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真実の世界
父と母は
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「だから、ヴァーザさんに助けられたんだ」
僕の言葉に顔を寄せて睨みつけて来たザインだった。真剣と言うよりも信じられないと言う顔だった。ザインさんはしつこいくらいヴァーザさんの顔つきを確認して間違いないと分かると話し始めた。
「ヴァーザは『希望の光』パーティのリーダーだった。ヴァーザはスキル『祝福』で回復要員だった。他のパーティメンバーはアクラクと言う女水魔法使いとレニアスと言う男で風魔法使いだった。
パーティランクはAで後衛しか居ないパーティにしては高ランクだった。前衛の攻撃が不足して居るからいつもメンバーを募集してランクを上げているのだと説明を受けていたんだ。」
そこまで言うとひと息付いて思い出しているようだった。
「今から考えればおかしな事だと分かる。でも、条件が良かった。前衛として働けば報酬は6割が得られ戦う事だけで他の雑務はヴァーザ達がしてくれると言う条件だったんだ。
希望の光に参加する前の依頼で意気投合した俺とナメシは色々考えてパーティに入る事にしたんだ。ナメシも俺も妻子持ちだから金は少しでも多い方が良いと金に目が眩んで居たんだ。
だから奴らの狙いに気付かなかった。」
悔しそうにザインは拳を握って小さくテーブルを叩いた。
「ヴァーザが持ってきた依頼は『ワイバーン討伐』だった。」
ザインは拳を握って何かに耐えるように上を睨んだ。
「場所はタツミ(東南)の濫瀧の迷路だった。
クルシュ高原に住むワイバーンが増えて里を襲うようになった為に数減らしの為の依頼だった。奴らワイバーンは数が増えると瀧に住む魔物だけでは餌が足りなくなって人里を襲うんだ。
ワイバーン単体ではC級レベルだが複数になるとその脅威はB級に近づく。だから強力な前衛である俺達に声を掛けたと言って居たんだ。後衛の風と水魔法でワイバーンを落とすからそれを倒すと言うのが俺達の仕事だった。
確かに俺とナメシでは空を飛ぶワイバーンには手を焼くだろうけど後衛の魔法の援助があれば対処可能だと考えた。」
当時を思い出しながら話すザインはゆっくりだったけど一線で活躍していたナメシお父様の様子が伺えた。
「ねえ、ワイバーンってどんな魔物なの」
エレが聞いた。ザインの話からすれば空を飛ぶらしいと分かってもその姿が分からない。
「ああ、そうか。お前達はまだワイバーンを見たことが無かったか」
ザインがワイバーンの姿形を説明してくれる。
「ワイバーンって言うのはな、羽毛の無い鳥みたいな魔物だ。鳴くときはケェーケェと鳴くんだ。攻撃をする時はもっと威嚇が込められてゲェーゲェになるな。
小さい物で1m位の高さがあって、大きい物になると2m位ぐらいの高さになるんだ。」
ザインの言うワイバーンを想像したけど良く分からない。
「羽毛の無い鳥って、、、飛べるの?」
エレが疑問をぶつける。確かに鳥って羽毛があるから羽ばたいて飛んでると思う。
「ああ、羽毛は無いけど翼膜と言う薄い皮みたいな鰭があるんだ。高さよりも翼を広げると高さの3倍くらい大きいんだ。攻撃は鋭い爪を持った脚と嘴だな。
軟な防具じゃあ直ぐに裂かれるぞ。お前達のライトアーマー程度じゃあ役に立たんな」
それは怖いな。エレも想像したのか少し怖がっていた。それを面白かったのか言った。
「そんなに怖がる事は無いんだ。奴らは地上に落ちたら攻撃手段が嘴くらいしか無いからな。上手いこと後ろに回り込めば脚を攻撃して動けなく出来る。
そうすれば造作も無いさ」
確かに慣れれば問題無いのかもしれないが横幅が3倍もあるなら翼膜を広げられたら後ろに回り込めないと言う事でもあるだろう。
「ワイバーンってどんな素材が取れるんだ?」
僕が聞くと笑って答えた。
「ほぼ魔石だけだな。ワイバーンを落とすのに翼膜は傷付き安いからな。翼膜が素材になるけど傷物は二束三文さ。」
なるほど、そう言う事か。ザインは真面目な顔に戻って言った。
「あの時も順調に5匹を討伐したんだ。依頼達成したけどまだ余裕があるならとヴァーザの奴に連れられて別の場所に移動したところであいつが襲って来たんだ。」
仲間のワイバーンが殺られるのを見いて出て来たと思われるのは色違いの赤色ワイバーンだった。いわゆる変異体と言われる種類でドラゴンの様に翼と腕が別々になっていたとザインは言った。
まず、ザインが狙われた。左肩をざっくりと抉られて吹き飛ばされたらしい。全く油断していた為にガードすら出来なかったらしい。
半死半生になって横倒しになったぼんやりした目で見えたのはザインを庇って槍を突いているナメシお父様だった。
薄れゆく意識の中で見たものは愉悦に歪んだ笑いを湛えて逃げていくヴァーザ達だったらしい。
ザインはナメシお父様に逃げるように叫んだらしいけど最後に見たのは赤色変異体ワイバーンと共にクルシュ高原から落下して行く姿だったらしい。
「俺が死ななかったのは奇跡さ。」
近くに転がっていたポーションの瓶を見てナメシお父様が隙を見てザインに振りかけてくれたのが分かった。
「最後の最後まで世話を掛けちまった」
ザインが立ち上がって歩ける様になるのに数日掛かり、ウィードラドの街に戻れたのは5日程後だったと言う。
「冒険者ギルドに顔を出した時にはナメシと俺は死亡扱いさ」
冒険者ギルドで出来事のあらましを説明したら既に希望の光の連中は他へ行っちまった後だったと言う。ザインはナメシお父様の事を家族に伝えたいと冒険者ギルドに所在を聞いたらしいけど教えて貰えなかった。
教え無かったと言うよりも知らなかったらしい。
ザインもナメシお父様と仲良くはなっても家族の話は極力避けていたのだと言う。仕方なく家族の元に帰ったザインはとても驚ろく事になった。
自分が生きている事に家族に驚かれただけでなく何とヴァーザが訪ねて来てザインが死んだと伝えたと言うのだ。あのヴァーザが訪ねて来たと言う事はザインとナメシを仲間に加えた時には詳しく自分たちが調べ上げられていた事に気付いたのだった。
最後にザインが見たヴァーザの薄ら笑いには何か意味があると考えたザインは単独でヴァーザ達の事を調べた。
しかし、彼らが何処の宿に泊まって活動していたのかさえ分からなかった。でも、それが返ってザインの不審を高めた。ソロではランクの維持が難しく、次第にランクを落としてしまって行き、1年が過ぎた頃に手掛かりが見つかった。
何とヴァーザの仲間だったアクラクとレニアスの死体が見つかったのだ。そこは貧民街のはずれの倉庫で誰も訪れる事の無い場所だった。その死体は何年も放置されていたかのようにほぼ骨に近かったらしいが冒険者証が見つかった事から特定出来たらしかった。
その情報を俺がギルドで得てまず思ったのは変だと思った。幾ら分かりにくい場所と言えど腐乱死体があれば普通は臭いで分かるものだ。
それから見つかった場所が可怪しい。姿をくらまして1年も経てば他の街ならいざ知らずウィードラドの街なんかに戻って来る意味が分からない。
まさか、ヴァーザと一緒にやって来て殺されたとしたらいきなり骨にまでなるまい。不可解にも程がある。
俺はヴァーザを探して街中を走り回ったがそれらしい怪しい奴はある貴族の馬車以外は無かったのだ。その馬車はスラムにずっと止まったまま数日後に街を離れたと言うのだ。路上生活者の貧民に聞いた話だから怪しいものだが。
「結局手掛かりも得られず今に至る訳だ。」
自嘲めいた言葉で締め括ったザインだったけどその後に僕に聞いてきた。
「ブルクの母親の遺体はどうしたんだ?」
「ヴァーザさんの話では街外れの共同墓地に葬られた筈です。孤児院に居た時から時々墓参りしてました」
「共同墓地墓地か・・・少し調べてみるか」
「何かあるの?」
エレがザインに聞いたけど僕も同感だった。
「何、ヴァーザらしく無いような気がしてな。ああ、そうだ、ブルクの母親の名前は何だった?」
そう言えば途中でザインに遮られたのだった。
「『アカス』です」
「アカス、アカス、アカスティアか・・・」
ザインがおかしな事を言うので僕は訂正する。
「おか、いや母の名前は『アカス』ですよ」
「通称はだろ?正式名は違う筈だ。う~ん、何処かで聞いた名前のような気がするんだがな」
頭をザインが捻る。
「まぁ良い。それで今度はエレの話だな」
ザインがエレに話を振った。
「えーっあたしも話すの?」
「そうだ」
ザインの言葉にエレは嫌そうな顔をしたけど僕も少しエレの出自には興味がある。
◆
あたしはヒツサル(西南)のオアシスにあるオコノ村の出なの。周りは砂漠でさ、な~んも無いの。
あ、近くに聖域と呼ばれる遺跡があるわ。でもなんの変哲もない遺跡よ。魔物も住んで無いしなんの伝説も無い、良く分からない遺跡よ。
アランとは同い年の幼馴染で一旗揚げるために聖都ハラドまで一緒に出てきたの。でも冒険者になっても都の雑用しか受けさせて貰えなくて魔物退治をしたくてウィードラドに来たって訳。
ウィードラドでやっと魔物退治が出来て冒険者らしい生活が出来たの。コツコツとランクを上げたところでヘマをしたわ。
ブルクも知っての通りピードエイプ狩りに失敗して死にそうになったところをブルクに助けられたのよ。ブルクが通り掛からなかったらきっとあたしはあそこで死んでたわ。
ありがとねブルク。
それからの縁ね。一緒に狩りをしたけどあたし達はまた聖都ハラドに行ったからね。ランクさえ上がれば聖都の方が冒険は遣りやすいのよ。でも駄目だったわ。
結局あたしのような魔法使いは使い物にならなくてアランに捨てられちゃったし。また、ウィードラドに戻ったら結局ブルクを頼っちゃうんだもの。
でも、あたしに取ってやっぱりブルクは幸運の神様よね。
ノベム師匠に出会えたんだもの。お陰で自信が付いたわ。パーティを組んで良かったわ。
ザインものね。貴方本当に強いわ。散々な冒険者してるのに辞めないでいるんだもの。
あたしもそれくらいの根性見せないとね。これからももっとバリバリ稼ぎましょうね。
◆
エレは自分なんて大した事無いなんて言っているけどそれなりに苦労してるよね。自分の才能を信じて冒険者が出来るんだもの。僕も見習うべきだよね。
才能があるかどうかは分からないけど僕も周りの人達に助けられてここまで来れたんだから頑張って恩を返さないとね。
ザインがエレの出自を聞いてやっぱり何かを思い出したらしいよ。
「あのな、エレ。冒険者は才能じゃないんだぜ。そりゃあ狩りに優位なスキルはあるけどやっぱり死なねえことさ。」
僕達の中でずっとなんだかんだで冒険者を続けて来たザインの言葉だからこそ重みがあった。
「剣士の才能があっても魔法にゃあ勝てない。とんでもねえ魔法の才能があってもそれで倒せない魔物に出逢えば殺される。だからさー、才能なんかよりも運じゃねえか?」
なんだか運に弄ばれているようなザインが言うと本当だねってエレと僕は笑い合った。
良いことを言ったと思ったのか、釣られたのかザインも笑った。そして直ぐに真顔になって言った。
「そうだ、思い出したぞ、ブルク!」
何をだろうか。
「お前の母親の名前だよ。『アカスティア』はウィンデア伯爵令嬢の名前だよ。」
「ウィンデア?」
エレが聞いた。
「ああ、このル・シェール神聖国よりも西の王国だ。国を1つ跨いだ先にあるバルバルディアって言う王国だ。そこの元ウィンデア伯爵令嬢さ。」
何かを思い出すように上を向いてザインが話を続ける。
「『かの男爵は伯爵令嬢に恋をした。身分違いの恋は貴族には叶わない夢。いずれ政略結婚の花になるならばいっそのこと攫って欲しい。
ならば共に逃げよう地の果てまでも。艱難辛苦何するものぞとロンバルディア男爵令息はウィンデア伯爵令嬢の手を取った。』
って言う吟遊詩人の詩に謳われた令嬢だよ」
ザインには似合わない様な詩だった。
「でもザイン、証拠なんて無いだろ」
僕が言うと難しい顔をして言ったんだ。
「まあな、名前だけなら別人と言う事もある。なあブルク、形見とか無いのか?」
形見と言われてもなあ。・・・思い出した!
「お母様の形見があった!」
「お!それを見せてみろ」
ザインが勢い込んで言った。
「お母様の形見は妹のラスに分かれる時に渡したから無いよ」
「何だよー」
ザインが残念そうに言う。エレも残念そうだった。
「ねえブルク、その形見って何か特徴は無かったの?」
エレの言葉に一生懸命思い出そうと考えたけど朧にしか覚えて居なかった。
テーブルの上に水滴で濃い緑色の涙滴形をしたネックレスの形を描いて見せた。そしてその中には瞳の様な形の文様が刻まれていた筈だ。あまり綺麗に描けなかったけどこんな感じと2人を見るとザインもエレは微妙な顔をしていた。
「う~ん、何とも言えんな」
「見たことも無いわね」
でも、そこへ意外な声が掛かった。
「へー、ラミエレスの魔法陣ね」
みんなが声の方を向くとそこにはエールを片手に僕の描いた水絵を覗き込む冒険者ギルドの首席受付嬢エメレーヌさんがいた。
「エメレーヌさん?」
「うおっ!」
エレとザインが声をあげる。
びっくりはしたけどエメレーヌさんの言った言葉が気になった僕はエメレーヌさんに聞いた。
「『ラミエレスの魔法陣』って何ですか?」
「ふふ、バルバルディア王国の賢者ラミエレスが描いたとする魔法陣よ。実際の効果は無いって言われてるおまじないの様な模様だわ」
「何でエメレーヌが此処に居るんだ?」
エメレーヌさんが詳しく教えてくれたけどザインが驚いて言った。
「居ちゃ悪い?
仕事を終えて一杯飲んで居たら聞き慣れたザインの声が聞こえたから挨拶に来たのよ」
確かに沢山の人が来る飲み屋だから仕事を終えた受付嬢が来てもおかしくは無い。
「でも、エメレーヌさんのお陰でバルバルディア関連って分かったわね」
「うん、そうだね」
エレの言う通りだったから僕は頷いた。
エメレーヌさんはエレの肩を抱くように近くにあった空いていた椅子を引き寄せ座って言った。
「なになに、何の話をしてたの?」
エレが僕の出自の謎をみんなで話をしていたと答えるとエメレーヌさんはあっけらかんと言ったのだ。
「『ラミエレスの魔法陣』は使っている魔石によるのよ。大抵の庶民は色硝子か石ね。ちゃんとした魔石に刻み込めるのはお金のある貴族だけよ。
それでブルクちゃんの『ラミエレスの魔法陣』の色は?大きさは?」
僕が濃い緑色の涙滴形で大きさは僕の親指くらいの小ささだと言うとびっくりした。
「濃い緑色と言うことは命の魔石って事ね。」
「そんな魔石なんか聞いたことが無いぞ」
ザインが言うとエレも言った。
「命なんて属性があるんですか」
ザインとエレが言った事にエメレーヌさんは苦笑した。
「そうよぉ、命なんて属性も無いし命の魔石は俗称だもの」
詳しく聞いて教えて貰った事によると、魔物が出没する深い森の中の泉に稀に見つかる希少な石でとても高価なものらしい。僕の親指程度の大きさに加工してネックレスにしてあるなら聖都の中に専用の家が買える程の価値があると言う。
だから貴族でないと所持するのは難しいらしい。
「ならやっぱりブルクは貴族の落とし子ね」
エレが変な言い方をした。別に僕は落とされた子供では無いんだが。
「そうだ。ブルクはロンバルディア男爵令息とウィンデア伯爵令嬢の息子に違いない」
「ロマンよねぇ~」
ザインの言葉にエメレーヌが混ぜっ返したせいで気分的にはどうでも良いような気がした。
「ザインの言う事が本当でも今の僕はただの冒険者さ」
「そうそう、ブルクは今を時めく英雄よ、ひくっ」
僕の言葉をエレが混ぜっ返し、しゃっくりをした。どうもだいぶ飲んでしまったようだ。
「我がギルドの英雄に~かんぱーい!!ひくっ」
エメレーヌさんまでしゃっくりしていた。飲み過ぎだよみんな。
後はもうみんなが訳の分からない騒ぎになってお酒を飲むみんなは食べ放題に要られる状況じゃあ無くなってしまった。ひとり炭酸水を飲んでいた僕がみんなを送り出して会計をする羽目になってしまった。
比較的まともだったザインも千鳥足で2人を送って行ったので僕はひとりでノベムの研究室に帰った。呑兵衛達の相手をしたから結構遅くなってしまったと反省しながら研究室に入ると何故かノベムが食事をしていた。
まあノベムの研究室だから居てもおかしくは無い。ノベムは僕を見ると言った。
「全く、、、やっと帰って来た」
どうやら夜食を食べていたらしくパンにスクランブルエッグを挟んだものだった。パンの厚さは薄い。
食べ物を飲み込むとノベムは僕に着替えて来るように伝えた。待たせまいと素早く服を脱いで身体を拭いてから室内着に着替えて戻ってくると、ノベムはベットサイドに座るように指示してきた。
そしていつものチェックを受ける。今日はそれ程の負荷を掛けていないから問題ないと思っていた。案の定、チェックは直ぐに終わり、ノベムに遅くなった理由を聞かれたのだ。
素直に今日あった事を話す。領主に呼ばれ褒章に魔剣ホトムラを貰い、南の草原で試し斬りをして、紛失していた魔剣クルワナを見つけた事。
肉食べ放題で夕食をしていたらザインとあってギルド受付嬢エメレーヌにあって話をした事。
振り返ったら結構忙しかったな。
ノベムは僕の出自の話に及んだ事を話すと言った。
「なるほど、ブルクの両親が貴族でしかも駆け落ちとはな」
いやいや、確定では無くてザインが推測しただけだから。僕が否定するとノベムは言ったのだ。
「いや、貴族であった事は間違いない。お前の母親が呪いを受けていた事が証拠だ」
そう言えばこの身体になる時に呪いの説明をされた時に呪とはかなり高価なものだと教えられたっけ。
「だとしても、今の僕には関係無いだろ?」
「ああ、そうだな。だがザインが言ったヴァーザと言う男が問題だ」
僕にとっては幼くて何も出来なかったのを手伝ってくれた親切な冒険者でしか無いんだけど。
「話をザインから詳しく聞いてから」
そう言ってノベムはそれ以上は言おうとしなかった。そしてその日は終わった。
◆
朝、起きると研究室にノベムが居た。何故に?
朝食の準備をしながら昨日の今日なのに何があったのか聞くとノベムは言った。
「ブルク、君の母親は生きている」
「はい?」
突然の言葉に僕は愚かな声を出した。
「正確に言えば可能性が高い」
「いったいどう言う事なんです?」
ノベムは優秀な錬金術兼冒険者だけど医療従事者じゃないし、お母様の臨終に立ち会った訳じゃないんだ。いい加減な事を言う人では無いのは分かっているけどこればっかりは信用できなかった。
「何処から説明すべきか。簡単に説明すると君の母親の死は呪術による仮死状態だった。そしてそれを行ったのは葬儀を代行したヴァーザと言う男だ。」
ますます混乱して来た。信じられない言葉を聞かされているせいか、言っている意味が頭に入らなかった。目の前のスープの湯気が霞んで見える。
「混乱するか。ならば事実から話そう」
ノベムは昨晩酔って帰ったザインのところに押しかけた。解毒ポーションを使って無理やり酔いを覚まさせてから話を詳細に聞いた。ヴァーザと言う男の事もバルバルディア王国の悲恋の話も知っている限りの事を話させた。
その後直ぐにバルバルディア王国の知り合いの錬金術師に魔法便を飛ばして事実関係を確認した。ロンバルディア男爵令息とウィンデア伯爵令嬢は事実存在し、姿を消したのも本当の話。
ただ、悲恋の話は少し違った。バルバルディア王国では男爵と伯爵の結婚は通常問題なく出来るのにそれを邪魔した者が居た。ウィンデア伯爵令嬢に横恋慕したパルディア公爵令息だ。公爵と言えば王家の縁戚であり大きな力を持っている。権力を利用してウィンデア伯爵令嬢を自分の物にしようとして逃げられたのだ。
世間的には凄い笑い者になった。そして、話は変わるがと前置きをしてノベムは言った。
「ブルク、『呪術師』の話を覚えてるか。あれから詳しく調べた。」
ノベムの話では呪術師とは魔力を使い呪う事で人を異常状態にする術を行使出来る者だと言った。それ故、死霊呪術師でもあるらしい。
死霊呪術師は一般的に死んだ者を生き返らせて操ると言われて居るが実際は異なるらしい。生前から呪術を掛けてほぼ仮死状態にして意思を奪い、操るらしい。
そのために呪術師は一度に複数人を呪術に掛けて死霊傀儡にする事が出来ない。ただ、一度死霊傀儡にすれば単純な命令を与えて複数の死霊傀儡として操れる。
また、確証は無いが元の人間に戻す事も出来るらしい。
「ザインが入ったと言う希望の光のパーティメンバーのアクラクとレニアスは死霊傀儡だったかも知れない。」
そのように考えると2人が無口であった事や不可解な死に方も納得が行くと言った。呪術を強力に推し進めると本当の死者に出来るらしい。
「つまり、ヴァーザと言う男はバルバルディア王国のパルディア公爵令息に雇われた死霊呪術師。
パルディア公爵令息は好きになった伯爵令嬢に逃げられて笑い者になったため死霊呪術師を雇って自分のところに連れて来させるように考えた。
普通に連れ戻さなかったのは復讐の意味があったかも知れない。」
ヴァーザと言う死霊呪術師にとって誤算だったのは、僕のお母様が遠くに逃げた事と魔力が強くて抵抗力があった為に時間が掛かった。
だから、近づく為にわざわざウィードラドまでやって来て、更にお母様の心を挫く為にお父様を嵌めて死に追いやったのかも知れないと言う。魔力、意思が強ければ呪いに抵抗出来る事は分かっている。
ノベムの話は推測ばかりで証拠は何も無い。でも、聞けば聞くほど真実味があるような気がして来た。
身体の芯から震えが起きてきた。燃えるように身体が熱い。
「ブルク、魔蝕寸前。魔力を抑える!」
ノベムの指摘で僕はハッとした。
食事をしていた手は止まり、手にしていた金属スプーンは過剰魔力に依って歪み、木の器は焦げ、中身がこびりついてしまっていた。
魔蝕とは魔力の暴走で起きる現象で発火現象や腐食などが起きる事を言う。
「繰り返すが君の母親はヴァーザに依って死霊傀儡にされて連れ去られた。」
「お母様が生きてる・・・かも知れない。」
それは希望であり恐怖だった。生きてるなら会いたい。でも、今のお母様の境遇が分からなくて不安なのだった。
「ノベム、どうしてそこまで調べてくれたんだ?」
僕はノベムの気持ちが分からなかった。僕はノベムにとって実験動物みたいな物でしか無かった筈だ。
僕の質問にノベムが珍しく躊躇した。聞かれたくなかった質問みたいだった。少し口籠ってから言った。
「ブルク、以前にオーガストの娘が君と同じ身障者と言った。つまり、呪われた身だ。」
ああ、そうか。ノベムは僕の為でもありオーガストさんの娘さんの為に調べて居たんだ。
「しかも、君以上に呪いに侵蝕されている。だけどヴァーザを捕まえれば解ける可能性が出てくる」
なるほど、僕みたいに部分的な呪いなら極端な話、切り落とす事で呪いを分離出来るけど全身に回っていたら無理だよな。
「でも、ノベムがオーガストさんにそこまでする理由が分からないな」
「今はオーガストの恩に報いたいからとしか言えない。」
詳しい事情は話すつもりは無いらしい。まあ、そこはノベムとオーガストさんの関係だから僕には直接的には無関係と言って良い。
「目下の目的はバルバルディア王国にいると思われるヴァーザの所在。バルバルディア王国の仲間に調査を依頼している。」
前にノベムは呪術師は数が少なくて所在が殆ど分からないと言っていた。ヴァーザは数少ない呪術師の唯一の手掛かりと言える訳だ。
僕は使い物にならなくなってしまったスプーンと食べられなくなったスープとスープ皿を片付けた。
僕が戻ってくるとノベムが言った。
「それから君の妹」
「えっ、ラスの事?」
「そう、貴族に養子に行った娘の行方」
驚き過ぎてもう食事どころじゃなくなってる。ノベムは何を知ってるのだろうか。
僕の言葉に顔を寄せて睨みつけて来たザインだった。真剣と言うよりも信じられないと言う顔だった。ザインさんはしつこいくらいヴァーザさんの顔つきを確認して間違いないと分かると話し始めた。
「ヴァーザは『希望の光』パーティのリーダーだった。ヴァーザはスキル『祝福』で回復要員だった。他のパーティメンバーはアクラクと言う女水魔法使いとレニアスと言う男で風魔法使いだった。
パーティランクはAで後衛しか居ないパーティにしては高ランクだった。前衛の攻撃が不足して居るからいつもメンバーを募集してランクを上げているのだと説明を受けていたんだ。」
そこまで言うとひと息付いて思い出しているようだった。
「今から考えればおかしな事だと分かる。でも、条件が良かった。前衛として働けば報酬は6割が得られ戦う事だけで他の雑務はヴァーザ達がしてくれると言う条件だったんだ。
希望の光に参加する前の依頼で意気投合した俺とナメシは色々考えてパーティに入る事にしたんだ。ナメシも俺も妻子持ちだから金は少しでも多い方が良いと金に目が眩んで居たんだ。
だから奴らの狙いに気付かなかった。」
悔しそうにザインは拳を握って小さくテーブルを叩いた。
「ヴァーザが持ってきた依頼は『ワイバーン討伐』だった。」
ザインは拳を握って何かに耐えるように上を睨んだ。
「場所はタツミ(東南)の濫瀧の迷路だった。
クルシュ高原に住むワイバーンが増えて里を襲うようになった為に数減らしの為の依頼だった。奴らワイバーンは数が増えると瀧に住む魔物だけでは餌が足りなくなって人里を襲うんだ。
ワイバーン単体ではC級レベルだが複数になるとその脅威はB級に近づく。だから強力な前衛である俺達に声を掛けたと言って居たんだ。後衛の風と水魔法でワイバーンを落とすからそれを倒すと言うのが俺達の仕事だった。
確かに俺とナメシでは空を飛ぶワイバーンには手を焼くだろうけど後衛の魔法の援助があれば対処可能だと考えた。」
当時を思い出しながら話すザインはゆっくりだったけど一線で活躍していたナメシお父様の様子が伺えた。
「ねえ、ワイバーンってどんな魔物なの」
エレが聞いた。ザインの話からすれば空を飛ぶらしいと分かってもその姿が分からない。
「ああ、そうか。お前達はまだワイバーンを見たことが無かったか」
ザインがワイバーンの姿形を説明してくれる。
「ワイバーンって言うのはな、羽毛の無い鳥みたいな魔物だ。鳴くときはケェーケェと鳴くんだ。攻撃をする時はもっと威嚇が込められてゲェーゲェになるな。
小さい物で1m位の高さがあって、大きい物になると2m位ぐらいの高さになるんだ。」
ザインの言うワイバーンを想像したけど良く分からない。
「羽毛の無い鳥って、、、飛べるの?」
エレが疑問をぶつける。確かに鳥って羽毛があるから羽ばたいて飛んでると思う。
「ああ、羽毛は無いけど翼膜と言う薄い皮みたいな鰭があるんだ。高さよりも翼を広げると高さの3倍くらい大きいんだ。攻撃は鋭い爪を持った脚と嘴だな。
軟な防具じゃあ直ぐに裂かれるぞ。お前達のライトアーマー程度じゃあ役に立たんな」
それは怖いな。エレも想像したのか少し怖がっていた。それを面白かったのか言った。
「そんなに怖がる事は無いんだ。奴らは地上に落ちたら攻撃手段が嘴くらいしか無いからな。上手いこと後ろに回り込めば脚を攻撃して動けなく出来る。
そうすれば造作も無いさ」
確かに慣れれば問題無いのかもしれないが横幅が3倍もあるなら翼膜を広げられたら後ろに回り込めないと言う事でもあるだろう。
「ワイバーンってどんな素材が取れるんだ?」
僕が聞くと笑って答えた。
「ほぼ魔石だけだな。ワイバーンを落とすのに翼膜は傷付き安いからな。翼膜が素材になるけど傷物は二束三文さ。」
なるほど、そう言う事か。ザインは真面目な顔に戻って言った。
「あの時も順調に5匹を討伐したんだ。依頼達成したけどまだ余裕があるならとヴァーザの奴に連れられて別の場所に移動したところであいつが襲って来たんだ。」
仲間のワイバーンが殺られるのを見いて出て来たと思われるのは色違いの赤色ワイバーンだった。いわゆる変異体と言われる種類でドラゴンの様に翼と腕が別々になっていたとザインは言った。
まず、ザインが狙われた。左肩をざっくりと抉られて吹き飛ばされたらしい。全く油断していた為にガードすら出来なかったらしい。
半死半生になって横倒しになったぼんやりした目で見えたのはザインを庇って槍を突いているナメシお父様だった。
薄れゆく意識の中で見たものは愉悦に歪んだ笑いを湛えて逃げていくヴァーザ達だったらしい。
ザインはナメシお父様に逃げるように叫んだらしいけど最後に見たのは赤色変異体ワイバーンと共にクルシュ高原から落下して行く姿だったらしい。
「俺が死ななかったのは奇跡さ。」
近くに転がっていたポーションの瓶を見てナメシお父様が隙を見てザインに振りかけてくれたのが分かった。
「最後の最後まで世話を掛けちまった」
ザインが立ち上がって歩ける様になるのに数日掛かり、ウィードラドの街に戻れたのは5日程後だったと言う。
「冒険者ギルドに顔を出した時にはナメシと俺は死亡扱いさ」
冒険者ギルドで出来事のあらましを説明したら既に希望の光の連中は他へ行っちまった後だったと言う。ザインはナメシお父様の事を家族に伝えたいと冒険者ギルドに所在を聞いたらしいけど教えて貰えなかった。
教え無かったと言うよりも知らなかったらしい。
ザインもナメシお父様と仲良くはなっても家族の話は極力避けていたのだと言う。仕方なく家族の元に帰ったザインはとても驚ろく事になった。
自分が生きている事に家族に驚かれただけでなく何とヴァーザが訪ねて来てザインが死んだと伝えたと言うのだ。あのヴァーザが訪ねて来たと言う事はザインとナメシを仲間に加えた時には詳しく自分たちが調べ上げられていた事に気付いたのだった。
最後にザインが見たヴァーザの薄ら笑いには何か意味があると考えたザインは単独でヴァーザ達の事を調べた。
しかし、彼らが何処の宿に泊まって活動していたのかさえ分からなかった。でも、それが返ってザインの不審を高めた。ソロではランクの維持が難しく、次第にランクを落としてしまって行き、1年が過ぎた頃に手掛かりが見つかった。
何とヴァーザの仲間だったアクラクとレニアスの死体が見つかったのだ。そこは貧民街のはずれの倉庫で誰も訪れる事の無い場所だった。その死体は何年も放置されていたかのようにほぼ骨に近かったらしいが冒険者証が見つかった事から特定出来たらしかった。
その情報を俺がギルドで得てまず思ったのは変だと思った。幾ら分かりにくい場所と言えど腐乱死体があれば普通は臭いで分かるものだ。
それから見つかった場所が可怪しい。姿をくらまして1年も経てば他の街ならいざ知らずウィードラドの街なんかに戻って来る意味が分からない。
まさか、ヴァーザと一緒にやって来て殺されたとしたらいきなり骨にまでなるまい。不可解にも程がある。
俺はヴァーザを探して街中を走り回ったがそれらしい怪しい奴はある貴族の馬車以外は無かったのだ。その馬車はスラムにずっと止まったまま数日後に街を離れたと言うのだ。路上生活者の貧民に聞いた話だから怪しいものだが。
「結局手掛かりも得られず今に至る訳だ。」
自嘲めいた言葉で締め括ったザインだったけどその後に僕に聞いてきた。
「ブルクの母親の遺体はどうしたんだ?」
「ヴァーザさんの話では街外れの共同墓地に葬られた筈です。孤児院に居た時から時々墓参りしてました」
「共同墓地墓地か・・・少し調べてみるか」
「何かあるの?」
エレがザインに聞いたけど僕も同感だった。
「何、ヴァーザらしく無いような気がしてな。ああ、そうだ、ブルクの母親の名前は何だった?」
そう言えば途中でザインに遮られたのだった。
「『アカス』です」
「アカス、アカス、アカスティアか・・・」
ザインがおかしな事を言うので僕は訂正する。
「おか、いや母の名前は『アカス』ですよ」
「通称はだろ?正式名は違う筈だ。う~ん、何処かで聞いた名前のような気がするんだがな」
頭をザインが捻る。
「まぁ良い。それで今度はエレの話だな」
ザインがエレに話を振った。
「えーっあたしも話すの?」
「そうだ」
ザインの言葉にエレは嫌そうな顔をしたけど僕も少しエレの出自には興味がある。
◆
あたしはヒツサル(西南)のオアシスにあるオコノ村の出なの。周りは砂漠でさ、な~んも無いの。
あ、近くに聖域と呼ばれる遺跡があるわ。でもなんの変哲もない遺跡よ。魔物も住んで無いしなんの伝説も無い、良く分からない遺跡よ。
アランとは同い年の幼馴染で一旗揚げるために聖都ハラドまで一緒に出てきたの。でも冒険者になっても都の雑用しか受けさせて貰えなくて魔物退治をしたくてウィードラドに来たって訳。
ウィードラドでやっと魔物退治が出来て冒険者らしい生活が出来たの。コツコツとランクを上げたところでヘマをしたわ。
ブルクも知っての通りピードエイプ狩りに失敗して死にそうになったところをブルクに助けられたのよ。ブルクが通り掛からなかったらきっとあたしはあそこで死んでたわ。
ありがとねブルク。
それからの縁ね。一緒に狩りをしたけどあたし達はまた聖都ハラドに行ったからね。ランクさえ上がれば聖都の方が冒険は遣りやすいのよ。でも駄目だったわ。
結局あたしのような魔法使いは使い物にならなくてアランに捨てられちゃったし。また、ウィードラドに戻ったら結局ブルクを頼っちゃうんだもの。
でも、あたしに取ってやっぱりブルクは幸運の神様よね。
ノベム師匠に出会えたんだもの。お陰で自信が付いたわ。パーティを組んで良かったわ。
ザインものね。貴方本当に強いわ。散々な冒険者してるのに辞めないでいるんだもの。
あたしもそれくらいの根性見せないとね。これからももっとバリバリ稼ぎましょうね。
◆
エレは自分なんて大した事無いなんて言っているけどそれなりに苦労してるよね。自分の才能を信じて冒険者が出来るんだもの。僕も見習うべきだよね。
才能があるかどうかは分からないけど僕も周りの人達に助けられてここまで来れたんだから頑張って恩を返さないとね。
ザインがエレの出自を聞いてやっぱり何かを思い出したらしいよ。
「あのな、エレ。冒険者は才能じゃないんだぜ。そりゃあ狩りに優位なスキルはあるけどやっぱり死なねえことさ。」
僕達の中でずっとなんだかんだで冒険者を続けて来たザインの言葉だからこそ重みがあった。
「剣士の才能があっても魔法にゃあ勝てない。とんでもねえ魔法の才能があってもそれで倒せない魔物に出逢えば殺される。だからさー、才能なんかよりも運じゃねえか?」
なんだか運に弄ばれているようなザインが言うと本当だねってエレと僕は笑い合った。
良いことを言ったと思ったのか、釣られたのかザインも笑った。そして直ぐに真顔になって言った。
「そうだ、思い出したぞ、ブルク!」
何をだろうか。
「お前の母親の名前だよ。『アカスティア』はウィンデア伯爵令嬢の名前だよ。」
「ウィンデア?」
エレが聞いた。
「ああ、このル・シェール神聖国よりも西の王国だ。国を1つ跨いだ先にあるバルバルディアって言う王国だ。そこの元ウィンデア伯爵令嬢さ。」
何かを思い出すように上を向いてザインが話を続ける。
「『かの男爵は伯爵令嬢に恋をした。身分違いの恋は貴族には叶わない夢。いずれ政略結婚の花になるならばいっそのこと攫って欲しい。
ならば共に逃げよう地の果てまでも。艱難辛苦何するものぞとロンバルディア男爵令息はウィンデア伯爵令嬢の手を取った。』
って言う吟遊詩人の詩に謳われた令嬢だよ」
ザインには似合わない様な詩だった。
「でもザイン、証拠なんて無いだろ」
僕が言うと難しい顔をして言ったんだ。
「まあな、名前だけなら別人と言う事もある。なあブルク、形見とか無いのか?」
形見と言われてもなあ。・・・思い出した!
「お母様の形見があった!」
「お!それを見せてみろ」
ザインが勢い込んで言った。
「お母様の形見は妹のラスに分かれる時に渡したから無いよ」
「何だよー」
ザインが残念そうに言う。エレも残念そうだった。
「ねえブルク、その形見って何か特徴は無かったの?」
エレの言葉に一生懸命思い出そうと考えたけど朧にしか覚えて居なかった。
テーブルの上に水滴で濃い緑色の涙滴形をしたネックレスの形を描いて見せた。そしてその中には瞳の様な形の文様が刻まれていた筈だ。あまり綺麗に描けなかったけどこんな感じと2人を見るとザインもエレは微妙な顔をしていた。
「う~ん、何とも言えんな」
「見たことも無いわね」
でも、そこへ意外な声が掛かった。
「へー、ラミエレスの魔法陣ね」
みんなが声の方を向くとそこにはエールを片手に僕の描いた水絵を覗き込む冒険者ギルドの首席受付嬢エメレーヌさんがいた。
「エメレーヌさん?」
「うおっ!」
エレとザインが声をあげる。
びっくりはしたけどエメレーヌさんの言った言葉が気になった僕はエメレーヌさんに聞いた。
「『ラミエレスの魔法陣』って何ですか?」
「ふふ、バルバルディア王国の賢者ラミエレスが描いたとする魔法陣よ。実際の効果は無いって言われてるおまじないの様な模様だわ」
「何でエメレーヌが此処に居るんだ?」
エメレーヌさんが詳しく教えてくれたけどザインが驚いて言った。
「居ちゃ悪い?
仕事を終えて一杯飲んで居たら聞き慣れたザインの声が聞こえたから挨拶に来たのよ」
確かに沢山の人が来る飲み屋だから仕事を終えた受付嬢が来てもおかしくは無い。
「でも、エメレーヌさんのお陰でバルバルディア関連って分かったわね」
「うん、そうだね」
エレの言う通りだったから僕は頷いた。
エメレーヌさんはエレの肩を抱くように近くにあった空いていた椅子を引き寄せ座って言った。
「なになに、何の話をしてたの?」
エレが僕の出自の謎をみんなで話をしていたと答えるとエメレーヌさんはあっけらかんと言ったのだ。
「『ラミエレスの魔法陣』は使っている魔石によるのよ。大抵の庶民は色硝子か石ね。ちゃんとした魔石に刻み込めるのはお金のある貴族だけよ。
それでブルクちゃんの『ラミエレスの魔法陣』の色は?大きさは?」
僕が濃い緑色の涙滴形で大きさは僕の親指くらいの小ささだと言うとびっくりした。
「濃い緑色と言うことは命の魔石って事ね。」
「そんな魔石なんか聞いたことが無いぞ」
ザインが言うとエレも言った。
「命なんて属性があるんですか」
ザインとエレが言った事にエメレーヌさんは苦笑した。
「そうよぉ、命なんて属性も無いし命の魔石は俗称だもの」
詳しく聞いて教えて貰った事によると、魔物が出没する深い森の中の泉に稀に見つかる希少な石でとても高価なものらしい。僕の親指程度の大きさに加工してネックレスにしてあるなら聖都の中に専用の家が買える程の価値があると言う。
だから貴族でないと所持するのは難しいらしい。
「ならやっぱりブルクは貴族の落とし子ね」
エレが変な言い方をした。別に僕は落とされた子供では無いんだが。
「そうだ。ブルクはロンバルディア男爵令息とウィンデア伯爵令嬢の息子に違いない」
「ロマンよねぇ~」
ザインの言葉にエメレーヌが混ぜっ返したせいで気分的にはどうでも良いような気がした。
「ザインの言う事が本当でも今の僕はただの冒険者さ」
「そうそう、ブルクは今を時めく英雄よ、ひくっ」
僕の言葉をエレが混ぜっ返し、しゃっくりをした。どうもだいぶ飲んでしまったようだ。
「我がギルドの英雄に~かんぱーい!!ひくっ」
エメレーヌさんまでしゃっくりしていた。飲み過ぎだよみんな。
後はもうみんなが訳の分からない騒ぎになってお酒を飲むみんなは食べ放題に要られる状況じゃあ無くなってしまった。ひとり炭酸水を飲んでいた僕がみんなを送り出して会計をする羽目になってしまった。
比較的まともだったザインも千鳥足で2人を送って行ったので僕はひとりでノベムの研究室に帰った。呑兵衛達の相手をしたから結構遅くなってしまったと反省しながら研究室に入ると何故かノベムが食事をしていた。
まあノベムの研究室だから居てもおかしくは無い。ノベムは僕を見ると言った。
「全く、、、やっと帰って来た」
どうやら夜食を食べていたらしくパンにスクランブルエッグを挟んだものだった。パンの厚さは薄い。
食べ物を飲み込むとノベムは僕に着替えて来るように伝えた。待たせまいと素早く服を脱いで身体を拭いてから室内着に着替えて戻ってくると、ノベムはベットサイドに座るように指示してきた。
そしていつものチェックを受ける。今日はそれ程の負荷を掛けていないから問題ないと思っていた。案の定、チェックは直ぐに終わり、ノベムに遅くなった理由を聞かれたのだ。
素直に今日あった事を話す。領主に呼ばれ褒章に魔剣ホトムラを貰い、南の草原で試し斬りをして、紛失していた魔剣クルワナを見つけた事。
肉食べ放題で夕食をしていたらザインとあってギルド受付嬢エメレーヌにあって話をした事。
振り返ったら結構忙しかったな。
ノベムは僕の出自の話に及んだ事を話すと言った。
「なるほど、ブルクの両親が貴族でしかも駆け落ちとはな」
いやいや、確定では無くてザインが推測しただけだから。僕が否定するとノベムは言ったのだ。
「いや、貴族であった事は間違いない。お前の母親が呪いを受けていた事が証拠だ」
そう言えばこの身体になる時に呪いの説明をされた時に呪とはかなり高価なものだと教えられたっけ。
「だとしても、今の僕には関係無いだろ?」
「ああ、そうだな。だがザインが言ったヴァーザと言う男が問題だ」
僕にとっては幼くて何も出来なかったのを手伝ってくれた親切な冒険者でしか無いんだけど。
「話をザインから詳しく聞いてから」
そう言ってノベムはそれ以上は言おうとしなかった。そしてその日は終わった。
◆
朝、起きると研究室にノベムが居た。何故に?
朝食の準備をしながら昨日の今日なのに何があったのか聞くとノベムは言った。
「ブルク、君の母親は生きている」
「はい?」
突然の言葉に僕は愚かな声を出した。
「正確に言えば可能性が高い」
「いったいどう言う事なんです?」
ノベムは優秀な錬金術兼冒険者だけど医療従事者じゃないし、お母様の臨終に立ち会った訳じゃないんだ。いい加減な事を言う人では無いのは分かっているけどこればっかりは信用できなかった。
「何処から説明すべきか。簡単に説明すると君の母親の死は呪術による仮死状態だった。そしてそれを行ったのは葬儀を代行したヴァーザと言う男だ。」
ますます混乱して来た。信じられない言葉を聞かされているせいか、言っている意味が頭に入らなかった。目の前のスープの湯気が霞んで見える。
「混乱するか。ならば事実から話そう」
ノベムは昨晩酔って帰ったザインのところに押しかけた。解毒ポーションを使って無理やり酔いを覚まさせてから話を詳細に聞いた。ヴァーザと言う男の事もバルバルディア王国の悲恋の話も知っている限りの事を話させた。
その後直ぐにバルバルディア王国の知り合いの錬金術師に魔法便を飛ばして事実関係を確認した。ロンバルディア男爵令息とウィンデア伯爵令嬢は事実存在し、姿を消したのも本当の話。
ただ、悲恋の話は少し違った。バルバルディア王国では男爵と伯爵の結婚は通常問題なく出来るのにそれを邪魔した者が居た。ウィンデア伯爵令嬢に横恋慕したパルディア公爵令息だ。公爵と言えば王家の縁戚であり大きな力を持っている。権力を利用してウィンデア伯爵令嬢を自分の物にしようとして逃げられたのだ。
世間的には凄い笑い者になった。そして、話は変わるがと前置きをしてノベムは言った。
「ブルク、『呪術師』の話を覚えてるか。あれから詳しく調べた。」
ノベムの話では呪術師とは魔力を使い呪う事で人を異常状態にする術を行使出来る者だと言った。それ故、死霊呪術師でもあるらしい。
死霊呪術師は一般的に死んだ者を生き返らせて操ると言われて居るが実際は異なるらしい。生前から呪術を掛けてほぼ仮死状態にして意思を奪い、操るらしい。
そのために呪術師は一度に複数人を呪術に掛けて死霊傀儡にする事が出来ない。ただ、一度死霊傀儡にすれば単純な命令を与えて複数の死霊傀儡として操れる。
また、確証は無いが元の人間に戻す事も出来るらしい。
「ザインが入ったと言う希望の光のパーティメンバーのアクラクとレニアスは死霊傀儡だったかも知れない。」
そのように考えると2人が無口であった事や不可解な死に方も納得が行くと言った。呪術を強力に推し進めると本当の死者に出来るらしい。
「つまり、ヴァーザと言う男はバルバルディア王国のパルディア公爵令息に雇われた死霊呪術師。
パルディア公爵令息は好きになった伯爵令嬢に逃げられて笑い者になったため死霊呪術師を雇って自分のところに連れて来させるように考えた。
普通に連れ戻さなかったのは復讐の意味があったかも知れない。」
ヴァーザと言う死霊呪術師にとって誤算だったのは、僕のお母様が遠くに逃げた事と魔力が強くて抵抗力があった為に時間が掛かった。
だから、近づく為にわざわざウィードラドまでやって来て、更にお母様の心を挫く為にお父様を嵌めて死に追いやったのかも知れないと言う。魔力、意思が強ければ呪いに抵抗出来る事は分かっている。
ノベムの話は推測ばかりで証拠は何も無い。でも、聞けば聞くほど真実味があるような気がして来た。
身体の芯から震えが起きてきた。燃えるように身体が熱い。
「ブルク、魔蝕寸前。魔力を抑える!」
ノベムの指摘で僕はハッとした。
食事をしていた手は止まり、手にしていた金属スプーンは過剰魔力に依って歪み、木の器は焦げ、中身がこびりついてしまっていた。
魔蝕とは魔力の暴走で起きる現象で発火現象や腐食などが起きる事を言う。
「繰り返すが君の母親はヴァーザに依って死霊傀儡にされて連れ去られた。」
「お母様が生きてる・・・かも知れない。」
それは希望であり恐怖だった。生きてるなら会いたい。でも、今のお母様の境遇が分からなくて不安なのだった。
「ノベム、どうしてそこまで調べてくれたんだ?」
僕はノベムの気持ちが分からなかった。僕はノベムにとって実験動物みたいな物でしか無かった筈だ。
僕の質問にノベムが珍しく躊躇した。聞かれたくなかった質問みたいだった。少し口籠ってから言った。
「ブルク、以前にオーガストの娘が君と同じ身障者と言った。つまり、呪われた身だ。」
ああ、そうか。ノベムは僕の為でもありオーガストさんの娘さんの為に調べて居たんだ。
「しかも、君以上に呪いに侵蝕されている。だけどヴァーザを捕まえれば解ける可能性が出てくる」
なるほど、僕みたいに部分的な呪いなら極端な話、切り落とす事で呪いを分離出来るけど全身に回っていたら無理だよな。
「でも、ノベムがオーガストさんにそこまでする理由が分からないな」
「今はオーガストの恩に報いたいからとしか言えない。」
詳しい事情は話すつもりは無いらしい。まあ、そこはノベムとオーガストさんの関係だから僕には直接的には無関係と言って良い。
「目下の目的はバルバルディア王国にいると思われるヴァーザの所在。バルバルディア王国の仲間に調査を依頼している。」
前にノベムは呪術師は数が少なくて所在が殆ど分からないと言っていた。ヴァーザは数少ない呪術師の唯一の手掛かりと言える訳だ。
僕は使い物にならなくなってしまったスプーンと食べられなくなったスープとスープ皿を片付けた。
僕が戻ってくるとノベムが言った。
「それから君の妹」
「えっ、ラスの事?」
「そう、貴族に養子に行った娘の行方」
驚き過ぎてもう食事どころじゃなくなってる。ノベムは何を知ってるのだろうか。
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