『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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出航

ナイトタイム

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 自室に戻ってギターとかファイル等を片付けると、ドリンク・ディスペンサーに甘くないソーダ水を出させてデスクに着く。

 灰皿を取り寄せ、煙草を咥えて点けてからエアコンのレベルを上げさせる。

 煙草の旨さが泌みる。あれだけ呑んで食べて1本も喫わないで過ごした、と言うのは珍しい。

 今は艦内標準時で20:40 。ナイトタイムに入ってナイトシフトに移行するまで20分だ。

 シャワーを浴びたいがそれをすると待たせる事になるだろうから先送りして、出来るだけ皆が座れるようにする。次の木曜日には、もっとクッションとか椅子になるような物を持ち込もう。

 ケトルふたつを満水にして沸かし始めたら、インターコールが鳴った。応答するとドアが開く。

 メインスタッフ、サブスタッフの全員が続々と入室した。

「やあ、いらっしゃい。お疲れさん。適当に散らばって座って? クッションがまだ足りなくてね。ああ、クッションを持って来てくれた人もいるね。じゃあ、先ずティーカップを軽く洗おうか? 茶葉は取り敢えずそこに置いて? ミルクは冷蔵庫に入れてくれるかな? 」

 そう言いながら袖を捲ってキッチンに立とうとしたが、ロリーナ・マッケニット副機関部長とミーナン・ヘザー副観測室長に押し留められる。

「アドルさん、それは私達でやりますから、座って弾き語りを聴かせて下さい。お湯が沸いたら保温ポットに入れて、また沸かせば好いですね? 」

「いや、弾き語りしてくれって言ったって、弦が切れちゃったからさ」

「新しい弦は、持ち込まれてないんですか? 」

 と、エマ・ラトナー。

「そりゃまあ、持ち込んでるよ」

「じゃあ、換えて下さい」

「簡単に言うけどね。まあ好いか。じゃあ、頼むよ? 」

「お任せ下さい」

 袖を戻しながらリビングに戻り、ギターをケースから出して弦を外す。

 ケースのポケットから新しい弦の1セットを出して張り付けていく。

 弦のテンションを上げてチューニングが完了するまで、5分ぐらい。ハーモニクスを美しく響かせながら話す。

「はい。改めてお疲れ様でした。ありがとうございました。もう直ぐ初日が終わるんだけれども『ディファイアント』全クルーでの絆を、このパーティーを無事に終えられて形作る事が出来たように思います。最後に唄いたかった歌はね、生まれかわったフィオナに捧げる、言わばアンサーソングだったんだよ。新しいフィオナの誕生に関われて、それに力を尽くす事が出来て僕も嬉しかったし、光栄にも思ったよ。それじゃ、聴いて下さい。『ひとつだけ』」

 軽く同じリズムでのパッセージをよっつ弾いてから、フォービート・アルペディオでイントロに入る。

「♩君が微笑む♪時の唇は🎶

♫少しずつ僕に♬魔法を掛ける♩

🎶まるで♪会えなかった時間も♫

♩飛び越えてゆくみたい♬

🎶また綺麗になったけれど♪

♪ここからふたりは♫どうやって♬歩き出そうか🎶

♩お互いに大切に♪して来たものを♬抱えて♩

🎶ひとつだけ♫確かなものがあるとしたなら♩

♫ふたりが♬また出会えた奇跡♩」

【間奏】

「♪そっと端末に♩目を遣る仕草♫

♬それだけで僕は🎶焦るような想い♪

♬君が♫どんな恋に傷付き♩

♫どれくらい泣いたかも♩

♬全部抱き締めて🎶あげたくて♫

♩今ならふたりは♫色んな事を簡単に♪

♫分かり合える♬気がしているのは♪偶然じゃない🎶

♩ひとつだけ♬変わらないものがあるとしたなら🎶君を♫愛している事実♩」

【間奏】

「♩君の涙は♬僕が拭ってあげたい♬

♪君の微笑みも♫僕が守ってあげたい🎶

♩ここからふたりは♫どうやって♪歩き出そうか🎶お互いに大切に♫して来たものを♩抱えて♬ひとつだけ♪確かなものがあるとしたなら♫

♪ふたりが🎶また出会えた♬奇跡♫」

 穏やかなエピローグのような余韻を曳いて、ドラマチックに終えた。

 歓声も拍手も無い。その場にいる全員が眼を見開き、口を手で覆うか両手を握り合わせて泣いていた。

 「はい。以上です。もう暫く歌わないからね。じゃあ、お茶を淹れるね♪」

 ギターを隅に立て掛けて立ち、キッチンに入る。お湯はたっぷり沸いているし、茶葉もミルクも充分にある。

「隠し味に使える物が今は無いからさ。悪いけどシンプルに淹れるよ? 」

「……はい、お願いします」

 皆が持ち寄って来たソーサーにカップを乗せて並べ、順番にミルクティーとして点てて淹れて仕上げてゆく。仕上がったミルクティーから冷めない内に配って貰う。最後に自分にはコーヒーを点てて淹れた。

「さあ、熱い内にどうぞ召し上がれ。あまり甘くはしてないよ」

「…はあ…美味…しい…」

 カリッサ・シャノン副保安部長が惚ける。

「…時々、この一杯を頂かないと、おかしくなりそう…」

 右舷サブパイロットのソフィー・ヴァヴァサーだ。

「…アドルさんの歌…本当にどれも素敵でした…」

 エレーナ・キーン参謀補佐が眼を潤ませる。

「…あんなに沢山聴けて、本当に好かったです…」

 ナターシャ・ミアナ主任機関士の顔も、まだ赤い。

「…アドルさんは…本当に最高です…」

 カレン・ウェスコット右舷サブ・センサー・オペレーターも熱っぽく言う。

「…アドルさん以上の男性(ひと)は…現れません…」

 カリーナ・ソリンスキーの好き好きビームも強い。

「…女優として売れなくなったら、アドルさんのお店で雇ってくれるんですよね? 」

 レナ・ライス副砲術長も縋るような眼で私を観る。

「…ああ…それは勿論だよ…希望者は全員、正社員として雇用する…この約束は絶対に守る…開幕迄に間に合わなかったけれど、必ず1度は君達のご家族にも、ご挨拶するからね…」

 ゆっくりとコーヒーを飲みながら、そう言う。

「…さて、もうナイト・タイムに入るけど、ここで話して共有しておくべきと思える、情報とか懸念はあるかな? 」

「同盟各艦の状況は、気になりますね」

 ハル・ハートリー参謀が、ミルクティーを飲み干してカップを置いた。

「うん…気にはなるけど、心配しても仕方ない。距離があり過ぎるし、この2日間は模擬戦闘ミッションだ。どんなにこっ酷くやられて敗けたにしても、沈みはしない。好い経験として欲しいと願うだけだよ…他には? 」

「あの失礼な挑戦者の名前も、サイン・バードさんが送ってくれたファイルの中にあると思いますが、そのファイルの内容を確認する必要があります」

 フィオナも飲み干して冷静に言う。

「そうだね。終わって出たらあのファイルをここにいる全員と、同盟参画全艦の司令部とで共有しよう。例えば次のゲームフィールドがぐっと狭くなって、同盟各艦が半日から1日くらいで集結出来る広さだったら、翌日には彼等と対峙する可能性が出てくる。集合の途上で接触する可能性もあるからね。先ずは最近の僚艦と合流するように指示しよう…他にはあるかな? 」

 問い掛けてコーヒーを飲み干したが、発言は無かった。

「よし。思い付かないなら、無理に考えなくても良い。最後に私からふたつだけ。明日の午前中に残っている模擬敵艦を…『グリーン』だったかな? それを撃沈したら、悪いが休み時間の間に試したい事がある。それが上手くいったら、これからの戦いを有利に進められるだろう。だから、休み時間だけど宜しく頼む。もうひとつは、もう全員の個室にアイソレーション・タンクベッドが配備されているから、それを使って寝んでくれ。じゃあ、今日はこれで終わろう。解散だ。明日もあるから、充分に寝てくれ。ナイト・シフトのメンバーは、大丈夫だね? 」

 そう言ってシエナを見遣ると、笑顔で頷く。

「大質量誘導弾(ラージ・マス・ミサイル)ですね? 」

「そうだ。さすがはハル参謀。OKだ。持って来た物は、持って帰っても好いし、置いて行っても好いよ。カップは洗っておくから。お疲れ様! 」

 そう言いながら立ち上がり、カップを10個重ねて持って行こうとしたのだが、ふたりに取り上げられ、4人に引き留められてまた座らされる。

「私達がやりますから、座っていて下さい! 」

 10人で洗って拭き上げて収納したので、10分も掛からない。

「それではアドル艦長、お疲れ様でした。ご馳走様でした。ありがとうございました。勉強になりました。明日も宜しくお願いします。本当はすごくキスしたいんですけれども、これで我慢します。おやすみなさい…」

 シエナ・ミュラーはそう言って、私の左頬に軽くキスして直ぐに離れた。

「さあ、皆、もう行くわよ! 」

「お疲れ様でした」

「ご馳走様でした」

「とっても美味しかったです」

「凄く癒されました」

「ありがとうございました」

「お休みなさい」

 全員がそれぞれ様々な言葉を私に掛けて、ハグを交わして退室して行く。最後に交わしたのはフィオナだった。

「お休みなさい、アドルさん。また明日」

 とても美しく、優しい笑顔だった。

 最後にシエナがフィオナと一緒に退室して、私ひとりになった。ギターの弦を緩めてケースに仕舞うと、アイソレーション・タンクベッドを起動させて設定を始める。

 仕様取扱説明書を読んでも判ったが、社宅に配備された物と同じ機種だ。エプソム・ソルトの濃度と水温の設定をして、ゆっくりとシャワーを浴びる。

 シャワーから出て軽く身体を拭いてからアラームタイマーをセットして、ハッチを開けて中に入る。

 イヤーウィスパーを入れてからハッチを閉めて、37℃に温まっているエプソムソルト溶液に身体を横たえ、呼吸を整えながら目を閉じる。色々あったが初日は終わった。明日も頑張ろう。目を閉じて1分もしないうちに眠りに落ちた。
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