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【2話】仮の新婚生活
アルファへのうらみつらみ1
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通話を切った後、基城は助言通りに管理会社へ連絡しようとしたが、連絡先が分からないことに今さら気付いた。親が用意した住まいなので、基城は全く関与していない。
詰んだ……と、身体から力が抜ける。結局、母親に事情を説明し、業者に連絡を取ってもらうことにした。
母は「災難ねぇ」とどこか他人事のように言いながらも、修理業者を手配してくれるとのことだった。事業のいくつかは姉達が引き継いでいるが、母もまだまだ現役だ。仕事が忙しいときは、連絡を返すのは夜になってからというのも珍しくない。
朝方に連絡がついたのは幸運だった。
──はー……どうするかなぁ。
オメガへの転化、優生との同棲、エアコンの故障……と、己に降りかかった不運がここ最近多すぎる。飲みきったアイスコーヒーのグラスをシンクに置き、外へ出た。
……────。
二限が始まる前の小休憩の間に、基城は講義室に入ることができた。大学の近くに住む前は、電車通学だったので遅延などで着く時間は多少前後することがあった。それを思えば徒歩はかなり楽だ。
同じ講義をとっている有坂の周りには、何人か女子がついていて近寄りがたい。仕方なく優生の姿を探すものの、いつも前の方の席にいるのに見当たらない。
──どこいったんだよ、あいつ。
探すのを諦めて、有坂の斜め後ろへ座る。前後左右は女子がすでに席取りをしていたからだ。
講義が始まる間際、二人の男が並んで入室する。講師に軽く頭を下げ、がらんと空いている一番前の席へ座った。
「優生……と、四宮?」
遠くから見た様子では、昨日よりも親密そうな雰囲気を醸し出していた。そう感じたのは基城だけではないようだった。優生がアルファ、四宮がオメガであることは周知の事実だ。お似合いのカップルに、前の方の席に座っている人達がざわつき始める。
女子達からは「久世くんが……」、男子達からは「四宮が……」と、落胆する声も一部聞こえてくる。
自分達は付き合っているわけではない……むしろ、嫌いなやつのはずなのに。何だか置いてけぼりにされたような、じりじりと喉を締めつけるような焦りが生まれてくる。
──何か、オメガの本能みたいな感じだろ。四宮もオメガだし俺もオメガ。……だから、何となく気に入らないだけ。
転化したとはいえ、フェロモンの数値から判断すれば、基城は完全なオメガではないと、医師も言っていた。
身体の変化も、気持ちの変化も、基城に追いついていないだけなのだ。
四宮はくいくいと甘えるように、優生の半袖を引っ張る。講義室の長机一つに椅子は三脚あり、ほとんどが両端に座り講義を受ける。
四宮は中央の席に座り直した。遠くから見ても、ちょこんと擬音が聞こえてきそうな仕草だった。
どうやら四宮は教科書を忘れたらしく、優生に見せてとお願いしているようだ。優生の耳元に顔を近付けて、内緒話をするように。あまりにも近い距離……少なくとも、基城のいる前では、あんなふうに誰も近付けさせなかったのに。
「何なんだよ……優生のやつ……」
「基城。声出てる」
苦悩する基城をくつくつ笑うのは、前に座る有坂だ。また後で話を聞かせろ、とジェスチャーされた後、彼は忙しそうに手元のスマホへ顔を戻した。
講義が終わった後、基城は速攻で有坂を連れ出した。女子にまた囲まれる前に抜け出す。構内のカフェテリアでアイスコーヒーとサンドイッチのセットを注文する。講義後すぐに駆け込んだので、店内はそれほど人はいない。
「ありえねー……手出すの早すぎだろあいつ」
「何でそんな怒ってんの」
「怒ってねーわ!」
基城はクラブハウスサンドに食らいついた。
「基城ちゃんは相変わらず潔癖だなー。手繋いでるとこ見たら失神しそう」
「するわけないだろ。俺だってなぁ……手繋いだり、キスしたり、いろいろあるわ!」
「あーはいはい。まあそこは深く触れないであげるけど、優生が他のやつとそうなってもいいのか、って話」
「別に……いいんじゃねぇの」
基城は意趣返しとばかりに、四宮の話題を振った。女子や色恋の話は好きなようだし、食いついてくるかもと思ったが、意外にもあっさりとした様子だった。
「有坂は四宮のこと好きじゃねぇの? 可愛い子皆好きじゃん」
「そんな人を節操なしみたいな言い方酷くない?」
「実際そうだろ。お前の噂、大学でめちゃくちゃ聞く」
先ほど有坂の周りに集まっていた女子の中に本命がいるのか、全員そうではないのか、基城は知らない。有坂はアイスコーヒーを口にした後、「四宮なぁ……」と呟いた。
「あんまり好きじゃないな」
「そうなのか? ああいうタイプ、好きだと思ってた」
「基城、俺の理解度低すぎ」
適当に出した話題は有坂に笑われ、基城はむっとする。いつも優生のことでからかわれているのだ。たまにはこっちが恋愛観を聞いたっていいだろう。
「そっちこそ四宮の噂聞くだろ。アルファのセフレが何人もいるって話。いくら可愛くてもああいうのは無理だな」
「へ、へぇ……」
悪友の暴露に、基城は何でもないふうを装って相槌を打つ。内心はどぎまぎしていたが。
──何か、あんな可愛いのにな。
詰んだ……と、身体から力が抜ける。結局、母親に事情を説明し、業者に連絡を取ってもらうことにした。
母は「災難ねぇ」とどこか他人事のように言いながらも、修理業者を手配してくれるとのことだった。事業のいくつかは姉達が引き継いでいるが、母もまだまだ現役だ。仕事が忙しいときは、連絡を返すのは夜になってからというのも珍しくない。
朝方に連絡がついたのは幸運だった。
──はー……どうするかなぁ。
オメガへの転化、優生との同棲、エアコンの故障……と、己に降りかかった不運がここ最近多すぎる。飲みきったアイスコーヒーのグラスをシンクに置き、外へ出た。
……────。
二限が始まる前の小休憩の間に、基城は講義室に入ることができた。大学の近くに住む前は、電車通学だったので遅延などで着く時間は多少前後することがあった。それを思えば徒歩はかなり楽だ。
同じ講義をとっている有坂の周りには、何人か女子がついていて近寄りがたい。仕方なく優生の姿を探すものの、いつも前の方の席にいるのに見当たらない。
──どこいったんだよ、あいつ。
探すのを諦めて、有坂の斜め後ろへ座る。前後左右は女子がすでに席取りをしていたからだ。
講義が始まる間際、二人の男が並んで入室する。講師に軽く頭を下げ、がらんと空いている一番前の席へ座った。
「優生……と、四宮?」
遠くから見た様子では、昨日よりも親密そうな雰囲気を醸し出していた。そう感じたのは基城だけではないようだった。優生がアルファ、四宮がオメガであることは周知の事実だ。お似合いのカップルに、前の方の席に座っている人達がざわつき始める。
女子達からは「久世くんが……」、男子達からは「四宮が……」と、落胆する声も一部聞こえてくる。
自分達は付き合っているわけではない……むしろ、嫌いなやつのはずなのに。何だか置いてけぼりにされたような、じりじりと喉を締めつけるような焦りが生まれてくる。
──何か、オメガの本能みたいな感じだろ。四宮もオメガだし俺もオメガ。……だから、何となく気に入らないだけ。
転化したとはいえ、フェロモンの数値から判断すれば、基城は完全なオメガではないと、医師も言っていた。
身体の変化も、気持ちの変化も、基城に追いついていないだけなのだ。
四宮はくいくいと甘えるように、優生の半袖を引っ張る。講義室の長机一つに椅子は三脚あり、ほとんどが両端に座り講義を受ける。
四宮は中央の席に座り直した。遠くから見ても、ちょこんと擬音が聞こえてきそうな仕草だった。
どうやら四宮は教科書を忘れたらしく、優生に見せてとお願いしているようだ。優生の耳元に顔を近付けて、内緒話をするように。あまりにも近い距離……少なくとも、基城のいる前では、あんなふうに誰も近付けさせなかったのに。
「何なんだよ……優生のやつ……」
「基城。声出てる」
苦悩する基城をくつくつ笑うのは、前に座る有坂だ。また後で話を聞かせろ、とジェスチャーされた後、彼は忙しそうに手元のスマホへ顔を戻した。
講義が終わった後、基城は速攻で有坂を連れ出した。女子にまた囲まれる前に抜け出す。構内のカフェテリアでアイスコーヒーとサンドイッチのセットを注文する。講義後すぐに駆け込んだので、店内はそれほど人はいない。
「ありえねー……手出すの早すぎだろあいつ」
「何でそんな怒ってんの」
「怒ってねーわ!」
基城はクラブハウスサンドに食らいついた。
「基城ちゃんは相変わらず潔癖だなー。手繋いでるとこ見たら失神しそう」
「するわけないだろ。俺だってなぁ……手繋いだり、キスしたり、いろいろあるわ!」
「あーはいはい。まあそこは深く触れないであげるけど、優生が他のやつとそうなってもいいのか、って話」
「別に……いいんじゃねぇの」
基城は意趣返しとばかりに、四宮の話題を振った。女子や色恋の話は好きなようだし、食いついてくるかもと思ったが、意外にもあっさりとした様子だった。
「有坂は四宮のこと好きじゃねぇの? 可愛い子皆好きじゃん」
「そんな人を節操なしみたいな言い方酷くない?」
「実際そうだろ。お前の噂、大学でめちゃくちゃ聞く」
先ほど有坂の周りに集まっていた女子の中に本命がいるのか、全員そうではないのか、基城は知らない。有坂はアイスコーヒーを口にした後、「四宮なぁ……」と呟いた。
「あんまり好きじゃないな」
「そうなのか? ああいうタイプ、好きだと思ってた」
「基城、俺の理解度低すぎ」
適当に出した話題は有坂に笑われ、基城はむっとする。いつも優生のことでからかわれているのだ。たまにはこっちが恋愛観を聞いたっていいだろう。
「そっちこそ四宮の噂聞くだろ。アルファのセフレが何人もいるって話。いくら可愛くてもああいうのは無理だな」
「へ、へぇ……」
悪友の暴露に、基城は何でもないふうを装って相槌を打つ。内心はどぎまぎしていたが。
──何か、あんな可愛いのにな。
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