私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木陽灯

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寝室にて

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 クラウスに好きだと言われた。愛してると。

 その後……

「俺の回答を聞いた感想は?」
「へ?」
「カレンのことをどう思ってるか、知りたかったんだろう?」

 私はクラウスに詰め寄られていた。

「あ、ありがとう…ございま、す。えと……聞けて良かったです」
「それから?」
「そ、それから?! えぇっと……」

 なんと返せば正解なのだろう。必死に考えようとしたが、頭はすでにショートしていた。
 クラウスは私の顔を楽しそうに見つめていたが、しばらくすると満足したようだ。口角を上げながら美しい唇を開いた。 

「カレンは俺に愛を囁いてくれないのか?」

 艶のある声に、全身がカッと熱くなる。心臓がバクバクと音をたて、クラウスにまで聞こえそうだった。

「っ……! もう寝る時間なので! 明日も早いですし、失礼しますっ!」

(もう無理っ……頭がパンクするわ!)

 クラウスの腕を振り払って自室まで全速力で走った。



 なんとか自室に戻ってくると、息を整えるために深呼吸をした。何度か繰り返していると、心臓の鼓動が落ち着くのを感じた。

(何が起きたの? クラウスが私を好き?! 本当に?)

 先ほどまでの光景が信じられなかった。
 だって彼は悪魔で、私とは契約しただけで、興味なんてなかったはず。

(嘘を言っているようには見えなかったけれど、一体いつから?)

 からかい半分だったように思えたが、嘘ではないことは理解出来た。
 彼の目が真実を告げているように見えたから。

「あぁ、考えても分からないわ。とりあえず寝る支度をしてしまおう……」

 何も考えないようにして、風呂に入って髪を乾かす。
 ベッドに戻る頃には、気分も少し落ち着いていた。

(とにかくクラウスの気持ちは聞けたんだし、一歩前進よね? りょ、両思いってことだし……)

 クラウスと両思い。意識した途端にまた顔が熱くなる。

「もう考えちゃダメよ。眠れなくなってしまわ」

 眠気なんてとうに消え去ってしまっていたけれど、夜更かしすると明日に響いてしまう。
 白湯でも飲んで眠気を呼び戻そうと用意していると、廊下から足音が聞こえてきた。

 そしてノックが三回聞こえてきたと同時に、なんとクラウスが部屋に入ってきた。

「なんだ、まだ寝てないじゃないか」
「なっ……何かご用ですか? 返事を待たずに急に入ってくるなんて」

 私の返事など気にも留めることなく部屋の奥へと進む。
 そして優雅にベッドに腰掛けた。まるで部屋の主かのように。

「ちょっと……!」
「妻の寝室に夫が入ったらいけないのか? そもそも寝室は共にするものだろう?」
「そうかもしれないですけど……」

 私たちは契約とはいえ結婚している。そう言われればなにも言い返せなかった。

(確かに夫と同じ寝室でもおかしくないけれど、でもそれは……)

「カレン」
「……はい」
「おいで」

 クラウスは自分の隣のスペースをポンポンと叩き、にっこりと微笑んだ。
 笑顔だけれど、有無を言わさぬ迫力があった。

「し、失礼します」

 クラウスの隣に座ると、クラウスは満足そうに私の腰に手を回した。
 せっかく落ち着いていた心臓の鼓動が、再び激しく音を立て始める。

「手が……」
「これか? 捕まえておかないと、さっきみたいに逃げられてしまうからな」

 そのままクラウスにぐっと引き寄せられ、私の腕がクラウスの身体に触れた。
 このままだとクラウスのペースに巻き込まれてしまう。なんとか動きを止めてもらおうと、思い切ってクラウスの方を向いた。

「あ、あの、クラウス? 一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「いつから私のことを……その……」

 なんとかして自分のペースを取り戻すため、好きなのですかと聞きたかったのに、ちゃんと言葉が出てこなかった。

(この質問、なんだか自意識過剰な気がしてきた……)

 クラウスは黙り込んでしまった私の手を握った。

「いつから好きだったか知りたいのか? そうだな……カレンが俺のことを好きだと自覚する前からだ」
「そうですか……えぇ?! なっ、わ、私が……?」

 聞けばクラウスは私の好意に気がついていたらしい。
 私が自覚するのを待っていたのだとか。

(ダメだ。恥ずかしくて死にそう)

「俺は他人の感情をある程度読み取れるんだ。黙っていたのは悪かった」

 しれっとそう言ってのけるクラウスは、悪いと思ってなさそうだ。

「それは全然構わないですけど……」

 クラウスに心が読まれたところで何か問題があるわけでもない。どうせ大したことを考えている訳でもないのだから。

「なら、そろそろ寝るとしようか」
「へ?」

 クラウスがベッドに横たわり、私の手を引いた。

(一緒に? そんなこと……)

 意識すればするほど身体が強張る。
 夫婦になったからには、そういうことも受け入れなければならない。どこかで分かっていたけれど、いざとなると怖かった。

「クラウス、あのっ」
「そう緊張するな。別に手を出したりしない。たまには人間の夫婦らしいことをしておこうと思ってな」

 ほら、と引っ張られて私も横になる。
 それと同時に灯りが消えた。

(お、お屋敷さん……空気読まないで! どうしよう、何か話題をっ)
 
「えと、私がクラウスへの好意を自覚しなかったらどうするおつもりだったのですか?」
「その時は俺が自覚させるまでだ。今までだって気づかせるために動いていたからな」
「なっ……」

(最近距離が近かったのは、もしかして私に自覚させるため……?!)

 クラウスとの距離が近くなったのは、一体いつからだっただろうか。
 考えても全く分からない。最初からクラウスの掌の上だったということだ。

「私が言うのもなんですが、これからは何かあれば言葉で伝えてください」
「はははっ、そうだな。これからはちゃんと伝えよう」
「本当に本当にお願いしますよ? 私はクラウスと違って感情を読んだり出来ないのですからね」
「分かったよ」

 いつの間にか緊張が解け、私とクラウスは笑い合っていた。
 そうして気がついたら、私は眠ってしまっていた。
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