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アンダーソン夫妻
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木星の衛星タイタンを周回するコロニー『タイタン002』……当時の『地球型惑星探査推進本部』は、ここに設置されていた。
時刻は標準時で午前11時……『人類潘種計画』に於いて、中枢を担う科学技術者達によるレクチャーを受けたばかりのアンダーソン夫妻が…1階ロビーで並んで座っている……他に誰もいないロビーで、アンソニーは自分の上着をエヴァーに羽織らせ…その肩を抱くようにして座っていた。
アンソニーの手を外してエヴァーが急に立ち上がる。
「…あなた! どうしてさっきの話を受けたのよ!? あんな……馬鹿げた計画なのに……」
両手で顔を覆ってしゃくり上げ、また座る。
「……最初から俺達を取り込んで、巻き込むつもりだったんだ……株式取得率は……『地球型惑星探査推進本部』と『太陽系開発機構』に……『太陽系エネルギー開発庁』で…56%だからな……おかしいんじゃないかって…思わないでもなかったんだが……急に立ち上げた新興民間企業だし……投資に対するリターン配当も毎回ギリギリだったからな……」
「……だからって! どうして断らなかったのよ?! 」
「……はっきりとは言われなかったけど……計画への協力を断れば、俺達は会社から追い出されて……俺達が開発した技術に関する権利も奪われる……次の経営陣が決まる迄のリターン配当も……俺達で負担しなきゃならなくなる……役員の6割には、あっちの息が掛かっているから……それにプレゼンしたメンバーの中じゃ、俺達が1番若かったからな……」
ふたりの脳裏では、先程のレクチャーがリピート再生されている。
『……目標とされるのは、くじら座のタウ星です……太陽系からは11.9光年……タウ星系の第4番惑星が……かつての地球に似ていると言う観測データがあります……』
『……アンダーソンさん……どうか誤解しないで頂きたいのですが……決して我々に、生命をもて遊んでいるつもりはありません……船がタウ星系に到着しても……センサーが捉えたデータをコンピューターが分析して……人間の生存には適さないと判断されれば……何も起動しませんし…何も始まりませんし…何も終わりません……つまり何も始まらずに…そこで終わるのです……』
『……でも! 生存に適すると判断されれば?! 』
『……生存に適すると判断されれば、システムが起動します……そしてその後は……考えられ得る、あらゆるケース・プロセスパターンに完全対応の上で……プロジェクトが起動して……遂行されます……』
『……それで……生まれた子供達は、どうなるのです? 』
『……アンダーソンさん……我々はいずれ必ず超光速航法を開発して実用化します……そして建造された超光速探査船が……惑星上で生きている彼らを迎えに行くでしょう……』
『……本当に? 』
『……そこまで…この計画には含まれているのです……』
『……アンダーソンさん……これは決してこちら側が貴方方に強要するようなものではないのですが……是非ともお考え下さい……貴方方がこの計画への協力を拒否されるのはご自由です……ですがその場合に我々は……貴方方を計画の対象者からは外して……次の対象者を選定しなければなりません……そうなれば…この計画全体のタイム・スケジュールが、よりタイトなものとなり……成功の可能性…確立共に低下してしまう事になります……勿論、決して貴方方の不利益になるような事にはならないと……計画に携わる全体を挙げ、重ねてお約束するものです……』
結果としてアンダーソン夫妻は、非常に懊悩し…渋々ではあったのだが、承諾した。
『……本当にありがとうございます……アンダーソンさん……それでは、計画の詳細についてをご説明致します……潘種輸送準備船は『フォー・クローバーズ』と名付けられておりまして、既に完成しており…移動準備も完了しております……貴方方から精子と卵子を採取できましたら、最も安全に保存しながら積み込みます……そしてご夫妻のコピー・アンドロイドを製作する為に…貴方方のあらゆるデータを……詳細で精緻・精密な心理動向パラメータをも含めて採集させて頂き……完璧に構築・製作致します……』
『……次に『フォー・クローバーズ』をどのようにして運ぶかについて、ご説明致します……』
『……現在、太陽系に向かって比較的高速で接近中の大型天体がありまして……我々はこれを便宜上、『ガルバドス』と呼んでいます……元は彗星となる筈の雪氷天体だったのですが……比較的に高速で移動しているので…他の恒星の引力には捉われずに来たようです……それがあと80日程で、太陽系に侵入します……センサーで捉えたデータを分析した処……これまで彗星とならずに移動して来ているので、更に雪氷と星間塵が蓄積されて…大型の天体になっています……これが太陽系に侵入すれば、更にスピードが増しますので……その前に『フォー・クローバーズ』は…タグ・ボートに牽引させて移動を開始し……工作作業船2隻と一緒に天体に接近して、天体の表面に輸送船を設置させます……』
『……天体は太陽系内を加速しながら通過するコースを進みますので、そのまま天体と共に太陽系から離脱して…出発します……そのまま形としては38年間を共に進みながら、『フォー・クローバーズ』の採取システムが天体から取り込んだ雪氷から水素と酸素を分離して……それぞれを濃縮・圧縮して貯留します……最終段階に於いて『フォー・クローバーズ』はゆっくりと準備を行い……天体の中心部で核融合爆発を起こして、船体を加速させます……この急激な加速に普通の生体は耐えられませんが、冷凍された精子と卵子なら耐えられます……そして貯留していた濃縮圧縮固形化酸素と濃縮圧縮固形化水素を使い、核融合ペレット・ブースターを稼働させて最終的な加速を掛け…くじら座のタウ星系を目指すのです……最後に……我々が現在到達しているクローニング技術を以って健康な精子や卵子にアプローチするなら……健康で完全な複製体を無数に造れます……何人かは人工子宮の中で……或いは生まれて間も無く亡くなってしまう新生児もいるであろうとの想定もしておりますので……必要な措置であるとご理解下さい……計画の最終到達点では……20数人から30数人の子供達が……くじら座タウ星の…第4番惑星に…上陸するでしょう……』
やがてアンダーソン夫妻は『地球型惑星探査推進本部』のビルから外に出て帰路に就いた。
上着を羽織らせたエヴァーの肩をアンソニーが優しく抱いて…ゆっくりと歩いて行く。
「……俺達の子供を作ろう……俺達の……本当の子供を……」
時刻は標準時で午前11時……『人類潘種計画』に於いて、中枢を担う科学技術者達によるレクチャーを受けたばかりのアンダーソン夫妻が…1階ロビーで並んで座っている……他に誰もいないロビーで、アンソニーは自分の上着をエヴァーに羽織らせ…その肩を抱くようにして座っていた。
アンソニーの手を外してエヴァーが急に立ち上がる。
「…あなた! どうしてさっきの話を受けたのよ!? あんな……馬鹿げた計画なのに……」
両手で顔を覆ってしゃくり上げ、また座る。
「……最初から俺達を取り込んで、巻き込むつもりだったんだ……株式取得率は……『地球型惑星探査推進本部』と『太陽系開発機構』に……『太陽系エネルギー開発庁』で…56%だからな……おかしいんじゃないかって…思わないでもなかったんだが……急に立ち上げた新興民間企業だし……投資に対するリターン配当も毎回ギリギリだったからな……」
「……だからって! どうして断らなかったのよ?! 」
「……はっきりとは言われなかったけど……計画への協力を断れば、俺達は会社から追い出されて……俺達が開発した技術に関する権利も奪われる……次の経営陣が決まる迄のリターン配当も……俺達で負担しなきゃならなくなる……役員の6割には、あっちの息が掛かっているから……それにプレゼンしたメンバーの中じゃ、俺達が1番若かったからな……」
ふたりの脳裏では、先程のレクチャーがリピート再生されている。
『……目標とされるのは、くじら座のタウ星です……太陽系からは11.9光年……タウ星系の第4番惑星が……かつての地球に似ていると言う観測データがあります……』
『……アンダーソンさん……どうか誤解しないで頂きたいのですが……決して我々に、生命をもて遊んでいるつもりはありません……船がタウ星系に到着しても……センサーが捉えたデータをコンピューターが分析して……人間の生存には適さないと判断されれば……何も起動しませんし…何も始まりませんし…何も終わりません……つまり何も始まらずに…そこで終わるのです……』
『……でも! 生存に適すると判断されれば?! 』
『……生存に適すると判断されれば、システムが起動します……そしてその後は……考えられ得る、あらゆるケース・プロセスパターンに完全対応の上で……プロジェクトが起動して……遂行されます……』
『……それで……生まれた子供達は、どうなるのです? 』
『……アンダーソンさん……我々はいずれ必ず超光速航法を開発して実用化します……そして建造された超光速探査船が……惑星上で生きている彼らを迎えに行くでしょう……』
『……本当に? 』
『……そこまで…この計画には含まれているのです……』
『……アンダーソンさん……これは決してこちら側が貴方方に強要するようなものではないのですが……是非ともお考え下さい……貴方方がこの計画への協力を拒否されるのはご自由です……ですがその場合に我々は……貴方方を計画の対象者からは外して……次の対象者を選定しなければなりません……そうなれば…この計画全体のタイム・スケジュールが、よりタイトなものとなり……成功の可能性…確立共に低下してしまう事になります……勿論、決して貴方方の不利益になるような事にはならないと……計画に携わる全体を挙げ、重ねてお約束するものです……』
結果としてアンダーソン夫妻は、非常に懊悩し…渋々ではあったのだが、承諾した。
『……本当にありがとうございます……アンダーソンさん……それでは、計画の詳細についてをご説明致します……潘種輸送準備船は『フォー・クローバーズ』と名付けられておりまして、既に完成しており…移動準備も完了しております……貴方方から精子と卵子を採取できましたら、最も安全に保存しながら積み込みます……そしてご夫妻のコピー・アンドロイドを製作する為に…貴方方のあらゆるデータを……詳細で精緻・精密な心理動向パラメータをも含めて採集させて頂き……完璧に構築・製作致します……』
『……次に『フォー・クローバーズ』をどのようにして運ぶかについて、ご説明致します……』
『……現在、太陽系に向かって比較的高速で接近中の大型天体がありまして……我々はこれを便宜上、『ガルバドス』と呼んでいます……元は彗星となる筈の雪氷天体だったのですが……比較的に高速で移動しているので…他の恒星の引力には捉われずに来たようです……それがあと80日程で、太陽系に侵入します……センサーで捉えたデータを分析した処……これまで彗星とならずに移動して来ているので、更に雪氷と星間塵が蓄積されて…大型の天体になっています……これが太陽系に侵入すれば、更にスピードが増しますので……その前に『フォー・クローバーズ』は…タグ・ボートに牽引させて移動を開始し……工作作業船2隻と一緒に天体に接近して、天体の表面に輸送船を設置させます……』
『……天体は太陽系内を加速しながら通過するコースを進みますので、そのまま天体と共に太陽系から離脱して…出発します……そのまま形としては38年間を共に進みながら、『フォー・クローバーズ』の採取システムが天体から取り込んだ雪氷から水素と酸素を分離して……それぞれを濃縮・圧縮して貯留します……最終段階に於いて『フォー・クローバーズ』はゆっくりと準備を行い……天体の中心部で核融合爆発を起こして、船体を加速させます……この急激な加速に普通の生体は耐えられませんが、冷凍された精子と卵子なら耐えられます……そして貯留していた濃縮圧縮固形化酸素と濃縮圧縮固形化水素を使い、核融合ペレット・ブースターを稼働させて最終的な加速を掛け…くじら座のタウ星系を目指すのです……最後に……我々が現在到達しているクローニング技術を以って健康な精子や卵子にアプローチするなら……健康で完全な複製体を無数に造れます……何人かは人工子宮の中で……或いは生まれて間も無く亡くなってしまう新生児もいるであろうとの想定もしておりますので……必要な措置であるとご理解下さい……計画の最終到達点では……20数人から30数人の子供達が……くじら座タウ星の…第4番惑星に…上陸するでしょう……』
やがてアンダーソン夫妻は『地球型惑星探査推進本部』のビルから外に出て帰路に就いた。
上着を羽織らせたエヴァーの肩をアンソニーが優しく抱いて…ゆっくりと歩いて行く。
「……俺達の子供を作ろう……俺達の……本当の子供を……」
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