婚約破棄計画から始まる関係〜引きこもり女伯爵は王子の付き人に溺愛される〜

香木陽灯

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我慢の夜

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 ヘンリーはため息をついた。クリスティーナと楽しく話をする。それだけのつもりだったのに……。

「クリスティーナ? 大丈夫ですか?」

 しまった、とヘンリーが思った時には、もう遅かったのだ。ヘンリーがクリスティーナに声をかけた時、彼女の目はトロンと潤んでいた。頬も薄っすらと赤くなり、ぼんやりとしている様子だった。

(これ程お酒に弱いとは……)

 ヘンリーが確認した限り、クリスティーナはお酒を一杯しか飲んでいないはずだ。食事を終え、ワインを飲み始めた時には意識がハッキリしていた。
 それが数分後には、この有り様だった。

「ヘンリィー……たのしいわねぇ。いっしょにたべるのは……ひさしぶりね」

 クリスティーナは呂律が回っていなかったけれど、かなり上機嫌だ。泣いたり喚いたりしないだけマシだろう。

(酔って泣いている姿も見てみたかった気もするが)

 という自分の邪な考えを胸にしまい込み、紳士的な笑みを浮かべる。

「そうですね。お水を少し飲みませんか?」
「んーん! このおさけのむぅ」
「じゃあ僕が注ぎますね」

 差し出されたグラスに水を注いでやると、クリスティーナはそのまま美味しそうに飲んだ。最早飲めれば何でも良いのだろう。

「おいしーね。ヘンリーといっしょだから、かな」

 あぁ、さっき理性をフル稼働させたというのに、無自覚で煽らないでほしい。今日はどれだけ耐えれば良いのだろうか。執務室でも、相当我慢したのだが。

(あまり煽るなら、押し倒してしまいすよ?)

 クリスティーナに目で訴えても、全然焦点が合っていないので無駄だろう。
 ヘンリーはまた長めのため息を吐く。

「ねーぇー」
「何ですか?」
「しあわせねぇー。えへへ、ヘンリーのおかげ。ひとりは、さびしいから」
「……」
 
 ポツリと呟かれた言葉は、今まで聞いてきたどんな言葉よりも重たかった。

 一体、どれだけの孤独に耐えてきたのだろう。

(もう寂しい思いはさせない。貴女の周りの人間は皆、そう思っています)

「貴女はもう一人じゃないですよ」
「うん! あのねヘンリー……えへへ、あいしてるわ」
「僕も愛していますよ」

 嬉しそうに笑っているクリスティーナが、愛おしくてたまらない。

「じゃあぎゅってしてー」

 けれど、やはり酔っ払いの扱いは大変なのだ。
 両手を広げてハグを待ち構えているクリスティーナは可愛いけれど、そこに飛び込めるほど純粋な男ではない。
 どうしたものかと思案していると、クリスティーナがぽろぽろと涙を落とした。

「どうしてしてくれないの? いやだった? きらい?」
「いいえ……」

 気持ちを落ち着かせて、クリスティーナの側に寄る。そうしてそっと抱きしめると、ぎゅっと腕を回された。
 あぁ、本当に厄介だ。

「うふふ、ヘンリーだぁ」

 体重を預けてきた彼女は、そのまま寝息を立て始める。

「はぁ……おやすみなさい、クリスティーナ」

 今日の自分の振る舞いを褒めてやりたい。クリスティーナと付き合うのに、これ程忍耐力が必要だなんて思わなかった。



 翌日、クリスティーナの慌てっぷりは、見ていて可愛らしかった。昨日の我慢が報われるほどには。

「ヘ、ヘンリー? 昨夜のことだけど……私、途中で寝てしまったみたいで……」
「知っていますよ。ベッドに運んだのは僕ですから。使用人の皆さんにも大変感謝されました」
「あの、私また何か失礼なことを……?」

 頑張って探りを入れようとしているクリスティーナは、健気でとても愛おしい。
 昨日あれだけ翻弄してきたのだから、少しくらい仕返ししても許されるだろう。

「どうでしょう? ご自分で思い出せないのですか? 僕にあんなに……ふふっ」

 ヘンリーが意地悪く笑うと、クリスティーナは耳まで真っ赤になった。

「酔っているクリスティーナは、とても魅力的でした。あぁ……でもどうか僕以外の前で、酔ったりしないでくださいね」

 そしていつか、素面の時に愛を囁いてください。
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