十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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真っ白けっけ

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 ははは、と楽し気な笑い声が聞こえる。
 誰にも賛同されることのない、誰にも罵倒されることもない、空虚で愉快な笑い声が遠くに遠くに溶けていく。

「いや、時間はかかっているが――うん、イベントは梃子入れとしてはいいな。ある程度の難易度調整も可能ですよっと……」

 白い人影は、癖になってしまった独り言を空気に放つ。
 答える声など、そこにはない。
 初めから終わりまで、ただただ空気相手の独り言。

「まぁ――想定内なんだろうけどな。縛りがきついぜ。ガチャを参考に……てかそのまま使って得られる率を下げることでなんとか相応のもんをばらまけたわけでもあるが」

 もっとポイントばらまきたかった、と思いながら白い人影は観察しながらシステム周りをいじっていく。
 ――と、不意に、今までブラックアウト状態で何の反応もなかった、とあるチャンネルにあわせていなければならなかったものが光を放った。

「おい。もうかよ……まさかとは思うけど、こっちも終わりとかいうなよ……?」

 そのディスプレイ群には――戸惑う、いくつもの人間を見受けることができる。

【システムメッセージ:条件1、および時間経過により2が達成されました。なお、今後ファーストに移行されたシステムへの干渉権はありません】

「知ってるわ――まぁ、そっちはもうどうしようもねぇ」

 哀れに思う。
 と、同時にどうしようもないという諦めが大きい。
 そこまでもっていくのが、自分に課せられたものだ。

 しかし、それは早ければ早いほどいいというものではない。
 同時に、どうでもいい存在でもある。哀れには思うが、あくまでもそれは物語の中で、主人物ですらない者たちに抱くような程度の感情移入。
 彼が殊更残酷という訳ではない。

 ただ、そういう風に思うしかないだけだ。直接かかわりもしないものに、心を壊すほどの悲しみを抱けるはずもない。そんな人間なら現実世界で等に心を壊して廃人か何かになっている。
 だから、悲しみはする、哀れみはする、しかしそれだけで心を整理した。

「クソゲの奴らが頼りだな……」

 自分に会いにこれるのは。
 と、自らの望みを思う。
 チュートリアルからナイトメアくらいまではダメだ、と。
 制作の頭はいかれている。白い人影はそれをもう確信している。

 だから、クソゲという、文字通りテコ入れをこっちがしなければ、死により削れて漂白を延々と、永遠にくりかえすだけになるだろう者たちにこそ期待した。そうするしかなかった。

「ヘルも、一応ソロなら可能性はあるが――わざわざ人がいるのに最後まで一人でやろうってのはどんだけいるか。いても……才能がよっぽどなけりゃ漂白が先だ。いやんなるね。というか、クソゲがランダムで入れられてるはずなのに精神的強者がそこそこいるのがご都合主義の香りがするな。俺にとっちゃいいことだが」

 その分、可能性がある、と何もない上を見る。
 日課になった、書き込むことはできない掲示板を覗く。

「とはいえ、イベントのあれは予想外だったが……いけなくはないようで良かった」

 彼はあらゆる掲示板を見ることができる。彼はあらゆる部屋を覗き見ることができる。彼はあらゆるダンジョンの隅から隅までをみることはできる。

 しかし、直接の干渉はできない。
 それは、彼という運営の仕事ではないという判断からか、システムが許してくれない。
 数値をいじってチートという事はできないのだ。
 称号である程度付与できたり、ちょっとしたシステムメッセージでの鑑賞、今回試した『お願い』という形の『要望』を、システムの隙間を縫うか予定にあるものだからと少し変化させてどうにか組み込むのが精いっぱい。

 彼らは、白い人影という運営こそ主犯だと思っている。
 それはそれでいい、と白い人影は思う。
 間違いだ、と主張したくないわけではない。実際、そうなのだから。
 しかし、伝える手段もないし、それはもうあきらめた。彼の望みはそこにはない。

「――――」

 頭で繰り返し、言葉でもぶつぶつと一人で繰り返す。

「あ……あ? あー」

 ガシガシと、頭をかく。
 出身地が消えている。またピースはかけてしまった。
 彼は、自分がどう思われようと良いのだ。
 むしろ、そう思ってくれて憎悪でも燃やしてくれていたほうが都合がいい。

(こういうものに、ありきたりな目的だろ。どうかかなえてくれよ。先が地獄かどうかは知らないし、そこは助けることもできないけど、今いる地獄からはどうにかできるように、出せる手くらいはだすからよ)

 確認作業が終われば、彼はまた、システムをあきらめずにいじり始めた。
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