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視廻り旅・4ヶ月目・
村長さんと若衆
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夜が明けて二時で目が覚めた…サリエナを揺すり起こしてから厨房に入り、挨拶をして顔を洗わせて貰った…薪を割らせて欲しいと頼んで、一時の間斧を振るう…井戸水で汗を流させて貰って服を着直し、部屋に戻ったがサリエナがいない…観ると中庭で型稽古を始めていたので、俺も中庭に出た。
俺とサリエナでは使う剣が違うから、当然基本の型も違う…基本の型が違うから型稽古も違うんだが、動きの調子はどの型でも同じだ。
15~20の型を流れの中でキメていき、そのひとくくりを3回繰り返して普通は終わる…が、今朝の俺達は調子が好かったので4回目まで…総てキメて終えた。
中に戻ろうとしたら、中居の姐さんからよく乾いた布を貰った…好い香りのする布で、汗を拭くのが気持ち好かった。
部屋に戻ると、もう朝飯が用意されていた…それが朝からすごく豪華な料理が並べられていて…観た事は勿論、食べ方さえ判らない料理が3品あった。
さっき布を渡してくれた中居の姐さんが、熱々の飯と汁物をよそってくれる。
「…さあさ、たくさん食べて…今日も頑張ってな! 」
「…お姐さん、俺達はこんなに食わなくても大丈夫だからさ…次からはこの半分くらいで良いよ…」
「…なに言ってるんだい! しっかり食べて、元気出していかなきゃいけないよ! 」
「…それは分かってるって、お姐さん…」
お姐さんに肩と背中をバシバシ叩かれて食卓に着く…食べ方を教わったんで、そっちから箸を著ける…美味い! 初めて食った…こんな美味いものがあるのか…食べ物で感動したのはいつ振りだろう…
「…シエン…あんた…こんなにすごいご馳走を振る舞ってくれるのは…村の人達がアタシらをものすごく頼りにしてるって事だよ…アタシ…ちょっと怖い…」
「…分かってらあ、そんな事ァ…えいくそ! すげぇ美味くて身震いしやがるぜ…」
見栄を切ってパクパクと食べ、汁物も頂く。
「…サリエナ…絶対に俺達で魔物どもは始末しような…」
「…ああ…分かってる…」
結局全部は食べ切れなかったんで、丁寧に集めて、しっかりと密閉して保存して貰い、後で温め直して食べさせて貰うことにした…村長さんの家へは、朝イチで若衆が報せに行ってくれたって話だ…俺達もそろそろ行こうって事で、出掛ける支度を終える。
ここの村長さんを先に訪ねる事にして一緒に走り…直ぐに着いた。
村長さんと奥さんと若衆の何人かに、必要な物と段取りと始めてから終わり迄の流れを細かく詳しく伝えて、協力を頼んだ。
少し考えて、出来るだけの事はすると約束してくれる…隣村の村長にも頼みに行くと言ったら、手紙を書くから少し待ってくれと言われて、そのまま待つ。
水を一杯だけ貰い、飲み終わる頃合いで手紙を預かって、その場を後にする。
隣村の村長さん宅まで、縮地走術で半刻だった。
隣村の村長さんにも全く同じに説明して協力を求めると、快く応じてくれた。
流石にホッとする…これでやり遂げられる道が観えてきた…旅籠に戻って夜を待つからと伝えたら、戻らないでウチで待てと言われ、別の部屋に通された。
ふたり一緒に剣の手入れをして瞑想に入る…勿論、彷徨いている魔物はいないが、魔口の気配はまだまだ大きい。
結局、もう戻ると告げて外に出た…泉の滸の寝ぐらを片付けて馬のパルドを旅籠に連れて行く必要がある…最高速の縮地走術で走り、半時で泉に着く…一声鳴いて迎えたパルドの世話を焼いてから寝ぐらを片付けて荷物をまとめ、お互いの身に着けたりパルドの背にも積んだ。
旅籠に戻り、中庭の木にパルドを繋ぐ…迎えた若衆にパルドの世話を頼んだ。
「…サリエナ…日が沈む迄に魔口の近くにまで行って、待ち伏せしようか?」
「…やってみようか…まだそれはやってないから…」
お姐さん達の使う香料を少しと…乾いた布と、布の紐を若衆に頼んだ。
持って来てくれたんで、香料を馴染ませた布に紐を通して適当な大きさに切り、口と鼻を守る目出しの覆面にした。
「…ありがとう…夜が明ける前には戻るよ…裏口で合図するから開けてくれ…」
頷く若衆に手を挙げて、外に出る。
「…サリエナ…あれだけの魔口で、俺にも魔族の気配が読めない…どう思う?」
「…そうだね…3体の魔族が居てもおかしくない、魔口の大きさだからね…」
「…俺もお前も魔族は観た事もねぇ…お師さんや叔父師は…それぞれ2.3体の魔族と戦って、勝ってる…話も聴いたが、魔族は魔物よりもはるかに悪賢い…永く生きてるし、俺達のやる魔物退治や魔口潰しのやり方もよく知ってるって聴いた…俺達の段取りも充分予想していて、罠を張ってるのかも知れねぇ…それを確かめる為にも、今夜俺達が魔口の近くに迄行くのは好いかも知れねぇな…行くか? 」
「…行くよ…ふたりだったら、大丈夫だろ? 」
「…気を付けろ…お互いに離れないようにな? 」
「…ああ…」
「…よし、行こう…」
口と鼻を手造りの目出し覆面で覆ってから、ふたり一緒に縮地走術で走り出し、魔口を目指す…まだ日は高い…当然ながら魔物は彷徨いていない…着いたふたりはゆっくりと魔口を左回りに回り込みながら、周辺の地形を丹念に観て頭に入れていく。
地形を観て頭に入れて行きながら、按配の好い場所に罠を仕掛ける。
6ヶ所に罠を仕掛けた俺達は、それぞれに名前を付けて頭に入れる。
魔口の赤い岩肌を晒す小山を5回周って、程近いなだらかな丘に立つ。
「…日の入り迄は? 」
「…三時ってところかな…」
「…力水…飲むかい? 」
「…ああ、ありがとな…」
お互いに飲んで、一息ついた…その時…
「…サリエナ、気を付けろ! 」
「…えっ! 」
弾かれたように俺は右側を、サリエナは左側に身体を向ける。
俺の目の前で青紫の陽炎が…サリエナの前で赤紫の陽炎が立ち昇り、人の様な姿を採ったが…貴族の様な衣装を着た…勿論、魔族だ。
「…初めまして…道騎士だね? 随分若いな…失礼…私はリドル・アコス…向こうに立ったのが、ラミア・レノス…解るだろうが魔族だよ…君達にこれ以上やらせる訳にもいかないんでね…ここで退場して貰う…」
聞きながら剣を抜く。
「…サリエナ、脚捌きをよく観ろ。速いぞ! 」
「…分かった! 」
俺とサリエナでは使う剣が違うから、当然基本の型も違う…基本の型が違うから型稽古も違うんだが、動きの調子はどの型でも同じだ。
15~20の型を流れの中でキメていき、そのひとくくりを3回繰り返して普通は終わる…が、今朝の俺達は調子が好かったので4回目まで…総てキメて終えた。
中に戻ろうとしたら、中居の姐さんからよく乾いた布を貰った…好い香りのする布で、汗を拭くのが気持ち好かった。
部屋に戻ると、もう朝飯が用意されていた…それが朝からすごく豪華な料理が並べられていて…観た事は勿論、食べ方さえ判らない料理が3品あった。
さっき布を渡してくれた中居の姐さんが、熱々の飯と汁物をよそってくれる。
「…さあさ、たくさん食べて…今日も頑張ってな! 」
「…お姐さん、俺達はこんなに食わなくても大丈夫だからさ…次からはこの半分くらいで良いよ…」
「…なに言ってるんだい! しっかり食べて、元気出していかなきゃいけないよ! 」
「…それは分かってるって、お姐さん…」
お姐さんに肩と背中をバシバシ叩かれて食卓に着く…食べ方を教わったんで、そっちから箸を著ける…美味い! 初めて食った…こんな美味いものがあるのか…食べ物で感動したのはいつ振りだろう…
「…シエン…あんた…こんなにすごいご馳走を振る舞ってくれるのは…村の人達がアタシらをものすごく頼りにしてるって事だよ…アタシ…ちょっと怖い…」
「…分かってらあ、そんな事ァ…えいくそ! すげぇ美味くて身震いしやがるぜ…」
見栄を切ってパクパクと食べ、汁物も頂く。
「…サリエナ…絶対に俺達で魔物どもは始末しような…」
「…ああ…分かってる…」
結局全部は食べ切れなかったんで、丁寧に集めて、しっかりと密閉して保存して貰い、後で温め直して食べさせて貰うことにした…村長さんの家へは、朝イチで若衆が報せに行ってくれたって話だ…俺達もそろそろ行こうって事で、出掛ける支度を終える。
ここの村長さんを先に訪ねる事にして一緒に走り…直ぐに着いた。
村長さんと奥さんと若衆の何人かに、必要な物と段取りと始めてから終わり迄の流れを細かく詳しく伝えて、協力を頼んだ。
少し考えて、出来るだけの事はすると約束してくれる…隣村の村長にも頼みに行くと言ったら、手紙を書くから少し待ってくれと言われて、そのまま待つ。
水を一杯だけ貰い、飲み終わる頃合いで手紙を預かって、その場を後にする。
隣村の村長さん宅まで、縮地走術で半刻だった。
隣村の村長さんにも全く同じに説明して協力を求めると、快く応じてくれた。
流石にホッとする…これでやり遂げられる道が観えてきた…旅籠に戻って夜を待つからと伝えたら、戻らないでウチで待てと言われ、別の部屋に通された。
ふたり一緒に剣の手入れをして瞑想に入る…勿論、彷徨いている魔物はいないが、魔口の気配はまだまだ大きい。
結局、もう戻ると告げて外に出た…泉の滸の寝ぐらを片付けて馬のパルドを旅籠に連れて行く必要がある…最高速の縮地走術で走り、半時で泉に着く…一声鳴いて迎えたパルドの世話を焼いてから寝ぐらを片付けて荷物をまとめ、お互いの身に着けたりパルドの背にも積んだ。
旅籠に戻り、中庭の木にパルドを繋ぐ…迎えた若衆にパルドの世話を頼んだ。
「…サリエナ…日が沈む迄に魔口の近くにまで行って、待ち伏せしようか?」
「…やってみようか…まだそれはやってないから…」
お姐さん達の使う香料を少しと…乾いた布と、布の紐を若衆に頼んだ。
持って来てくれたんで、香料を馴染ませた布に紐を通して適当な大きさに切り、口と鼻を守る目出しの覆面にした。
「…ありがとう…夜が明ける前には戻るよ…裏口で合図するから開けてくれ…」
頷く若衆に手を挙げて、外に出る。
「…サリエナ…あれだけの魔口で、俺にも魔族の気配が読めない…どう思う?」
「…そうだね…3体の魔族が居てもおかしくない、魔口の大きさだからね…」
「…俺もお前も魔族は観た事もねぇ…お師さんや叔父師は…それぞれ2.3体の魔族と戦って、勝ってる…話も聴いたが、魔族は魔物よりもはるかに悪賢い…永く生きてるし、俺達のやる魔物退治や魔口潰しのやり方もよく知ってるって聴いた…俺達の段取りも充分予想していて、罠を張ってるのかも知れねぇ…それを確かめる為にも、今夜俺達が魔口の近くに迄行くのは好いかも知れねぇな…行くか? 」
「…行くよ…ふたりだったら、大丈夫だろ? 」
「…気を付けろ…お互いに離れないようにな? 」
「…ああ…」
「…よし、行こう…」
口と鼻を手造りの目出し覆面で覆ってから、ふたり一緒に縮地走術で走り出し、魔口を目指す…まだ日は高い…当然ながら魔物は彷徨いていない…着いたふたりはゆっくりと魔口を左回りに回り込みながら、周辺の地形を丹念に観て頭に入れていく。
地形を観て頭に入れて行きながら、按配の好い場所に罠を仕掛ける。
6ヶ所に罠を仕掛けた俺達は、それぞれに名前を付けて頭に入れる。
魔口の赤い岩肌を晒す小山を5回周って、程近いなだらかな丘に立つ。
「…日の入り迄は? 」
「…三時ってところかな…」
「…力水…飲むかい? 」
「…ああ、ありがとな…」
お互いに飲んで、一息ついた…その時…
「…サリエナ、気を付けろ! 」
「…えっ! 」
弾かれたように俺は右側を、サリエナは左側に身体を向ける。
俺の目の前で青紫の陽炎が…サリエナの前で赤紫の陽炎が立ち昇り、人の様な姿を採ったが…貴族の様な衣装を着た…勿論、魔族だ。
「…初めまして…道騎士だね? 随分若いな…失礼…私はリドル・アコス…向こうに立ったのが、ラミア・レノス…解るだろうが魔族だよ…君達にこれ以上やらせる訳にもいかないんでね…ここで退場して貰う…」
聞きながら剣を抜く。
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