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あい すてる らぶ うー10
しおりを挟むふぅと息を吐く。
だいぶ体力が削れてきたことを自覚して、休憩をすることにした。
立ったままいつものようにあたりを警戒しつつ手早く回復剤を放り込むなりしようとして――そうしなくていいのだと気付いて、座ってみる。
それでも、蟻共の行動は変わらない。
(このダンジョン内で、座って休憩なんて、考えもしなかった)
ゆっくりと、取り出した食料を食べる。
栄養価だけはあるらしい、食べるのが罰ゲームを越えて拷問でしかないようなものだが、慣れたものだ。他の難易度と比べてももっていける数は少ないし、おいそれとその枠を広げることはできないのだ。選別上、1番コストパフォーマンスが良かったからというだけの苦渋の選択ではある。
(味には慣れるもんだね。食える、以上にはならないけど)
風景も最悪といっていいが、他に見る者もない。
予測通りの大小入り乱れるようになった蟻だらけの風景を眺める。
よく見ればこの蟻共はよく共食いをしているようだった。
(食欲旺盛すぎない? 蟻って共食いするんだっけ? ……蟻が蟻の死骸運んでるの見たことあるなそういえば。 いや、現実の蟻と比べるのは間違いなんだろうけどさ)
見たところ食料もないから、共食いも当然かとも思う。
(そもそも、同じように腹が減るのだろうか? 食料なく生命を維持できないなら、もっと減ってないとおかしいんじゃ?)
効率よくエネルギーを得ることができているだとか、共食いしても問題ない速度で増えて自給自足しているのか。
それにしても、なんだか千都子にはおかしな話に思えたのだ。
(私を見れば積極的に殺しにはきた。食べるものもいた。けど、それは全てではない。共食いする生態をしているのなら、積極的に食べようとするのはおかしいんじゃない? やむを得ず共食いする状況なら、放り出された餌に対してもっと積極的になるんじゃない?)
あてはめるのは間違いだと思いつつ、今までの常識にあてはめてそんなことを思う。
考える余裕ができたからかもしれない。
今までは、ただの気持ち悪く、どうしようもなく強く、こちらを殺してくる次々に対処しなければならない物体でしかなかった。
(どこから来たんだろう)
このダンジョンとはなんだろう。
(最初から、ここにいたんだろうか?)
それはないな、と思う。
(作り出された?)
それも何か、しっくりこない。
空気感だけではあるが、同じ掲示板仲間であるキノコのダンジョン辺りは想定外で制御できてないように感じる。
(……連れてきた、とか)
自分たちと同じく、相手もどこか知らない場所から連れてこられたのではないだろうか。
(いや、こんなの居たら地球滅んでるでしょ)
ないない。
と思いながら、漫画とか見たいに、別の世界から持ってきたとかかなぁ等考える。
(漫画のキャラなら、私はモブだなあ)
ふふ、と場にも状況にも似合わない笑いがもれた。
(それにしたって、そうであるとしたら――人間が優遇されている気はするかな? そうしないと弱すぎるからとか。にしても、優遇がすごいっぽく感じるけど。特に低難易度)
同じように連れてこられた存在なら、この扱いの差はなんだろうか?
他の難易度もちらほらと覗く千都子は、そういえばと思い出す。
(明らかに人間としか思えないモンスター……そう、私たちが呼んでいるだけの、ものがいたね、そういえば……)
少しぞっとする。
同じように連れてこられたとしたのなら、その人間たちと、自分たちの違いとは?
(私とか、クソゲのみんなも体験はしていないけど、低難易度はそもそもAIチックというか、そういう行動をとるものだらけだっていう。だから、あまりこれがちゃんとした生き物なんだとすら思わないみたい)
もし、もし同じようにどこからか連れてこられたものなら。
自分たちとは違い、行動も思考も自由にできないのだろうか。
(どこの誰がしてるかしらないけど、もし、もしこれがそういう事ならあれだよね。漫画とか小説とかで見るみたいな、強制的に異世界に召喚しましたーってやつの中でもそうとうクソみたいな部類だよね。呼びました、殺し合ってください。特に説明はしません。大丈夫死なないからじゃんじゃんやれや……邪神か何かの遊びかな? そういえば、相手もリスポーンするよね……? 私は、蟻の区別なんかつかないから同じ奴かどうかなんてわからないけど)
もしこれが本当に想像通りだったとしたら、どんな気分だろうかと考える。
よくわからないまま連れてこられて、同じく人間のようなものに攻撃させられて、攻撃されて。
当たり前のように殺して、殺されるようになって。
相手は、加速度的に強くなって。
自分たちは、大して変わりもしないのに。
同じように人格があるなら、絶望だろう。
(呼ぶ側、拉致した奴。選民思想的なやつがあるとしたら、何故私たちを優遇しているんだろうか? 私たちの世界の人間だったりするんだろうか? いつから地球はファンタジーになったんだろう)
私たちの世界って、と千都子は少し笑いそうになる。
それに、優遇といったって、強制的に放り込んで殺し殺されをさせられている。もしそうでも、きっと玩具の中でどれがお気に入りかくらいのものだろうと千都子は思う。
(……まぁ、どっちでも意味ないか。結局、それで私の状況が変わるわけでもないんだし。この蟻がどこからか連れてこられた存在だとしても……敵対が命令されているような、支配されるような形で強制にやらされていることだとして。例えばそれが解放できるにしたって、こんだけ殺された思いはお互い消し難いと思うし、どっちにしても蟻とじゃ分かり合えないと思うし――これが、他の難易度みたいにもうちょっとわかりあえそうな知的生命体だったらもうちょっとは悩んだりもしたかもしれないけどさ)
立ち上がる。
共食いしている蟻を見る。
(どういう気持ちでいるんだい)
食べている蟻に、それに抵抗していないように見える蟻。
(なんで、私たちは殺し合っているんだろうか)
考えるのを止めようとしても、やはり考えてしまう頭を何度か横に振る。
(進もう)
共食いを続けている蟻を見る。
最初からやっていたんだろうかと、途中からならなぜ始めたんだろうか。
そんな関係ないことを考える暇を与えないようにするかのように、通り道の蟻を無造作に潰していった。
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