

黒スーツは表情を変えず彼を見る。

視線が上下に動く。

「こちらのジャケットなどはいかがでしょう?カジュアルにもフォーマルにも着こなせます」

「これが、若者に人気なのか?少し軽薄だな。もっと落ち着いた、、、いや、尖っている方がいいのかな、、、」

彼を横に放置して、彼を中心にした話が進んでいく。

採寸。

「いい身体をしているだろう」

「ええ。お見事なスタイルです」

そう言いつつ店員は、メジャーで彼の寸法を計る。

肩幅、腕、胸回り、胴回り、、、、

丁寧に計っていく。

店員の指が、掌が、無礼にならない程度に、だが、しっかりと布の下の彼の身体を探っていく。

両足。

店員の手の甲が、彼の局部にあたる。

時間をかけてゆっくり股下の長さが計られる。

計られる間、店員の手の甲が布越しに彼の局部をサワサワと撫で、くすぐったかった。

そして、合う靴を選び、フィッティングルームに向かう。

安売りの店の服しか着たことがない彼にとって、初めての経験だ。

狭いフィティングルーム。

抱えて入った服にシワがよらぬよう丁寧に置き、シャツを脱ぐ。

ちょっと痩せちゃったな、、、

鏡に映った上半身を見て思う。

素肌にシャツを羽織る。

更々とした冷たいような感触。

シルクを纏うのはもちろん初めてだ。

ボタンをどこまでとめていいか迷う。

コジャレたスラックス。

これは、大人の男と店員が、渋い色のデニム地のものと迷った結果、選んだものだ。

腰、股下に気持ち良くフィットする。

「ほう、、、」

大人の男が感心したように呟く。

「似合うじゃないか、、、」

店員が裾の長さを確かめる。

足元はどのくらいの長さがいいか聞かれるが、彼にはどのくらいが良いか判らない。

長さは任せることにした。

すぐに裾あげさせると、店員は奥に消える。

「こちらに来なさい」

そう言って大人の男が向かったのは、下着の棚だった。

様々な色、デザインに彼は戸惑う。

量販店の紺かグレーのボクサーパンツしか、彼は身に付けたことがない。

「どれがいい?」

どれがいいも何も、彼が今まで身に付けてきた下着とは違いすぎて戸惑うばかりだ。

「こんなのはどうだ?」

大人の男がつまみ上げたのは、局部のみ小さな布がつき、あとは洗いメッシュの細い布地の黒いブーメランビキニ。

彼は、思わずゾワッとし、身を引く。

「すまん、すまん。さすがにこれは趣味が悪かったな」

そして、大人の男が選んだのは、黒地にブルーと緑のストライプをあしらった丈の短いボクサーブリーフと、股間を強調するかのように前が付き出したパステルグリーンのビキニパンツだった。

ほどなくズボンの裾あげが終わる。

大人の男は店員に二枚の下着も購入することを伝え、彼は再びフィッティングルームに入る。

下着もはきかえろと言うことだろう。

どちらにしようか彼は、軽く悩んだ。

おそらく、この後、ホテルに戻り、下着姿を大人の男に見せるのだろう。

ならば、、、

かれは、こんな薄くて小さな布切れ、本当に履けるのか、、、と思いつつ、パステルグリーンのビキニパンツを履く。

鏡に映った下着一枚の自分を見る。

思った以上にビキニパンツが自分に似合っていると感じる。

自分の裸体の美しさを彼は自覚し始めた。

                               *
ホテルに戻る。

豪華なデラックスルーム。

軽く気後れするが、もう、おどおどしてホテルのロビーに足を踏み入れた彼とは雰囲気が変わっている。

慣れてきたのだ。

ダブルベッドが置かれ、横には大きめのソファがある。

大人の男が彼の持つ今日着てきた洋服と靴をいれたブランドロゴの入った大きな紙バッグを荷物置きの上に置くようにそくし、ソファに腰掛け用意されていた水差しからグラスに水を注ぐ。

彼は、少し拍子抜けだった。

ダブルベッドを見て、すぐに大人の男にそのベッドに押し倒されると思っていたのだ。

大人の男が彼を見て、ソファに座る位置を少しずらす。

横に座れと言うのだろう。

彼は大人しく従う。

場馴れした様子でソファにくつろぐ大人の男。

そっと手が彼の肩に回される。

スッと引き寄せられるまま、彼は大人の男の身体にもたれ掛かる。

いい香り、、、

大人の男の体臭とコロンの芳香が重なった匂い。

落ち着くな、、、

彼は思う。

掠れた声で大人の男が囁く。

「君を磨きたい」

、、、、?

彼は、大人の男の言葉の意味が把握できず、至近にあるその顔を見る。

大人の男の目が優しい光を帯びる。

「なんて、可愛いんだろう」

そう言い、彼の額にキスをする。

「風呂で君を洗わせてくれ、、、美しく磨いてみせる、、、」

そして、二人はバスルームに向かう。


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