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第一章
2. 出会い
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夕日が憎たらしい程眩しい。
寂れた公園のベンチに腰掛け、俺は一人項垂れていた。
結局、公衆電話から父親のスマホにかけた電話は繋がることはなかった。
途方に暮れて、ベンチで頭を抱え蹲る。
「……これからどこに住めばいいんだよっ」
パーカーの裾を握りしめ、そう低く吐き捨てた時だった。
「ねぇ、君。どうしたの?」
突然、頭上から柔らかな男の声が降りてきた。
何かの勧誘かと思い、顔も上げずに無視を決め込む。けれど、その声はしつこかった。
「あれ?聞こえてないのかな。おーい」
目の前にソイツがしゃがむような気配までして、とうとう折れるしかなかった。
「……うっせぇな。聞こえてる」
俯いたまま小さく呟き返せば、その声は少し弾むように明るくなった。
「君、ちゅ……高校生?何か困ってるの?」
「ちゅ?高校生じゃねぇ。別に困ってない」
「そっか。でも、『これからどこに住めば~』って言ってたよね?さっき」
その言葉に、丸めた肩が揺れる。
「話、聞こうか?」
それは、酷く優しい響きを含んでいた。
そんな声のせいだろうか。
(もう、どうにでもなれ……)
気がつけば、半ばヤケになりながら身の上と今日の出来事を話していた。
そして、全てを話し終えた時。
目の前の男が言ったのだ。
「絵のモデルになってくれない?」
そこで、ようやく顔を上げた俺は驚いた。だって、目の前に王子様がいたから。
王子様は、上質そうなチェスターコートやスラックスが汚れることも厭わず、目の前の地面に膝をついていた。こちらを微笑みながら覗き込むその顔は、恐ろしく均等がとれていて美しい。
きっとその流暢な日本語と目の下の酷い隈さえなければ、背の高さも相まって海外のモデルか何かと勘違いしていたことだろう。
「だからさ、うちにおいでよ」
優しい囁きに、目頭が熱くなりそうなのを何とか耐えた。
言葉を詰まらせると、彼は俺の隣へと腰掛ける。
「僕の名前はねー……」
そう言いながら、細い木の枝を拾って地面へ文字を書き出した。
「早川 悠介。ぜーんぜん、怪しい人じゃないよ」
そんな自己紹介がなんだか可笑しくて、思わず吹き出す。その枝を受け取り、俺も地面に名前を書いた。
「間宮 蒼大?いい名前だね」
「うん。早川さんもいい名前じゃん。俺が好きな漫画家さんと一緒」
言ってしまってから慌てて口を塞いだ。
なぜなら、それが有名とはいえ少女漫画家の名前だったからだ。昔同じことを言って友達に馬鹿にされた苦い思い出が蘇る。
チラリと隣を見れば、やはり彼も驚いたように目を丸くしていた。
「君、早川悠介知ってるの?あんなの絵が綺麗なだけの少女漫画家なのに」
その言葉に、少しカチンときた。
確かに少女漫画家だが、彼の作品はどれもヒットし、次々に実写化され一世を風靡したのだ。まぁ、俺が中学生の頃の話だが。
「んなことねぇよ。馬鹿にすんな」
精一杯の睨みをきかせて言い放つ。
「絵も綺麗だけどさ、あの人のアクションシーンがカッケェから好きなんだよ」
文句あるかコラ、という言葉はすんでのところで飲み込んだ。
すると、目の前の男は口を左手で覆いながら、肩を震わせて笑っていた。
「そうなんだ……。嬉しいよ、間宮くん」
「はぁ?なんであんたが喜んでんだよ」
「初めまして」
さらに眉間に皺をよせれば、挨拶と共に右手を差し出される。
「僕が、その早川悠介だよ」
そんな、嘘みたいな本当の話が、俺と早川さんの出会いだった。
寂れた公園のベンチに腰掛け、俺は一人項垂れていた。
結局、公衆電話から父親のスマホにかけた電話は繋がることはなかった。
途方に暮れて、ベンチで頭を抱え蹲る。
「……これからどこに住めばいいんだよっ」
パーカーの裾を握りしめ、そう低く吐き捨てた時だった。
「ねぇ、君。どうしたの?」
突然、頭上から柔らかな男の声が降りてきた。
何かの勧誘かと思い、顔も上げずに無視を決め込む。けれど、その声はしつこかった。
「あれ?聞こえてないのかな。おーい」
目の前にソイツがしゃがむような気配までして、とうとう折れるしかなかった。
「……うっせぇな。聞こえてる」
俯いたまま小さく呟き返せば、その声は少し弾むように明るくなった。
「君、ちゅ……高校生?何か困ってるの?」
「ちゅ?高校生じゃねぇ。別に困ってない」
「そっか。でも、『これからどこに住めば~』って言ってたよね?さっき」
その言葉に、丸めた肩が揺れる。
「話、聞こうか?」
それは、酷く優しい響きを含んでいた。
そんな声のせいだろうか。
(もう、どうにでもなれ……)
気がつけば、半ばヤケになりながら身の上と今日の出来事を話していた。
そして、全てを話し終えた時。
目の前の男が言ったのだ。
「絵のモデルになってくれない?」
そこで、ようやく顔を上げた俺は驚いた。だって、目の前に王子様がいたから。
王子様は、上質そうなチェスターコートやスラックスが汚れることも厭わず、目の前の地面に膝をついていた。こちらを微笑みながら覗き込むその顔は、恐ろしく均等がとれていて美しい。
きっとその流暢な日本語と目の下の酷い隈さえなければ、背の高さも相まって海外のモデルか何かと勘違いしていたことだろう。
「だからさ、うちにおいでよ」
優しい囁きに、目頭が熱くなりそうなのを何とか耐えた。
言葉を詰まらせると、彼は俺の隣へと腰掛ける。
「僕の名前はねー……」
そう言いながら、細い木の枝を拾って地面へ文字を書き出した。
「早川 悠介。ぜーんぜん、怪しい人じゃないよ」
そんな自己紹介がなんだか可笑しくて、思わず吹き出す。その枝を受け取り、俺も地面に名前を書いた。
「間宮 蒼大?いい名前だね」
「うん。早川さんもいい名前じゃん。俺が好きな漫画家さんと一緒」
言ってしまってから慌てて口を塞いだ。
なぜなら、それが有名とはいえ少女漫画家の名前だったからだ。昔同じことを言って友達に馬鹿にされた苦い思い出が蘇る。
チラリと隣を見れば、やはり彼も驚いたように目を丸くしていた。
「君、早川悠介知ってるの?あんなの絵が綺麗なだけの少女漫画家なのに」
その言葉に、少しカチンときた。
確かに少女漫画家だが、彼の作品はどれもヒットし、次々に実写化され一世を風靡したのだ。まぁ、俺が中学生の頃の話だが。
「んなことねぇよ。馬鹿にすんな」
精一杯の睨みをきかせて言い放つ。
「絵も綺麗だけどさ、あの人のアクションシーンがカッケェから好きなんだよ」
文句あるかコラ、という言葉はすんでのところで飲み込んだ。
すると、目の前の男は口を左手で覆いながら、肩を震わせて笑っていた。
「そうなんだ……。嬉しいよ、間宮くん」
「はぁ?なんであんたが喜んでんだよ」
「初めまして」
さらに眉間に皺をよせれば、挨拶と共に右手を差し出される。
「僕が、その早川悠介だよ」
そんな、嘘みたいな本当の話が、俺と早川さんの出会いだった。
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