国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました。もう聖女はやりません。

香木陽灯

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「瘴気よ。ルティシアにいた頃、見たことがあるわ。瘴気に触れた水はこのように気泡を含み、触れたり飲んだりすると、麻痺のような症状が現れる。少量なら毒というほどではないわ。痺れるような感覚は、時間とともに治まる。でも長時間触れたり、濃度の濃い水に触れると……皮膚が溶けてしまう。爛れた皮膚は赤いバラのように見えるのだとか」

 フェルディナンドは頷いて、水をかき回していた木の枝をポイと捨てた。

「僕も以前そのような話を旅人から聞いたことがあるんだ。この水はかなり薄い瘴気に触れたんだろう」
「確かにルティシアで見た時は、もっと気泡がぷくぷくと出ていたはずよ。この水はかなり気泡が小さいわね」

 飲んでも麻痺の症状は出ない。
 水の味をよく知るパン屋だけが、真っ先に違和感を覚えたのだろう。

 すぐに大きな問題になる程ではないだろう。

「被害は出ていないが、放っておく訳にはいかないな。対処法を考えないと」

(聖女の力があれば浄化出来たのに……なんて。駄目駄目。今出来ることをちゃんと考えなきゃ)

 ニーナはもどかしさを振り払うと、頭を回転させる。

「発生源を除去するのが一番なのだろうけど、湧き水の上流をたどるのは難しいかもしれないわ。周辺環境には異変がないようだし、まずは水の浄化方法を考えてみるのはどうかしら? 対症療法的だけど」

 ニーナの提案にフェルディナンドは瞳をキラリと光らせた。

「良い考えだね。瘴気の発生源特定には人数が必要だし、兄さんにでも任せよう。とりあえず、色んな素材で浄水方法を検討してみようか」

 声色がもう楽しそうだ。
 早く色々試してみたいのだろう。フェルディナンドはうずうずしていた。

「そうね。まだ日暮れまでたっぷり時間があるし、一度塔に戻って水を汲める容器を取ってきましょう」
「よし決まりだ。ほらニーナ、早く塔に戻ろう!」


 フェルディナンドはニーナの手を取ると、足早に来た道を戻り始めた。

 塔に戻るといくつか水瓶を用意して、馬車で再び森へと向かう。
 そして湧き水を大量に手に入れたのだった。



 ニーナとフェルディナンドは塔の一室に瘴気対策用の実験室を用意することにした。

「この部屋なら薬草庫から少し離れているから、薬草に影響はないだろう」
「そうね。ここで浄水方法を探りましょう!」

 実験室で浄水装置を作り始めると、フェルディナンドは目に見えて生き生きしだした。

(フェルは実験とか検証が好きなのね。子供みたいに目を輝かせているわ)

「ふむ……砂と泥ではあまり効果がないようだ。やはり異物を取り除くのとは勝手が違うな」

 フェルディナンドはガラス瓶の中の水を眺めながらそう言った。

 それを見ていたニーナは、ふと昔読んだ書物のことを思い出した。

「炭はどうかしら? 水に炭を沈めて一晩おくと、味がまろやかになるって聞いたことがあるわ。もしかしたら、浄水の効果があるかも」

 その言葉にフェルディナンドの顔がパッとさらに明るくなった。

「良いね。となると、いくつか植物の炭で検証しないと……あぁ、薬草部屋の植物じゃ足りないかもしれないな。薪や庭にある木も試したい。乾燥している枝なら出来るだろうか……」

 結局、数種類の植物で炭を焼いていたらすっかり夜も更けていた。


 二人は食事もとらず実験を行い、気がついたら机に伏して眠ってしまっていた。


「……ーナ! ニーナ、起きて!」



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