私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい

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第122話 妊娠と結婚式

王都の中心にそびえ立つ、白亜の壮麗な大聖堂。空はどこまでも高く澄み渡り、ステンドグラスを通して差し込む朝の光が、祭壇へと続く長いバージンロードを神々しく照らし出していた。

パイプオルガンの荘厳な調べが響き渡る中、祭壇の前で待つ王国最強の騎士にして氷の宰相、レオナルド・ヴェルンシュタイン辺境伯は振り向いて息を呑んだ。

大聖堂の扉が開き、そこに立っていたのは、この世のあらゆる美しさを凝縮したような、純白のウェディングドレスに身を包んだエリザであった。
 
最高級の絹とレースが彼女の滑らかな肌を包み金糸のような美しい髪には、ヴェルンシュタイン家に代々伝わる星屑のようなティアラが輝いている。

一歩、また一歩とバージンロードを歩みを進める彼女の姿は、まるで天から舞い降りた女神そのものだった。



「これは……まさに目に眩しい」

「心を奪われるとはこのことか」

「油断すると我を忘れそうだ」

「まあ、ドレスの色が肌に映えて、光をまとっているみたい」

「嗚呼、まさに天上の輝き!」



参列する王族や大貴族たちが、そのあまりの美しさに感嘆の溜息を漏らす。
 
レオナルドは、ゆっくりと近づいてくる愛しい女性から、片時も目を離すことができなかった。

この時レオナルドは、オスカーやマリアに冷遇されながらもひたむきに生きる彼女を、密かに想い続けていた日々を思い返した。



(あの時、エリザの涙を拭き、手を取り、彼女を支えながら困難を乗り越えた……)


オスカーとマリアを退け、積み重ねてきたレオナルドの想いのすべてが今、目の前で花開こうとしている。

祭壇の前に立ったエリザの、ヴェール越しの瞳がレオナルドを見上げた。

レオナルドの逞しくも洗練された手が、エリザの華奢な手を優しくも絶対に離さないという強い意志を持って包み込む。



「……とても、美しい。私の命に代えても、君を幸せにすると誓う」


レオナルドの情熱的な声に、エリザの頬が薔薇色に染まった。


「レオナルド様……私の方こそ、貴方と共に歩めることが、人生の最大の喜びです」


神父の厳かな言葉が響き、二人は神の前で永遠の愛を誓い合った。
 
レオナルドがそっとヴェールを上げ、エリザの唇に深く甘くも誠実な誓いの口づけを落とす。大聖堂に、割れんばかりの祝福の拍手が鳴り響いた。



「母様……すっごく、綺麗……っ!」

「うん。世界で一番、綺麗だ」


最前列の特等席。立派な燕尾服を着こなしたノアとカイルが満面の笑みを浮かべ、目に涙をためながら両親に向けて力いっぱい拍手を送っていた。
 
もうオスカーの顔色を気にして震えていたノアも、マリアの歪んだ愛情に依存していたカイルの姿もない。

そこにあるのは、これから共に歩む家族の絆に包まれ、自信と希望に満ち溢れた二人の少年の姿だった。

祝福の鐘の音が、王都の青空に高く響き渡る。鳴り止まない拍手と歓声の中、レオナルドと腕を組んだエリザは幸福の絶頂にいた。



「これほどの喜びを感じる日が来るなんて、思ってもみませんでしたわ」


そう言いながらエリザは空いている方の手を、無意識のうちに自身のお腹へとそっと当てた。
 
純白のドレスの下。そこは、ほんのり愛らしく柔らかい膨らみを見せていた。

エリザのお腹の中には、レオナルドとの間に授かったが宿っている。



(ああ、やっと……過去の苦しみ、虐げられた傷みも、あの人たち(元夫と愛人)の影も、私から離れていったのだわ……)


それらはすべて、今朝早く王都を後にして氷獄へと向かったあの馬車と共に、永遠に彼女の人生から排除された。


レオナルドはエリザのその手に自らの手を重ね、愛おしそうに微笑みかけた。エリザもまた、この世のすべての幸福を噛み締めるように極上の笑顔を返した。

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