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第61話 知性と倫理観
アリーナは、ララの「勝ったあなたに従います」という安易な服従を拒絶したのだ。アリーナは、ララが新しい依存先として自分を利用することを許さなかった。
「そう……ですよね……」
ララは、ポツリと呟いた。自分の浅はかさが、急に恥ずかしくなった。
イザベラが負けた瞬間、手のひらを返してアリーナを「正しい」と持ち上げ、すがりつこうとした自分の醜い弱さ。
それこそが兄やイザベラと同じ、自己保身の塊であることに気付かされたのだ。
「ララ様。真実の答えは、誰かから与えられるものではありません」
アリーナの声が今度は少しだけ優しく、心を潤す雨のようにララの心に降り注いだ。
「これからあなたには、イザベラお姉様とギルバートの暴走を止めず、むしろ推奨して公爵家を侮辱したという『罪』に対する、厳しい罰が待っているでしょう。それは決して甘いものではありません」
ビクッ、とララの肩が跳ねる。しかし、アリーナは目を逸らさなかった。
「その罰から逃げず、貴方自身が罪を償いながら……勝った負けたという表面的なことではなく、自分自身の人生の中から、本当の答えを見つけてください。他人の言葉に縋るのではなく、自分の頭で考え、自分の足で立ちなさい。それが、人間として生きるということです」
静かな広間に、アリーナの言葉が深く重く響いた。
それは、イザベラがララに与えていた甘いけれど思考を奪う毒とは対極にあるものだった。
アリーナがララに与えたのは、厳しくて苦しいけれど人間としての尊厳を取り戻すための特効薬だった。
ララは、唇を強く噛み締めた。胸の奥底で、何かがパチンと弾ける音がした。
ずっと自分を縛り付けていた「強い者に従わなければ生きていけない」という恐怖の糸。
イザベラが美しく飾り立てていた依存という名の呪いが、アリーナの真っ直ぐな言葉によって、ついに解け落ちた瞬間だった。
「……すぐに答えを教えてくれないなんて……」
ララは、両手で顔を覆いながら嗚咽を漏らした。
しかしその声は、先ほどの絶望に満ちた悲鳴ではなく、どこか子供が親に甘えるような素直な響きを帯びていた。
「イザベラお姉様より、アリーナお姉様のほうが、ずっと厳しいですわ……」
答えを与え、従わせるだけの主人は楽だ。考えなくていいからだ。
しかし、「自分で探せ」「自分の人生に責任を持て」と突き放すアリーナは本当に厳しい。ごまかしを許してくれないからだ。
だが、その厳しさの奥にある、自分を一人の対等な人間として扱ってくれているという本物の誠実さをララは理解した。
「そうかしら」
アリーナは僅かに口元を緩め、扇でそっと口元を隠した。
ララは顔を覆っていた両手をどけ、ゴシゴシと乱暴に涙を拭った。化粧は崩れて目は真っ赤に腫れ上がり、ドレスは無惨に汚れている。
貴族の令嬢としては見られないほどの酷い有様だったが、その顔つきは不思議なほどに晴れやかだった。
「そう……ですよね……」
ララは、ポツリと呟いた。自分の浅はかさが、急に恥ずかしくなった。
イザベラが負けた瞬間、手のひらを返してアリーナを「正しい」と持ち上げ、すがりつこうとした自分の醜い弱さ。
それこそが兄やイザベラと同じ、自己保身の塊であることに気付かされたのだ。
「ララ様。真実の答えは、誰かから与えられるものではありません」
アリーナの声が今度は少しだけ優しく、心を潤す雨のようにララの心に降り注いだ。
「これからあなたには、イザベラお姉様とギルバートの暴走を止めず、むしろ推奨して公爵家を侮辱したという『罪』に対する、厳しい罰が待っているでしょう。それは決して甘いものではありません」
ビクッ、とララの肩が跳ねる。しかし、アリーナは目を逸らさなかった。
「その罰から逃げず、貴方自身が罪を償いながら……勝った負けたという表面的なことではなく、自分自身の人生の中から、本当の答えを見つけてください。他人の言葉に縋るのではなく、自分の頭で考え、自分の足で立ちなさい。それが、人間として生きるということです」
静かな広間に、アリーナの言葉が深く重く響いた。
それは、イザベラがララに与えていた甘いけれど思考を奪う毒とは対極にあるものだった。
アリーナがララに与えたのは、厳しくて苦しいけれど人間としての尊厳を取り戻すための特効薬だった。
ララは、唇を強く噛み締めた。胸の奥底で、何かがパチンと弾ける音がした。
ずっと自分を縛り付けていた「強い者に従わなければ生きていけない」という恐怖の糸。
イザベラが美しく飾り立てていた依存という名の呪いが、アリーナの真っ直ぐな言葉によって、ついに解け落ちた瞬間だった。
「……すぐに答えを教えてくれないなんて……」
ララは、両手で顔を覆いながら嗚咽を漏らした。
しかしその声は、先ほどの絶望に満ちた悲鳴ではなく、どこか子供が親に甘えるような素直な響きを帯びていた。
「イザベラお姉様より、アリーナお姉様のほうが、ずっと厳しいですわ……」
答えを与え、従わせるだけの主人は楽だ。考えなくていいからだ。
しかし、「自分で探せ」「自分の人生に責任を持て」と突き放すアリーナは本当に厳しい。ごまかしを許してくれないからだ。
だが、その厳しさの奥にある、自分を一人の対等な人間として扱ってくれているという本物の誠実さをララは理解した。
「そうかしら」
アリーナは僅かに口元を緩め、扇でそっと口元を隠した。
ララは顔を覆っていた両手をどけ、ゴシゴシと乱暴に涙を拭った。化粧は崩れて目は真っ赤に腫れ上がり、ドレスは無惨に汚れている。
貴族の令嬢としては見られないほどの酷い有様だったが、その顔つきは不思議なほどに晴れやかだった。
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