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第29話 断罪の玉座
王宮の廊下は、どこまでも冷たく長かった。かつて、この場所はオスカーにとって庭だった。
侍女たちに愛想を振りまき、衛兵たちに気さくに声をかけ、王族としての特権を謳歌した場所。
だが今、彼が歩くその道は、まるで針のむしろのようだった。
すれ違う貴族たちは、オスカーの姿を見ると露骨に視線を逸らすか、扇子で口元を隠してひそひそと嘲笑する。
無理もない。今のオスカーの装いは、王弟とは名ばかりの惨めなものだった。何とか質屋から買い戻した古い礼服は、サイズが合わなかったので袖口が擦り切れている。
髪は整髪料を買う金がなく、水で撫でつけただけだ。満足に風呂にも入れず、染み付いた臭いが王宮の清浄な空気の中で異臭を放っていた。
「……オスカー・フォン・レインバーグ殿下。陛下がお待ちです」
侍従の声すら、どこか冷ややかだ。金装飾の施された重厚な扉が音もなく開く。その先にある謁見の間ではなく、王族のみが使用する私的執務室。
しかし、そこの空気は処刑場よりも重かった。
「……呼び出しておいてなんだが、よく顔を出せたものだな、オスカー」
執務机の奥から聞こえた声は低く、どこか圧力を感じるような響きだった。
オスカーの実の兄であり、庶民から絶大な支持を受ける今の統治者。オスカーが最も敬遠し、絶対に逆らえない人物でもある。
「お、お久しぶりです、兄上……いえ、陛下」
オスカーは恐る恐る頭を下げた。国王は書類から目を離さず、ペンを走らせたままだ。その無視が、オスカーの心臓を締め上げる。
「座れとは言わん。……昨日のノアの誕生会。なぜ来なかった?」
単刀直入な問いに、オスカーは背筋が凍る思いがした。
「そ、それは……手紙にも書きましたが、マリアとカイルが寂しがっていて……『優しい夫』として、放っておけなくて……」
「ほう。寂しがっていたのか?」
「……は、はい……」
国王がようやく顔を上げた。その瞳は、氷河のように冷徹だった。オスカーと同じ金髪碧眼のコンビネーションが、誰もが息を呑む美しさを放っている。
しかし、そこに宿る知性と威厳は雲泥の差だ。
「余の耳には、別の報告が入っているぞ。お前たちは金がなく、ドレスも買えず、家で喚き散らしていたとな」
「なっ……!?」
「そして、お前がよこしたあの手紙。『愛人とその連れ子を優先する』と公言したあの紙切れは、貴族たちの間で良い笑い種になっているぞ。……余の顔に、よくも泥を塗ってくれたな」
バン!!
国王が机を叩いた。その音に、オスカーはビクリと飛び上がった。
「ち、違います! 私はただ、『家族を大切』に……」
「家族? お前の家族は、正妻であるエリザと、嫡男であるノアだ! 法的な手続きもしていない愛人とその子供など、世間から見れば、ただ他人の家にいるだけの『居候』に過ぎん!」
国王の怒号が飛ぶ。オスカーは萎縮し、言葉が出ない。兄の怒りはもっともだ。
しかし、オスカーの脳内ではまだ自分は被害者だという思考が渦巻いていた。
侍女たちに愛想を振りまき、衛兵たちに気さくに声をかけ、王族としての特権を謳歌した場所。
だが今、彼が歩くその道は、まるで針のむしろのようだった。
すれ違う貴族たちは、オスカーの姿を見ると露骨に視線を逸らすか、扇子で口元を隠してひそひそと嘲笑する。
無理もない。今のオスカーの装いは、王弟とは名ばかりの惨めなものだった。何とか質屋から買い戻した古い礼服は、サイズが合わなかったので袖口が擦り切れている。
髪は整髪料を買う金がなく、水で撫でつけただけだ。満足に風呂にも入れず、染み付いた臭いが王宮の清浄な空気の中で異臭を放っていた。
「……オスカー・フォン・レインバーグ殿下。陛下がお待ちです」
侍従の声すら、どこか冷ややかだ。金装飾の施された重厚な扉が音もなく開く。その先にある謁見の間ではなく、王族のみが使用する私的執務室。
しかし、そこの空気は処刑場よりも重かった。
「……呼び出しておいてなんだが、よく顔を出せたものだな、オスカー」
執務机の奥から聞こえた声は低く、どこか圧力を感じるような響きだった。
オスカーの実の兄であり、庶民から絶大な支持を受ける今の統治者。オスカーが最も敬遠し、絶対に逆らえない人物でもある。
「お、お久しぶりです、兄上……いえ、陛下」
オスカーは恐る恐る頭を下げた。国王は書類から目を離さず、ペンを走らせたままだ。その無視が、オスカーの心臓を締め上げる。
「座れとは言わん。……昨日のノアの誕生会。なぜ来なかった?」
単刀直入な問いに、オスカーは背筋が凍る思いがした。
「そ、それは……手紙にも書きましたが、マリアとカイルが寂しがっていて……『優しい夫』として、放っておけなくて……」
「ほう。寂しがっていたのか?」
「……は、はい……」
国王がようやく顔を上げた。その瞳は、氷河のように冷徹だった。オスカーと同じ金髪碧眼のコンビネーションが、誰もが息を呑む美しさを放っている。
しかし、そこに宿る知性と威厳は雲泥の差だ。
「余の耳には、別の報告が入っているぞ。お前たちは金がなく、ドレスも買えず、家で喚き散らしていたとな」
「なっ……!?」
「そして、お前がよこしたあの手紙。『愛人とその連れ子を優先する』と公言したあの紙切れは、貴族たちの間で良い笑い種になっているぞ。……余の顔に、よくも泥を塗ってくれたな」
バン!!
国王が机を叩いた。その音に、オスカーはビクリと飛び上がった。
「ち、違います! 私はただ、『家族を大切』に……」
「家族? お前の家族は、正妻であるエリザと、嫡男であるノアだ! 法的な手続きもしていない愛人とその子供など、世間から見れば、ただ他人の家にいるだけの『居候』に過ぎん!」
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しかし、オスカーの脳内ではまだ自分は被害者だという思考が渦巻いていた。
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