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平和な一日
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ここ数週間、クリスティーナの心は穏やかだった。
ヘンリーとの話し合いで自分の気持ちやヘンリーの気持ちを確かめ合えたし、領主問題も解決した。胸のつかえが取れて、平和な日々を過ごせることが嬉しかった。
(それに、今日から……)
「クリスティーナ楽しそー。こーんな地味作業なのに!」
ジュリアスが不満そうに書類の山に埋もれている。今日から久しぶりに三人での仕事なのだ。
クリスティーナが伯爵を継続し、領主になることを決めたので、引き継ぎ作業を始めたのだ。
「そういえば、二人の結婚式はいつやるの? どんな感じにするの?」
ひたすら署名する作業に飽きたのだろう。ジュリアスは雑談モードになっている。
「えっと……半年後くらい、ですかね? 私は両親もいないですし、親しい人だけ呼んでひっそりやりたいな、なんて……」
「ぼくもそれで構いません。母もそれで納得すると思いますし」
クリスティーナとヘンリーは、見つめ合って微笑んだ。あまり派手なパーティーが好きではない二人なので、こういう時の意見は合うようだ。
それに対してジュリアスはガッカリしたような声をあげた。
「えぇー! 派手にやらないの? 折角の式なんだよ? 僕の腹心の部下二人が結婚するってのに、地味ぃーにやるの? 僕がプロデュースしてあげるから、派手にやろうよー!」
「殿下、僕たちの結婚式を政治利用するつもりでしょう? そうはさせませんから」
甘えた声を出すジュリアスに、ヘンリーが素っ気なく返す。
「えー……ちょっとくらい良いじゃん! マルネ公爵家とかレイモンド公爵家って穏健派って感じだけど王家とは一線引いてるんだよね。だから、ちょーっと仲良くしたいな、なんて」
「殿下!」
ヘンリーがジュリアスを諌めると、ジュリアスが露骨に態度を変えた。
「なあに? 僕が君たちのために、どれだけ無償労働したと思ってるの? 僕が何の見返りもなしに、君たちをくっつけるよう働きかけると思う? こういう人脈づくりのためだよ! それに、僕って一応第二王子なんだよ? 少しくらい美味しい思いしても良くない? 頑張った僕になんの報酬もないの?」
言い方こそ柔らかいが、声に圧が含まれている。第二王子かつ上司という立場を、存分に利用するつもりらしい。
ジュリアスがこうなってしまうと、ヘンリーもクリスティーナも黙って従うしかない。
(確かに殿下のおかげで色々と解決してるし……でも大規模なのは……)
そう思ったクリスティーナは、二人の間に割って入った。
「殿下、小さい規模の式でもカーミラ様とソフィアは必ず招待します。ですからお話くらいは出来ると思います。でも、それ以上のことは求められても困ります。ご恩は必ず他で返しますから!」
ダメ元でそう言うと、ジュリアスは案外あっさり引き下がった。
「他で返してくれるの? ふーん……まあいいよ。公爵家の人間二人と話さえ出来れば、こっちのもんだからさ。あー楽しみ!」
絶対に話術で丸め込もうとしている。ジュリアスの目が獲物を狙う鷹のように鋭くなっているのを見て、クリスティーナは寒気がした。
なんだか友人を売ったような気分だ。
(後でソフィアにフォローを入れておかないと。ごめんね……)
クリスティーナは心のなかで友人に謝罪した。だが、このあと結婚式の準備や領主の引き継ぎが本格化したことで、連絡するのをすっかり失念してしまうのだった。
ヘンリーとの話し合いで自分の気持ちやヘンリーの気持ちを確かめ合えたし、領主問題も解決した。胸のつかえが取れて、平和な日々を過ごせることが嬉しかった。
(それに、今日から……)
「クリスティーナ楽しそー。こーんな地味作業なのに!」
ジュリアスが不満そうに書類の山に埋もれている。今日から久しぶりに三人での仕事なのだ。
クリスティーナが伯爵を継続し、領主になることを決めたので、引き継ぎ作業を始めたのだ。
「そういえば、二人の結婚式はいつやるの? どんな感じにするの?」
ひたすら署名する作業に飽きたのだろう。ジュリアスは雑談モードになっている。
「えっと……半年後くらい、ですかね? 私は両親もいないですし、親しい人だけ呼んでひっそりやりたいな、なんて……」
「ぼくもそれで構いません。母もそれで納得すると思いますし」
クリスティーナとヘンリーは、見つめ合って微笑んだ。あまり派手なパーティーが好きではない二人なので、こういう時の意見は合うようだ。
それに対してジュリアスはガッカリしたような声をあげた。
「えぇー! 派手にやらないの? 折角の式なんだよ? 僕の腹心の部下二人が結婚するってのに、地味ぃーにやるの? 僕がプロデュースしてあげるから、派手にやろうよー!」
「殿下、僕たちの結婚式を政治利用するつもりでしょう? そうはさせませんから」
甘えた声を出すジュリアスに、ヘンリーが素っ気なく返す。
「えー……ちょっとくらい良いじゃん! マルネ公爵家とかレイモンド公爵家って穏健派って感じだけど王家とは一線引いてるんだよね。だから、ちょーっと仲良くしたいな、なんて」
「殿下!」
ヘンリーがジュリアスを諌めると、ジュリアスが露骨に態度を変えた。
「なあに? 僕が君たちのために、どれだけ無償労働したと思ってるの? 僕が何の見返りもなしに、君たちをくっつけるよう働きかけると思う? こういう人脈づくりのためだよ! それに、僕って一応第二王子なんだよ? 少しくらい美味しい思いしても良くない? 頑張った僕になんの報酬もないの?」
言い方こそ柔らかいが、声に圧が含まれている。第二王子かつ上司という立場を、存分に利用するつもりらしい。
ジュリアスがこうなってしまうと、ヘンリーもクリスティーナも黙って従うしかない。
(確かに殿下のおかげで色々と解決してるし……でも大規模なのは……)
そう思ったクリスティーナは、二人の間に割って入った。
「殿下、小さい規模の式でもカーミラ様とソフィアは必ず招待します。ですからお話くらいは出来ると思います。でも、それ以上のことは求められても困ります。ご恩は必ず他で返しますから!」
ダメ元でそう言うと、ジュリアスは案外あっさり引き下がった。
「他で返してくれるの? ふーん……まあいいよ。公爵家の人間二人と話さえ出来れば、こっちのもんだからさ。あー楽しみ!」
絶対に話術で丸め込もうとしている。ジュリアスの目が獲物を狙う鷹のように鋭くなっているのを見て、クリスティーナは寒気がした。
なんだか友人を売ったような気分だ。
(後でソフィアにフォローを入れておかないと。ごめんね……)
クリスティーナは心のなかで友人に謝罪した。だが、このあと結婚式の準備や領主の引き継ぎが本格化したことで、連絡するのをすっかり失念してしまうのだった。
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