【『真説・宇宙世紀……家族の絆・遥かに遠く…儚く…』】

トーマス・ライカー

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くじら座タウ星 第4番惑星(タウ・ケチ) PART 3

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 『グローリー・ローズ』が『タウ・ケチ』の標準周回軌道に乗ってから…385日と13時間……これまでに太陽系から来た超空間航行補給船ハイパー・スペース・サプライ・カーゴ(H・S・S・C)とのランデブーは…16回を数えていた。


 『タウ・ケチ』の海は、塩分濃度がかなり高い……かつての地球にあった海の3倍だった……海棲生物に危険な種は無かったが、食用に適するような種も無かった。


 地上に生息する動物は…まだ小型で原始的な齧歯類げっしるいが数種類だけだった。


 鳥類はいない……飛ぶ昆虫もいなかった……やはり高重力なのが原因だろう。


 両生類も爬虫類も小型で原始的なものだった。


 やはりガス状巨大惑星が、彗星の巣との間に無いことで…『タウ・ケチ』は800年に1度程度の間隔で…彗星の直撃を受けてきたようだ。


 生きていく為には、先ず水が必要だ……取水システムをどのように構築しようかと言う事で、意見が割れた……どのような取水システムを作ったとしても、200年も経過すれば壊れたり…埋もれたりてしまうだろう……議論を尽くした結果……雨水を集めて濾過・殺菌などの処理を施し……巨大なタンクに貯水する……この総てを地下に埋設する事にした。


 生活用水の為と飲料水の為に、2000ℓ のタンクを2つ……雨水集積システムに濾過・殺菌システム……汲み上げて給水する為の動力システム……バッテリーセッターは壊れないよう強固にガードし、腐蝕しないように厳重にシーリングした。


 それらの総てを地下30mに埋設したのだ。


 それが完成する直前に、カイル・アッシュビー科学顧問が私に対して強く問い質して来た。


「……ミスタ・アンダーソン! あなたは何をしようとしているのですか?! 我々は何を造っているのですか?! この取水システムも含めて……今建設中の施設は…いったい誰の為のものなのですか?! 」


 私は改めて皆に向き直り、見渡した。


「……今……太陽系から…この『タウ星系』に向かって…1隻の宇宙船が航行している……『ミアノ・ドライヴ』が開発・実用化される以前に、太陽系を出発した船だ……船の名は…『フォー・クローバーズ』……『人類潘種計画』…と言うプロジェクトが、35年前に始動した……第2の地球への憧れや…希求や…渇望が最高潮に達していた時期だったんだが……そこで始動してしまった……馬鹿げた…無謀な計画だったんだ……」


 それから私は……『人類潘種計画』について……今迄に知り得た詳細を語った。


「……その……『フォー・クローバーズ』に積み込む精子と卵子を提供したのが? 」


「……そう……アンソニーとエヴァーのアンダーソン夫妻……後のアンダーソン財団の創業者……私の両親だ……」


「……そんな馬鹿げた…無謀な計画が実施されていたなんて……報道もされていませんし……記録にも殆ど残っていないようですね……」


 タブレットのモニターに映し出されているテキスト・データをスクロールさせて観ながら、カイル・アッシュビー科学顧問がそう言った……『グローリー・ローズ』…メイン・コンピューターのライブラリィ・データベースに繋いで、検索したのだろう。


「……両親は非常に強く後悔していた……私には…殆ど何も言わなかったがね……父のアンソニーが動脈瘤の破裂で急死すると……母と私で『財団』と事業を引き継いだ……その時に知ったんだが…両親は『人類潘種計画』の違法性に早くから気付いて証拠を集めていたんだ……私はその調査も引き継いだよ……今、太陽系で活動を続ける『財団』の調査部は…充分に証拠を集めて、『計画』に携わっていたメンバーに対しての刑事告発を準備している……我々が太陽系に帰る頃には、始まっているだろう……」


「……ミスタ・アンダーソン……その宇宙船……『フォー・クローバーズ』を回収して帰りましょう! こんな事は馬鹿げています! 太陽系から12光年も離れたここで…あなたの家族が! それも子供達だけで! 」


「……ありがとう……私も回収して帰りたい……あの『計画』に携わっていたメンバーにも自覚はあったんだな……これが違法な事であると言う認識のね……だから事の発覚を恐れた彼らは…『フォー・クローバーズ』に、通信システムや…発信装置さえ積まなかったんだ……だから通信での位置特定はできない……運行スケジュール・データを観れば……まだ『フォー・クローバーズ』は、天体『ガルバドス』の表面に設置されたままで……一緒に動いている……ますます発見は難しい……3年前に母も病に倒れてね……余命1ヶ月の時点で母は私を呼んで…子供達の事を語って聴かせてくれた……もしも未来で生まれるのなら…何とかしてあげたい……と言う意志も確認した……だから……言わばこれは、母の遺言のようなものでね……私としても、未来のここで弟妹ていまい生まれるのなら……彼らの役に立ちたい……少しでもね……だから今…ここにいる……我々にできる事は……今ここで少しでも…準備を進めてあげること…だけなんだな……」


 取水・給水システムをガードとシーリングも含めて完成させてから……30人で居住できるゲストハウスを1棟……20人で居住できるのを3棟……10人で居住できるのを4棟建設した。


「……ソーラー・パネルは設置しませんか? 」


「……あれは20年も経てば、壊れるだろう? 組み立てキットの形で…メイン・ハウスに収蔵しよう……手書きの取り扱い説明書を付けてな? 」


 800ℓ の耐圧タンクには、高圧液化メタンガスを限界まで注入して……ゲストハウスの地下30mに埋設した。


「……タンクの取り扱い説明書はタンク自体にも貼り付けて置くし、メイン・ハウスにも収蔵しよう……」


 バッテリーパックは全数を収蔵し、厳重にガードしてシーリングを施した。


「……バッテリーパックもセットアタッチメントも、これ以上できない程に真空パック・シーリングしたけどね……果たして何年保つかな? 」


「……300年ぐらいは余裕でしょう……」


 ゲストハウスの周囲には適切に間隔を空けて…成長すれば大木となる、針葉樹と広葉樹の苗を植えた。


 その間隔には適切な草木の苗を植え、種子を蒔き…コケも配置した。


 環境固定菌と一緒に、食用茸類の菌糸・菌株も配置した。


「……この惑星ほしは…鳥も昆虫も動物も、そんなにいませんから…順調に生育するでしょう……」


「……是非、そう願いたいね……」


 これらの作業と同時に雨水を電気分解して酸素と水素を生産し…酸素はそのまま放出して、水素は圧縮してエネルギー源とした。


 同時に地下を大きく掘り抜き、安全・安定・広大な地下空間を頑丈な格納庫として整備した。


「……『グローリー・ローズ』から降ろした重機は、グラン・ドーザも含めて…作業アタッチメントは総て外して一緒に収蔵しよう……勿論、簡単に換装できるように…作業設備も使いやすいように作ろう……」


「……動力はバッテリー? 」


「……いや、小型の火力発電機を設置しよう……その為に…水素やメタンのガス燃料は、目一杯生産して圧縮貯留ちょりゅうしておこう……作業に関連するやり方の説明についても……手書きのテキストを置いておこう……」


「……手書き、ですか? 」


「……うん……印刷した文字は、いずれ薄れて消える……データ・ロッドや読み取り装置やモニターもいずれ壊れる……思いっ切りアナログでいこう……丈夫で綺麗な紙に濃くて強いインクで、そのまま書く……これでもいつまで保つか分からないがね……これしか方法がない……」


「……それしか無さそうですね……」


「……重機は農作業にも使えるように、農作業用のアタッチメントも…ここで造って置いていこう……勿論、それについての説明も付ける……削岩機も置いて行くよ……色々と重宝するだろうからね……」


「……ボートは、どうします? 」


「……彼らはシャトル・ポッドで海に着水する……その後は、ゴムボートで海岸を目指すだろう……ゴムボートもここに収容するよう、一筆書いておくか……」


「……収穫作業用のアタッチメントはどうします? 」


「……それも……欲しいね……機関部長…どうだろうかな? 」


「……そうですね…ちょっと…混み入ったものになりそうなんで…データベースから引っ張ってみますよ……」


「……宜しく頼みます……」


「……食器とか……調理器具は? 」


「……そうだね…それらも造って置こう……簡単なものでも良いよ……」


「……水はいいとして油はどうします? 」


「……そこまではいいだろう……天然オイルは望むべくもないし……合成オイルは、いずれ酸化して変質する……あまり身体にも良くない……」


「……仕方ないですね……」


「……今、我々がどんなに土壌を整地・整備したとしても、直ぐに雑草・雑木が繁茂して荒れ野になる……草刈り・草取りのアタッチメントと、草刈り機も作っておこう……」


「……ハード面では大体…こんなところですかね? ミスタ・アンダーソン……」


「……そうだな……後は手書きのマニュアル・テキスト作りに時間が掛かるだろう……」


 それから75日と10時間……私も含めてメンバーは、様々な作業に従事した。


 昼食時にパトリック・アサンテ船長が通話を繋げてきた……『グローリー・ローズ』は今……超空間航行補給船ハイパー・スペース・サプライ・カーゴ(H・S・S・C)から……20回目の補給を受けているところだ。


 船長の話によれば……『財団』の財政がいよいよ逼迫ひっぱくしてきていて……次の補給船カーゴは、もう用意できないだろうとの事だった。


 了解したと伝えて、通話を終える。


「……みんな、そのまま聞いてくれ……兼ねてからの懸念けねんが現実になったよ……『アンダーソン財団』の財政がいよいよ逼迫してきて……もう金をこちらの事業には回せないそうだ……『グローリー・ローズ』は今、補給を受けているんだが……次の補給船カーゴはもう来ない……だから……やれるだけやって太陽系に引き揚げる……ギリギリまでやろう……」


「……何とか終わらせますよ……ここまで来たんですからね……」


「……ありがとう、監督……慌てずに、無理しないでやろう……」


 最後の補給を受けて2週間……物資の残量がそろそろ気になり始めた頃に……作業は終わった……重力低減セーフハウスは残して帰る事にしたが……おそらくこれも壊れるだろう。


「……ミスタ・アンダーソン……シャトル・クラフトへの搬入は、間も無く終わります……」


「……ありがとう……本当に、よく頑張ってきたね……」


 そう応えながら私はヘルメットを外した……驚いている降下リーダー…総合現場監督…科学顧問に笑顔を見せる。


「……まだ少し…息苦しいな……だがまあ……植えた植物達が成長して繁茂はんもすれば……酸素濃度を引き上げてくれるだろう……出発の前にメッセージを残して行きたいんだ……君達も来るかい? 」


「……メッセージ? 」


 私達は4人でメイン・ゲストハウスに入り……ダイニング・ルームに入ると……ダイニング・テーブルの上座に立って、音声と映像での記録を始めた。


そして満面の笑顔を作ると、あらかじめ書いて持って来た手紙を取り出し…それをゆっくりと読み上げた。


「……アンダーソンの姓を受け継ぐ兄弟・姉妹達よ……遠い宇宙のどこかから…真っ直ぐに向かって来る、まだ生まれぬ弟妹ていまい達よ……私はスタンリー・アンダーソン……君達が生まれる遥か以前に、アンソニー・アンダーソンとエヴァー・アンダーソンとの間に生まれた…君達の長兄ちょうけいだ……君達の……この3次元宇宙での誕生を歓迎する……やがてこの惑星ほしに降り立つであろう君達の為に……考え得る限りの準備を進めたつもりだ……どうかこの……細やかな贈り物を受け取って欲しい……そして…忘れないでいて欲しい……例えどんなに遠く……時間と空間が隔てられていても……両親と私は…君達の事を片時も忘れずに、気に掛けていたし……君達の為に何が出来るのかを考え続けていた……今回…君達の顔を直接に観る事は叶わないが……精一杯……諦めずに生きて欲しい……そして……遠く時の輪の接するどこかで……また巡り逢おう……」


 話し終えると記録を止めて、映像と音声のデータを共に保存……そして装置のパワーを切り、手紙をシーリング・シートに挿んで封じてから……シークレット・シーリング・ガードケースに仕舞って……後ろの3人を振り返る。


「……これで終わりだ……映像と音声のデータが壊れても……手紙は何とか残るだろう……太陽系に帰って、最後の仕事を仕上げよう……」


 メイン・ゲストハウスから出ると、私は振り向いて暫くハウスを眺めていた。


「……ミスタ・アンダーソン? 」


「……いや……忘れないようにと、よく見ていたら…脳裏に浮かんできてね……森を抜けて歩いて来た子供達が、これを見付けて……物珍しそうに眺めている光景がさ……何でも良いからとにかく……長生きして欲しいね……」

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