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第三章

突然の出来事

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 翌日の朝からクラウスとともに森へ出発した。帝国に来て以来、一度も国外に出ていなかったので、国を出ることに少し緊張した。帝国に来てから半年しか経っていないのに、すっかり故郷のような気持ちが芽生えたのかもしれない。

(この国に来た日のことを思い出してしまうわ。でも今は隣にクラウスがいる。一人じゃない……大丈夫)

 クラウスと軽い雑談をしながら街のはずれまで来た時、向かいから人が歩いてくるのが見えた。黒いマントを来た人だ。

(今、入国してきた人かしら。変わった服装ね……ゴーシュラン王国の人かしら? もしそうなら、顔を見られたら聖女だとばれてしまうかもしれない)

 クラウスより数歩後ろに下がり、影に隠れるようなポジションをとった。クラウスも私の意図に気がついたようで、私の顔を隠すように歩いてくれた。これで、俯きながら歩けば見えないだろう。

 どうかバレませんように、と祈るようにすれ違った瞬間、黒いマントの人が不自然な動きをした。

(こっちに足を向けた……?)

 思わず顔を上げると、懐からナイフを取り出したのが見えた。私に目掛けてナイフを振り上げる様が、スローモーションのようだった。避けなくちゃ、と思った瞬間、腹部に鋭い痛みが走った。

「リディア!」

 私が倒れるのとクラウスが叫ぶのが、ほぼ同時だった。
 痛みの中で顔を上げると、黒マントの人物が走り去っていく姿が見えた。

「クラウス……」

「リディア、動かないで! じっとしていて、今助けるから!」

 意識が遠のいていく中で、クラウスが私のお腹に手をかざすのが感じられた。

(この間とは反対ね……でも無理はしないで、クラウス……)




 目が覚めると、心配そうなクラウスの顔が目に飛び込んできた。

「クラウス……」

「リディア! 目が覚めたんだね。良かった……大丈夫かい? どこか痛む?」

「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます。治癒してくださったのですね」

 起き上がろうとして、自分がクラウスの膝に寝ていたことに気がついた。どのくらいの時間が経ったのか分からないが、ずっとこの姿勢でいてくれたのだろう。思わず顔が熱くなる。

「あの……重くなかったですか?」

 私が動けると分かって、クラウスはホッとした顔をした。私の顔が赤くなったことには気づいていないようだった。

「大丈夫、それより無事で良かったよ。僕の力では表面の傷を塞いだり、一時的な応急処置しか出来ない。今日は一旦帰って、父さんに改めて治癒してもらった方がいい。もし毒が塗られていたら大変だ」

「でも、せっかくここまで来たのですから……」

「ダメ。今日は帰ろう。またすぐに連れて来てあげるから」

「はい……」

 クラウスの有無を言わさない口調に、従うしかなかった。
 確かに今は痛みもひいているが、時間差で効いてくる毒だったら森の中で倒れてしまうかもしれない。これ以上クラウスに迷惑をかける訳にはいかなかった。

(確実にクラウスではなく私を狙っていたわ。ゴーシュラン王国の誰かが差し向けたのかしら……私が生きていると気づいたの? どうして?)

 考えなければならないことが多すぎて、頭がまとまらなかった。
 クラウスも考え事をしているようで、無言で帰途についた。
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