婚約破棄計画から始まる関係〜引きこもり女伯爵は王子の付き人に溺愛される〜

香木陽灯

文字の大きさ
8 / 81

領主代理の正体(1)

しおりを挟む
「はあ、どうしよう……」 
 
 翌日、クリスティーナは深いため息をついていた。
 マシューの提言で領主代理に手紙を出そうとしたのだが、なんとその領主代理から手紙が来ていたのだ。

 手紙自体は珍しい訳ではない。定期的に領地の様子を報告してくれるのだ。
 この手紙もいつものように領地の様子が簡潔に綴られていたのだが、最後にとんでもない一言が記されていた。

『直接確認したいことがございます。一度お会いしましょう。十五日の午後、お待ちしております』

「こ、これは……偶然?」

 ヘンリーが訪ねてきた翌日に、領主代理からの手紙。疑わずにはいられなかった。
 クリスティーナはすぐにマシューを呼び出した。

「領主代理ってどんな方なの?」
「ポール・ガーディナー様ですか? 民のことをよく考えてくださる方です。その……領主代理がきてから、領民の暮らしは楽になりました。名産品である絹の効率的な生産方法を無償で提供してくださったり、農地を整えてくださったり、皆感謝しています」
「そう。お優しい方なのね。来ていただけて良かったわ」

 マシューが複雑そうな顔をしていのは、前領主であるクリスティーナの父親のことを気にしてのことだろう。
 前領主が劣っていると言ったも同然だからだ。

(私の父より優秀でまともな人であることは間違いないわ。やっぱり私はこのまま隠居していた方が良いのかも……)

 知識も経験もない自分が領主になれば、領民に迷惑がかかるかもしれない。その不安がクリスティーナの頭をよぎった。伯爵とは責任ある立場なのだ。
 
「ですが、お嬢様の復帰を願っておられます」
「え? どういうこと?」

 マシューの言葉に心底驚いた。領主代理はクリスティーナの事情を知る数少ない人だが、事務的な手紙でしか関わったことがない。まさか復帰の可能性まで考えてくれていたのは驚きだった。

「赴任のご挨拶の際、内密に声をかけてくださったのです。『クリスティーナ・フェンネルが戻ってくれるように整えておくから安心しなさい』と」
「……そう。私は知らぬ間に、色んな方の力を借りていたのね」

 聞けばすぐに分かったことなのに、今まで知らなかった。
 クリスティーナは、自分の甘さと幼さが恥ずかしくなった。けれど、恥じているだけでは何も変わらない。

「会いに行きます。領主代理に」

 約束の十五日は三日後だ。クリスティーナは今までの手紙を読み直すことにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「この屋敷に来るのも久しぶりね。はぁ……」

 約束の日、クリスティーナは領主代理の屋敷に来ていた。二年前まで住んでいた屋敷だ。
 良い思い出がない屋敷に足を踏み入れるのは憂鬱なことだった。

(もうフェンネル家じゃないのだから……しっかりしないと!)

 ただでさえ外出は久しぶりなのだ。余計なことを考えているとマナーをミスしてしまいそうだ。
 屋敷の使用人に案内されて執務室へと向かう。

「クリスティーナ様がいらっしゃいました」
「お通ししなさい」

 緊張で強張った身体を無理矢理動かし、なんとか部屋に入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜

まさかの
恋愛
ソフィアは二十歳で死んでしまった。 王太子から婚約破棄されてからは、変な組織に入り、悪の道に進んでしまった。 しかし死ぬ間際に人の心を取り戻して、迷惑を掛けた人たちに謝りながら死んでいった――はずだった! 気付いたら過去に戻っていた! ソフィアは婚約破棄される当日に戻ってきたと勘違いして、自分から婚約破棄の申し出をしたが、まさかの婚約破棄される日を一年間違えてしまった。 慌てるソフィアに救いの手、新たな婚約を希望する男が現れ、便乗してしまったのが運の尽き。 なんと婚約をしてきたのは未来で、何度も殺そうとしてきた、ドSの武闘派司祭クリストフだった。 なのに未来とは違い、優しく、愛してくれる彼に戸惑いが隠せない だが彼もなんと未来の記憶を持っているのだった! いつか殺されてしまう恐怖に怯えるが、彼は一向にそんな素振りをせずに困惑する毎日。 それどころか思わせぶりなことばかりする彼の目的は何!? 私は今回こそは本当に幸せに生きられるのだろうか。 過去の過ちを認め、質素にまじめに生き抜き、甘々な結婚生活を送る、やり直し物語。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。 第10話から甘々展開になっていきます。

追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する

もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。 だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く

崖っぷち令嬢の生き残り術

甘寧
恋愛
「婚約破棄ですか…構いませんよ?子種だけ頂けたらね」 主人公であるリディアは両親亡き後、子爵家当主としてある日、いわく付きの土地を引き継いだ。 その土地に住まう精霊、レウルェに契約という名の呪いをかけられ、三年の内に子供を成さねばならなくなった。 ある満月の夜、契約印の力で発情状態のリディアの前に、不審な男が飛び込んできた。背に腹はかえられないと、リディアは目の前の男に縋りついた。 知らぬ男と一夜を共にしたが、反省はしても後悔はない。 清々しい気持ちで朝を迎えたリディアだったが……契約印が消えてない!? 困惑するリディア。更に困惑する事態が訪れて……

【本編完結】獣人国での異種族婚

しろねこ。
恋愛
獣人とひと言で言っても多種多様だ。 力の強いもの弱いもの、体の大きいもの小さいもの、違いがあり過ぎて皆が仲良く暮らすというのは難しい。 その中でも変わらず皆が持っているのは感情だ。喜怒哀楽、憎悪や猜疑心、無関心やら悪戯心……そして愛情。 人を好きになるのは幸せで、苦しい。 色々な愛情表現をお楽しみください。 ハピエン厨なので、こちらもそのような話となる予定。 ご都合主義、自己満、それと両片思いが大好きです(n*´ω`*n) 同名キャラにて色々なお話を書いておりますが、作品により立場、性格、関係性に多少の違いがあります。 他サイトさんでも投稿中!

婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾
恋愛
婚約者である王太子ユリウスに、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄を告げられた 公爵令嬢アイシス・フローレス。 ――しかし本人は、内心大喜びしていた。 「これで、自由な生活ができますわ!」 ところが王都を離れた彼女を待っていたのは、 “冷酷”と噂される辺境伯ライナルトとの 契約結婚 だった。 ところがこの旦那様、噂とは真逆で—— 誰より不器用で、誰よりまっすぐ、そして圧倒的に強い男で……? 静かな辺境で始まったふたりの共同生活は、 やがて互いの心を少しずつ近づけていく。 そんな中、王太子が突然辺境へ乱入。 「君こそ私の真実の愛だ!」と勝手な宣言をし、 平民少女エミーラまで巻き込み、事態は大混乱に。 しかしアイシスは毅然と言い放つ。 「殿下、わたくしはもう“あなたの舞台装置”ではございません」 ――婚約破棄のざまぁはここからが本番。 王都から逃げる王太子、 彼を裁く新王、 そして辺境で絆を深めるアイシスとライナルト。 契約から始まった関係は、 やがて“本物の夫婦”へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 辺境スローライフ×最強旦那様の溺愛ラブストーリー!

婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました

六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。 「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」 彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。 アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。 時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。 すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。 そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。 その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。 誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。 「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」 「…………え?」 予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。 なぜ、落ちぶれた私を? そもそも、お会いしたこともないはずでは……? 戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。 冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。 彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。 美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。 そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。 しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……? これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。

処理中です...