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第27話 冷酷無比な態度
「騎士の誇りにかけて、俺が貴方の目を覚まさせてやる!!」
チャキッ、と剣が鞘から半分ほど抜けた、その瞬間。
――ドゴォォォォォォンッ!!!
空気が爆発した。アーサーは一歩も動いていない。剣すら抜いていない。
ただ、彼の全身から放たれた歴戦の近衛騎士としての本気の殺気(剣気)が、物理的な衝撃波となってジャックとクロエを襲ったのだ。
「あ……あっ……あっ……がっ……!?」
「ひぃっ……ひぃぃっ……!」
重力そのものが数倍に跳ね上がったかのような錯覚。
二人は息ができないし体が動かない。脳細胞が、これ以上動けば確実に命が危険と、けたたましい警鐘を鳴らしている。
ジャックは剣を抜くことすら叶わずガクガクと膝を震わせ、そのまま無様に地面に這いつくばった。クロエに至っては、白目を剥いてその場に気絶してしまった。
「……騎士の誇り、だと? 抜く前から心が折れるようなナマクラ剣で、私の大切な主君に傷一つでもつけられると思ったか」
アーサーは、地面に伏して恐怖に涙と鼻水を流すジャックの顔を、軍靴の底で冷酷に踏みつけた。
「ぐえっ……!」
「よく聞け、塵芥。私の命も、剣も、忠誠も、全てはエレオノーラ様ただ一人のためにある。彼女の歩む道を邪魔する石ころは、誰であろうと粉微塵に叩き斬る。……命が惜しければ、二度とこの敷地に近づくなどという愚かな考えは捨てることだな」
その冷たく残酷で、エレオノーラへの狂信的なまでの愛情に満ちた声。
「す、すみません……どうか、ゆるしてください……アーサー副団長……!」
「次に、エレオノーラ様を傷つけるような真似をしたら、その代償は計り知れぬものとなるだろう。……私の刃の前に立つ『覚悟』をしておけ」
「は、はひぃ……あっ……ひぃっ……!」
ジャックはか細い悲鳴をあげ、ただ必死に命乞いをすることしかできなかった。
騎士団の下っ端に過ぎない彼では、とても太刀打ちできる相手ではなかったのだ。
「……ご苦労様、アーサー。庭師たち、そのゴミを門の外へ捨てておきなさい。塩を撒くのも忘れないでね」
エレオノーラが扇で口元を隠して冷ややかに命じると、庭師たちは手際よく気絶したクロエと腰を抜かしたジャックを引きずって去っていった。
静寂が戻った庭園。
アーサーはスッと殺気を引っ込めると、先ほどの冷酷な死神のような姿から一転、主人を前にした忠犬のように膝をつき、エレオノーラの白い手を取って恭しく口付けを落とした。
「お見苦しいところをお見せいたしました、エレオノーラ様。貴女のお茶の時間を邪魔した罪、いかようにも罰してください」
「罰だなんて、とんでもないわ。貴方がわたくしを護ってくれたのでしょう? ……とても頼もしかったわ、アーサー」
エレオノーラがふわりと柔らかく微笑むと、アーサーの頬がわずかに赤く染まった。
「貴女のその笑顔を守るためならば、私はどんな修羅にでもなります。……どうかこれからも、貴女の傍で、その自由を見守ることをお許しください」
「ええ。頼りにしているわ、私の大切な騎士様」
日差しが優しく差し込む温室で、二人は穏やかな時間を過ごしながら再び心を通わせた。
狂った妄想を抱いた侵入者たちは、圧倒的な物理と論理の前に完全敗北を喫し、二度と彼女の人生の視界に入ることはないだろう。
チャキッ、と剣が鞘から半分ほど抜けた、その瞬間。
――ドゴォォォォォォンッ!!!
空気が爆発した。アーサーは一歩も動いていない。剣すら抜いていない。
ただ、彼の全身から放たれた歴戦の近衛騎士としての本気の殺気(剣気)が、物理的な衝撃波となってジャックとクロエを襲ったのだ。
「あ……あっ……あっ……がっ……!?」
「ひぃっ……ひぃぃっ……!」
重力そのものが数倍に跳ね上がったかのような錯覚。
二人は息ができないし体が動かない。脳細胞が、これ以上動けば確実に命が危険と、けたたましい警鐘を鳴らしている。
ジャックは剣を抜くことすら叶わずガクガクと膝を震わせ、そのまま無様に地面に這いつくばった。クロエに至っては、白目を剥いてその場に気絶してしまった。
「……騎士の誇り、だと? 抜く前から心が折れるようなナマクラ剣で、私の大切な主君に傷一つでもつけられると思ったか」
アーサーは、地面に伏して恐怖に涙と鼻水を流すジャックの顔を、軍靴の底で冷酷に踏みつけた。
「ぐえっ……!」
「よく聞け、塵芥。私の命も、剣も、忠誠も、全てはエレオノーラ様ただ一人のためにある。彼女の歩む道を邪魔する石ころは、誰であろうと粉微塵に叩き斬る。……命が惜しければ、二度とこの敷地に近づくなどという愚かな考えは捨てることだな」
その冷たく残酷で、エレオノーラへの狂信的なまでの愛情に満ちた声。
「す、すみません……どうか、ゆるしてください……アーサー副団長……!」
「次に、エレオノーラ様を傷つけるような真似をしたら、その代償は計り知れぬものとなるだろう。……私の刃の前に立つ『覚悟』をしておけ」
「は、はひぃ……あっ……ひぃっ……!」
ジャックはか細い悲鳴をあげ、ただ必死に命乞いをすることしかできなかった。
騎士団の下っ端に過ぎない彼では、とても太刀打ちできる相手ではなかったのだ。
「……ご苦労様、アーサー。庭師たち、そのゴミを門の外へ捨てておきなさい。塩を撒くのも忘れないでね」
エレオノーラが扇で口元を隠して冷ややかに命じると、庭師たちは手際よく気絶したクロエと腰を抜かしたジャックを引きずって去っていった。
静寂が戻った庭園。
アーサーはスッと殺気を引っ込めると、先ほどの冷酷な死神のような姿から一転、主人を前にした忠犬のように膝をつき、エレオノーラの白い手を取って恭しく口付けを落とした。
「お見苦しいところをお見せいたしました、エレオノーラ様。貴女のお茶の時間を邪魔した罪、いかようにも罰してください」
「罰だなんて、とんでもないわ。貴方がわたくしを護ってくれたのでしょう? ……とても頼もしかったわ、アーサー」
エレオノーラがふわりと柔らかく微笑むと、アーサーの頬がわずかに赤く染まった。
「貴女のその笑顔を守るためならば、私はどんな修羅にでもなります。……どうかこれからも、貴女の傍で、その自由を見守ることをお許しください」
「ええ。頼りにしているわ、私の大切な騎士様」
日差しが優しく差し込む温室で、二人は穏やかな時間を過ごしながら再び心を通わせた。
狂った妄想を抱いた侵入者たちは、圧倒的な物理と論理の前に完全敗北を喫し、二度と彼女の人生の視界に入ることはないだろう。
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