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クラウスの気持ち

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 私の家族問題が解決し、すっかり平穏な日々に慣れてしまったある日のこと。
 その日はいつも通りに過ぎていくはずだった。

 夕飯が終わった後、ティルがふと言い出した言葉が始まりだった。

「ねえねえ、カレン。最近、僕たち何か変わったと思わない?」
「え? えーっと、そうですね……そういえば、最近お二人とも顔色が良いですね?」

 突然の質問に対して無理矢理答えをひねり出したものの、ティルは不満げだ。

「惜しいっ! それはそうだけど、ちょっと違うー。僕たち少し雰囲気が変わったでしょう?」
「そう、でしょうか……。うーん、そうかも?」

 雰囲気が変わったかと言われても、微妙なところだ。二人ともいつも通り人外的な美しさを放っているが、変わったかどうかは正直分からなかった。
 二人を交互に見てもよく分からず、うーん……と唸っていると、クラウスが助け船を出してくれた。

「ティル、難題を出してカレンを困らせるな」

 クラウスが少し呆れたようにティルを諫めたけれど、ティルはめげなかった。

「えー! でもでもカレンなら見えるはずだよ? ほらほら、よく見て」

(見える? 一体何が……)

 言われた通りに二人の姿をじっと見つめてみた。
 すると奇妙なことに、二人の周囲がぼんやりと滲んできた。そしてそのまま見続けていると、不思議なものが見えてきたのだ。

「あ……お二人の周りで何かがキラキラと光っています」
「ピンポーン、大正解!」

 ティルがぴょんぴょんと跳ねると、金色に光るキラキラがさらに増えたように見えた。

「これは一体何なのですか?」
「えっとね、僕たちがパワーアップした証なの! えへへ、強そうでしょ?」
「そうですね。とっても強そうで頼もしいです」

 強そうと言うよりも綺麗な感じだったけれど、ティルが自慢げだったので否定はしないでおいた。
 
「あのね、カレンのおかげでエネルギーをいっぱい手に入れたから、クラウス様と一緒に修行してきたのー! そうしたらいっぱいキラキラが出たんだよ!」
「修行? 確かにお二人ともよく出かけていましたが……その時に?」

 リドリー家の問題が完全に片付いた後、二人は一日中家を空けることが多かった。
 そういう日は私が寝る時間頃に帰ってくることが多く、ティルはぐったりしていたし、クラウスにも疲労の色が滲んでいた。

「そうなの! 結構大変だったんだけど、やった甲斐があったよー。これで僕たちは無敵だよっ!」

 褒めてーと頭を差し出されたのでぽんぽんと撫でると、ティルは満足そうだった。
 ティルの天真爛漫さを浴びると、こちらも気持ちが満たされる。私はティルを撫でるのが結構心地良かった。

「でも修行ってすごく疲れたから、もうやりたくなーい! すぐお腹空くし……」
「もし必要なら、私の負の感情も遠慮なく食べてくださいね」

 ティルの言う「お腹が空く」は、普通の食事では補えない。
 多少なら吸われても大丈夫と言っていたし、少しくらいなら私から摂取したって問題ないはずだ。

(でも絶望しないとダメなのよね。それはちょっと嫌かも)

 何か良い方法はないものかと少しの間思案していると、クラウスが近づいてきた。

「以前にも言ったが、カレンの感情を食べたりはしない。お前は特別だからな」

 目の前できっぱりと言い切られた。

 そう言ってもらえるのはすごく嬉しい。
 けれど、「特別」という言葉を聞いた私は、突然どうしようもない欲が出てきてしまった。

(どんな風に特別なの? 知りたい。クラウスが私のことをどう思っているのかを)

 私は降って湧いたその欲望を、抑えることが出来なかった。
 気がついたら私は口を開いていたのだ。

「……クラウスにとって、私はどう特別なのですか?」
「どうとは?」

 さり気なく聞こうと思ったのに、緊張で声が震えていた。
 聞き返したクラウスの声は柔らかかったが、少し面白がっているようだった。まるで初めて会った時のようだ。

(もう、どうにでもなれっ……)

「わ、私はクラウスのことが好きなので、クラウスが私をどう思ってるのか気になるんですっ!」

 叫ぶようにそう言うと、部屋がシンとした静寂に包まれた。

「……あー、僕ちょっと用事を思い出しちゃったなー。 部屋に戻ってるね!」

 しばらく沈黙が続いた後、ティルがわざとらしくそう言って、出て行ってしまった。

「……」
「……」

 二人きりになったと同時に急に頭が冷静になって、この状況に耐えきれないほど恥ずかしくなってきた。

「……ごめんなさい。私も用事を思い出しました」

 とにかくこの場から去りたくて、私も出で行こうとすると、クラウスに腕をつかまれた。

「カレン、こちらへ」
「えっと……はい……」

 静かに名前を呼ばれ、向かい合うようにして腕の中におさめられる。
 おずおずと顔を上げると、楽しくて仕方がない様子のクラウスと目があった。

「カレンは俺のことが好きなんだな」
「ご迷惑なら忘れてください」

 ふいと顔を背けると、クラウスが小さく吹き出す声が聞こえてきた。

(もう……!)

 恥ずかしさで目をギュッとつぶると、クラウスが私の耳に口を寄せ、そっと囁いた。

「俺も好きだよ。愛してる」
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