私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木陽灯

文字の大きさ
32 / 47

招かれざる客 ※若干の暴力・残虐表現あり

しおりを挟む
「そうだよ? 僕はクラウス様に仕えているんだ。さっきそう言ったじゃん。だからこっそり僕についてきたんでしょ? お望み通り連れてきてあげたのにさー」

 お前、と指をさされたティルは、気分を害することもなくいつもの調子で答えた。

「さっきまで王都にいたはずだ……こんな森の中じゃなかった」

 三人は何が起きたか分からない様子で辺りを見回している。どうやら瞬間移動したことに気づいていないらしい。

「そんな事いちいち気にしないでよ。クラウス様とカレンに会いたかったんでしょ? 連れてきてあげたんだから感謝くらいしてよねー」

 どうやらこの三人は王都でティルに会い、こっそり後を追ってきたようだ。それに気がついていたティルが、彼らをこの屋敷まで連れてきたということらしい。

「キース鉱山にいるべきお前達がどうして王都に? 脱走は関心しないな」

 クラウスの口調は呆れていたが、目がギラついている。餌が自ら飛び込んできたのだから、楽しくてたまらないのだろう。

「あそこは俺達のいるべき場所じゃない! 元いた場所に戻って何が悪い?」
「そうよ。あんな所じゃ暮らせないわ!」
「お父様とお母様の言う通りです。私達は貴族なのよ? あんな汚いところで働けですって?! ふざけないでよ!」

 三人は青い顔をしながらも、私達に対して憎しみをぶつけてきた。

「カ、カレン。俺はお前にチャンスをやりに来たんだ! 俺達を助けろ! 爵位を戻して元の生活に戻せたら許してやる! だからっ……」
「私達の罪を取り消してくれたら、家に帰ってきてもいいのよ? あなたも本当は帰りたいのでしょう?」
「そうよ! あんたのせいで私達がこんなにも苦労してるんだから、さっさとどうにかしなさいよ!」

 最早三人とも支離滅裂だ。自分たちが何を言っているのか理解しているのだろうか?

(負の感情を吸われ過ぎた末路……。本当に自分が一番正しいと思い込んでいるのね)

 怒りも、悲しみも、憐みの気持ちも、湧かなかった。三人が本当に石ころに見える。

「……あなた方は罪を償う気持ちすらないのですね」

 私がポツリと呟くと、三人の顔色がカッと赤くなった。

「罪? 俺達に罪などない! お前が濡れ衣を着せただけだろ!」
「こちらが譲歩しているのにその態度は何なの?!」
「私は悪くないわ! カレンが悪いのよ!」

 狂ったように叫ぶ三人の眼には何も映っていないのだろう。
 これは私の手には負えない。

「クラウス、この人達の対応をお願いしてもよろしいですか?」

 クラウスに近づいて小声で耳打ちすると、「あぁ、勿論だ」と楽しそうな声が返ってきた。
 三人はまだ喚いている。この場はクラウスとティルに任せた方が良さそうだ。

 クラウスから少し離れて皆を眺めていると、クラウスがティルに目で何かを合図した。

「じゃあ、そろそろリドリー家の皆さんに本当の事を教えてあげるねっ」

 くすくすと笑いながら、ティルが彼らに近づく。
 ティルがピタリと足を止めた時、彼の背中から黒い翼が現れた。

「ひぃっ!」

 誰のか分からない悲鳴が上がる。ティルの姿を見て。、三人とも腰を抜かして座り込んでいた。

「お、お前は一体何者だ?! に、人間じゃないのか?!」
「僕はクラウス様に仕える使い魔。悪魔だよー」

 ティルがにっこりと笑うと、三人が急に立ち上がった……ように見えた。
 彼らは無理矢理立たされたのだ。ティルによって。

「あのね、カレンは悪魔と契約したんだよ。契約には対価が必要でしょう? だから、対価として君たちを好きにして良いってことになったんだー」
 
 嘘と真実を混ぜたティルの説明は、聞いている分には信じてしまいそうだった。ティルの掴みどころのない雰囲気がそうさせるのかもしれない。
 
「カレンを失ってから、リドリー家は不幸続きだったね。クラウス様がカレンと結婚してしまうし、君たちの信頼は地に落ちたし、挙句の果てには爵位剥奪でキース鉱山行き。偶然だと思う? ぜーんぶ僕らが仕組んだんだよ!」

 三人は直立不動で口も開けないらしい。ティルの楽しそうな演説をただ見ていることしか出来ないようだ。

「君たちが絶望するのが本当に楽しくて……美味しくて。とーってもお腹いっぱいになったよ! もう大満足ーって思ってたのに、また来てくれるなんて嬉しいなっ。最後まで美味しく食べてあげるね!」

 ティルの目がギラリと光る。その瞬間、三人は地面に頭から叩きつけられていた。

 その様子を静観していたクラウスがティルに近づき、肩に手を置いた。

「……ティル」
「えーもうおしまいですか? つまんないの」

 クラウスは一旦ティルの行動を止めると、私の方を見た。

「カレン、部屋に戻っていろ。こいつらの処理は任せろ」
「……分かりました」

 今から何をするか分からないが、見ていない方が良いのだろう。私はやることもないし、自室に戻ることにした。

「あ、カレン! ちょっと待って」

 私が歩き出すと、ティルに止められた。
 ティルは三人を再度立たせて私の方に向けた。彼らの口や鼻の周辺は、血が滲んでいた。

「ねえ、カレンに言うことがあるでしょ? ちゃんとごめんなさいが出来たら、少しは優しくしてあげるよ。ほら」

 ティルがそう言った途端、彼らの口が自由になったようだ。
 三人からは言葉にならないうめき声が聞こえてきた。
 彼らは喋れると気づいた途端、私の方を見てものすごい形相で苦しそうに叫んだ。
 
「お前! 今すぐこいつを止めろ!」
「は、早くしなさいっ!」
「カレン! 助けてよ! あんたこんなことして楽しいの?! 家族がどうなってもいいの?!」

 こんな状況でも出てくる言葉がコレなのだから、文字通り救いようがない。

「私は別に復讐なんてする気なんてありません。興味がないので。ですが……私の旦那様はそうではないのです。ご理解くださいね。それでは私は失礼します」

 クラウスとティルに一礼をして、自室へと向かった。後ろからは悲鳴のような怒号のような声が聞こえてきた。
 最後にチラリと横目で玄関ホールを見た時、クラウスの背中から翼が生えるのが見えた。
 その姿は今までで一番美しかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。

りつ
恋愛
 イリスの婚約者は幼馴染のラファエルである。彼と結婚するまで遠い修道院の寄宿学校で過ごしていたが、十八歳になり、王都へ戻って来た彼女は彼と結婚できる事実に胸をときめかせていた。しかし両親はラファエル以外の男性にも目を向けるよう言い出し、イリスは戸惑ってしまう。  王女殿下や王太子殿下とも知り合い、ラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていることを知ったイリス。離れている間の知らなかったラファエルのことを令嬢たちの口から聞かされるが、イリスは次第に違和感を抱き始めて…… ※他サイトにも掲載しています ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

わたくし生贄令嬢ですが、なにか? ~愛する王子に婚約破棄されたら、呪われて永遠を生きる最強魔術師を救ってしまいました~

新 星緒
恋愛
公爵令嬢のリリアナは愛する婚約者ガエターノ王子に婚約破棄をされたあげく、災厄の竜の生け贄になれと命じられてしまう。 国内には疫病が流行っているのだが、この竜に生け贄を捧げると災いが消え失せるとの伝承があるからだ。 覚悟と誇りをもって竜の元に赴くリリアナ。だけど突然現れた奇妙な男が、「災厄の竜なんてものはいない」と言ってーー。 ◇◇ 最愛の婚約者に捨てられた令嬢が、呪われて永遠を生きる魔術師に出会って、新しい恋をしたり彼の呪いをとくお話。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...