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水の眷属

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雄一は、軽く戸惑う。

褌か、、、

子供の頃、夏の海での遠泳や寒中水泳で褌を絞めて泳いだこともある。

だが、それは子供時代のイベントだ。

長じてからは流石に褌一丁で泳いだことはない。

雄一も、現代の若者だ。

流石に褌でプールに行くのには軽く抵抗を感じる。

しかし、見ると、滝川はためらいもなく制服を脱ぎ始めている。

紺のブリーフ一枚になると、褌を片手に固まっている雄一を不思議そうに見る。

雄一は、滝川の鍛えられた美しい身体に一瞬見とれた。

程よく締まり、筋肉も綺麗に付いている。

ゴツい筋肉ではなく、しなやかで、滑らか。

若く俊敏な獣のようだ。

肌も陶器のようにスベスベだ。

「先生、どうしました?」

「い、いや、褌っていうのに驚いてしまって」

「確かに、そうですよね。でも、それを佐々木先生の前で言ったら、ダメですよ」

「そうなのか?」

「ええ、日本男児たるもの弛んどるって怒られますよ。佐々木先生に言わせると褌は、男児の大事なところをキュット締め上げて、精神を高めてくれるんですって」

そう話しつつ、滝川はタオルで隠すこともせずにブリーフを降ろし、手際よく褌を締めていく。

そう言えば、昔習った先生も同じようなことを言っていたななどと考え、雄一はジャージを脱ぎ始める。

生徒がさっさと褌を締めているのに、教師である自分がウジウジ躊躇うのも男らしくないと考えたのだ。

褌を締めるのには慣れている。

一瞬、困る。

2つ折りにして布の一端を肩に掛けると、普段、自分が着用している布の長さよりは若干、短かった。

だが、グダグダ言って布を代えるのも男らしくない。

この長さならどうにかいけるだろう。

スッスッと褌を締め上げる。

若干短かったのは事実で、前を隠す部分の撚った紐が普段よりも下に位置し、陰毛の上部が露になる。

このモッサリ状態はマズいか?

自分の下腹部を見て考える。

「先生、すごい剛毛ですね」

雄一の頬が赤く染まる。

「このはみ出し方じゃ、マズいか、、、」

「そんなことないっすよ。男同士で恥ずかしがる方が変ですよ」

「まぁ、そうだな」

「そうですよ。早く行きましょう。佐々木先生が待っています」

滝川は、雄一の手を引っ張りプールへ向かう。

                       ※
白い部屋。

壁も、調度品も、ベッドも全て白で統一されている。

ベッドの上で寝返りをうった男がいる。

整った顔。

鼻筋が通っている。

唇は厚く肉感的だ。

白の掛け布団から裸の胸から上が出ている。

鍛えられた筋肉もまた、肉感的にムチッとした質感を持っている。

ウウン、、、

そう声を漏らしながら、ベッドの中で伸びをし、目を開ける。

ベッドサイドに置かれた銀縁メガネを掛ける。

鍛えられた肉体と裏腹に知的な顔になる。

“デク”の研究をしていた男だ。

その証拠に彼の横で丸まるように目を閉じているのは雄一が始業式の日に道場で行った試技で起こした振動に反応した“デク”だ。

「起きろ」

銀縁メガネが言う。

パチリと目が開く。

精気のない目。

焦点があっているのかどうか、微妙だ。

目は開けるが、動かない。

「“ハの三番”、朝の奉仕を、、、」

銀縁メガネが“ハの三番”と呼んだ男の頭をゆっくり押す。

“ハの三番”は、その肩幅の広い筋肉に覆われた身体をゆっくり起こし、掛け布団を剥がし、銀縁メガネの裸の下半身を露にするとその朝立している半奢りのペニスを口に含み、頭を上下させ始めた。

銀縁メガネは、何事もないようにタブレットを手にし、メールチェックを始めた。

                              ※
佐々木は、かくしゃくとした老人だった。

もう80に手が届く頃だろう。

しかし、鍛えられた痩身で、シワが刻まれた肌はしっかりとした年輪を感じさせる。

キリッと締めた褌。

ガンコな昔ながらの指導者という感じで、雄一は懐かしく思う。

「おおっ、高尾雄一くんだね。よく来たっ。君の試合はよく見ていた。怪我はもう治ったのか?」

声も大きい。

「いやぁ、立派な体格だ。まさに、益荒男だな」

1時間毎に時を告げるチャイムが鳴る。

佐々木の前に、褌姿の若者達が集まる。

「よおし、それでは準備体操」

佐々木が号令を掛け、佐々木の指示通りに身体を動かす。

古い、雄一にとっては懐かしくもある準備体操。

準備体操とはいえ手を抜かず、しっかりと筋肉を伸ばし、身体を動かせば、しっかりとした効果はあり、軽く汗は出る。

雄一の身体もエネルギーがチャージされたように熱を帯だし、額にうっすらと汗も浮かぶ。

「高尾くん、君は古式泳法の経験は?」

一通り準備体操を終えたところで、佐々木が大声で聞く。

「子供の頃に、修練で行ったことはあります」

「ならば、経験者か。では、習うより慣れろだな。では、いつも通り、順番に泳いでいくか。今日も手前の三レーンが横泳ぎ用だな」

そう言うと、佐々木は真ん中のレーンに飛び込んだ。

「それでは、いつも通りまずは泳げ、3列に並んで、その後、練習が必要なものは1レーンで個別指導をする、最初の列、入れ!」

3人が水の中に入る。

パチンッ!

佐々木が両手を打つ。

3人が古式泳法、横泳ぎを始める。

「次っ!」

拍手が鳴る。

水の波がプールに立つ。

雄一と滝川は3本の列の最後に並んでいる。

「先生、勝負しましょうよ。ハンデをつけますから」

「ハンデ?」

「先生が五メートル進んだところで、僕はスタートします」

滝川が、いたずらっ子のようにニヤッと笑う。

「ハンデか、、、いらないさ。やるなら同じ条件で正々堂々とやろう」

「お、先生、強気ですね。勝負では手を抜きませんよ」

「正々堂々やって負けるならそれでいい」

雄一と滝川の番が来た。

水に入る。

佐々木が手を打つ。

雄一は水の中に身体を進ませる。

半身になる。

足をガッと開き水を挟み、一気に閉じ、進む。

雄一の身体が水を切り、波が広がる。

雄一の脚の力で水が掻き回される。

雄一は全力だ。

滝川も。

他の褌を締めた生徒達も、、、

プールに波の波動が広がっていく、、、

                            ※
ッ!

??

銀縁メガネの表情が変わる。

股間に顔を埋めていた“デク”の動きが止まり、顔をふぅッとあげた。

命令をしていないのに何故、、、

“デク”は、無表情、死んだような目で、首を動かす。

何かに反応している?

銀縁メガネは食い入るように“デク”を見る。

ビクンッ

“デク”の身体が反応する。

いきなり両腕を突っ張り、上半身を反らす。

足は後方にピンと伸ばす。

どうした、、、?なんだ、この動きは、、、

そして、全身がピクピク動き出す。

“デク”は口をパクパクし始める。

銀縁メガネの目が見開く。

“デク”の肌から滑った粘液が出始めている。

そして、肌にはポツポツと鱗状のものが浮かび始める。

ま、まさか、これが化体、化体なのか、、、

銀縁メガネは、ベッドサイドのインターホンを押す。

「直ぐに撮影機器を持って来いっ、サーモメーターもっ」

ううぅ、、、ううぅ、、、

“デク”は呻き声をあげ、上半身を激しくのけ反らせている。

肌の湿り気は増し、鱗状の突起の数も増えている。

最初に浮かび始めた鱗状のモノは瑠璃色の光沢を帯び始める。

扉が開き、機器を運んだ白衣の男達が飛び込んでくる。

「こ、これは、、、」

「計測だっ、早く計測と撮影をっ」

目をギラギラさせて、銀縁メガネが言う。

自分が素っ裸なのは、まるで気にならないようだ。

インターホンから声が漏れる

「“ハの六番”に異常が、、、痙攣を始めました、、、」

「なに?“ハの六番”も?」

銀縁メガネが狂喜に満ちた表情となる。

「他の組に異常はないか?」

「“ハの六番”のみです。他の“デク”に異常はありません」

・・・“ハ”は、水の眷属、なにがあった、、、なにがあった、、、?

“ハの三番”は、身体をのけ反らせ口をパクパクしている。

苦しそうだ。

喉からヒィーヒィーという音がしている。

「水か、、、水がいるのか、、、」

銀縁メガネはデスクの脇のモニターのところにいき操作する。

学園内の様子が写し出される。

次々に切り替える。

「屋外プールだ。屋外プールへ連れていけ」

「屋外プールだと人目につきませんか?地下の水槽では、、、」

「地下の水槽では狭すぎる。そちらには“ハの六番”を連れていき観察させろ。今、屋外プールは誰も使っていない。このチャンスをみすみす逃すのは惜しいっ、直ぐにカートの用意をっ!“デク”を運べっ!」

銀縁メガネは興奮した口調で捲し立てた。

一人の白衣の男が言う。

「承知しました。用意いたします。苅谷先生、その間にお召し物を、、、」

                            ※
気持ちいい。

雄一は思う。

水泳はもう何年もやっていなかった。

久々に泳ぐと楽しい。

自分の身体が水に浮き、進む。

なんて気持ちがいいんだろう。

滝川は、雄一に気を遣ってペースを調整してくれているのか、雄一の少し前を泳いでくれている。

だから、雄一は滝川のあとを追い、距離をあけられないよう力を込めて水を掻く。

「先生、前に水泳は苦手って言ってましたけど、なかなか上手いじゃないですか」

「いや、まだまだだ」

顔の水を掌で拭いながら雄一は言う。

「じゃ、次も全力で勝負しましょう」

「望むところだ」

佐々木は筋のよろしくない何人かを1コースに移し、指導を始めている。

他の者は2、3コースでめいめい泳ぐ。

「先生、行きましょう」

滝川と雄一の番になり二人は泳ぎ出す。

雄一と滝川は打ち解けたようだ。

雄一は、泳ぐ楽しさを感じながらプールを進む。

                                 ※

「フェンスを閉じろ。平の民には見られないように気を付けろ」

銀縁メガネ、、、苅谷が叫ぶ。

苅谷は素肌に白衣のみを纏っている。

服を着る間も惜しかったのだろう。

白衣の男達の内三人が金網のフェンスにカーテンのように備え付けられているシートを広げていく。

直ぐに屋外プールは人目から隠される。

二人は撮影のカメラを抱えている。

そして、苅谷ともう一人がカートから“ハの三番”を抱えてくる。

“ハの三番”の身体をプールに入れる。

“ハの三番”身体がプールに沈んでいく。

!

「おぉ、、、」

白衣の男達が嘆声をあげる。

“ハの三番”が水の底で身体をくねらせ、泳ぎ出した。

鱗状のものは、上半身は少ないが下半身は肌を覆うほどになっている。

“ハの三番”の水の中での動きが早まる。

いや、早まるどころではない。

縦横無尽に動き回る感じだ。

「見ろ、脚の先、、、」

“ハの三番”の脛から足先にかけて薄い瑠璃色の半透明のものが水流にたなびき始めている。

「ひれ、、、鰭か、、、?!」

“ハの三番”の動きはスムーズで水の中を自由に舞う。

「み、水の眷属の復活なのか、、、?」

苅谷が呟く。

ー神は存在した、、、















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