『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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出航

初出航記念艦内親睦パーティー…2…

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 ライトが落ちて、会釈する4人が暗がりに覆われる。

 続けて湧き起こる万雷の拍手と歓声。

 私も感動で身体が震える。

 ダメだ…視界が滲む…。

「…では、アドルさん、スピーチをお願いします…」

 と、マレットが私の左耳元で囁く。

「…あ…何について話せば好い? 」

「合同誕生会のことを挿れて頂ければ、あとはご自由に…スピーチが終わったらクルー全員に好みの一杯が配られますし、その間に2人にはチーフが目の前で誕生日のカクテルを作りますから、改めて乾杯の温度をお願いします…」

「…分かったよ、マレット…」

 そう応えるとジン・リッキーを一口呑んでナプキンで口を拭い、ステージに上がる。

「…『ディファイアント』が出航してもうすぐ初日が終ろうとしています…皆さん、改めてお疲れ様でした。そして、ありがとうございます。これまでにも皆さんには、似たような事をもう何度も言っていると思うんだけれども…これ程に凄い仲間達を選び抜いて揃える事の出来た自分が、自分でも信じられない…僕は本当に恵まれています…これ程のメンバーで『ディファイアント』を駆るのであれば、例え何処でどのような状況になろうとも、絶対に切り抜けられる…そう確信しています…これから何年もの付き合いになると思うけれども、宜しくお願いします。さっきも言ったけど昨日がカウンセラーの誕生日で、明日がミア・カスバート嬢の誕生日です…今夜は最初の親睦パーティーなので、合同誕生会と言う事にさせて貰いました…改めて2人とも誕生日おめでとう! 全乗員の誕生日は出来得る限りこの艦内でも祝いたいと思っています…それでは、改めて乾杯の為の飲み物を皆さんに配ります…」

 私がそこで話を区切ると、チーフ・リントハートを除くバー・ラウンジスタッフ達とサポート・クルーの3人が、大型のワゴンを押して入場する。

 勿論ワゴンの上は様々な飲み物で満たされたグラスが林立していて、彼等はその一つ一つを注意深くお目当てのクルーの前に置いて行く。

 チーフ・リントハートも様々なボトルやグラスやアイス・ボックス、調合用具等を乗せたワゴンを押して現れ、和かな笑顔でハンナ・ウェアーとミア・カスバートが着いているテーブルの傍にワゴンを着ける。

 彼は先ずロック・グラスに氷を入れて、ウィスキーをスリー・フィンガー分注ぐと、そのまま私に手渡した。

 グラスを口許に持って来る迄も無く、素晴らしく芳醇な馨りが拡がる。

 そしてチーフは、2人に対して恭しく礼を施す。

「…ハンナ・ウェアーさん、ミア・カスバートさん、お誕生日、おめでとうございます。ここでお2人にお祝いを申し上げられる事を嬉しく思います。バー・ラウンジを代表して私からお2人に、お祝いの一杯を進呈致します。ハンナさんには2月27日のカクテル『セント・アンドリューズ』を…酒言葉は『色々な事に興味を持ち、工夫を重ねる創作者』です。ミアさんには3月1日のカクテル『サザン・スパークル』を…酒言葉は『心に響く言葉で感動させられる歌姫』と、されています。それでは失礼致します…」

 そう言い終えてチーフは、カクテルの製作に取り掛かった。

 『セント・アンドリューズ』は氷を入れたシェイカーに、ブレンデッド・モルトの『ヴァランタイン・ファイネスト』を3分の1…ウィスキー・リキュールの『ドランブイ』を3分の1…オレンジ・ジュースを3分の1…をこの順に注ぎ、高速シェイクで20秒…カクテル・グラスに注いで、ハンナの前に置く。

 『サザン・スパークル』も氷を入れたシェイカーに、ピーチ・リキュールの『サザン・カンフォート』を30ml…パイナップル・ジュースを45ml…レモンジュースを10ml…最後にジンジャー・エールを少々加えて高速シェイクで20秒…普通のコップより少し細身のコリンズ・グラスに注いで、ミアの前に置いた。

「…さあどうぞ…冷たい内にお召し上がり下さい。そしてお二方ともこれよりの1年が健康で充実されますように、祈念させて頂きます…」

 そう言って、またチーフは一礼した。既に全乗員の前にも、好みの一杯が置かれている。私もロック・グラスを右手で掲げた。全員がグラスを手にして起立する。

「…さあ! 改めて2人を祝福しよう! ハンナ、ミア…誕生日おめでとう! 2人を含む我々全員が、これからの1年を健康で充実して、何め問題も無く過ごせるように、乾杯! 」

「乾杯!! 」

 全員が唱和してグラスを触れ合わせ合い、口を付ける…私も一口を含む…!…『グレンフィデック』の35年ものだ…私が持ち込んだものと同じ味だ…チーフ…奮発したな…。

 私はグラスを手にしたままステージから降りると、また同じテーブルに着いた。

「ありがとうございました。お疲れ様でした」

 と、マレットが右隣から私にそう言って、私の右手に左手を重ねる。

「何も疲れてないよ、マレット…それで…次は何だい? 」

 そう訊きながらマレットの左手を握り返しつつ、彼女のグラスとロック・グラスを触れ合わせる。

「…そうですね…バースデー・ケーキは出来ていますし、デュエット・ステージを始めても好いですが…暫くは、食べて呑んで歓談と言う事でも?…」

「…そうだね…暫くは腰を落ち着けて、食って呑むか?…」

 そう言って、渡されていた皿から一口食べてジン・リッキーを呑むと、周りから感嘆の声が挙がる。

 何かと思って見遣れば、メイン・スタッフの面々が自分のグラスを手に歩み寄って来て同じテーブルに着いた…。

 やはり眼が吸い付けられるのはフィオナだ…素晴らしく美しく、セクシーでエロチックな微笑みで魅せながら、当然のように私の左隣に座る。

 今のフィオナが私を個室に訪ねて誘惑して来たら、もう拒めないだろうな…。

「…悔しいけど今夜のフィオナには、誰も勝てないね。アドルさんの隣、狙ってたけど今日は諦めたよ…」

 そう言って、ハンナが嘆息する。

「ごめんね、ハンナ…今日はアドルさんが私の1番の恩人になった日だから…」

 そう応えるフィオナに、好いのよと言う体で左手を振って観せると、自分のグラスをフィオナのそれに触れ合わせて一口呑むハンナである。

「…ハンナ! 今夜の司会はアンタでしょ?! ちゃんと指示しなさいよ!? 」

「…ごめん、シエナ💦…アドルさんとのデュエットが頭から離れなくてさ💦…歌が終わったら、ちゃんとやるから…」

「(笑)まあ好いじゃないか(笑)俺も予定より数多く唄うから(笑)歌の出番が終わってから、やってくれても好いよ…」

 そう言って、ハンナのオレンジ・ゴールドブロンド・ロングヘアを右手で梳いた。

 いつの間にか40人程のクルーが私達のテーブルに集まって来ていて、口々にフィオナの立ち直りを祝福し、ハグし合い、乾杯もしてその美しさを称賛し、私に対しても礼を言う。

 私は、フィオナが立ち直ったのは彼女自身の意思の力であって、私がやったのは単なるお節介的な切っ掛けに過ぎなかったと応えたのだが、クルー達が私に向けて放つ好き好きアピールビームは衰えない。

 このままでは私の防御シールドが消失するのも、時間の問題だろう…意識を逸らせようとして『グレンフィデック』を呑み、料理を頬張る私である。

「…アドルさんのシールド・パワー、今何%ですか? ハイ、あ~ん? 」

 自分の食べているロールキャベツの一つにフォークを突き刺して差し出しながら、カリーナ・ソリンスキーがそう訊いて来る。

「…!……あと7%だな…これ以上曝されていると、突破されて直撃を喰らいそうだよ?!…」

 差し出して来たカリーナの左手を掴んでロールキャベツに一口で齧り付き、よく噛んでジン・リッキーと一緒に呑み下してから、そう応えた。

「…それじゃ、フィオナ…ちょっと唄って来るよ…これ以上君達を観て、君達にも観られていると…感情が溢れ過ぎて真面に唄えなくなるからな…」

 グレンフィデックを一口含んでナプキンで口を拭うと、そう言ってフィオナの右手を左手で軽く握り、右肩に軽く右手を添えて立ち上がる。

「…ありがとうございます、アドルさん…しっかりと聴いて、今日で本当に生まれ変わります!…」

「…それじゃ、君も含めて3人で合同の誕生祝賀会だな(笑)?…」

 そう言って右手を振ると、ロック・グラスを左手にしてステージに上がる。

 もう一口『グレンフィデック』を含んでグラスを傍の台に置き、ギターを取り上げるとピアノの椅子に座って構える。

 ハーモニクスを幾つか響かせてチューニングを確認すると、大きく息を吐く。

「…皆も知っている通りで、フィオナが立ち直る切っ掛けになった歌です…勿論フィオナがトラウマから立ち直ったのは、彼女自身の意思の力であって…この歌はほんのちょっと背中を押しただけだ…実はクルーを思い浮かべ、考えて楽曲を作ったのはこれが初めてでね…結果としては好いベクトルに進んだけど、あまり褒められた行いでもないから暫くは自重するよ…あまり急激に君達のプライバシーに入り込むのは、良くないからね…それじゃあ、聴いて下さい…『嘆きのフィオナ』…」

 イントロは8ビートでダンサブルなジャジー・ナンバーだが、曲調は少し暗めで切な気で寂し気なものだ。

「♪アイ・アイ・アイ♫恋は君に♬どんな酷い事をしたの?♪…」

「♪過去に♬アイ・アイ・アイ♪怯え♬アイ・アイ・アイ♪眠れぬ嘆きのフィオナ♫…」
 
「♫テーブルの上♪真珠のピアス♫君は静かに外す♪悲し過ぎてる♪瞳綺麗で♫僕さえも追い詰める♪…」

「♪ただ眼を閉じて♪身体を投げ出して♪自分を虐めてまで♪…何から逃げたいの?…♪I say♪」

「♪アイ・アイ・アイ♫誰が君に♪そんな酷い事をしたの?♬…」

「♬夜に♪アイ・アイ・アイ♪怯え♬アイ・アイ・アイ♪眠れぬ嘆きのフィオナ♫…」

  ♫【間奏】♪

「♪耳に掛けてた♬髪が滑って♩表情を隠しても…♪愛の総てを♫知っている声に♪堪らなく嫉妬する♩…」

「♪悲鳴を挙げては♩しがみ付く爪が♪ナイフのように♫…僕の心を抉るよ♪…♪you say♫」

「♪アイ・アイ・アイ♫恋は君に♬どんな酷い事をしたの?♪…」

「♫影に♩アイ・アイ・アイ♫怯え♪アイ・アイ・アイ♪眠れぬ嘆きのフィオナ♫…」

  ♫【間奏】♪

「♪月だけが観ている・この夜♫少女の君を♩…取り戻す♫もう一度♪僕が微笑みを・あげたい♪…♪I say♪」

「♪アイ・アイ・アイ♫恋は君に♬どんな酷い事をしたの?♩…」

「♫過去に♩アイ・アイ・アイ♫怯え♪アイ・アイ・アイ♩眠れぬ嘆きのフィオナ♫…」

「♩アイ・アイ・アイ♫誰が君に♪そんな酷い事をしたの?♬…」

「♬夜に♪アイ・アイ・アイ♪怯え♬アイ・アイ・アイ♪眠れぬ嘆きのフィオナ♫…」

「♩愛に♪怯え♩…♪眠れぬ嘆きのフィオナ♫」………【終奏】

 今回も私は最初から最後までフィオナ・コアーの眼を直視して、歌い終えた。

 フィオナも素晴らしく明るく輝く笑顔で、私の眼を観返して聴いてくれた。

 この点については、本当に心の底から安堵した。

 気が付くと拍手が湧き起こっていたが、歓声は聴こえない。見廻すと、殆どが涙を流している。

 泣いていないのは、フィオナだけだった。それが一層、彼女の輝きを際立たせていた。

「…誕生日、おめでとう。フィオナ・コアー…」

 そう言ってロック・グラスを掲げると、彼女も自分のグラスを掲げて口を付ける。

「…ハンナ! 俺の料理の皿を持って来て? それとジン・リッキーとグラス・ビアも頼む! ここで呑み食いしながら唄うから…皆、どうだったかな? 今の歌は? 」

 2秒で歓声と口笛が湧き起こる。

「…皆、ありがとう! 感謝してるし、愛してるよ! じゃあ、そうだな…まだバースデー・ケーキが登場してないから、今回最後のバースデー・ソングと行こう! ハンナ、ミア、フィオナ! 3人とも上がってくれ! マレット! この歌が終わる迄の間に、ケーキをステージの前迄頼む! 終わったら4人でケーキ・カットするから…」

 そう言い終わると立ち上がってギター・ストラップを肩に掛け、椅子をピアノの下に仕舞う。

 ハンナが少し広い台を持って来て置くと、フィオナとミアがフォークを添えた料理の皿とグラスふたつを持って上がり、置いてくれる。

「…3人ともありがとう。これで、ここで唄いながらでも、合間を観て食べたり呑んだり出来るよ…それじゃあ、最後のバースデー・ソングって事でいこうか? 2回目のタイトルチェンジになるけど『ハンナ・ミア・フィオナ』だ…」

10秒で5つのパッセージを掻き鳴らして馴染ませてから、4ビートでちょっとダンサブルなイントロから入る。

「 ♬ ニューモードのドレス ♪ よく似合うよ ♬ 3台目の車 ♫ 買い替えたね ♪ 」

「眼に観える夢は総て ♬ 掴む君さ ♪ yeah ♪ 次は何を ♫ 手に入れるの ♪ 」

「oh oh girl ♫ 今時の君に ♪ 伝えたい言葉は ♪ ah ♫ 上手く探せない ♪ hah ♬ 」

「oh oh please ♪ いつの日も君は ♬ 特別でいてくれ ♫ yeah ♪ 」

「過ぎた恋を食べて ♫ 輝いてくれ ♪ 」

「 ♪ 大事なのは愛だと ♫ 分け合えても ♪ yeah ♫ まさか愛が ♪ 総てじゃない 」

「♫ oh oh girl ♪ 巡り逢う君に ♫ 伝えたい願いは ♪ ah ♫ ひとつだけじゃない ♫ hah ♫ 」

「oh oh please ♪ 時々は君も ♪ 飾らずにいてくれ ♫ yeah ♪ 」

「こんな僕の為に ♫ 微笑んでくれ ♪ 」

【間奏】

「 ♪ oh oh girl ♪ 今時の君に ♪ 伝えたい言葉は ♫ ah ♫ 上手く探せない ♪ hah ♬ 」

「oh oh please ♪ いつの日も君は ♬ 」

「特別でいてくれ ♫ yeah ♪ 」

「過ぎた恋を食べて ♫ 消えないでくれ ♪ 」

【終奏】

 唄っている間は3人とも入れ替わり立ち替わりで、私の腰に手を廻して反対側の肩に顎を乗せて笑ったり、笑顔で頬を密着させたり、背中合わせで笑い掛けながら、4ビートでステップを踏んでくれたりしてくれていた。

 終わって4人で頭を下げると、また盛大に拍手と歓声と口笛が湧き起こる。
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