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夜 (3)

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 クリスティーナはその時ようやく、ヘンリーと両思いなのだと心の底から実感した。

「ヘンリーって……赤くなると可愛い」

 思わず口からこぼれた言葉に、ヘンリーがピクリと反応した。

「おや、クリスティーナの方が比較にならないくらい可愛いですよ? 証明いたしましょうか?」
「や、結構です。大丈夫です。十分です。ま、待ってってば!」

 ヘンリーはクリスティーナの腰をするりと撫で、もう片方の手で顎を掴んだ。
 艶っぽく挑発的な瞳が青く光っている。

(マズい……)

 ヘンリーの瞳を見ていると、吸い込まれてしまいそうだ。頭の片隅で警報が鳴っていたけれど、目を離すことが出来なかった。

「ヘンリー……」
「冗談です。そろそろ遅いですから、帰りましょう。送りますから」

 急にさっと身体を離され、クリスティーナは我に返った。
 もう少し見つめ合っていたら、どうにかなってしまいそうだった。

(もう帰る時間なのね……)

 名残惜しい。せっかく思いを伝え、大切なことも話し合えたのに……。そう思った自分に驚いたが、本心だった。

 そして気がつくと、無意識にヘンリーの服の裾を掴んでいたのだ。

「どうかしましたか?」
「あ、あのっ……」
「はい?」
「もし良かったら、家に寄っていかない? 一杯だけ付き合ってもらえないかしら? もう少しだけ、一緒に……いたくて」

 口からぽろぽろと勝手に言葉が紡がれていく。クリスティーナは、自分の発言に耳を疑った。

(今、私何を……)

 訂正しなければ。明日も仕事があるのだし、引き留めたことを謝罪しなければ。頭ではそう思うのに、口は全く動かなかった。

「是非。お邪魔させてください」

 クリスティーナの葛藤を知る由もないヘンリーは、嬉しそうに微笑んでそう言った。



 ヘンリーを連れて帰ると、使用人達は大喜びだった。
 いつも通り仕事をこなしているけれど、顔がにこにこしている。見守りオーラみたいなものがバンバンに出ていた。

(そんな優しそうな目で見ないでっ! は、恥ずかしいっ……)

「この家にお邪魔するのは二回目ですね」
「小さい家でしょう? 客間が一番広いくらいよ」

 クリスティーナは落ち着かなかった。
 お茶だけ一杯飲んで帰ってもらおうと思っていたのに、モニカが「お食事も是非」とヘンリーを誘ったからだ。

(急に食事の準備が増えたらモニカが困るでしょう!?)

 そう思って目線で合図をしたのだが、パチンとウインクを返されてしまった。「お任せください」と言わんばかりに。

(そうじゃない……! そうじゃないよモニカ!)

「ごめんなさい。無理に引き止めてしまって……遅くなってしまうわ。お母様も心配するでしょう?」

 クリスティーナが謝ると、ヘンリーは首を横に振った。

「仕事の都合上、帰宅時間は変則的なので、遅くなっても大丈夫です」

 確かにヘンリーは仕事が早く終わっても、王都で別の仕事をすることがある。ジュリアスから色々依頼されているようだし、夜遅くなることもあるのだろう。

「付き人のお仕事は大変なのね。それなのに、いつも私のフォローをしてくれてありがとう」
「好きでやってることですから」
「それでも、ありがとう」



 こんなに穏やかな夜は久しぶりだった。
 ヘンリーとの会話も楽しくて、食事も美味しくて……だから良い気分になって、ついお酒を飲んでしまったのだ。

「クリスティーナ? 大丈夫ですか?」

 そんな声が聞こえた気がした。
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