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店主の言葉にフェルディナンドは眉間にシワを寄せた。
「湧き水が枯れたのか?」
「いいえ、流量は変わりありません。ですが……味が変なのです。なんと言いましょうか……舌に触れると痺れるような感じで。とてもお客様にお出しするパンには使えないのです。あの水でないと、うちのパンは作れないのに……」
フェルディナンドの眉間のシワがますます深くなる。
「舌が痺れる水か……妙な話だな」
「調べに行きましょう。おじ様、場所を教えてください!」
店主はニーナの申し出に驚いていたが、すぐさま地図を持ってきてくれた。
パン屋からそれほど遠くない場所だ。
「もし解決してくださったら、山ほどパンを焼いてお返しします! どうか……」
店主はフェルディナンドの手を強く握り、頭を深く下げた。
「行きましょう、フェル」
「ニーナにパンを食べてもらうためには仕方がないな」
こうして二人は湧き水が出る場所へと向かうこととなった。
地図が指し示していた場所は近くの森の入口だった。
入口付近には水汲み場があり、ちょろちょろと絶え間なく水が流れている。
「ここだわ。見たところ、普通の湧き水のようだけど」
ニーナは水にそっと触れた。
手に集中すると、ほんの微かにピリピリとした感覚があった。
(感覚を研ぎ澄ませないと分からないほど微かな痺れね)
「フェル、この水、確かに触れるとほんの少しだけピリピリ痺れるような感覚があるわ」
「無闇に触っては駄目だよ」
「大丈夫よ。パン屋のおじ様も飲んだって言っていたでしょう?」
ニーナはそう言って両手で水をすくう。そして口に近づけた。
「ニーナ? ちょっと! 飲んでは駄目だって! せめて煮沸してっ……はぁ、貴女はまったく……」
フェルディナンドの制止とニーナが水を飲み込むのは、ほぼ同時だった。
フェルディナンドは呆れたようなため息をつく。
「ニーナ、貴女はもう聖女ではないんだよ? 忘れたの? 危険な事をしないで」
フェルディナンドは恐ろしい顔をしていた。
「ご、ごめんなさい……」
「もし毒だったら水質調査どころではなくなるよ? そうしたら美味しいパンはお預けだね」
「それはっ……困るわ。パンが食べたくて調べているのに」
ニーナは俯きながらチラリとフェルディナンドの表情をうかがった。
相変わらず顔が怖い。
「大体ニーナは軽率すぎる。貴女が毒に侵されたら、誰が助けると思っているの? あいにく僕の治療は、聖女の治癒と違って痛みを伴うからね」
「肝に銘じます……でも、あのっ、飲んだおかげで分かったことがあるの!」
このままではフェルディナンドのお説教が終わらない。ニーナは謝罪をしつつ、話を逸らした。
ニーナの言葉にフェルディナンドが片眉をひょいと上げる。
「それは良かった。舌がしびれる原因を突き止められた?」
「そうなの。この水には小さな気泡が含まれているみたいなの。それもただの空気じゃないわ。通常この程度の気泡がはじけるだけでは、触った時や飲んだ時の違和感はないはず」
ニーナの言葉を聞きながら、フェルディナンドは湧き水を木の枝でくるくるとかき回して観察している。
そしてなにか確信をもったような表情でニーナを見た。
「それじゃあニーナは、この気泡の原因は何だと思う?」
フェルディナンドが湧き水をかき回すと、小さな気泡がパチパチとはじけた。
もう彼も原因が分かったのだろう。
ニーナは気が重たかったけれど、正直に口を開いた。
「湧き水が枯れたのか?」
「いいえ、流量は変わりありません。ですが……味が変なのです。なんと言いましょうか……舌に触れると痺れるような感じで。とてもお客様にお出しするパンには使えないのです。あの水でないと、うちのパンは作れないのに……」
フェルディナンドの眉間のシワがますます深くなる。
「舌が痺れる水か……妙な話だな」
「調べに行きましょう。おじ様、場所を教えてください!」
店主はニーナの申し出に驚いていたが、すぐさま地図を持ってきてくれた。
パン屋からそれほど遠くない場所だ。
「もし解決してくださったら、山ほどパンを焼いてお返しします! どうか……」
店主はフェルディナンドの手を強く握り、頭を深く下げた。
「行きましょう、フェル」
「ニーナにパンを食べてもらうためには仕方がないな」
こうして二人は湧き水が出る場所へと向かうこととなった。
地図が指し示していた場所は近くの森の入口だった。
入口付近には水汲み場があり、ちょろちょろと絶え間なく水が流れている。
「ここだわ。見たところ、普通の湧き水のようだけど」
ニーナは水にそっと触れた。
手に集中すると、ほんの微かにピリピリとした感覚があった。
(感覚を研ぎ澄ませないと分からないほど微かな痺れね)
「フェル、この水、確かに触れるとほんの少しだけピリピリ痺れるような感覚があるわ」
「無闇に触っては駄目だよ」
「大丈夫よ。パン屋のおじ様も飲んだって言っていたでしょう?」
ニーナはそう言って両手で水をすくう。そして口に近づけた。
「ニーナ? ちょっと! 飲んでは駄目だって! せめて煮沸してっ……はぁ、貴女はまったく……」
フェルディナンドの制止とニーナが水を飲み込むのは、ほぼ同時だった。
フェルディナンドは呆れたようなため息をつく。
「ニーナ、貴女はもう聖女ではないんだよ? 忘れたの? 危険な事をしないで」
フェルディナンドは恐ろしい顔をしていた。
「ご、ごめんなさい……」
「もし毒だったら水質調査どころではなくなるよ? そうしたら美味しいパンはお預けだね」
「それはっ……困るわ。パンが食べたくて調べているのに」
ニーナは俯きながらチラリとフェルディナンドの表情をうかがった。
相変わらず顔が怖い。
「大体ニーナは軽率すぎる。貴女が毒に侵されたら、誰が助けると思っているの? あいにく僕の治療は、聖女の治癒と違って痛みを伴うからね」
「肝に銘じます……でも、あのっ、飲んだおかげで分かったことがあるの!」
このままではフェルディナンドのお説教が終わらない。ニーナは謝罪をしつつ、話を逸らした。
ニーナの言葉にフェルディナンドが片眉をひょいと上げる。
「それは良かった。舌がしびれる原因を突き止められた?」
「そうなの。この水には小さな気泡が含まれているみたいなの。それもただの空気じゃないわ。通常この程度の気泡がはじけるだけでは、触った時や飲んだ時の違和感はないはず」
ニーナの言葉を聞きながら、フェルディナンドは湧き水を木の枝でくるくるとかき回して観察している。
そしてなにか確信をもったような表情でニーナを見た。
「それじゃあニーナは、この気泡の原因は何だと思う?」
フェルディナンドが湧き水をかき回すと、小さな気泡がパチパチとはじけた。
もう彼も原因が分かったのだろう。
ニーナは気が重たかったけれど、正直に口を開いた。
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