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視察へ(1)

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 翌日以降、クリスティーナは領内の視察へ出かけることが多くなった。
 ジュリアスに視察がしたいと申し出たらあっさり受け入れられたため、出来る限りの時間を使って街を回っていた。

「僕もそろそろ行かせようと思ってたんだー。実際に見てみないと分からないことも多いからね。皆には領主代理の助手って伝えてあるから、話もスムーズに聞けるはずだよ」

 以前にもジュリアスから街に出たほうが良いと言われていたし、クリスティーナ自身も街の様子や人々の生活を肌で感じたかった。

 ただ、急に行くことにしたのは別の理由がある。

(ヘンリーと顔を合わせずに済む……今会ったら、また泣いてしまいそうだもの)

 ヘンリーが好きという気持ちが落ち着くまで、なるべく会いたくなかった。会えば気持ちが口から出てしまいそうだった。

 一人で視察に行ってそのまま自宅に帰る。そうすればヘンリーと顔を合わせなくて済む。それが大変ありがたかった。

 自宅で報告書を書き、領主の屋敷へ送る。口頭で説明できない分、詳細に書かなければならない。
 以前より格段に忙しくなったが、それで良かった。

(忙しい方が余計なことを考えなくて済むわ)

 気がつけば三ヶ月以上、そんな生活が続いていた。

 クリスティーナが住むモール領は、王都から少し離れた領地だ。大きくもないが小さくもない。ほとんどが農地で人の住むエリアは限定的だ。
 領民のほとんどは、名産品である絹の生産に関わる仕事に従事している。
 それなりに賑わっているこの領地を、クリスティーナは気に入っていた。

「お嬢ちゃん、今日はどうしたんだい?」

 農地まで来ると一人の老人に声をかけられた。

「お爺さん! 久しぶりね。今日は桑畑の様子を見学させてもらいに来たの。今年は桑の質が良いって聞いたわ」
「そうなんだよ。だから蚕たちも喜んでる。いい絹が出来そうだ。期待してくれよ!」
「えぇ、楽しみだわ!」

 気さくに話しているが、ここまで打ち解けるまでは苦労した。
 最初は話しかけても、誰もがどこか余所余所しかった。領主代理の助手とはいえ、いきなり貴族の若い女が来たら迷惑だろう。
 それでも通い詰めて色々な話をするうちに、仕事仲間のように接してくれるようになったのだ。

(領の皆は仕事に誇りを持っている。そんな人たちに認めてもらえると、嬉しくなるわね)

 クリスティーナがモール領の管理に関わるようになってから大きな問題は起きていなかったが、小さい課題は常にあった。
 それを見つけてジュリスとともに解決まで導く仕事が好きだった。
 ささやかでも誰かの役に立てている実感が、クリスティーナをもっとやる気にさせた。

「あら、畑に出ている人が随分と少ないわね……お爺さんは畑仕事を引退したって言ってたのに働いているし……どうしたのかしら?」

 畑を見学していると、違和感に気がついた。
 以前よく見かけていた人が何人かいない。その代わり、引退したはずの人たちが畑に出ていた。
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