龍神様の供物

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月と星輝く浜辺

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大晦日の夜。

村人は外に出ることを禁じられている。

もちろん、私は、それを守る気はなかった。

雲一つ無い美しい月夜だった。

日の暮れるころから、私は、滝壺の近くで身を潜めていた。

バアちゃんはもう早くに寝ている。

母ちゃんは、他の奉公人が里に帰る正月も多めの駄賃を貰うためにお屋敷で働いている。

だから、禁忌を破り家を出る私を咎める者は居なかった。

寒さが体に厳しく、自分が凍ってしまうのではないかと思われ始めた頃、長老を始めとする大人たちが松明を片手に現れた。

純白の装束に身を包んだサダ兄ぃが小屋から出てきた。

松明の明かりを受けたその顔は、頬から肉が落ち、神々しいほどの端正さだった。

祝詞を上げる神主を先頭に松明に照らされた一行は浜へ向かい始める。

距離をおいて、後をつけた。

夜の道を進む白装束のもの達を松明が浮かび上がらせるのは荘厳で美しい光景だった。

私は、お守りのように腰に差した小刀を、時々触りながらこっそりとついていく。

見え始めた浜には白木を十字に組み合わせた台が立っていた。

その前には簡素な祭壇らしきもの。

浜に到着した一行。

台の前に広がる。

サダ兄ぃは無言で浜に立てられた十字の台の前に立つと、台に背を向けて両手を広げた。

若衆が白く太い縄で、サダ兄ぃの両腕を横に渡された白木にきつく括りつけていく。

足は、つま先が辛うじて砂につくくらいだ。

そして、十字の白木の台の両脇に篝火が燃やされた。

神主様は海に向かい祝詞を唱え出す。

夜の海は静かだった。

満点の星と月の光できらめいていた。

風もなく穏やかで神秘的な光景だった。

と、海面の光がゆっくりと動き出し纏まり始めた。

最初は目の錯覚かと思った。

しかし、確かに、細かく海の上に散っていた光が集まっていく。

「おぉ、御道じゃ、見事な御道が通った。サダ、でかした」

波の上で光がゆっくりと集まり、海の上、沖から浜へ続く一本の光の帯が出来あがった。

神主たちは、それを見届けたように、さっと立ち上がると元来た道を引き返して行った。

ザクザクと砂を踏みつける音が遠くなっていく。

砂浜には、台に括りつけられたサダ兄ぃと岩陰に隠れた私が残った。

辺りには静謐な気配が立ち込め、私は気後れし、サダ兄ぃを助けるために浜へ出て行くことが出来なかった。

折角、小刀まで持って来たというのに。

それでも、気を奮い立て動こうとした時、有り得ないことに海上の光の帯の先に人影が現れ、ゆっくりと浜に近づいて来た。

「あぁ、龍神様・・・龍神様・・・」

サダ兄ぃが感に堪えるような声を漏らした。

その顔を見ると、歓喜の表情が浮かんでいる。

私は戸惑った。

サダ兄ぃは恐ろしい目に会うと思っていたのに・・・

その人影を待ち望んでいたのは明らかだった。

海に目を戻すと沖からやってきたその人影は浜に上がるところだった。

サダ兄ぃも十分に大きく立派な体躯をしていたが、それを一回り上回る筋骨隆々とした体だった。

村一番の力持ちも見劣りするほど見事に荒々しく盛り上がった筋肉。

そして、鋭い目が光を放つ髭に覆われた雄々しく凛々しい顔。

首からは勾玉の付いた首飾りをし、腰は申し訳程度の布で覆われている。

サダ兄ぃも益荒男という言葉に相応しいと思えたが、海から現れた逞しい男には敵わなかった。

歳の頃はサダ兄ぃよりも上。

長じた男の落ち着きを蓄えている。

そして圧倒的な威厳。

荒々しいこうごうしさ。

龍神様・・・この方が龍神様なのだ。

篝火で照らされたその肌は、澄んだ深い海のような瑠璃色で人外の存在ということが知れた。

「りゅ・・・龍神様、お待ちしておりました。サダは、サダはこの十二年、龍神様のことだけをお待ちしておりました。今日のため、体を鍛え、精進してまいりましたぁっ」

切ないような、甘えるような、懇願するようなサダ兄ぃの声。

叫び声に近い。

聞いたことがない声色だった。

耳を塞ぎたかった。

龍神様はサダ兄ぃの前に立つと慈しむような目で、サダ兄ぃを見た。

そして、長い指でサダ兄ィの頬から首筋を撫でた。

「っ!、、、あぁ、、、」

サダ兄ぃの口から、声が漏れた。

切なげな声。

いつものサダ兄ぃじゃないっ、いつもの明るく毅然としたサダ兄ぃじゃ・・・

思いもがけない光景に、忍んで来たことを、私は後悔し始めていた。

龍神様の顔がサダ兄ぃの顔に近づく。

微かに開いた口からは鋭い歯が見え、サダ兄ィが食われるのかと心配になった。

が、唇がサダ兄ィの唇に重ねられただけで食われることはなかった。

サダ兄ぃは、唇を重ねられても拒まない。

それどころか、自ら進んで唇を重ねていた。

そして、龍神様の手が、白装束の上からサダ兄ィの下半身を撫で始めた。

尻の辺り、そして魔羅の辺り。

私は、なぜか生まれて初めて感じる体の芯から込み上げてくるゾクゾクした奮えを覚え始めてた。

龍神様はカッと口を開いた。

人のものではない長く表面のざらついた舌がウネウネと生き物のように伸び、サダ兄ぃの白装束の胸元へ伸びていった。

サダ兄ぃの悦びの声があがる。



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