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しおりを挟む臣下たちがいなくなるとハーマンはすぐに兵たちに指示を始めた。
「頭部は街の一番目立つ場所に持ってってくれるか?体の方は城の裏手の山にでも捨て置いておいてくれ。それから疲れてる所申し訳ないが早く国中にこのことを知らせたい。行ってくれるか?」
「勿論です。ですが、民に何と伝えましょう?」
「ありのままを」
「了解です」
兵たちが散ろうとするとアルフレッドがラビスの兵に合図を出した。
「ハーマン国王、私の兵も使ってやっては貰えませんか?」
「…え?」
「全土へ知らせに回るついでに城やさっきの臣下たちの屋敷にある備蓄してある食料を全て配るのでしょう?」
「そのつもりですが…」
「手が足りなくはないですか?実はここにいる以外に城下街に兵を数十人待たせてるんです。やることがなくて暇をしてるでしょうから仕事を頂けたら彼らも喜ぶでしょう。是非私の兵にもお手伝いさせて下さい」
人手不足のゼブエラを手伝うために多めに連れてきた兵ではあったけれど、ゼブエラの兵だけではいくら真実を伝えようと民に信じてもらえない可能性がある。ラビスの兵も一緒に同行していれば信用してくれるかもしれない。それを見越しての提案だった。
ハーマンは「ありがとうございます」と素直にその提案に感謝した。
広間に残ったのは死んだゼブエラ王子たちの妃たちとゼブエラ、ラビスの兵が数人だけ。
「あの…私たちはこれからどうなるのでしょうか…?
一人の妃が聞いた。
「あぁ、後回しにしてしまってすまない。勿論みんな国に帰ってもらっていいよ」
「!!!!」
「但し。妊娠しているかどうか検査をさせてもらってからね。していなければすぐに帰る支度をしてもらって構わない」
「…もし…していた場合は……?」
「……申し訳ないけれど…すぐに帰すことはしたくない。最低でも子が五歳になるまではこの国に留まって欲しい」
「………っ」
妃たちが驚いたのは帰してもらえないことではなく、ハーマンが決定権を自分たちに委ねるような言い方をしたことに対してだった。
妃たちが知っている他の王子たちなら必ず帰さないと言い切っていたに決まっていた。妊娠していてもしていなくても。
帰すことは”したくない”なんて絶対に言わなかった。
帰したくないと思えば帰さない。何かをして欲しいなどと間違っても言わないのが彼女たちの知っているゼブエラの王族。
妃たちに異色と呼ばれていた新たなこの国王を信じたい気持ちはあったけれど、いくら異色と呼ばれていようとゼブエラ王族の血を引いている人…もしかしたら何か裏があるのかも…そう思ってしまう気持ちもあった。
「ハーマンは皆さんのことを思って言ってるんだと思いますよ?」
妃たちの不安や不信感を補うようにティナベルが口を開いた。
そしてハーマンの横に立つとニコッとハーマンへ笑みを浮かべた。
「ゼブエラに嫁いできた妃の中には子を宿したことが分かると自ら命を絶つ方が少なくないのは皆さんもご存知ですよね?」
「………」
「皆さんはなぜ彼女たちが自ら死を選んだと考えますか?兄弟殺しが普通に行われるゼブエラですから子の将来を案じて生まれる前に自らの手で殺す事を決めたのかもしれませんし、または憎い男の血が流れた愛すべき子を愛する自信がないと悲観したのかもしれません。なぜ自死を選んだかは本人にのみ知り得ることですが…想像してみてください。皆さんがもしゼブエラの王族の子を宿しているとして、無事産んだとして……やがて虫を平気で殺す我が子を見た時、皆さんは何を思うんでしょうか?」
ティナベルが一人一人妃を見やると妃たちは視線を逸らした。
「ゼブエラの血が流れていなくとも子供は虫を殺します。でもきっと皆さんはこう思うはずです。”ゼブエラの血のせいだ。これからは虫では足らず人を殺しはじめるのではないか。歴代のゼブエラ王のように”と」
「…………」
妃たちがティナベルから視線を逸らしたのはそう思ってしまうことが言われる前に想像出来てしまっていたからだった。
自死を選んだ妃たち。きっと自分の子を自の手で育てられないことも嘆いたはず。
では自分たちは?自分の手で育てることを許されたとして…自分たちが育てる以上大丈夫だとはっきり言える?自分の子を恐ろしく感じることはないと言い切れる?
自問自答した妃たちの中で自信をもって大丈夫だと答えを出せる者はいなかった。
妃たちの手は自然と腹部にあてられていた。
「ゼブエラ王族に残虐性の強い者が多いのは幼少期からそういう教育を受けていただけにすぎません。ですが、いくら母親が優しい子に育つようにと深い愛情を注いで育てたとしてもその子が自分に流れる血について考える日は必ず来るはずです。迷う時が来るはずです。一度だけではなく…恐らく何度も。ハーマンもきっと未だにそうなんだと思います」
ティナベルがハーマンを見るとハーマンは眉尻を下げて諦めたような困ったような顔をした。
それはティナベルの言ったことが図星だったということ。
今でこそ異色と呼ばれているハーマンも幼少期には他の王子と変わらずゼブエラ王族の教育を受けさせられていた。
いくら異色だと言われようと…ふとした時に不安がよぎることは数えきれないほどあった。
「ハーマンは自分の血を誰よりも嫌っています。そんなハーマンだからこそ教えてあげられることがあるとは思いませんか?ハーマンの言葉だからこそ受け入れられる言葉があるとは思いませんか?皆さんにも皆さんの子にも」
妃たちは皆黙った。その通りだと思ったから。
子供には母親の愛情が一番だなんてよく言うけれど母親は万能じゃない。
子供が迷った時に抱きしめることは出来ても…きちんと正しい道に導けるかどうかは分からない。
迷わないようゼブエラの血が流れている事を隠し通すという方法もある。でも、もし隠し通せなかったら?どこかから事実を知ったら…?
この事実はきっと小さい頃から知るべき事だと妃たちには分かっていた。
迷っていると感じた時には遅いだろうことも。
ティナベルの言葉通り、ハーマンの望み通り、子が出来ているのなら残るべき。妃たちは頭ではきちんと分かってもその選択をすることはまだ怖かった。
ゼブエラの王子たちは笑顔で人を裏切り、殺すような人間だったから。それを幾度となく間近で見させられてきたから。
妃たちはまた皆俯いた。
「もし俺のことが怖い」
「ハーマン、その言葉遣い、もうやめたら?」
「…え?……今?」
「うん。女の人は敏感なんだよ?顔色を見ればその人が何か隠してることぐらいすぐ分かるんだから。ずっとそれでやってくつもりじゃないんでしょう?」
「そうだけど…」
「それなら今でも問題ないじゃない」
「……まぁ…」
言葉遣い…?
突然なんのことだ?とラビス一行と妃たちが考えているとティナベルはハーマンの髪紐を解いた。
肩甲骨まである男にしては長い髪。
それが解かれると「……そうね。やめるわ!」という声が放たれた。
その言葉は確かにハーマンから出ていたけれど、声色は先程よりワントーン上がっている。
キリっとしていた目もだいぶ穏やかになった。
「あ~、やっぱりこっちの方が楽ね?」
「?!?!?!?」
全てが吹っ切れたような様子のハーマンにティナベル、リードヒル、ゼブエラの兵を除いた皆が驚いた。
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