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しおりを挟む「いいか?もう一度言うが」
「大丈夫よ、お父様。何かあれば大声で叫べ、でしょう?何かあった時はきちんとそうするから心配しないで?」
いつもティナベルの側でティナベルを守ってくれるリードヒルが今日はいない。
変な輩に囲まれないよう父親である自分が目を光らせていたいと思ってはいても、大人には大人たちの社交があるので中々そうはいかない。会場に入る時は一緒でもすぐに別行動となってしまう。
-リードヒルがいてくれれば…
ティナベルの父はそう思わずにはいれなかったけれど、リードヒルがこの四年で休暇を申し出たのは初めてのこと。
それを拒否する事は出来なかった。
「それじゃあまた後でね」
夜会の会場に入るなり元気にそう言い残し、一目散に食べ物が並ぶテーブルへと歩き出すティナベルの背をティナベルの父親は苦笑しながら見送った。
**********
「こんにちわ」
ティナベルがお皿の上に次から次へと食材を乗せていると一人の女性が声をかけてきた。
「…こんにちわ」
「美味しそうですね?ご一緒しても?」
透き通るような金色の長い髪に、薄い青い大きな瞳の女性。
年はティナベルとそう変わらないように見える。
ふんわりとした優しい雰囲気の淡い色のドレスを見に纏った誰の目も引くこの女性はリードヒルが女性に成った形。
と言っても、髪の長さどころか髪の色、瞳の色、声色も全て変わっているからリードヒルの面影はゼロ。
誰もそれがリードヒルだと気付くはずがなかった。
ティナベルさえも気付くはずがないのに…
「…リー?」
なぜかティナベルはリードヒルの面影ゼロの女性をリードヒルの愛称で呼んだ。
突然のことにリードヒルは一瞬固まりはしたものの、動揺がバレない程度にすぐに取り繕った。
「…自己紹介がまだでしたね、私は」
「リーだよね?」
その目は疑いではなく確信を持っていた。
誤魔化しても、嘘を付かれたと傷付けるだけだろうと思うとリードヒルは降参するしかない。
「…なんで分かった?」
「……なんで分かったんだろ?」
「いや、俺が聞いてるんだけど…」
この声で、この顔で、この姿でこんな口の聞き方。
まるで女装をした男だな、とリードヒルは自分で自分を思うけれど、ティナベルは全く気にしていない様子。
へらっと笑って「なんでか分からないけど、すぐに分かったよ?」と言う。
「はい、これリー好きでしょ?あーん」
夜は用事があったんじゃないの?
用事ってこのことだったの?
なんでそんな格好してるの?
髪はかつらだとしても目の色はどうやって変えたの?
これから聞かれるだろうと思ったことを何一つ聞かず、ティナベルはスイーツをリードヒルの口に持っていく。
「…うまい。けど、お前が作るやつが一番うまい」
そう言うと「へへへ、嬉しい」という屈託ない笑顔が返ってくる。
ハタから見れば女の子同士の行いなので変な事は何一つない。
だけどリードヒルにはどうしても言っておきたいことがあった。
「言っとくけど、趣味でこんな格好してるわけじゃないからな?」
「…そうなの?てっきり趣味なのかと」
「………強く否定させてくれ」
言ってよかったとリードヒルは心底思った。
リードヒルが女に成ったのは今日が初めて。
別に女の体を気持ち悪いとは思ってる訳じゃないけど、女になりたいという願望を持ったことは一度もなかった。
ドラゴンになる前も男だったし、ドラゴンになって人間に成れると分ってからも成るのは毎回男の体だった。
「ん!これも美味しい!ほら!」
ティナベルはそう言うとまた別のスイーツをリードヒルの口に運び、自分もまた食べる。
-趣味じゃないと分かってもなんでそんな格好してるのか聞かないんだな…
というか…
何も聞いてこないってよっぽど俺に興味がないってことか?!
この四年、ずっと側にいたのに?!毎日あんな楽しそうに笑ってたのに?!
美味しそうに次々とお皿の上を片付けるティナベルにリードヒルは驚愕した。
「失礼」
リードヒルが一人モヤモヤしてる所、二人に声をかける男がいた。
ティナベルもリードヒルも姿絵を見たことがあるから名乗られなくとも顔を見ればそれが誰なのかすぐに分かった。
「アルフレッド・オースターです」
それはこの国の第一王子の名。
ティナベルは手に持っていた皿をテーブルに静かに置き、深々と頭を下げる。
「ティナベル・ノーストンです」
「ルージュ・モーグスです」
躊躇することなくリードヒルは偽名を名乗った。
偽名と言っても偽名なのは名の方だけ。モーグスという姓の名の貴族は実際に存在する。
随分と子供の多い一族なのでモーグス家の子供全ての名を言える者はいないだろうと踏んでその姓を選んだ。
バレてもリードヒルなら力を使って頭の中をちょっと弄ればいいだけのこと。
王子の目は一瞬だけリードヒルを見、すぐティナベルに戻る。
-ティナのあの父親が今流行りのドレスを娘に着させる訳がないんだよな…
リードヒルは改めてまじまじとティナベルの全身を見て思った。
リードヒルがわざわざ女に成って夜会に参加したのはティナベルよりも可愛い女に成って男の目をティナベルではなく自分に向けさせる為。
胸元を大きく開けたドレスは昨今の女性の流行だけど、そのデザインが女に慎ましさを求める男に好ましさを抱かせないと分かっていたから敢えて流行りのものではない、少し地味目なお淑やかそうな男ウケするであろうデザインのドレスにした。
なのに、ティナベルもリードヒルと似たようなデザインのドレスを着ている。
ディナベルがそのドレスを着てるのはただただティナベルの父親が娘の露出を許さなかった為だったけど…とにかくリードヒルの作戦は失敗。
-結局はこの会場で一番可愛いのはティナじゃねぇか… こんなことならいつもの姿で来ればよかった…
リードヒルはティナベルしか視界に入れない王子にドス黒い視線を向けながら思った。
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