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くじら座タウ星 第4番惑星(タウ・ケチ) PART 1
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くじら座・タウ星の第4番惑星は英語で『タウ・ケチ』と言う。
シュウオオオーーンンン……
人工子宮のカバーが開いて……粘液に包まれた新生児が運び出されて来る……元気に泣きながら手足を動かしている……男性がふわふわのタオルを広げたストレッチャーを寄せて……新生児を両手で丁寧に抱え……ストレッチャーに移し乗せ、直ぐにタオルで包んで…優しく粘液を拭っていく。
「……ハイ……ようこそ、アンダーソン・ファミリーへ……君が12人目のメンバーだ……僕がお父さんのアンソニー・アンダーソンだよ……君は……女の子だから……名前は……そうだな……アイリス? マーガレット? ジャニス? メリッサ? ナンシーが良いかな? そうだね…ようこそ、ナンシー・アンダーソン……私達の元に来てくれて、本当にありがとう……後でお兄さんとお姉さんを紹介するからね……」
「……ねえ、あなた……D居住区の熱交換システムの調子が3日前から悪くて……結露を回収したドレン水の処理が間に合わなくなって……水が漏れ出しているのよ……診て来て下さらない? 」
「……ああ、そうだったね……忘れていたよ……やれやれ……これで4度目だな……これが終わったら、直ぐに行くよ……さあ…ナンシー……お前のママのエヴァーだよ……ご挨拶して? 」
「……ハイ、ナンシー……初めまして……ママのエヴァーよ……宜しくね……お兄さん、お姉さんが沢山いるけど…みんな優しいから、安心してね……ハイ、シエラ…いらっしゃい……」
「……ハイ、シエラ……お前の3人目の妹だよ……ナンシーだ……ナンシー、シエラお姉さんだよ……さあ…これでサッパリしたね……シエラ……こうしてタオルで包んだまま…優しく抱き抱えるんだ……お姉さんとしての初仕事だ……保育器の準備は出来ているから……このまま抱き抱えて行って、優しく入れて……カバーを閉めてからスタートさせるんだよ……セット・コマンドは分かっているね? じゃあ、頼むよ……それじゃママ! 行って来るよ! 」
「……この子の名前さあ…ナンシーで良いの? エミリーか、シェリーが良いと思うな……多数決で決めようよ! 」
今年で8歳になるイアンが、脇で口を尖らせている……直接には応えず、ウィンクして観せてから歩き出した。
「……今度も僕が治すよ、パパ! 任せといて! 」
10才になったトビー(トバイアス)アンダーソンが駆け出すと、ひとつ年下のブランドンが憤然とする。
「……ずるいよ、トビー! この前だって! 今度はボク、ボク! 」
そう言い、兄の後を追い掛けて駆け出した。
『フォー・クローバーズ』が『タウ・ケチ』の標準周回軌道に乗り、センサーが収集したデータをコンピューターが分析して……『人間の生存に適性あり』との判定が出されてから……太陽系の時間で17年……今日、12人目の子供が生まれた。
年長の子供は、既に15才……アンダーソン夫妻は、子供が6才になった時点から…本格的な教育プログラムを始動させた。
教育プログラムは実技も含めて多彩で多岐に亘った……様々な基礎理論の学問・学習に於いては勿論だが……人跡未踏の惑星に降下して…上陸させるのだ……サバイバルに関連する、あらゆる知識…技術…技能に於いても……その修得・体得は時間を掛けて、徹底的に反復された。
……ある日……
「……! 呼吸してない! この肌の色は…酸素濃度低下症だ! 保温システムを2レベルアップ! 乳幼児用の挿管器をくれ! 心臓マッサージと体液調整開始! よし、入った! バッグを接続……エドワード! このバッグを両手で持ってゆっくり押して離すんだ……止めるなよ……前頭葉皮質神経刺激パルス……発振! 触れない……もう一度…発振! 触れない……心室細動徐制パルス・レベル1 でタッチ! 取れない…レベル2 でタッチ! まだだ…ジギタリスを0.05mgで静注! 」
「……大丈夫よね?! あなた!! 助かるわよねえ?! 」
エヴァーがアンソニーに縋り付くようにして訊いていた。
……30分後……アンソニーは呆然として立ち尽くし……エヴァーは両膝をつき、両手で顔を覆って嗚咽している。
「……泣かないで…ママ……大丈夫だから……泣かないで……お願い……」
長女のアリシアがエヴァーを抱き締めていた。
『フォー・クローバーズ』のシステムは太陽系時間で27年の間に……25人の子供達を生み出したが……新生児・乳幼児突然死症候群も含めて……様々な疾病や事故を原因として……6人の命が失われ……19人が生き残り……成長した。
……また、ある日……
家族全員で降下シャトル・ポッドに必要な物資・資材・エネルギー源・様々な設置設備・機械・機器・器機・施設構築キット・それぞれが使う日用品などが積み込まれ……『フォー・クローバーズ』から離れて……『タウ・ケチ』の大気圏内に突入・降下し……海岸に程近い海面に着水した。
シャトル・ポッドに大気圏を離脱して宇宙に戻る機能は無い……『フォー・クローバーズ』との別れだった。
限界まで海岸にシャトルを近寄らせてハッチを開き……大型の船外機付きゴムボート……10艘を膨らませて海面に浮かべ……持って来た総ての物を積み込み……シャトル・ポッドから離れて……砂浜を目指した。
アンダーソン夫妻は……タラップの最上段にふたりで立ち……アンソニーがエヴァーの左肩を左手で抱いて……離れて行くゴムボート達を……見詰めて佇んでいる。
ゴムボートの中では……最後に生まれたアンソニーJr.が……姉に腰を抱かれながら……左肩越しに背後を振り向き……タラップの最上段で立ち尽くしている両親を見上げた。
「……パ…パ……マ…マ……」
「……行きなさい……ジュニア……ここはお前達の世界だよ……胸を張って……光の中に進みなさい……」
「……もう……お前達に教えられる事や……準備させ得る事は……何も無いのよ……」
(……最優先保護・教育対象群のエンゲージを確認……全プログラム・データの……活用・複数再生を確認……全プロジェクト・プロトコルの活用・再生を確認して終了……補助動力を最低レベルで保持しつつシャットダウン……)
ヴッ……ウン……カチッ……
ヴッ……ウン……カチッ……
シュウオオオーーンンン……
人工子宮のカバーが開いて……粘液に包まれた新生児が運び出されて来る……元気に泣きながら手足を動かしている……男性がふわふわのタオルを広げたストレッチャーを寄せて……新生児を両手で丁寧に抱え……ストレッチャーに移し乗せ、直ぐにタオルで包んで…優しく粘液を拭っていく。
「……ハイ……ようこそ、アンダーソン・ファミリーへ……君が12人目のメンバーだ……僕がお父さんのアンソニー・アンダーソンだよ……君は……女の子だから……名前は……そうだな……アイリス? マーガレット? ジャニス? メリッサ? ナンシーが良いかな? そうだね…ようこそ、ナンシー・アンダーソン……私達の元に来てくれて、本当にありがとう……後でお兄さんとお姉さんを紹介するからね……」
「……ねえ、あなた……D居住区の熱交換システムの調子が3日前から悪くて……結露を回収したドレン水の処理が間に合わなくなって……水が漏れ出しているのよ……診て来て下さらない? 」
「……ああ、そうだったね……忘れていたよ……やれやれ……これで4度目だな……これが終わったら、直ぐに行くよ……さあ…ナンシー……お前のママのエヴァーだよ……ご挨拶して? 」
「……ハイ、ナンシー……初めまして……ママのエヴァーよ……宜しくね……お兄さん、お姉さんが沢山いるけど…みんな優しいから、安心してね……ハイ、シエラ…いらっしゃい……」
「……ハイ、シエラ……お前の3人目の妹だよ……ナンシーだ……ナンシー、シエラお姉さんだよ……さあ…これでサッパリしたね……シエラ……こうしてタオルで包んだまま…優しく抱き抱えるんだ……お姉さんとしての初仕事だ……保育器の準備は出来ているから……このまま抱き抱えて行って、優しく入れて……カバーを閉めてからスタートさせるんだよ……セット・コマンドは分かっているね? じゃあ、頼むよ……それじゃママ! 行って来るよ! 」
「……この子の名前さあ…ナンシーで良いの? エミリーか、シェリーが良いと思うな……多数決で決めようよ! 」
今年で8歳になるイアンが、脇で口を尖らせている……直接には応えず、ウィンクして観せてから歩き出した。
「……今度も僕が治すよ、パパ! 任せといて! 」
10才になったトビー(トバイアス)アンダーソンが駆け出すと、ひとつ年下のブランドンが憤然とする。
「……ずるいよ、トビー! この前だって! 今度はボク、ボク! 」
そう言い、兄の後を追い掛けて駆け出した。
『フォー・クローバーズ』が『タウ・ケチ』の標準周回軌道に乗り、センサーが収集したデータをコンピューターが分析して……『人間の生存に適性あり』との判定が出されてから……太陽系の時間で17年……今日、12人目の子供が生まれた。
年長の子供は、既に15才……アンダーソン夫妻は、子供が6才になった時点から…本格的な教育プログラムを始動させた。
教育プログラムは実技も含めて多彩で多岐に亘った……様々な基礎理論の学問・学習に於いては勿論だが……人跡未踏の惑星に降下して…上陸させるのだ……サバイバルに関連する、あらゆる知識…技術…技能に於いても……その修得・体得は時間を掛けて、徹底的に反復された。
……ある日……
「……! 呼吸してない! この肌の色は…酸素濃度低下症だ! 保温システムを2レベルアップ! 乳幼児用の挿管器をくれ! 心臓マッサージと体液調整開始! よし、入った! バッグを接続……エドワード! このバッグを両手で持ってゆっくり押して離すんだ……止めるなよ……前頭葉皮質神経刺激パルス……発振! 触れない……もう一度…発振! 触れない……心室細動徐制パルス・レベル1 でタッチ! 取れない…レベル2 でタッチ! まだだ…ジギタリスを0.05mgで静注! 」
「……大丈夫よね?! あなた!! 助かるわよねえ?! 」
エヴァーがアンソニーに縋り付くようにして訊いていた。
……30分後……アンソニーは呆然として立ち尽くし……エヴァーは両膝をつき、両手で顔を覆って嗚咽している。
「……泣かないで…ママ……大丈夫だから……泣かないで……お願い……」
長女のアリシアがエヴァーを抱き締めていた。
『フォー・クローバーズ』のシステムは太陽系時間で27年の間に……25人の子供達を生み出したが……新生児・乳幼児突然死症候群も含めて……様々な疾病や事故を原因として……6人の命が失われ……19人が生き残り……成長した。
……また、ある日……
家族全員で降下シャトル・ポッドに必要な物資・資材・エネルギー源・様々な設置設備・機械・機器・器機・施設構築キット・それぞれが使う日用品などが積み込まれ……『フォー・クローバーズ』から離れて……『タウ・ケチ』の大気圏内に突入・降下し……海岸に程近い海面に着水した。
シャトル・ポッドに大気圏を離脱して宇宙に戻る機能は無い……『フォー・クローバーズ』との別れだった。
限界まで海岸にシャトルを近寄らせてハッチを開き……大型の船外機付きゴムボート……10艘を膨らませて海面に浮かべ……持って来た総ての物を積み込み……シャトル・ポッドから離れて……砂浜を目指した。
アンダーソン夫妻は……タラップの最上段にふたりで立ち……アンソニーがエヴァーの左肩を左手で抱いて……離れて行くゴムボート達を……見詰めて佇んでいる。
ゴムボートの中では……最後に生まれたアンソニーJr.が……姉に腰を抱かれながら……左肩越しに背後を振り向き……タラップの最上段で立ち尽くしている両親を見上げた。
「……パ…パ……マ…マ……」
「……行きなさい……ジュニア……ここはお前達の世界だよ……胸を張って……光の中に進みなさい……」
「……もう……お前達に教えられる事や……準備させ得る事は……何も無いのよ……」
(……最優先保護・教育対象群のエンゲージを確認……全プログラム・データの……活用・複数再生を確認……全プロジェクト・プロトコルの活用・再生を確認して終了……補助動力を最低レベルで保持しつつシャットダウン……)
ヴッ……ウン……カチッ……
ヴッ……ウン……カチッ……
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