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第一章
4. 提案
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「君は家がないし、僕も後がない。崖っぷち同士、協力し合おうよ」
早川は、そう言うとにっこりと笑った。
その笑顔に、胡散臭さを感じつつ聞き返す。
「協力って、具体的にどうすんの?」
「僕は君に家を提供しよう。その代わり、君は僕の漫画のモデルになる」
「モデルって……っ」
先程のエロ本が頭の中で蘇り、とっさに自分の体を抱きしめる。
すると、早川は一瞬ポカンとした後、呆れたように言った。
「違う違う。物語にリアリティを出す為に登場人物のイメージモデルになってもらうだけで、実際にどうこうする訳じゃないよ」
「あの表紙みたいにエロいことすんの?」
「話を聞いたり、ポージングのスケッチは頼むこともあるだろうけど。……少なくとも、僕は女性としかセックスしたことないから安心して」
直接的すぎる言葉に、一気に頬に熱が集まった。
「セッ……、っそこまで言ってない!」
「あ、ごめんね。童貞には刺激が強かったかな?」
爽やかにとんでもない発言をされて、さらに眩暈がする。
たしかに寝床は欲しい。
急いでアパートを探したとしても、今すぐに入居は無理だろう。きっと、今日からしばらくは困る筈だ。
そしてもしアパートを借りるなら、もろもろの費用を払う為にバイトだって見つけないといけない。
遺産として引き継いだ通帳の貯金はあるが、そのお金はできる限り使いたくない。
じいちゃんが残してくれた大切なお金だからこそ、とっておきたかったのだ。
胸の中に、黒い不安が渦巻いた。
頭の中でグルグルと考えていると、本当に音が鳴り出す。
それは、俺のお腹の音だった。
先程とはまた違う熱が頬に走るのを感じたが、今度は早川は笑わなかった。
「とりあえず、まずは何か食べようか。食べながらでも、ゆっくり考えてくれればいいよ。返事はすぐじゃなくていいから」
優しい声色に、肩の力が抜けた。
渦が、少しだけ遠ざかったような気がする。
デリバリーでも頼もうか、と言いながら立ち上がる姿をぼんやりと眺めていると、気づけば俺の口は動いていた。
「あの、俺作ろうか?」
早川は、目を丸くして言った。
「君、料理できるの?……あ、でも碌な材料ないかも」
「冷蔵庫あけていい?」
「いいよ」
その返事に、俺も立ち上がった。
見つけた材料は、パックご飯と、卵、冷凍のミックスベジタブル。そして、少し萎びた玉ねぎと、賞味期限ギリギリのベーコンだった。
鍋にお湯を沸かし、切ったベーコンと玉ねぎを具材にスープを作る。
ミックスベジタブルとパックご飯はフライパンで炒めて解凍し、ケチャップと塩胡椒を混ぜ合わせた。それらをフライパンの端に寄せ、薄くひいた溶き卵をクルリと巻きつければ、即席オムライスの出来上がりだ。
その間に、スープを煮込んでおいた。
そうすれば、コンソメがなくても塩とオリーブオイルで案外いける。
キッチンでゴミ袋を見つけたので、ついでにダイニングテーブルの上も片付けておく。
しかし、信じられない量の空き缶とペットボトルを袋に放り投げながら、はっと気づいた。
「あ!もう作っちゃったけど、早川さんオムライスで大丈夫?」
慌ててリビングを振り返れば、早川はタブレット片手にまたもやポカンとしていた。
(この顔二度目だな、イケメンなのに)
そんなことを考えていると、彼はタブレットを素早くタップして何かを打ち込み、廊下の方へと出て行ってしまった。
「え、ダメだったの!?」
動揺していると、彼は何やら白い用紙を片手に帰ってきた。
そして、俺の目の前に差し出す。
「これ、僕が考えた契約事項。印刷したから、後で確認してくれない?」
それは、崖っぷち二人を救うための契約書であった。
早川は、そう言うとにっこりと笑った。
その笑顔に、胡散臭さを感じつつ聞き返す。
「協力って、具体的にどうすんの?」
「僕は君に家を提供しよう。その代わり、君は僕の漫画のモデルになる」
「モデルって……っ」
先程のエロ本が頭の中で蘇り、とっさに自分の体を抱きしめる。
すると、早川は一瞬ポカンとした後、呆れたように言った。
「違う違う。物語にリアリティを出す為に登場人物のイメージモデルになってもらうだけで、実際にどうこうする訳じゃないよ」
「あの表紙みたいにエロいことすんの?」
「話を聞いたり、ポージングのスケッチは頼むこともあるだろうけど。……少なくとも、僕は女性としかセックスしたことないから安心して」
直接的すぎる言葉に、一気に頬に熱が集まった。
「セッ……、っそこまで言ってない!」
「あ、ごめんね。童貞には刺激が強かったかな?」
爽やかにとんでもない発言をされて、さらに眩暈がする。
たしかに寝床は欲しい。
急いでアパートを探したとしても、今すぐに入居は無理だろう。きっと、今日からしばらくは困る筈だ。
そしてもしアパートを借りるなら、もろもろの費用を払う為にバイトだって見つけないといけない。
遺産として引き継いだ通帳の貯金はあるが、そのお金はできる限り使いたくない。
じいちゃんが残してくれた大切なお金だからこそ、とっておきたかったのだ。
胸の中に、黒い不安が渦巻いた。
頭の中でグルグルと考えていると、本当に音が鳴り出す。
それは、俺のお腹の音だった。
先程とはまた違う熱が頬に走るのを感じたが、今度は早川は笑わなかった。
「とりあえず、まずは何か食べようか。食べながらでも、ゆっくり考えてくれればいいよ。返事はすぐじゃなくていいから」
優しい声色に、肩の力が抜けた。
渦が、少しだけ遠ざかったような気がする。
デリバリーでも頼もうか、と言いながら立ち上がる姿をぼんやりと眺めていると、気づけば俺の口は動いていた。
「あの、俺作ろうか?」
早川は、目を丸くして言った。
「君、料理できるの?……あ、でも碌な材料ないかも」
「冷蔵庫あけていい?」
「いいよ」
その返事に、俺も立ち上がった。
見つけた材料は、パックご飯と、卵、冷凍のミックスベジタブル。そして、少し萎びた玉ねぎと、賞味期限ギリギリのベーコンだった。
鍋にお湯を沸かし、切ったベーコンと玉ねぎを具材にスープを作る。
ミックスベジタブルとパックご飯はフライパンで炒めて解凍し、ケチャップと塩胡椒を混ぜ合わせた。それらをフライパンの端に寄せ、薄くひいた溶き卵をクルリと巻きつければ、即席オムライスの出来上がりだ。
その間に、スープを煮込んでおいた。
そうすれば、コンソメがなくても塩とオリーブオイルで案外いける。
キッチンでゴミ袋を見つけたので、ついでにダイニングテーブルの上も片付けておく。
しかし、信じられない量の空き缶とペットボトルを袋に放り投げながら、はっと気づいた。
「あ!もう作っちゃったけど、早川さんオムライスで大丈夫?」
慌ててリビングを振り返れば、早川はタブレット片手にまたもやポカンとしていた。
(この顔二度目だな、イケメンなのに)
そんなことを考えていると、彼はタブレットを素早くタップして何かを打ち込み、廊下の方へと出て行ってしまった。
「え、ダメだったの!?」
動揺していると、彼は何やら白い用紙を片手に帰ってきた。
そして、俺の目の前に差し出す。
「これ、僕が考えた契約事項。印刷したから、後で確認してくれない?」
それは、崖っぷち二人を救うための契約書であった。
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