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冒険者Dとダドンの街

塩漬け案件2−覇王龍の巣

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アンナの説明どおりにザラエラ渓谷はあった。そして飛竜ワイバーンも見付けた。だが、覇王龍ズァークらしき姿は無かった。
全高5メートル位全長は10メートルを越え、翼長になると20メートルなんて化け物は居なかった。渓谷には地竜や赤竜が複数い居て小物の魔物を食い散らかして、そこかしこに白骨やら錆びた鎧やら剣が落ちていた。
アンナが言っていたレイドの痕跡だろう。

気配も姿も消した俺はぶつからないようにだけ気をつけて渓谷の下を歩いていた。ちょろちょろと少ない水が流れていたが水源は高原の上にあるらしい。滝となるほど量がないせいか白い筋を付けている。翼竜達は外敵が近寄れない崖や高台に巣を作るようだ。
反面、地面を這うような地竜は大きく無いが皮膚が硬い。赤竜は地竜の色違いの様な外見だが炎属性を持つ竜でサラマンダーと呼ばれる事もある。高温の粘液を吐き付け相手の機動力を削ぐようだ。
地竜は蜥蜴が大きくなった様な外見ではあるがその皮膚は岩の様に硬い。剥がれ落ちる皮膚は製錬に使われる事もあると聞く。

渓谷の奥まった所まで登ると熱くなってきた。
どうやら地面が発熱しているようで真っ赤になった所が散見出来た。この辺には赤竜が多く赤い岩を食べているようだ。

俺は竜の研究者じゃ無いから良く判らんが結構迫力あんな!

あちこちから白い煙が吹き出し卵が腐った様な臭いが酷い。長居は出来そうもねえなと思いつつも更に奥まで進むと曲がり角で見えなかった先に大きな亀裂があった。日も差さず暗がりになっているけど風が通っている様だ。
覇王龍ズァークが居るとしたらここだ!と思ったので赤竜を避けながら亀裂まで歩く。
暗くて先が見通せないが俺にはスキルがある。スキル『暗視』を発動させながらゆっくりと中に入って行くと上り坂になっていて岩がゴロゴロしていた。岩を落とさない様に登るとそこには木々や枯れ葉などが敷き詰められた大きな巣があった。そして見たことの無い卵もあった。

覇王龍ズァークはメスかよ!

すげぇ!でも、物凄く臭え!

枯れ葉に混じって鱗が落ちている。これだこれだと拾ってはインベントリに放り込んで行く。鱗を数十枚拾うと亀裂が狭くなり巣から出てしまった。
卵には手を出さない。
これで用も済んだと思った所で強烈な気配が近付いてきた。

不味い!
幾ら姿を消して気配を消しても巣に居れば見つかるかも知れないと思い、俺は亀裂に身体を押し込んだ。何とか隠れる事が出来たが動けん!

バァサバァサと強風が吹き荒れ、覇王龍ズァークが戻って来た。巣の縁に立ち辺りを睥睨する。何かを嗅ぎつけている様だ。
まさか見つかっているのか?と驚いていると首を振り振り巣に座り込む。座り心地が悪いのか座っては立ち、座っては立ちを繰り返し、俺に背中を見せて眠り始めた。

スピースピーと寝息を立ててやがる。

寝ているからと言って今動いて巣から出ようとすると何処かで覇王龍ズァークに触れてそまいそうだ。
う~んと暫く考えて俺はある事を試す事にした。

固有スキル『無貌』発動。

『無貌』は死体には効果無い。また、魔物にも効果無い。
ただ、言葉を話し人のような生活をする亜人には効くことが判っている。以前、亜人になった時とんでも無く愚鈍に成ってしまった事がある。

龍種は言葉を解する者が居ると言う。王龍種の事だ。
王龍種と話をしたと言う噂は聞いているが実際に俺が話をした事は無い。
だから、半分賭けのようなものだ。

スキルが発動すると俺は身体が巨大化しながら変貌を遂げた。
何とか覇王龍ズァークになる事が出来たようだ。
これでここから逃げる事が出来る。足元を見ると龍の泥人形となった覇王龍ズァークが居た。

まぁ離れた所に行ったら元に戻るから大丈夫だろう。
巣穴から少し離れてから飛び立つ。飛び慣れていないから少しふらついたが何とか飛んで行ける。
それなりの距離を飛行してダゾンの街に半分ほど戻り、スキルを解除すると元に戻った。
覇王龍ズァークになっている間に余計な事をしない様心掛けたが中々に飛行は楽しかった。これからは長距離を行く時は使わせて貰おう。

先ずは疲れた。
少し食事して休んでから街に戻るとしよう。
すっかり日が暮れてしまっていた。

◆◆アンナ視点◆◆
忙しい仕事がもう直ぐ終わる。
日暮れ前には今日は終わって家に帰れる予定だった。
冒険者ギルドの受付の前には人影は少ない。殆どの冒険者は一日の仕事を終え、ギルド内の酒場で酒盃を開けているか拠点に戻っている筈だ。
後は宿直が夜間の依頼受付か依頼達成の受領をするだろう。

「はぁ、疲れるわねぇ~」
愚痴も出るが休憩時間に嫌な名前を聞かされたので溜息が出てしまった。

トントンと2階から降りてくる足音が聞こえて来て思わず振り返るとサブギルドマスターのトンブリが降りてきた。トンブリは冒険者上がりだが大きな怪我をして戦えなくなった為に冒険者ギルド勤めとなった。ねちっこい性格だが仕事が堅実なためサブマスターまで短期間で効果登り詰めた野心的な男である。
トンブリがあたしを見て声を出す。

「お!居るな」
嫌な予感しかしない。こんな時間になんだろう。

「あたしに何か?」
仕方ないので聞いてみる。トンブリがあたしの横まで来て話し出す。

「ああ、アンナ、君に、用事だ。と言うか仕事かな?」
何を言っているのだろう、この男は。

「実は副街長のゴルバカ様からの要請だ。君を連れてきて来るようにと連絡があった。」



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