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冒険者Dと近隣国
『テンペスト』後始末
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「今、なんと?」
ミリュエルがユキの言葉に驚く。
「月牙と言った。」
「アロシア帝国の暗殺団・・・存在したのね」
やっと認められたとユキは満足そうな顔をした。可愛い奴め。
「そういや、月牙の他のメンバーはどうした?」
「知らない。人数も顔も」
「んじゃ、ボスは誰だ。」
「皇帝直属の影のひとり、月牙」
「なるほど、そいつからユキは命令されてんだ」
「そう、まだ仕事を継続中」
「あん?ランドルトをまだやる気が?」
「仕事の途中でDに惚れた。あたしが失敗を報告しなければ継続中」
良く分からんが俺に惚れてる事だけは分かった。
「他の奴が来たりしないのか」
「他のメンバーの仕事の邪魔はしない。失敗した時は死あるのみ」
おいおい、大丈夫か?
「月牙が苛ついて代わりを送り込んだりしないか?」
「ディの心配は妥当。でもあたしが返り討ちにする。」
まぁ今のところはランドルトは俺と一緒だから大丈夫かな。ランドルトは大事な俺の盟友だからな。失わせないさ。
「頼もしい限りだ。という訳で俺達に任せとけ」
ミリュエルに俺はウィンクする。しれっとした顔でミリュエルは頷いた。何だよ、そこは顔を赤らめる所だぞ。
ギルドでも掴んでいる情報を貰って俺たちは外に出た。
先ずは腹拵えだ。屋台の肉串も良いがもうちょっと変わったもんが食いてえ。街中をぶらついているといい匂いがする店の前に人集りがあった。おおっ、並ぶほど旨い店なのかと近付くと男の怒号が響いた。
「さっさと払いやがれ!でねえと、こんなに店壊してやんよ!」
何だが何処かで聞いたような声だが俺が人集りを掻き分けて近付くと見た顔が若い娘の胸ぐらを掴んで殴ろうとしていた。
若い娘も負けていなかった。
「地廻りがうるせぇ!ここはあんたらのシマじゃないんだよ!」
暴れて、逃げようとしているが如何せん男の方が力があった。俺は男に近付いて後ろから尻に蹴りを入れてやった。
「ギャ!な、何しゃがんでぇ!」
若い娘を手放して男が尻を抑えながら振り向いて、ギョッとした顔になった。
「て、てめぇ!」
「よお、またあったな。このスケコマシ。」
男は先日の夜にユキをナンパした地廻りだった。仲間を2、3人引き連れて今日はショバ代でもせしめに来たのだろう。
「てめぇ、もう許せねえ!」
男は短刀を懐から出し、仲間たちは腰から剣を抜いた。
しかし、次の瞬間武器が消えているのに気が付いた。俺の足元に奴らの武器がバラバラと落ちる。
愕然と掌と落ちた武器を見比べて、捨て台詞を残して逃げていった。俺は落ちていた武器をインベントリに消して、見守っていた娘に言った。
「何か旨いもの食わせてくれ。腹減ったぞ」
娘は俺の隣のユキを気にした様に見て、ニッコリとして店に招いてくれた。
店の名前は『森の夕辺』と言って、野趣溢れるジビエを出す店だった。炒め物、煮物、焼き物と何でも旨かった。
肉と野菜と和えてある調味料がなんとも言えない。食わず嫌いのユキでさえバクバクと際限無く食う。
「ふい~、ごっそうさん!」
俺は米の入っていた椀を置いた。自分の腹を見るとぷっくり膨らんでいる。闘気を練って腹に力を入れ、フンと呼気を吐くと腹が元に戻った。
俺とユキの食べっぷりを見ていた若い娘が驚きから笑顔に変わった。俺は金貨を1枚置く。若い娘は助けて貰ったのだから要らないと言ったがきっと奴らはまた来るだろう。俺は金貨を握らせながら言った。
「奴らが来たら冒険者ギルドのディが相手になると言っとけ」
「でも、大丈夫でしょうか?」
「彼奴等は今頃俺の素性を血眼になって調べてるさ。だからな、心配するな」
俺は席を立って、振り向くとユキはいつの間にか横に立っていた。さっきまで俺のやり取りを聞きながら食っていた筈なんだがな。まぁ良いか。
俺とユキは食堂『森の夕辺』を出た。
向かうはギルドから聞いた『テンペスト』のアジトだ。スラムに近い建物を根城にしていたらしい。通常ならギルドに近い場所を選ぶのにスラムに睨みを効かせるために選んだと言う建前らしい。
ギルドの調べではスラムのヤクザとの繫がりの黒い噂がある。2階建ての建物を眼の前にしてユキが言った。
「ディ、見張られてる。」
「分ってるさ。さっきの連中だろ」
『テンペスト』の拠点の前には冒険者ギルドの人間が待っていた。俺は声を掛けて中に入れて貰う。万が一、スキュラが戻って来たら連絡する為の見張りだった。
1階は食堂やら調理場、解体場、ダイニング等だ。2階に上がると幾つかの部屋があったがベッドしか無く、荷物は無かった。多分ギルドが家探しをして押収していったのだろう。
一通り見て回って1階に戻る。手掛かりになるような物は何も無かった。すると外から争う様な音がして、出て見ると地廻りの男がギルドの見張りを伸していた。
「てめぇ、スキュラさんの家に何しに来やがった!」
「おいおい、その男はギルドの職員だぜ。そんな事すればギルドを敵に回すって分かってんのか?」
「うるせぇ!こっちが質問してんだ!さっさと吐け!」
おうおう、威勢が良いな。でもこいつらがスキュラと繋がりがあるとは都合が良い。さっさと吐かせるか。
俺がユキに合図する前にユキは動いていた。
ミリュエルがユキの言葉に驚く。
「月牙と言った。」
「アロシア帝国の暗殺団・・・存在したのね」
やっと認められたとユキは満足そうな顔をした。可愛い奴め。
「そういや、月牙の他のメンバーはどうした?」
「知らない。人数も顔も」
「んじゃ、ボスは誰だ。」
「皇帝直属の影のひとり、月牙」
「なるほど、そいつからユキは命令されてんだ」
「そう、まだ仕事を継続中」
「あん?ランドルトをまだやる気が?」
「仕事の途中でDに惚れた。あたしが失敗を報告しなければ継続中」
良く分からんが俺に惚れてる事だけは分かった。
「他の奴が来たりしないのか」
「他のメンバーの仕事の邪魔はしない。失敗した時は死あるのみ」
おいおい、大丈夫か?
「月牙が苛ついて代わりを送り込んだりしないか?」
「ディの心配は妥当。でもあたしが返り討ちにする。」
まぁ今のところはランドルトは俺と一緒だから大丈夫かな。ランドルトは大事な俺の盟友だからな。失わせないさ。
「頼もしい限りだ。という訳で俺達に任せとけ」
ミリュエルに俺はウィンクする。しれっとした顔でミリュエルは頷いた。何だよ、そこは顔を赤らめる所だぞ。
ギルドでも掴んでいる情報を貰って俺たちは外に出た。
先ずは腹拵えだ。屋台の肉串も良いがもうちょっと変わったもんが食いてえ。街中をぶらついているといい匂いがする店の前に人集りがあった。おおっ、並ぶほど旨い店なのかと近付くと男の怒号が響いた。
「さっさと払いやがれ!でねえと、こんなに店壊してやんよ!」
何だが何処かで聞いたような声だが俺が人集りを掻き分けて近付くと見た顔が若い娘の胸ぐらを掴んで殴ろうとしていた。
若い娘も負けていなかった。
「地廻りがうるせぇ!ここはあんたらのシマじゃないんだよ!」
暴れて、逃げようとしているが如何せん男の方が力があった。俺は男に近付いて後ろから尻に蹴りを入れてやった。
「ギャ!な、何しゃがんでぇ!」
若い娘を手放して男が尻を抑えながら振り向いて、ギョッとした顔になった。
「て、てめぇ!」
「よお、またあったな。このスケコマシ。」
男は先日の夜にユキをナンパした地廻りだった。仲間を2、3人引き連れて今日はショバ代でもせしめに来たのだろう。
「てめぇ、もう許せねえ!」
男は短刀を懐から出し、仲間たちは腰から剣を抜いた。
しかし、次の瞬間武器が消えているのに気が付いた。俺の足元に奴らの武器がバラバラと落ちる。
愕然と掌と落ちた武器を見比べて、捨て台詞を残して逃げていった。俺は落ちていた武器をインベントリに消して、見守っていた娘に言った。
「何か旨いもの食わせてくれ。腹減ったぞ」
娘は俺の隣のユキを気にした様に見て、ニッコリとして店に招いてくれた。
店の名前は『森の夕辺』と言って、野趣溢れるジビエを出す店だった。炒め物、煮物、焼き物と何でも旨かった。
肉と野菜と和えてある調味料がなんとも言えない。食わず嫌いのユキでさえバクバクと際限無く食う。
「ふい~、ごっそうさん!」
俺は米の入っていた椀を置いた。自分の腹を見るとぷっくり膨らんでいる。闘気を練って腹に力を入れ、フンと呼気を吐くと腹が元に戻った。
俺とユキの食べっぷりを見ていた若い娘が驚きから笑顔に変わった。俺は金貨を1枚置く。若い娘は助けて貰ったのだから要らないと言ったがきっと奴らはまた来るだろう。俺は金貨を握らせながら言った。
「奴らが来たら冒険者ギルドのディが相手になると言っとけ」
「でも、大丈夫でしょうか?」
「彼奴等は今頃俺の素性を血眼になって調べてるさ。だからな、心配するな」
俺は席を立って、振り向くとユキはいつの間にか横に立っていた。さっきまで俺のやり取りを聞きながら食っていた筈なんだがな。まぁ良いか。
俺とユキは食堂『森の夕辺』を出た。
向かうはギルドから聞いた『テンペスト』のアジトだ。スラムに近い建物を根城にしていたらしい。通常ならギルドに近い場所を選ぶのにスラムに睨みを効かせるために選んだと言う建前らしい。
ギルドの調べではスラムのヤクザとの繫がりの黒い噂がある。2階建ての建物を眼の前にしてユキが言った。
「ディ、見張られてる。」
「分ってるさ。さっきの連中だろ」
『テンペスト』の拠点の前には冒険者ギルドの人間が待っていた。俺は声を掛けて中に入れて貰う。万が一、スキュラが戻って来たら連絡する為の見張りだった。
1階は食堂やら調理場、解体場、ダイニング等だ。2階に上がると幾つかの部屋があったがベッドしか無く、荷物は無かった。多分ギルドが家探しをして押収していったのだろう。
一通り見て回って1階に戻る。手掛かりになるような物は何も無かった。すると外から争う様な音がして、出て見ると地廻りの男がギルドの見張りを伸していた。
「てめぇ、スキュラさんの家に何しに来やがった!」
「おいおい、その男はギルドの職員だぜ。そんな事すればギルドを敵に回すって分かってんのか?」
「うるせぇ!こっちが質問してんだ!さっさと吐け!」
おうおう、威勢が良いな。でもこいつらがスキュラと繋がりがあるとは都合が良い。さっさと吐かせるか。
俺がユキに合図する前にユキは動いていた。
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