『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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セカンド・ゲーム

…1次集結ポイントにて…

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 ブリッジに上がると、エレーナ・キーンが立ち上がる……右手を挙げて声を掛ける。

「……ご苦労さん…遅れてすまない……交代するよ……これは厨房で作って貰ったお土産だ……3人で分けてくれ……どこで食べても好いから……次のシフトまで…しっかり休んでくれ……」

「……ありがとうございます……3人で分けて食べて、しっかり休みます……先程の対話以外で、報告事項はありません……宜しくお願いします……」

「……了解……後は任せて休んでくれ……お疲れさん……」

 オペレーター・シートから降りるカレン・ウェスコットに手を貸して降りるのを手伝い……パイロット・シートから立ち上がったハンナ・ハーパーに向けても手を挙げる……ランチ・バスケットを持って…もう1度私の顔を観たエレーナには、頷いて観せた。

 入れ替わってパイロット・シートには、ソフィー・ヴァヴァサーが着き……ジェレイント・セキュラにも手を貸して、オペレーター・シートに登らせる……その他のメインスタッフ・シートにも……今回での交代担当者が座り着いた。

「……ジェリー……全クルーに通達だ……次回の交代時間から休みに入る者は……短時間でも好いから、アイソレーション・タンクベッドを使用するようにと……」

「……了解…全クルーへの通達として流します……」

「……現時点での操舵状況を頼む……」

「……はい……1次集結ポイントに向けての、インターセプト・コースを採って航行中……速度…ファースト・スピードの115%……僚艦2隻に比較して先行しています……ポイント到着まで…予定で45分……18分前の定期確認交信では…グループ『A』の僚艦2隻に異常なし……他のグループからも、異常を告げる報告はありません……」

「……分かった……グループ『A』の僚艦2隻に対して、これよりトレースを開始……」

「…了解…」

「……長距離偵察機は? 」

「……3分前に『B』が着艦……現在、『A』の発艦セット中です……」

「…こちらブリッジ! 艦長だ……機関室、聞こえるか? 」

「……こちら機関室…アンバーです……何でしょうか? 」

「……アンバー……悪いが長距離偵察機2機を長距離戦闘機に換装して、リザーブ・タンクを付けてくれ……」

「……分かりました…直ぐ作業に掛かります……」

「……ジェリー、次のパイロットは? 」

「……ジャニス・マニアです……」

「……こちらは艦長だ……ジャニス、聞こえるか? 」

「……よく聞こえます……何でしょうか? 」

「……悪いが今、長距離偵察機を長距離戦闘機に換装している……終わったら搭乗して発艦してくれ……念の為、リザーブ・タンクを付ける……使い勝手が多少違うから…注意して慎重に飛んでくれ……周回半径は、第3戦闘距離とする……動体を感知したら直ぐに戻れ、好いな? 」

「……了解…慎重に行きます……」

「……頼む……ポイントに到着したらポイントを中心に、半径第3戦闘距離で40分周回してくれ……帰還したら、次のパイロットを指名すること……」

「……了解しました……」

「……気を付けてな? 」

「……はい、ありがとうございます……」

「……コンピューター…グループ『A』…3隻の航路をトレースして…ダイレクト・インターリンク・ネットワークを相互に確立できるタイミングは、何分後だ? 」

【……83分後です…】

「……ジェリー…私の名前で僚艦2隻に通達……85分後に、3隻相互でダイレクト・インターリンク・ネットワークを確立する……」

「…了解…」

「……ソフィー……ちょっと先行し過ぎている……10%減速だ……」

「…了解…」

 (……うん……色々とは思い付くんだが……今やらなくても…指示しなくても良い事……ばかりだな……いかん……損な性分だ……気が急いてくる……1時間くらいは落ち着いて座っていないとな……さて………そうか……やって置くべき事があった……これなら1人でも…いや…私1人にしか、出来ないな……よし……)

 キャプテン・シートの下からケースを取り出し、開けてオーヴァー・ヘッドセット・マウント・テクニカル・ディスプレイズド・ヴァイザーを出して起動させる……これが正式名称だが、もう誰もそうは呼ばない……大体ヘッドセット・ヴァイザーとか……単にヴァイザーと呼んでいる。

 頭に装着して、眼の前のタッチパネルとタッチパッドともリンクして連動させる……タッチパネルと私との間に3Dモニターを投影させて、ヴァイザーのモニターともリンクさせる。

「……コンピューター……『ディファイアント』の全機能に於ける、総てのコマンド・オペレート・インストゥラクション・リストを表示せよ……」

【…コンプリート…】

 ザザザザザ…っと、総てのコマンド・オペレート・インストゥラクション・リストが表示される。

「……コンピューター……これより、このキャプテン・シートから…本艦に於ける総ての操艦・操作・設備と機器の操作・指示、指令操作が行えるように、OSの改変を行う……アドル・エルク……アクセス承認コード……αC2ΘX9……」

【…確認しました…システム・データ・コードとプログラム・データ・コードへの…アクセスと編集を許可します…】

 3Dモニターとヴァイザーのモニターででも、エディット・ウィンドウを60面ずつ……計120面を開き……その120面の総てに、システム・データ・コードとプログラム・データ・コードの編集画面を呼び出して……準備を終えた。

 改めて、ざっと全体を見渡して確認する……例に拠って、ペルスペクティブ・フォーカス・コントロールと、音声入力も併用する……(……チーフ……やっぱり私がやらないと……みんなを守れないですよ……今……奴が豹変して襲って来たら……まあ……敗けはしないだろうと思うが……かなり面倒臭い事にはなるだろう……準備をして置くにしくはないな……)

 スピード・モード✖︎30%程度のペースから編集作業を始めて……1分で20%程度スピードアップさせていく……6分でパワー・モード・フルスピードに到達した。

 その後25分間……総ての画面を凄まじい速さで見渡しながら……データ・コードを切り取って、移し替えたり……新しいデータ・コードを書いて挿入したりした……その後の10分でブリッジ・スタッフは全員揃ったのだが…あまり気にも留めずに…続けた。

「……ジェリー…アドルさんがこの状態になって何分なの? 」

「……30分ちょっと…だね…シエナ……」

「……これはまさか…ハイパー・モード? 」

「……違うよ…ハル……パワー・モード・フルスピードの…2割増しくらい…だと思う……」

「……よいしょっと💦……何をやっているのか…見ないとさ……ええっと💦……」

 カリーナがタラップを登って、センター・オペレートシートに辿り着いて座り着く。

「……シエナ💦…アドルさんを止めないと💦……」

「……待って、フィオナ……アドルさんの限界時間は、ハイパー・モードでも45分……パワー・モードなら、1時間は大丈夫なはず……」

「……でも💦……」

「……ジェリー…1次集結ポイントまでは? 」

「……ざっと…25分……グループ『A』相互で…ダイレクト・インターリンク・ネットワークを確立するまで…55分……」

「……何よ! これ?! 」

「…どうしたの? カリーナ……」

「……信じられない……コマンド・ゲートがもうひとつ出来てる……しかもこれは……キャプテン・シートの端末にしか対応してない💦……」

「……つまり? 」

「……アドルさんが…自分ひとりで『ディファイアント』を動かせるようにしてるんだよ…シエナ……」

 エマ・ラトナーが…そう言いながら、彼の肩に手を伸ばそうとするのを…フィオナが止めた。

「……待ちなさい、エマ……もうすぐ終わるから……」

 観返したエマは、フィオナの瞳に激しい懊悩が宿っているのを観た。

「……信じられない……これ本当? この速さ……私が10人……いえ、30人いたってこのスピードは出せない……それにこのペースだと……あと10分くらいで終わるよ……」

「……アドルさん……あなたは……あの時からずっと……」

 遠くを観るような視線で、そう洩らすシエナ。

「……シエナ……あの時って? 」

「……あの金庫室での……エリック・カンデルさんとの対話だよ……マレット……」

「……でもシエナ……この行動を促したのは…あの艦長との出遇いだよね? 」

「……そうだね、リーア……でもアドルさんなら……やるよ……遅かれ早かれ…ね……」

「……! みんな! もう……終わるよ……今…確認しながら…修正も入れて……保存して……アップデートして……再起動! 」

 直後に灯りが総て消えて、システムが落ちる……が、3秒で再起動された。

 『ディファイアント』が艦体をブルブルっと震わせたが…直ぐに落ち着いた。

 全員が周りを見回して息を吐き……彼に視線を戻した。

 全画面を見渡して最終確認……そして画面を総て閉じる……リンクを解除して3Dモニターも消す……ヴァイザーをOFFにして頭から外し……床に置いて立った。

「……これで好い……これで……これで…今……奴が血迷って来ても……勝てる……ハイパー・モードで15分あれば……奴の後ろを奪って撃ち抜ける………!?……あ、……ああ……! 皆…来たのか……副長……暫くブリッジを頼む……集結ポイントに着いたら、長距離戦闘機3機で周辺を警戒させてくれ……グループ『A』3隻での、ダイレクト・インターリンク・ネットワークの確立も頼む……マッサージ・ルームで、フィオナにマッサージして貰うが……終わって戻るまでは君達に任せる……じゃあ、行って来る……」

 言い終えて歩き出す……フィオナは、5秒遅れて後に続いた。

 2人を見送って、キャプテン・シートに座るシエナ・ミュラー。

「……シエナ……さっきの独り言って……アドルさんの意識じゃないよね? 」

「……そうだね、ミーナ……シエン様の意識だったみたい…だね……」

「……大丈夫なのかな? アドルさん……」

「……大丈夫だよ、マレット……すごくテンションが上がっていたけど……今は緩やかに戻りつつあるし……落ち着いてはいるから……後はフィオナに任せれば……また元に戻るよ……」

 そう応えながらハンナは…マレットの左肩に左手を置いた。

「……カリーナ、1次集結ポイントまでは? 」

「……17分……ダイレクト・インターリンク・ネットワークの確立が可能になるまでは…40分……」

 ファースト・エクササイズ・トレーニング・デッキ……マッサージ・ルーム

 スイム・パンツだけでベッドにうつ伏せている私の上に、フィオナ・コアーがビキニの水着姿で跨り…マッサージを施している……別にこのくらいの恰好は問題にならないだろう……イチャイチャする訳でもない。

「……アドルさん……もう無茶な事はしないで下さい……」

「……無茶な事じゃないよ……あれをハイパー・モードでやったら……20分弱で出来たけど……見落としや間違いのリスクが……高いからね……それに……疲れ具合も……違う……多分ファースト・シーズンの中では……もうやらないよ……フィオナ……」

「……はい? 」

「……いや……何でもない……後で言うよ……」

 それから40分は、会話も無く施術を受けた……最後にはリハビリ動作確認のような、反復屈伸運動をさせられて終わった。

 シャワーを浴びて色々と洗い流して、服を着直す……ブリッジに戻ると…全員が立ち上がって、私を迎えた。

「……マレット……コーヒーを頼む……報告してくれ……」

「……1次集結ポイントに到着しました……ネットワークの確立も無事に終わりました……『マキシム・ゴーリキー』は、あと30分で……『レディ・ブランチャード』は、50分で到着します……」

「……グループ『A』各艦から発した長距離偵察機に連絡……集結ポイントを中心に半径第4戦闘距離を、3隻が合流するまで周回して警戒せよ……合流したら体勢を整える……『マキシム・ゴーリキー』を先鋒に……『レディ・ブランチャード』を右翼……本艦を左翼に置いた陣形で、2次集結ポイントに向けて発進する……ああ…ありがとう……」

 マレットからコーヒーを受け取った。

「……分かりました……そう伝えます……」

「……カリーナ……ざっと見渡して…特に遅れているように観える艦はあるか? 」

「……あり……ませんね……総てのグループが……これからの70分以内で、それぞれの1次集結ポイントにて集結・合流します……」

「……分かった……」

「……アドルさん……『サンドラス・ガーデン』にログインしなくなったのは…どんな心境の変化からなのでしょうか? 」

 ハンナ・ウェアーが顔を向けて訊く。

「……さあなあ……何故だろうな……『シエン・ジン・グン』を演じるのに……飽きがきていたってのは……確かにあっただろうな……」

「……女性参加者達からの…アプローチがすごかったからじゃあないんですか? 」

「……鋭いな、エドナ……確かにそれもあったよ……2度あったけど……女性だけのパーティーに強引に組み込まれてね……あの時には往生したな……」

「……リアルで逢いたいとか、言われましたか? 」

「……ヘザーも鋭いな……はっきり言って、女性だけのパーティーに組み込まれていた時は……それが多かったな……だから、嫌気が差して来ていたってのもある……実際の俺は…至って普通の男なのにな……」

「……シエン様の性格は…独身時代のアドルさんに近いですか? 」

「……そうだな、ローナ……近いだろうね……私自身は、もっとひょうきんだけどね……」

 言い終えるとコーヒーを飲み干して片付けるために立ったが…エレーナが直ぐに受け取って、持って行った。

「……艦長……規約を調べましたが…私達がゲームに参加中…アヴァターを使用する事についての言及は、ありませんでした……ですので…問題は無いかと思います……」

「……分かった…ありがとう、ハル参謀……これでこいつを戦術に組み込む事も可能になった訳だね……」

「……そうですね……」

「……シーズンとシーズンとのインターバルの間で…皆で『サンドラス・ガーデン』の中でもパーティーを組んだら…面白いだろうな……」

「……好いですね! 私やります! 『ガーデン』の中でなら馬に乗れますよね? 私…乗馬でも、トップスピード出します! 」

「……好いね……それじゃ先ず、エマと馬で競走しよう……」

「……うわ💛…楽しみです💛……」

「……アドルさん……『ガーデン』の中で…銃は使えるんでしょうか? 」

「……うん……火縄銃を自作した参加者がいたな……威力はまあまあだったが、命中率は酷かった……一応、材料や工具とかもあるし……作ろうと思えば造れる環境や設備を整える事も出来るが、かなり面倒臭いだろうな……だが腰を据えてやるなら、コルトのパターソン・モデルくらいなら造れるだろう……製造に於けるコツや要領が判ってきたら、シングル・アクション・アーミーの製造にもトライできると思うよ……その前に、弓矢や石弓…ボウガンなんかはどうだ? 」

「……ボウガンも面白いですね……本格的な銃器を造るよりも簡単に出来るでしょうけど……時間を貰えるなら、銃は私が作りますよ……材料・道具・工具があるなら…銃くらい、難しくないでしょう……」

「……さすがは、リーア・ミスタンテ機関部長……もうパーティーができあがるようだな(笑)……」

「……どうして勇者を選ばなかったんですか? 」

「……ナンバー・ワン……勇者はオールマイティーである事が求められる……でなければ、パーティーを長期間に亘ってまとめあげられない……今でも思うよ……俺は、チーム・リーダーとしての格には乏しい……だから…戦士と似たような立場でも役割でもある…魔法剣士を選んだ……」

「……それじゃ……どうしてこのゲームに応募したんですか? 」

「……そりゃあ、グラディス・クーパー君……誰だってさ……自分が当選するなんて、思いやしないだろ? 」

「……艦長……『マキシム・ゴーリキー』と『レディ・ブランチャード』が…間も無くセンサー・レンジに差し掛かります……」

「……分かった……アウリィ・グナディ艦長と…ヘラ・ヒルマー艦長に同時通話を要請してくれ……」

「……了解……」

 約20秒で2人の艦長がメイン・ビューワに映し出される……アウリィ・グナディ艦長は、初めて観た時と変わらない…少し薄いチョコレート色の肌……ハードなショート・カーリーの黒髪……そして初めて会った時と変わらない…いや、もっと白いか……完璧に真っ白なスリー・ピース・スーツと言ういでたちで、立っていた。

 ヘラ・ヒルマー艦長は、ライト・グリーン・ブラウンのショート・ボリューム・ボブ・ヘアーで……前髪を少し上げ気味にセットしている……ゆるふわなセットが優しさ…暖かさ…人当たりの良さを強調している。

「……アウリィ艦長…ヘラ艦長……ようやくこのフィールドの中でお会い出来ました……共に舳先を並べる事ができて好かったです……お元気そうで安心しました……集結ポイントにて合流できましたら、各偵察機を帰艦させて下さい……その上で体制と陣形を整え、2次集結ポイントに向けて発進します……詳しい内容はこちらの副長からそちらの副長にむけて説明します……今日の夕食休憩時間までには、何とか全艦での集結が図れればと思います……何か…ございますか? 」

「……相変わらず、落ち着いた感じで宜しいですわね、アドル主宰……ちょっとした騒動があったようですが、大丈夫ですか? 」

「……ありがとうございます……お騒がせしましたようで、申し訳ありません……問題は…鎮静化しましたので、ご安心下さい……」

「……アドル主宰……このグループ『A』が最初に集結したのですか? 」

「……その通りです…ヘラ艦長……それでは何かありましたら、またご連絡しますので…そちらでも何かありましたら、連絡を下さい……今日と明日の2日間ですが…改めて宜しくお願いします……アドル・エルクより、以上……」

 取り敢えずの挨拶は終えた。

「……ナンバー・ワン……合流したら詳細な説明を向こうの副長に送信してくれ……」

「……分かりました……」

「……カリーナ、あとどのくらいだ? 」

「……20分少々ですね……」

「……コンピューター…現在の状況を総合的に分析して、2次集結ポイントに最初に到達するグループ……次に到達するグループ……3番目に到達するグループを割り出せ……」

【…スタンバイ………『H』…『E』…『D』…の順番です……】

「……そうか……副長……グループ『H』・『E』・『D』の…各リーダーに、私の名前で通達……2次集結ポイントに到着したら、直ちに大質量誘導弾の作成を開始せよ……本艦に存在する総ての作成データをコピーして添えてくれ……」

「……了解しました……」

「……副長……暫くブリッジを頼む……カウンセラー……ちょっと来てくれ……」

 そう言って立ち上がり、歩き出す。

 控室に入ってソファーに座る……ハンナは…30cm離れて座った。

「……ハンナ……俺の弱点だ……だいぶマズい……」

「……どう言う事ですか? 」

「……待たなきゃならない時に待てない……少しでも時間が空くと、直ぐに気が急いて来る……具体的な何かの為……具体的な誰かの為になら、待てるのかも知れないが……自分の為には待てない……今も……まだ出さなくても好いような指示を出した……これを逆手に取られると、かなりマズい……どうしたら良い? 」

「……そう…ですね……アドルさん……私の部屋でカウンセリングしましょう……落ち着きますよ……」

「………そう…だな……じゃあ……行こうか……」

 先に控室から出たハンナが、シエナに声を掛ける。

「……副長…私の部屋で、艦長にカウンセリングを実施します……ので…また暫くお願いします……」

「……そう……了解しました……宜しくお願いします…カウンセラー……」

 ハンナ・ウェアーの自室で、彼女と向かい合って座っている……ブリッジから出て10分後だ……カップを取り上げて口を付ければ……ホット・バター・ミルクが旨い。

「……アドルさん……症例としては、強迫性衝動障害に類別されるものですが……まだごくごく軽い症状です……私は心理学者であって精神科医ではないので…処方箋は書けませんが…信頼できる精神科医は紹介できます……ですが、私は貴方に薬を飲んで欲しくありません……貴方の今の症状レベルなら……薬を飲むよりも、想い合っている異性と……親密な時間を暫く過ごす方が…遥かに効果的です……」

「……ハンナ……このままここで君と一緒に居るのと…医療部でドクターの診察を受けるのとでは……どっちが適正なんだろうな? 言って置くが、私はこの艦内で女性とセックスはしない……個人的にも、立場としてもだ……」

「……解っています……そこまで言うつもりはありませんし…そんな事までする必要もありません……ただ…想い合う相手と……キスをしながら…抱き合って…暫く…ゆっくり寝ているだけで…効果は絶大です……ドクターの診察を受けられても結構ですが……その場合は、薬を出されて終わりでしょう……現在『ディファイアント』に精神科医はいないので……話し合いにもなりません……」

「……医療部での対応とドクターについては……そうなのかも知れないが……君の言う治療法は……君の願望だろう? 」

「……いいえ…私の本当の希望・願望・欲望は、貴方とのセックスです……ですから…これだけでは全く足りません……ですが今回、そこまでの必要はありません……この場合に…そこまでしてしまうと、却っていき過ぎて逆効果になってしまいます……」

「……分かったよ…ハンナ……これが少しでも治ると言うか…収まってくれれば好い……どうしたら好い? 」

「……寝室に入りましょう……」

 私達は来客用の寝室で上着だけを脱ぎ…抱き合ってキスしながら…ベッドに横たわって、毛布を掛けている……お互いにゆっくりと動いているのは口と舌だけで……腕も手も脚も動いていない……キツくなく、優しく抱き合っているだけだ……アラーム・タイマーは取り敢えず、40分でセットしていた……眠らないつもりだったが、眠っていた……アラーム3回で目覚める……眠りながら接吻していた……心はとても落ち着いていて…焦燥感は微塵も無い……心の底から…ハンナ・ウェアーを愛しいと思った……彼女は目覚めなかった……起こさないように抜け出し…顔を洗って服を着て身なりを整える……最後にハンナの左頬にキスをして、彼女の部屋を出た。

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