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視廻り旅・4ヶ月目・
罠作りと魔口潰しの準備
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日が昇って三時で目が覚めた……これが修行中だったらお師さんにどやされたかも知れねえ……昨日は夜も派手に動き廻ったからな……ゆっくり起きて…注意深く頸を廻す……何ともない…肩を廻す……大丈夫…肘を確かめて…手首を廻す……立ち上がって、腰を廻す……屈伸して膝と足首を確かめる……そのまま主要な筋肉を改めて解す……大丈夫だな…どこも痛めちゃいないらしい……洗濯した服はまだ乾いてないから、打掛・下穿きに傍に置かれていた作務衣を着た。
サリエナの様子を観る……息遣いは落ち着いているし、血色も好い……熱もない……腹が減れば目醒めるだろうからそれまでは寝かせてやろう。
控え目に声が掛かって旅籠の女将さんと、お姐さんが入って来た……包帯に傷薬に水差しに換えの綺麗な布を持っている。
「…どんな様子だい? 」
「…昨夜と変わらないようだね……」
そのままサリエナの傍に座り、優しく包帯を解いていく。
「……ウッ……」
軽い痛みで目醒めたようだ。
「…おはようね……ごめんね……ちょっと…起き上がれるかい? 」
小さく声を上げて自分で上体を起こす。
「……ごめんね…すぐ済むからね……」
手早く包帯を解いて綿を外す……まだ傷周りは少し腫れているようだが、膿んではいない……新しい綿を水で濡らして傷と廻りを注意深く優しく拭いて傷薬を少し塗り付け、別の綿を被せて新しい包帯を巻く……首から腕を吊るす事はしなかった……粉の飲み薬をサリエナの口に含ませて、水差しから水を飲ませる……終わったのでまた寝かせ、熱は無いが固く絞った手拭いを額に乗せた。
「……もう少し眠った方が良いよ……三刻したらまた観に来るから、お腹が空いてるようなら言ってな……」
サリエナは頷いてまた目を閉じる。
「……大丈夫だね……明日には、動けるようになるよ……アンタはどうだい? 腹が減ってるなら、持って来させるけど? 」
「…ありがとう…その前に炊事場の隅をちょっと貸して? 剣の手入れをして砥ぎたいから……」
「…それは良いよ…自由に使っておくれ……場所は分かるね? 」
「…分かります…」
「…剣を砥いでいるところを、何人かの若い衆に観させても良いかい? 」
「…良いですよ…」
「…分かった…いつでも良いよ……」
「…じゃあ、今すぐ行きます……」
そう言って、4本の剣を両手で持つ。
お姐さんに案内されて炊事場に入る……若い男衆が5人紹介されて、廻りから観るって事になった……水桶と2種類の砥石を貸して貰って、剣の手入れから始める。
落とせる血糊を丁寧に洗い落としてから砥ぎに入る。
荒砥ぎに半刻……仕上げ砥ぎに一刻を掛けて仕上げた。
よく水気を拭き取って、手持ちの磨き油を塗って拭き揚げる……目でよく刃を観てから鞘に納めた……気が抜けたのか、大きく腹が鳴った……礼を言って砥石と水桶を返す……若衆が知らせてくれたのか、部屋に戻ると朝飯が用意されていた。
お姐さんが最後に、飯と汁物をよそってくれた……今朝の朝飯も、ものすごく豪華な食事だ……サリエナが元気だったら、一緒に食いたいな。
「…ありがとう…頂きます……」
「…たんと食べておくれよ……今日は何をするんだい? 」
「…そうだね……魔口潰しの準備で、打合せをしながら魔口の周りに罠を仕掛けるよ……それで夜には、また魔物狩りだな……」
「…そうかい…気を付けて行くんだよ……飯を食いには、寄るんだろ? 」
「……うん…日が落ちる前に、ちょっと寄るよ……また、この娘の世話も…頼むね……」
「…任しておきなって……無理するんじゃないよ……じゃあね……」
「…そう言ってお姐さんは、笑顔を見せて出て行った……」
観廻りの旅に出て……魔物退治も魔口潰しもまだまだこれからなんだが……結構満ち足りたような気分で時間を過ごせているよな……いや…危ねえ危ねえ……こんな事、カインお師さんの前で言おうもんなら、右拳の一発で俺なんか壁をブチ抜くだろうな……おい、気を弛めるんじゃねえぞ、シエン……サリエナが居てくれたから、あの魔族2匹も斃せた……俺ひとりだったら…多分、やられてただろうな……
それにしても美味い! これを今、サリエナに食わせてやれないのが惜しい……トンクラの焼肉は3枚で……俺は噂で聞いただけだが…これは多分、トンクラの中でも一番旨くて珍しい部位の肉だ……ガルダロ芋の蒸し潰しと色んな葉物野菜を合わせたサラダ……初めての味付けだが、これも美味い……汁物に入っているのは、初めて観る2枚貝だ…大きくて美味い……キケロの卵2個と、干物肉を併せた焼き物も美味かった……飯も汁物もお代わりして、たらふく食った……これじゃ直ぐには縮地走術で走れねえかも知れねえ……薪割り・薪木割りでも手伝って、腹ごなしするか……
「…ご馳走様…」
厨房に顔を出して若い衆らに礼を言い、裏で一刻半程薪割りをしてから井戸水を浴びて身体を冷やした。
部屋に戻り、もう乾いている服を下ろして着替える……色々と締め込むと、気持ちも引き締まってくる。
サリエナは、まだ眠っている。
「…しっかり養生しろよ……」
顔色を確認してそう言い置き、自分の剣を腰の左に差して部屋を出た。
この村の村長宅まで縮地走術で走り、扉を叩いて案内を請う。
応対に出てくれた若衆の案内で村長と奥さんにも面会して、先ず昨夜の顛末を説明した……二人ともかなり驚いていたが、喜んでもくれた……この近くで魔族が退治されたのは20年以上前だったとも聞かされた……奥さんが若衆に言って、傷の塗り薬・飲み薬…包帯に綺麗な布や紐などを袋に入れて持たせてくれた……次に魔口潰しを仕掛ける為に、必要な物の準備がどれだけ出来ているのかを、聴き取って確認した。
まあ…着々とは進んでいるようだ……それらに加えて、腕の立つ弓射手を30人揃えて欲しいと頼んだ。
「…う~ん……揃えられるとは思うが…時間が掛かるな……隣村の村長の所にも行くんだろう? 」
「……ええ、次に行きます……」
「…それなら、そこでも頼んでみると好い……両方で周りに声を掛ければ…その分、早く揃うだろう……」
「…分かりました…向こうでも頼んでみます……」
最後に奥さんに訊かれた。
「……差し当たって今…有れば嬉しいものは…あるかい? 」
「…もう一頭…好い馬がいれば有り難いです……サリエナが乗って来た馬がいますけど……一頭だけだと、ちょっと動き難いんで……」
「…分かった…知り合いに訊いてみるよ……」
「…ありがとうございます……」
暇乞いの時に、力水とパルギの材料を貰った……素直に有り難いと思った。
扉を開けて貰って、外に出る……左手を挙げて挨拶してから走り出し、直ぐに縮地走に入る。
半刻で隣村村長の家に着く……同じように案内を請い、村長夫妻と面会した。
ここでも先ず、昨夜の顛末について説明した。
村長夫妻は同じように驚いたが、喜んでもくれる……サリエナが斬られて養生している事については、かなり心配して貰った。
新鮮な食材を、後で旅籠に届けようとも言ってくれた。
この村長さんにも、準備と用意を依頼した事物についての進捗を確認する為に、話を聞いて確認したが…その進み具合は先程に隣村の村長さんから聞いた状況と同じくらいだった。
ここの村長さんにも、腕の立つ弓射手を30人揃えて欲しいと頼んだ。
早速、幅広く声を掛けようと言って貰えた。
続いて大きい荷車については、買おうともしているし、借りようともしているし、こちらで造ってもいるので、かなりの台数を用意できるだろうとも言って貰えた。
「…何か、今あれば…便利だとか、助かるものは…あるかい? 」
こちらの奥さんからも訊かれたんで、ひとつ要望を伝えた。
「…丈夫で力が強くて気立の良いロバがいれば助かりますね……これからは、荷物も増えると思うんで……」
「…分かったよ……探してみるね……」
「…お願いします……」
「…薬とかは、足りているのかい? 」
「…それは今のところ、大丈夫です……」
「…そうかい…」
「…魔族が退治されたんで…魔物ども…彷徨き回って騒ぎ立てるだろうな……」
「…ええ…だから、奴らの数を減らすには…都合が良い時期なんです……今夜も30匹ちょっとは斃します……」
「…気を付けてな……ああ、剣の手入れをするのに要るだろうから…荒砥と中砥と細砥を持って行きなさい……」
「…ありがとうございます……あと…もし在ったら…磨き油も貰えると、有り難いです……」
「…ああ、それも用意させるよ……」
「…ありがとうございます……」
あまり長居して話していると色々と品物を持たされそうなので、失礼することにした。
貰った3個の砥石と磨き油の瓶を布に包んで肩に背負い、村長夫妻と若衆達にも挨拶して村長宅を辞した。
魔口の周りでもっと罠を仕掛けたいんだが、荷物があるからどうするか……まあ、鍛錬だと思えば良いか……
思い直し、縮地走で魔口の近くまで行く…まだ日は高い……荷物を傍の木に括り付け、旅籠で借りて来た大きさの違う3本の鉈を器用に使って、要所に罠を仕掛けていく……八つ仕掛けたところでひとまず止めた……そろそろ旅籠に帰って飯を食い、今夜に備えて休んだ方が良い……サリエナも心配だしな。
鉈の手入れをして腰に差し、荷物を背負って旅籠に戻る……ご主人と女将さんに事の経緯を話してから、また鉈の手入れをして返す……部屋に戻るとサリエナは起きて飯を食っていた。
「…具合はどうだ? 」
「…良いね……動かせばちょっと痛むけど、腫れは退いたよ……」
「…そうか……」
「…そっちは? 」
「…ああ…村長さん宅を廻って…話をして、進み具合も訊いて…打ち合わせもして来た……準備は順調に進んでる……皆さん、お前の事を心配していたぞ……今夜も俺ひとりで行くから休んでろ……奴ら今夜も騒ぎ立てるだろうから、結構楽に数を減らせるだろう……動けるようなら、ちょっと型稽古をしても良いんじゃないか……」
「……そうだね……やれるようなら、やってみるよ……」
「…飯、美味いだろ? 」
「……美味い……こんなの、食ったことない……」
「…そうだろ…土産話にゃ、なるな……俺も飯を貰って内観したら、寝るよ……そんで黄昏時に出る……」
「…ああ……起こしてやるよ……」
「…それも若衆に頼むからお前は寝てろ……型稽古は明日で良いから……」
「…分かったよ……」
そう言って食べ終えたサリエナは、白湯を飲んでから丁寧に口を拭って寝た……殆ど残さずに食べた食膳を厨房に返し、代わりに俺の飯を貰って戻る。
もう寝息を立てているサリエナの寝顔を観ながら食べ終える。
お椀を厨房に返して戻り、座り直して内観に入る……まだ外側に奴らの気配はない……自分の中心に意識を戻して集中を続ける……一刻で切り上げた。
敷布団だけ敷いて横になる……直ぐに眠った……二半刻で娘の若衆から声が掛かって起きた……もうすぐ黄昏時で、好い頃合いだ……腰周りの品物を確かめてケープをまとい、サリエナの剣も腰の左に差す……これでかなりできるだろう……寝ているサリエナを見遣り、廊下の若衆に後を頼んで外に出た……40匹始末できれば、後が楽だな……縮地走術で走り出そうとした。
サリエナの様子を観る……息遣いは落ち着いているし、血色も好い……熱もない……腹が減れば目醒めるだろうからそれまでは寝かせてやろう。
控え目に声が掛かって旅籠の女将さんと、お姐さんが入って来た……包帯に傷薬に水差しに換えの綺麗な布を持っている。
「…どんな様子だい? 」
「…昨夜と変わらないようだね……」
そのままサリエナの傍に座り、優しく包帯を解いていく。
「……ウッ……」
軽い痛みで目醒めたようだ。
「…おはようね……ごめんね……ちょっと…起き上がれるかい? 」
小さく声を上げて自分で上体を起こす。
「……ごめんね…すぐ済むからね……」
手早く包帯を解いて綿を外す……まだ傷周りは少し腫れているようだが、膿んではいない……新しい綿を水で濡らして傷と廻りを注意深く優しく拭いて傷薬を少し塗り付け、別の綿を被せて新しい包帯を巻く……首から腕を吊るす事はしなかった……粉の飲み薬をサリエナの口に含ませて、水差しから水を飲ませる……終わったのでまた寝かせ、熱は無いが固く絞った手拭いを額に乗せた。
「……もう少し眠った方が良いよ……三刻したらまた観に来るから、お腹が空いてるようなら言ってな……」
サリエナは頷いてまた目を閉じる。
「……大丈夫だね……明日には、動けるようになるよ……アンタはどうだい? 腹が減ってるなら、持って来させるけど? 」
「…ありがとう…その前に炊事場の隅をちょっと貸して? 剣の手入れをして砥ぎたいから……」
「…それは良いよ…自由に使っておくれ……場所は分かるね? 」
「…分かります…」
「…剣を砥いでいるところを、何人かの若い衆に観させても良いかい? 」
「…良いですよ…」
「…分かった…いつでも良いよ……」
「…じゃあ、今すぐ行きます……」
そう言って、4本の剣を両手で持つ。
お姐さんに案内されて炊事場に入る……若い男衆が5人紹介されて、廻りから観るって事になった……水桶と2種類の砥石を貸して貰って、剣の手入れから始める。
落とせる血糊を丁寧に洗い落としてから砥ぎに入る。
荒砥ぎに半刻……仕上げ砥ぎに一刻を掛けて仕上げた。
よく水気を拭き取って、手持ちの磨き油を塗って拭き揚げる……目でよく刃を観てから鞘に納めた……気が抜けたのか、大きく腹が鳴った……礼を言って砥石と水桶を返す……若衆が知らせてくれたのか、部屋に戻ると朝飯が用意されていた。
お姐さんが最後に、飯と汁物をよそってくれた……今朝の朝飯も、ものすごく豪華な食事だ……サリエナが元気だったら、一緒に食いたいな。
「…ありがとう…頂きます……」
「…たんと食べておくれよ……今日は何をするんだい? 」
「…そうだね……魔口潰しの準備で、打合せをしながら魔口の周りに罠を仕掛けるよ……それで夜には、また魔物狩りだな……」
「…そうかい…気を付けて行くんだよ……飯を食いには、寄るんだろ? 」
「……うん…日が落ちる前に、ちょっと寄るよ……また、この娘の世話も…頼むね……」
「…任しておきなって……無理するんじゃないよ……じゃあね……」
「…そう言ってお姐さんは、笑顔を見せて出て行った……」
観廻りの旅に出て……魔物退治も魔口潰しもまだまだこれからなんだが……結構満ち足りたような気分で時間を過ごせているよな……いや…危ねえ危ねえ……こんな事、カインお師さんの前で言おうもんなら、右拳の一発で俺なんか壁をブチ抜くだろうな……おい、気を弛めるんじゃねえぞ、シエン……サリエナが居てくれたから、あの魔族2匹も斃せた……俺ひとりだったら…多分、やられてただろうな……
それにしても美味い! これを今、サリエナに食わせてやれないのが惜しい……トンクラの焼肉は3枚で……俺は噂で聞いただけだが…これは多分、トンクラの中でも一番旨くて珍しい部位の肉だ……ガルダロ芋の蒸し潰しと色んな葉物野菜を合わせたサラダ……初めての味付けだが、これも美味い……汁物に入っているのは、初めて観る2枚貝だ…大きくて美味い……キケロの卵2個と、干物肉を併せた焼き物も美味かった……飯も汁物もお代わりして、たらふく食った……これじゃ直ぐには縮地走術で走れねえかも知れねえ……薪割り・薪木割りでも手伝って、腹ごなしするか……
「…ご馳走様…」
厨房に顔を出して若い衆らに礼を言い、裏で一刻半程薪割りをしてから井戸水を浴びて身体を冷やした。
部屋に戻り、もう乾いている服を下ろして着替える……色々と締め込むと、気持ちも引き締まってくる。
サリエナは、まだ眠っている。
「…しっかり養生しろよ……」
顔色を確認してそう言い置き、自分の剣を腰の左に差して部屋を出た。
この村の村長宅まで縮地走術で走り、扉を叩いて案内を請う。
応対に出てくれた若衆の案内で村長と奥さんにも面会して、先ず昨夜の顛末を説明した……二人ともかなり驚いていたが、喜んでもくれた……この近くで魔族が退治されたのは20年以上前だったとも聞かされた……奥さんが若衆に言って、傷の塗り薬・飲み薬…包帯に綺麗な布や紐などを袋に入れて持たせてくれた……次に魔口潰しを仕掛ける為に、必要な物の準備がどれだけ出来ているのかを、聴き取って確認した。
まあ…着々とは進んでいるようだ……それらに加えて、腕の立つ弓射手を30人揃えて欲しいと頼んだ。
「…う~ん……揃えられるとは思うが…時間が掛かるな……隣村の村長の所にも行くんだろう? 」
「……ええ、次に行きます……」
「…それなら、そこでも頼んでみると好い……両方で周りに声を掛ければ…その分、早く揃うだろう……」
「…分かりました…向こうでも頼んでみます……」
最後に奥さんに訊かれた。
「……差し当たって今…有れば嬉しいものは…あるかい? 」
「…もう一頭…好い馬がいれば有り難いです……サリエナが乗って来た馬がいますけど……一頭だけだと、ちょっと動き難いんで……」
「…分かった…知り合いに訊いてみるよ……」
「…ありがとうございます……」
暇乞いの時に、力水とパルギの材料を貰った……素直に有り難いと思った。
扉を開けて貰って、外に出る……左手を挙げて挨拶してから走り出し、直ぐに縮地走に入る。
半刻で隣村村長の家に着く……同じように案内を請い、村長夫妻と面会した。
ここでも先ず、昨夜の顛末について説明した。
村長夫妻は同じように驚いたが、喜んでもくれる……サリエナが斬られて養生している事については、かなり心配して貰った。
新鮮な食材を、後で旅籠に届けようとも言ってくれた。
この村長さんにも、準備と用意を依頼した事物についての進捗を確認する為に、話を聞いて確認したが…その進み具合は先程に隣村の村長さんから聞いた状況と同じくらいだった。
ここの村長さんにも、腕の立つ弓射手を30人揃えて欲しいと頼んだ。
早速、幅広く声を掛けようと言って貰えた。
続いて大きい荷車については、買おうともしているし、借りようともしているし、こちらで造ってもいるので、かなりの台数を用意できるだろうとも言って貰えた。
「…何か、今あれば…便利だとか、助かるものは…あるかい? 」
こちらの奥さんからも訊かれたんで、ひとつ要望を伝えた。
「…丈夫で力が強くて気立の良いロバがいれば助かりますね……これからは、荷物も増えると思うんで……」
「…分かったよ……探してみるね……」
「…お願いします……」
「…薬とかは、足りているのかい? 」
「…それは今のところ、大丈夫です……」
「…そうかい…」
「…魔族が退治されたんで…魔物ども…彷徨き回って騒ぎ立てるだろうな……」
「…ええ…だから、奴らの数を減らすには…都合が良い時期なんです……今夜も30匹ちょっとは斃します……」
「…気を付けてな……ああ、剣の手入れをするのに要るだろうから…荒砥と中砥と細砥を持って行きなさい……」
「…ありがとうございます……あと…もし在ったら…磨き油も貰えると、有り難いです……」
「…ああ、それも用意させるよ……」
「…ありがとうございます……」
あまり長居して話していると色々と品物を持たされそうなので、失礼することにした。
貰った3個の砥石と磨き油の瓶を布に包んで肩に背負い、村長夫妻と若衆達にも挨拶して村長宅を辞した。
魔口の周りでもっと罠を仕掛けたいんだが、荷物があるからどうするか……まあ、鍛錬だと思えば良いか……
思い直し、縮地走で魔口の近くまで行く…まだ日は高い……荷物を傍の木に括り付け、旅籠で借りて来た大きさの違う3本の鉈を器用に使って、要所に罠を仕掛けていく……八つ仕掛けたところでひとまず止めた……そろそろ旅籠に帰って飯を食い、今夜に備えて休んだ方が良い……サリエナも心配だしな。
鉈の手入れをして腰に差し、荷物を背負って旅籠に戻る……ご主人と女将さんに事の経緯を話してから、また鉈の手入れをして返す……部屋に戻るとサリエナは起きて飯を食っていた。
「…具合はどうだ? 」
「…良いね……動かせばちょっと痛むけど、腫れは退いたよ……」
「…そうか……」
「…そっちは? 」
「…ああ…村長さん宅を廻って…話をして、進み具合も訊いて…打ち合わせもして来た……準備は順調に進んでる……皆さん、お前の事を心配していたぞ……今夜も俺ひとりで行くから休んでろ……奴ら今夜も騒ぎ立てるだろうから、結構楽に数を減らせるだろう……動けるようなら、ちょっと型稽古をしても良いんじゃないか……」
「……そうだね……やれるようなら、やってみるよ……」
「…飯、美味いだろ? 」
「……美味い……こんなの、食ったことない……」
「…そうだろ…土産話にゃ、なるな……俺も飯を貰って内観したら、寝るよ……そんで黄昏時に出る……」
「…ああ……起こしてやるよ……」
「…それも若衆に頼むからお前は寝てろ……型稽古は明日で良いから……」
「…分かったよ……」
そう言って食べ終えたサリエナは、白湯を飲んでから丁寧に口を拭って寝た……殆ど残さずに食べた食膳を厨房に返し、代わりに俺の飯を貰って戻る。
もう寝息を立てているサリエナの寝顔を観ながら食べ終える。
お椀を厨房に返して戻り、座り直して内観に入る……まだ外側に奴らの気配はない……自分の中心に意識を戻して集中を続ける……一刻で切り上げた。
敷布団だけ敷いて横になる……直ぐに眠った……二半刻で娘の若衆から声が掛かって起きた……もうすぐ黄昏時で、好い頃合いだ……腰周りの品物を確かめてケープをまとい、サリエナの剣も腰の左に差す……これでかなりできるだろう……寝ているサリエナを見遣り、廊下の若衆に後を頼んで外に出た……40匹始末できれば、後が楽だな……縮地走術で走り出そうとした。
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