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視察へ(2)

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「お爺さん、なんだか人が少ないけれど……何かあったの?」

 先ほど話しかけてくれた老人に声を掛けると、少し困ったような顔をしながら理由を教えてくれた。

「それがなぁ……まぁ大した話じゃねぇんだが、最近身体を壊す奴が多くてな。人手が足りてねぇんだ。それでこんな老いぼれも駆り出されてるのさ」
「えぇ! 大問題じゃない! な、なにかの流行り病なの!?」

 クリスティーナは驚いて大声を出した。病気が流行っているとしたら、すぐに対応しなければならない。
 クリスティーナのあまりの心配ぶりに、老人は笑いながら首を振った。

「はっはっはっ、お嬢ちゃんが心配するようなことじゃねぇさ! 情けねぇ話だけどよ、若い連中が単に腰を痛めているのさ」
「腰を?」
「最近、ここの絹の質が上がったって話が国中に広まっただろう? それで、今まで以上に絹の需要が高まってるのさ。だから生産量を増やそうと、張り切り過ぎちまったんだ。皆働きすぎってことだな」
「そうだったの……それなら休まないとね」

 確かに絹の需要が高まっているのは感じていた。ジュリアスが宣伝に力を入れていて、じわじわと人気が出ているのだ。

「領主様が頑張ってくれたんだから、俺達も報いたいんだが……身体がついていかねぇ。今は俺達みたいな老いぼれも仕事に復帰して、なんとかやってるよ。まあ、贅沢な悩みだな」

 カラカラと笑う老人とは反対に、クリスティーナの表情は暗くなった。
 モール領が豊かになるのは嬉しいことだが、それは領民の健康があってこそだ。今のように無理をさせていては、いずれ破綻してしまう。

「贅沢な悩みなんかじゃないわ! 話してくれてありがとう。領主様と一緒に何か対策を考えてみるね」
「領主様に言うほどのことじゃねぇよ。大丈夫だって。もうすぐ夏祭りがあるだろう? それまでに治したいって、大事を取って休んでるだけさ」
「夏祭り? あぁ、もうそんな時期なのね」

 毎年夏至の日に行われる祭りは、国中の人々が楽しみにしている行事の一つだ。
 国に加護をもたらしたと言われる女神に感謝する日で、一日中楽しむことを目的としている。国民が楽しむ姿を女神に見せて、感謝を伝えるらしい。
 子供たちは一日中歌ったり踊ったりするし、大人も酒を飲んだりはしゃいだりするのだ。

(確かに夏祭りに出られないのは辛いわね。皆それまでに少しは良くなるといいけど……)

「やっぱり少しの間、受注を減らした方が良いかしら? 皆の様子を伝えたら領主様も賛成してくれると思うわ」

 領民に無理をさせたくない。そう思って提案したのだが、老人は渋い顔をした。

「ダメだよお嬢ちゃん。俺たちは領主様のために頑張りたいのさ。滅多に会わないけど、本当に良い人だ。皆感謝してるし、期待に応えたいんだ。だから仕事が減ったら若い連中が悲しんじまう」
「……分かったわ。でも皆さんの身体に関わることだから、しっかり対策しますからね!」
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