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第二章

とある王の独白 ※ゴーシュラン国王視点

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 我が国の聖女がまた一人いなくなってしまった。先代の聖女は寿命だったが、今回は違う。彼女は国外追放となってしまった。

(彼女には申し訳ないことをした。どうか国外で平穏に暮らしてほしい。私にはもはや祈ることしか出来ないが……)

「どうか無事でいてくれ。リディア・クローバー……」




 我が国の聖女について、国王しか知らない秘密がある。聖女を誕生させる方法だ。
 国王が代々保有している杖には不思議な力が宿っており、杖が光っている期間のみ、任意の人物を聖女にすることが出来る。

(本来ならば、リディア・クローバーを聖女にするつもりはなかった……)

 そもそも私は、この『聖女』という制度を自分の代で終わらせるつもりだった。年端も行かぬ少女たちを祭り上げ、政治の道具にするという行為が受け入れられなかったからだ。

(何より、聖女になった少女たちは寿命をすり減らすことになる。何故このような制度が許されているのだ……!)

 私が即位したときに聖女だった人は、自分の運命を受け入れていた。彼女はいつから気がついていたのだろう。

「王がそのようなことを気に病んではいけません。私は聖女として生きられて幸せでした。ですから、そんな顔をなさらないで……」

 亡くなる直前の彼女は確かに幸せそうだった。だが私は耐えられなかった。彼女の犠牲の上に成り立っている平和など偽りだ。私は、聖女などいなくても国を導いてみせる。

(そう誓ったはずだった。それなのに……私は弱いな)




 私はリディア・クローバーを聖女にしたことを後悔してはいない。彼女を息子のルーファスから守るためには仕方のないことだった。

 ルーファスのリディアに対する異様な執着に気がついたのは、リディアの両親が亡くなった後だった。
 ルーファスが作為的にやったのだと腹心の臣下から報告があった。

(自分の息子ながら、恐ろしいやつだ)

 ルーファスはリディア・クローバーを専属の使用人として囲おうとしていた。身寄りのない彼女を助けるふりをして、自分のもとに置いておくつもりだったのだろう。自室の中に、地下部屋を作らせていたというから恐ろしい。

 かなり用意周到に準備していたため、ルーファスから引き離すのは不可能だった。私に出来たことと言えば、リディア・クローバーを聖女にすることだけだった。聖女となれば、正式に守ってやれる。
 聖女である以上、たとえルーファスと近づくことになっても下手なことはされないだろう。

 双方同意で婚約の話がまとまった時は驚いたが、地下で暮らすよりはマシだろうと自分を納得させていた。




 今回のルーファス殺害未遂は、本当にリディア・クローバーが犯人なのかは私にも分からない。臣下に探らせてはいるが、まだ何も掴めていない。目的すら分からないままだ。それでも彼女を国外追放にしたのは、せめてもの償いだ。

(元々彼女を巻き込んだのは、私たちなのだから……)

 


「さて、私は誰に王位を継承したら良いのだろうか」

 ルーファスかシャーロットか、はたまた別の誰かか。現時点で安心して国を任せられる者などいなかった。
 私の教育不行き届きだ。

(どのみち杖は渡さない。この杖は、私の死とともに葬り去る)

もう誰も聖女になどさせない。今度こそ――
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