婚約破棄計画から始まる関係〜引きこもり女伯爵は王子の付き人に溺愛される〜

香木陽灯

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ヘンリーの悩み

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 クリスティーナが桑畑の視察をしていた頃、領主の屋敷ではジュリアスとヘンリーが書類の承認作業に追われていた。

「ねえ、また喧嘩したでしょ?」
「いいえ、僕が避けられているだけです」

 仕事に飽きたジュリアスがヘンリーに話しかけた。
 いつか聞かれるだろうと分かっていたヘンリーは、淡々と答える。

「心当たりあるの?」
「それが……よく分からないのです。ソフィア・マルネ嬢とのお茶会以降、顔を合わせてくれなくなりました」

 ヘンリーは、なぜクリスティーナから避けられているのか分かっていなかった。
 お茶会の帰りの馬車で楽しく話していたはずが、急に彼女が泣き出してしまったのだから。

「お前迎えに行ったんだろ? さては、強引に迫ったなー!」
「違う……とは言い切れませんね……」
「クリスティーナは見るからに清純だし、強引に迫ったら引くでしょ」
「迫った訳ではないですよ……」

 確かに泣いている時に抱き寄せたが、別に嫌がられているとは感じなかった。

(あの時……ホッとしたからと言って泣いていたが、何か不安になる出来事があったということか? それとも本当は別の理由が?)

 何度考えても答えは出ない。クリスティーナに避けられているという事実だけがそこにあるだけだった。

「ねぇー仕事に支障が出ないようにって言ったのに」
「申し訳ありません」

 ヘンリーは力なく謝った。
 ジュリアスの言うことはもっともだ。自分のせいでクリスティーナの仕事が変化してしまったのだから。
 しおらしいヘンリーの姿に、ジュリアスは笑って言った。

「まあ良いよ。おかげでクリスティーナがバンバン視察に出かけてくれるし。報告書読んだ? 仕事量すごいことになってるよね。むしろお前には感謝しないといけないかな?」
「良くないです! クリスティーナに嫌われたかもしれないし、避けられているのに」

 ジュリアスの軽い返事に、ヘンリーは大声で反論した。こちらは一大事なのだと。

(一体どうしたらいいんだ。謝ろうにも避けられている理由が分からなければ、解決にならない……)

 ヘンリーは頭を抱えてため息をついた。
 その様子にジュリアスがぼそりと呟いた。

「一人の女性にこんなにも右往左往してるヘンリー様、皆が見たら気絶しちゃうよ」

 さすがに憐れに思ったのか、ジュリアスが助け船を出した。

「もーすぐ夏祭りがあるでしょ? そこがチャンスじゃない?」
「夏祭り……」
「一応婚約者なんだし、季節の行事には一緒に参加してくれるでしょ? そこで楽しく過ごしたら、ポロッと本音を話してくれるかもよー」

 避けられていても、仮でも、一応婚約者なのだ。共に祭りに参加する権利はヘンリーにある。

「そうですね。夏祭りでなぜ避けるのか聞いてみます。理由が分かれば何か対策出来るかもしれませんし」

 希望が見えてきたヘンリーは、力強く頷いた。

「でも慎重に話さないと余計に避けられると思うから、気をつけなねー。強引はダメだよー。……はぁ、この二人はお互いのことになると本当に不器用だから」

 ジュリアスの呟きは、ヘンリーの耳に入ることなく消えていった。
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