32 / 296
真っ白けっけ
しおりを挟むははは、と楽し気な笑い声が聞こえる。
誰にも賛同されることのない、誰にも罵倒されることもない、空虚で愉快な笑い声が遠くに遠くに溶けていく。
「いや、時間はかかっているが――うん、イベントは梃子入れとしてはいいな。ある程度の難易度調整も可能ですよっと……」
白い人影は、癖になってしまった独り言を空気に放つ。
答える声など、そこにはない。
初めから終わりまで、ただただ空気相手の独り言。
「まぁ――想定内なんだろうけどな。縛りがきついぜ。ガチャを参考に……てかそのまま使って得られる率を下げることでなんとか相応のもんをばらまけたわけでもあるが」
もっとポイントばらまきたかった、と思いながら白い人影は観察しながらシステム周りをいじっていく。
――と、不意に、今までブラックアウト状態で何の反応もなかった、とあるチャンネルにあわせていなければならなかったものが光を放った。
「おい。もうかよ……まさかとは思うけど、こっちも終わりとかいうなよ……?」
そのディスプレイ群には――戸惑う、いくつもの人間を見受けることができる。
【システムメッセージ:条件1、および時間経過により2が達成されました。なお、今後ファーストに移行されたシステムへの干渉権はありません】
「知ってるわ――まぁ、そっちはもうどうしようもねぇ」
哀れに思う。
と、同時にどうしようもないという諦めが大きい。
そこまでもっていくのが、自分に課せられたものだ。
しかし、それは早ければ早いほどいいというものではない。
同時に、どうでもいい存在でもある。哀れには思うが、あくまでもそれは物語の中で、主人物ですらない者たちに抱くような程度の感情移入。
彼が殊更残酷という訳ではない。
ただ、そういう風に思うしかないだけだ。直接かかわりもしないものに、心を壊すほどの悲しみを抱けるはずもない。そんな人間なら現実世界で等に心を壊して廃人か何かになっている。
だから、悲しみはする、哀れみはする、しかしそれだけで心を整理した。
「クソゲの奴らが頼りだな……」
自分に会いにこれるのは。
と、自らの望みを思う。
チュートリアルからナイトメアくらいまではダメだ、と。
制作の頭はいかれている。白い人影はそれをもう確信している。
だから、クソゲという、文字通りテコ入れをこっちがしなければ、死により削れて漂白を延々と、永遠にくりかえすだけになるだろう者たちにこそ期待した。そうするしかなかった。
「ヘルも、一応ソロなら可能性はあるが――わざわざ人がいるのに最後まで一人でやろうってのはどんだけいるか。いても……才能がよっぽどなけりゃ漂白が先だ。いやんなるね。というか、クソゲがランダムで入れられてるはずなのに精神的強者がそこそこいるのがご都合主義の香りがするな。俺にとっちゃいいことだが」
その分、可能性がある、と何もない上を見る。
日課になった、書き込むことはできない掲示板を覗く。
「とはいえ、イベントのあれは予想外だったが……いけなくはないようで良かった」
彼はあらゆる掲示板を見ることができる。彼はあらゆる部屋を覗き見ることができる。彼はあらゆるダンジョンの隅から隅までをみることはできる。
しかし、直接の干渉はできない。
それは、彼という運営の仕事ではないという判断からか、システムが許してくれない。
数値をいじってチートという事はできないのだ。
称号である程度付与できたり、ちょっとしたシステムメッセージでの鑑賞、今回試した『お願い』という形の『要望』を、システムの隙間を縫うか予定にあるものだからと少し変化させてどうにか組み込むのが精いっぱい。
彼らは、白い人影という運営こそ主犯だと思っている。
それはそれでいい、と白い人影は思う。
間違いだ、と主張したくないわけではない。実際、そうなのだから。
しかし、伝える手段もないし、それはもうあきらめた。彼の望みはそこにはない。
「――――」
頭で繰り返し、言葉でもぶつぶつと一人で繰り返す。
「あ……あ? あー」
ガシガシと、頭をかく。
出身地が消えている。またピースはかけてしまった。
彼は、自分がどう思われようと良いのだ。
むしろ、そう思ってくれて憎悪でも燃やしてくれていたほうが都合がいい。
(こういうものに、ありきたりな目的だろ。どうかかなえてくれよ。先が地獄かどうかは知らないし、そこは助けることもできないけど、今いる地獄からはどうにかできるように、出せる手くらいはだすからよ)
確認作業が終われば、彼はまた、システムをあきらめずにいじり始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる