24 / 30
第23話 公開処刑の場
リリアーナの振る舞いに心を動かされたフェルナンドの瞳に、隠しきれぬ同情と怒りにも似た義憤の光が瞬く。
(よし、食いついた。このまま『私が君を守るよ』と言わせれば……)
リリアーナは指の隙間から鋭く見定め、冷静さを装いながらも心の奥で計算していた。
「なんという……あのユリウス殿下は、そこまで卑劣な真似を! リリアーナ嬢、君は何も悪くない。ひどい恐怖だっただろう。もしよければ、私が君の身の安全を――」
フェルナンドが彼女の手を取ろうとした、まさにその瞬間。
「――随分と安っぽい悲劇が上演されているんだね。三流の喜劇役者でも、もう少しマシな台本を用意するよ?」
バルコニーの空気を一瞬で凍りつかせる、極寒の吹雪のような声。
フェルナンドが弾かれたように振り返り、リリアーナの肩がビクッと跳ねた。
そこに立っていたのは、白銀を基調にした光輝く衣装を身に纏い、夜よりも深い影を湛えた微笑を浮かべる比類なき美貌の青年だった。
社交界の中心にして裏では権勢をふるう、オリバー・フォン・ロードナイト辺境伯御子息だった。
「オ、オリバー様……」
「ご機嫌はいかがかな、フェルナンド卿。少しその『被害者ぶった泥棒猫』を借りてもいいかな? 駆除すべき害虫が、我が物顔で社交界(ぼくの庭)を這い回っているのは、とても目障りなんだ」
オリバーは、指先で軽くパチンと音を立てウインクし、次の瞬間には凍てつくような視線でリリアーナを鋭く捉えた。
その圧倒的な覇気と威圧感に、フェルナンドは思わず一歩後ずさった。
「オリバー様……! ひ、ひどいですわ! わたくしは本当に、殿下に脅されて……っ!」
「脅されていた? 殿下が恐ろしくて逃げたかった?」
オリバーは肩を揺らし、控えめにくすくすと笑った。そして、背後に控えていた自身の執事に指を鳴らした。
「フェルナンド卿。この女の涙に絆される前に、こちらをご覧あれ」
執事がうやうやしく差し出したのは、分厚い書類の束だった。
「これは、王都の一等地に店を構える高級ブティックや宝石商からの『リリアーナ男爵令嬢直筆の注文書』の写し。日付を見てごらん。……直近の三年間で、彼女がユリウス殿下に『おねだり』した品々の総額。男爵家の年収の余裕に百年分は超えているよ」
「なっ……!?」
フェルナンドの目が点になった。
「脅されて怯えていた可哀想な令嬢が、自分から『新作のダイヤのネックレスが欲しいわ、殿下♡』なんて、ご丁寧に愛の言葉を添えた手紙を送りつけると思う?」
「そ、それは……殿下が無理やり買えと……!」
「へぇ? では、これも殿下の命令かな?」
オリバーは、さらに数通の香水の匂いが染み付いた手紙を取り出した。
「君がユリウス殿下の庇護下にいながら、裏でこっそりと他の裕福な貴族の令息たち。例えば、隣国の豪商の息子や、子爵家の三男あたりに送っていた『色目を使った手紙』の数々だよ。『殿下は強引で困ってしまいます。あなたのような優しい方に助けていただきたいわ』……さっきフェルナンド卿に言っていた台詞と、一言一句同じじゃないか」
「――ッ!!」
リリアーナの顔から、一気に血の気が引いた。
(よし、食いついた。このまま『私が君を守るよ』と言わせれば……)
リリアーナは指の隙間から鋭く見定め、冷静さを装いながらも心の奥で計算していた。
「なんという……あのユリウス殿下は、そこまで卑劣な真似を! リリアーナ嬢、君は何も悪くない。ひどい恐怖だっただろう。もしよければ、私が君の身の安全を――」
フェルナンドが彼女の手を取ろうとした、まさにその瞬間。
「――随分と安っぽい悲劇が上演されているんだね。三流の喜劇役者でも、もう少しマシな台本を用意するよ?」
バルコニーの空気を一瞬で凍りつかせる、極寒の吹雪のような声。
フェルナンドが弾かれたように振り返り、リリアーナの肩がビクッと跳ねた。
そこに立っていたのは、白銀を基調にした光輝く衣装を身に纏い、夜よりも深い影を湛えた微笑を浮かべる比類なき美貌の青年だった。
社交界の中心にして裏では権勢をふるう、オリバー・フォン・ロードナイト辺境伯御子息だった。
「オ、オリバー様……」
「ご機嫌はいかがかな、フェルナンド卿。少しその『被害者ぶった泥棒猫』を借りてもいいかな? 駆除すべき害虫が、我が物顔で社交界(ぼくの庭)を這い回っているのは、とても目障りなんだ」
オリバーは、指先で軽くパチンと音を立てウインクし、次の瞬間には凍てつくような視線でリリアーナを鋭く捉えた。
その圧倒的な覇気と威圧感に、フェルナンドは思わず一歩後ずさった。
「オリバー様……! ひ、ひどいですわ! わたくしは本当に、殿下に脅されて……っ!」
「脅されていた? 殿下が恐ろしくて逃げたかった?」
オリバーは肩を揺らし、控えめにくすくすと笑った。そして、背後に控えていた自身の執事に指を鳴らした。
「フェルナンド卿。この女の涙に絆される前に、こちらをご覧あれ」
執事がうやうやしく差し出したのは、分厚い書類の束だった。
「これは、王都の一等地に店を構える高級ブティックや宝石商からの『リリアーナ男爵令嬢直筆の注文書』の写し。日付を見てごらん。……直近の三年間で、彼女がユリウス殿下に『おねだり』した品々の総額。男爵家の年収の余裕に百年分は超えているよ」
「なっ……!?」
フェルナンドの目が点になった。
「脅されて怯えていた可哀想な令嬢が、自分から『新作のダイヤのネックレスが欲しいわ、殿下♡』なんて、ご丁寧に愛の言葉を添えた手紙を送りつけると思う?」
「そ、それは……殿下が無理やり買えと……!」
「へぇ? では、これも殿下の命令かな?」
オリバーは、さらに数通の香水の匂いが染み付いた手紙を取り出した。
「君がユリウス殿下の庇護下にいながら、裏でこっそりと他の裕福な貴族の令息たち。例えば、隣国の豪商の息子や、子爵家の三男あたりに送っていた『色目を使った手紙』の数々だよ。『殿下は強引で困ってしまいます。あなたのような優しい方に助けていただきたいわ』……さっきフェルナンド卿に言っていた台詞と、一言一句同じじゃないか」
「――ッ!!」
リリアーナの顔から、一気に血の気が引いた。
あなたにおすすめの小説
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
ほんの少しの仕返し
turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。
アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。
アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。
皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。
ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。
もうすぐです。
さようなら、イディオン
たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。
「今更、あなたの娘のふりなどできません」〜ずっと支えていた手を、そっと引っ込めただけです〜
まさき
恋愛
父が死んだ日から、私は屋敷の「異物」になった。
継母は新しい夫に夢中で、義姉たちは私を使用人のように扱い、継父は三年経っても私の名前を覚えない。
気づいていなかったのだ、あの人たちは。
私の「静寂の手」がずっと、この家を守り続けていたことを。
ある夜、私は静かに荷物をまとめた。
怒りもなく、涙もなく、別れの言葉すら残さずに。
三ヶ月後、屋敷に原因不明の病が広がり始める。
「リーナを探せ」
今更、ですか。
私はもう、別の場所で別の名前で——ちゃんと生きています。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件
よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます
「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」
旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。
彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。
しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。
フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。
だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。
私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。
さて……誰に相談したら良いだろうか。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」