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第44話 家族の愛と絆
「私……わたくしは……」
エレオノーラは、自分の手が震えていることに気づいた。
そして、視界が急にぼやけていくと、熱いものが胸の奥から込み上げてきて喉を塞いだ。
「セシリア……お父様……」
「お姉様……っ」
「エレオノーラ、苦しめてしまって……申し訳なかった……」
エレオノーラは、すがりつく妹の体を両腕でしっかりと抱きしめた。
父は自らの罪悪感と後悔を胸に、エレオノーラに改めて心から詫びた。三人は互いに抱きしめ合い、互いの存在を確かめるようにしばらく寄り添った。その光景を母は愛情あふれるまなざしで見守っていた。
「……ごめんなさい。わたくし、お父様やセシリアにまで、ずっと心配を……無意識のうちに、我慢させていたのね……」
ポタリと。紫水晶のように輝く瞳から涙があふれ、妹の淡いチョコレート色の髪に触れた。
「わたくし……本当は、ずっと……辛かった。苦しかった……っ」
一度溢れた涙は、もう止まることはなかった。
気高い令嬢としての仮面が音を立てて崩れ去り、そこには一人の傷つき疲れ果てた少女のような素顔があった。
「あんな男のために……私の十年間を奪われて……毎日毎日、どうして私が尻拭いばかりしなければならないのかと……っ! 本当は、大声で怒鳴りつけてやりたかった……っ!」
「うん……うん……っ」
「よく頑張ったわ。もう十分よ、エレオノーラ」
見守っていた母が立ち上がり、泣きじゃくる二人の娘を柔らかな腕で包み込んだ。
サロンには家族の温かな涙と、長年の重圧から解放されてみんなの心に安らぎが満ちていた。
(エレオノーラ様が救われて……本当によかった……家族の絆って、こんなにも尊いものなのか……)
その光景を部屋の隅で誰よりも熱い瞳で見つめている男がいた。エレオノーラの専属騎士、アーサー・ロードナイトである。
(私がずっと守りたかったものは……彼女の心が、これ以上理不尽に傷つけられないこと……それだけだった)
彼は壁際に直立不動で立ちながら、自身の拳が微かに震えているのを感じていた。
「……お見苦しいところをお見せしてしまいましたわね。でも、なんだか……とても、胸がスッキリいたしました」
やがて、ひとしきり涙を流したエレオノーラは公爵とセシリアから体を離した。侍女が差し出した絹のハンカチで目元を拭って深呼吸をする。
少し鼻の頭を赤くしたエレオノーラは恥ずかしそうだけど、憑き物が落ちたような清々しい表情で顔を上げた。
そして、彼女は壁際に立つアーサーの方へと振り向き、その目を真っ直ぐに見つめた。
「アーサー」
「……はっ」
アーサーは慌てて姿勢を正して片膝をついた。
「貴方にも、本当に感謝しています。貴方がわたくしの専属騎士となり、以前からも友人として支えてくださったおかげで今、こうして前を向くことができます。貴方がいなければ、私はまだあの深い暗闇の中で凍えていたでしょう」
エレオノーラは、アーサーの前に進み出ると両手で彼の手を取った。
「ありがとう、わたくしの誇り高き騎士様」
光がふんわりと降り注ぎ、百合のつぼみをやさしく開かせるように、エレオノーラは十年間誰にも見せたことのない年相応の、とびきり無防備で甘く心からの笑顔を咲かせた。
エレオノーラは、自分の手が震えていることに気づいた。
そして、視界が急にぼやけていくと、熱いものが胸の奥から込み上げてきて喉を塞いだ。
「セシリア……お父様……」
「お姉様……っ」
「エレオノーラ、苦しめてしまって……申し訳なかった……」
エレオノーラは、すがりつく妹の体を両腕でしっかりと抱きしめた。
父は自らの罪悪感と後悔を胸に、エレオノーラに改めて心から詫びた。三人は互いに抱きしめ合い、互いの存在を確かめるようにしばらく寄り添った。その光景を母は愛情あふれるまなざしで見守っていた。
「……ごめんなさい。わたくし、お父様やセシリアにまで、ずっと心配を……無意識のうちに、我慢させていたのね……」
ポタリと。紫水晶のように輝く瞳から涙があふれ、妹の淡いチョコレート色の髪に触れた。
「わたくし……本当は、ずっと……辛かった。苦しかった……っ」
一度溢れた涙は、もう止まることはなかった。
気高い令嬢としての仮面が音を立てて崩れ去り、そこには一人の傷つき疲れ果てた少女のような素顔があった。
「あんな男のために……私の十年間を奪われて……毎日毎日、どうして私が尻拭いばかりしなければならないのかと……っ! 本当は、大声で怒鳴りつけてやりたかった……っ!」
「うん……うん……っ」
「よく頑張ったわ。もう十分よ、エレオノーラ」
見守っていた母が立ち上がり、泣きじゃくる二人の娘を柔らかな腕で包み込んだ。
サロンには家族の温かな涙と、長年の重圧から解放されてみんなの心に安らぎが満ちていた。
(エレオノーラ様が救われて……本当によかった……家族の絆って、こんなにも尊いものなのか……)
その光景を部屋の隅で誰よりも熱い瞳で見つめている男がいた。エレオノーラの専属騎士、アーサー・ロードナイトである。
(私がずっと守りたかったものは……彼女の心が、これ以上理不尽に傷つけられないこと……それだけだった)
彼は壁際に直立不動で立ちながら、自身の拳が微かに震えているのを感じていた。
「……お見苦しいところをお見せしてしまいましたわね。でも、なんだか……とても、胸がスッキリいたしました」
やがて、ひとしきり涙を流したエレオノーラは公爵とセシリアから体を離した。侍女が差し出した絹のハンカチで目元を拭って深呼吸をする。
少し鼻の頭を赤くしたエレオノーラは恥ずかしそうだけど、憑き物が落ちたような清々しい表情で顔を上げた。
そして、彼女は壁際に立つアーサーの方へと振り向き、その目を真っ直ぐに見つめた。
「アーサー」
「……はっ」
アーサーは慌てて姿勢を正して片膝をついた。
「貴方にも、本当に感謝しています。貴方がわたくしの専属騎士となり、以前からも友人として支えてくださったおかげで今、こうして前を向くことができます。貴方がいなければ、私はまだあの深い暗闇の中で凍えていたでしょう」
エレオノーラは、アーサーの前に進み出ると両手で彼の手を取った。
「ありがとう、わたくしの誇り高き騎士様」
光がふんわりと降り注ぎ、百合のつぼみをやさしく開かせるように、エレオノーラは十年間誰にも見せたことのない年相応の、とびきり無防備で甘く心からの笑顔を咲かせた。
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