41 / 81
逃げられない(1)
しおりを挟む
領民の腰痛について、なるべく早くジュリアスに伝えたいと思ったクリスティーナは、久しぶりに領主の屋敷へとやって来た。
(殿下、いらっしゃるかしら? 今日はこちらにいるって言っていたけど……)
ジュリアスの予定を思い出しながら執務室に入ると、そこにはジュリアスとヘンリーがいた。
(ヘンリーもいる! 殿下の付き人だから当たり前か……)
ヘンリーがいて当然なのだが、あまりに久しぶりに姿を見たため、戸惑いで心臓が大きく波打った。
「あークリスティーナ! 久しぶりじゃん!」
「お久しぶりですね、クリスティーナ」
「お、お久しぶりです殿下。……ヘンリーも久しぶりね」
執務室に三人しかいないのに、無視することは出来ない。クリスティーナは目を合わせないようにしながら挨拶をした。
「視察からこっちに寄るのは珍しいね。どうしたの?」
「実はご相談したいことがありまして……」
(そうよ! 仕事の話をしに来たのだから、気まずくなんかないわ!)
クリスティーナは気を取り直して、桑畑で聞いたことを話した。腰痛で多くの人が仕事を休みがちであること、人手不足解消に老人が駆り出されていること、当人たちは仕事を減らしたくないこと……。
「あまり大きな問題ではないですが、これから事業の拡大を目指すなら見過ごせないかと」
「そうだね。……クリスティーナは何か案を考えた?」
黙って聞いていたジュリアスは、答えを出さずにクリスティーナへと尋ねた。
思いがけない質問に、クリスティーナは頭をフル回転させる。
「えっと、まず一番負担の大きそうな農作業と製糸工程を調査して、作業道具の見直しをする。とかですかね。長時間座る椅子や重たい道具を改良出来れば、多少は負担が軽減すると思います」
クリスティーナの提案にジュリアスは頷いて、にこっと笑った。
「じゃあ、それクリスティーナに任せようかな」
「え?」
「いつか僕と交代して本当の領主になる時、何か成果がないと、皆認めてくれないかもよー? 今のうちに、自分の手柄を立てておきな」
「はいっ……」
ジュリアスは、本気でクリスティーナを領主にするつもりなのだろう。これは交代を見据えて出された課題だ。そう思うと自然とクリスティーナの背筋が伸びた。
「クリスティーナの案、良いと思うよ。後は……対症療法的な案も一つあるといいかな。現状、腰を痛めている人を直接癒すような、ね?」
「は、はい」
ジュリアスのアドバイスは的確だが、具体的には教えてくれなかった。ここからは自分で考えるしかない。
(対症療法的な……でもどうしたら? 薬を安価で仕入れる? 鎮痛剤は副作用がありそうだし、もっと必要としている人々に回すべきわ。うーん……)
すぐに結論の出るものでもない。資料を集めて色々検討する必要があるだろう。
「また改善案をまとめたら、ご相談させてください」
「オッケー」
「では失礼します」
挨拶をして帰ろうと扉に向かうと、後ろから肩を掴まれた。
「クリスティーナ、少しお時間よろしいですか?」
振り向くと、険しい顔のヘンリーがそこにいた。
(ヘンリーのこと忘れてた……!)
(殿下、いらっしゃるかしら? 今日はこちらにいるって言っていたけど……)
ジュリアスの予定を思い出しながら執務室に入ると、そこにはジュリアスとヘンリーがいた。
(ヘンリーもいる! 殿下の付き人だから当たり前か……)
ヘンリーがいて当然なのだが、あまりに久しぶりに姿を見たため、戸惑いで心臓が大きく波打った。
「あークリスティーナ! 久しぶりじゃん!」
「お久しぶりですね、クリスティーナ」
「お、お久しぶりです殿下。……ヘンリーも久しぶりね」
執務室に三人しかいないのに、無視することは出来ない。クリスティーナは目を合わせないようにしながら挨拶をした。
「視察からこっちに寄るのは珍しいね。どうしたの?」
「実はご相談したいことがありまして……」
(そうよ! 仕事の話をしに来たのだから、気まずくなんかないわ!)
クリスティーナは気を取り直して、桑畑で聞いたことを話した。腰痛で多くの人が仕事を休みがちであること、人手不足解消に老人が駆り出されていること、当人たちは仕事を減らしたくないこと……。
「あまり大きな問題ではないですが、これから事業の拡大を目指すなら見過ごせないかと」
「そうだね。……クリスティーナは何か案を考えた?」
黙って聞いていたジュリアスは、答えを出さずにクリスティーナへと尋ねた。
思いがけない質問に、クリスティーナは頭をフル回転させる。
「えっと、まず一番負担の大きそうな農作業と製糸工程を調査して、作業道具の見直しをする。とかですかね。長時間座る椅子や重たい道具を改良出来れば、多少は負担が軽減すると思います」
クリスティーナの提案にジュリアスは頷いて、にこっと笑った。
「じゃあ、それクリスティーナに任せようかな」
「え?」
「いつか僕と交代して本当の領主になる時、何か成果がないと、皆認めてくれないかもよー? 今のうちに、自分の手柄を立てておきな」
「はいっ……」
ジュリアスは、本気でクリスティーナを領主にするつもりなのだろう。これは交代を見据えて出された課題だ。そう思うと自然とクリスティーナの背筋が伸びた。
「クリスティーナの案、良いと思うよ。後は……対症療法的な案も一つあるといいかな。現状、腰を痛めている人を直接癒すような、ね?」
「は、はい」
ジュリアスのアドバイスは的確だが、具体的には教えてくれなかった。ここからは自分で考えるしかない。
(対症療法的な……でもどうしたら? 薬を安価で仕入れる? 鎮痛剤は副作用がありそうだし、もっと必要としている人々に回すべきわ。うーん……)
すぐに結論の出るものでもない。資料を集めて色々検討する必要があるだろう。
「また改善案をまとめたら、ご相談させてください」
「オッケー」
「では失礼します」
挨拶をして帰ろうと扉に向かうと、後ろから肩を掴まれた。
「クリスティーナ、少しお時間よろしいですか?」
振り向くと、険しい顔のヘンリーがそこにいた。
(ヘンリーのこと忘れてた……!)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
123
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる