大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル

文字の大きさ
10 / 36
【2話】仮の新婚生活

アルファへのうらみつらみ1

しおりを挟む
通話を切った後、基城は助言通りに管理会社へ連絡しようとしたが、連絡先が分からないことに今さら気付いた。親が用意した住まいなので、基城は全く関与していない。

詰んだ……と、身体から力が抜ける。結局、母親に事情を説明し、業者に連絡を取ってもらうことにした。
母は「災難ねぇ」とどこか他人事のように言いながらも、修理業者を手配してくれるとのことだった。事業のいくつかは姉達が引き継いでいるが、母もまだまだ現役だ。仕事が忙しいときは、連絡を返すのは夜になってからというのも珍しくない。
朝方に連絡がついたのは幸運だった。

──はー……どうするかなぁ。

オメガへの転化、優生との同棲、エアコンの故障……と、己に降りかかった不運がここ最近多すぎる。飲みきったアイスコーヒーのグラスをシンクに置き、外へ出た。


……────。


二限が始まる前の小休憩の間に、基城は講義室に入ることができた。大学の近くに住む前は、電車通学だったので遅延などで着く時間は多少前後することがあった。それを思えば徒歩はかなり楽だ。

同じ講義をとっている有坂の周りには、何人か女子がついていて近寄りがたい。仕方なく優生の姿を探すものの、いつも前の方の席にいるのに見当たらない。

──どこいったんだよ、あいつ。

探すのを諦めて、有坂の斜め後ろへ座る。前後左右は女子がすでに席取りをしていたからだ。

講義が始まる間際、二人の男が並んで入室する。講師に軽く頭を下げ、がらんと空いている一番前の席へ座った。

「優生……と、四宮?」

遠くから見た様子では、昨日よりも親密そうな雰囲気を醸し出していた。そう感じたのは基城だけではないようだった。優生がアルファ、四宮がオメガであることは周知の事実だ。お似合いのカップルに、前の方の席に座っている人達がざわつき始める。

女子達からは「久世くんが……」、男子達からは「四宮が……」と、落胆する声も一部聞こえてくる。

自分達は付き合っているわけではない……むしろ、嫌いなやつのはずなのに。何だか置いてけぼりにされたような、じりじりと喉を締めつけるような焦りが生まれてくる。

──何か、オメガの本能みたいな感じだろ。四宮もオメガだし俺もオメガ。……だから、何となく気に入らないだけ。

転化したとはいえ、フェロモンの数値から判断すれば、基城は完全なオメガではないと、医師も言っていた。

身体の変化も、気持ちの変化も、基城に追いついていないだけなのだ。

四宮はくいくいと甘えるように、優生の半袖を引っ張る。講義室の長机一つに椅子は三脚あり、ほとんどが両端に座り講義を受ける。

四宮は中央の席に座り直した。遠くから見ても、ちょこんと擬音が聞こえてきそうな仕草だった。

どうやら四宮は教科書を忘れたらしく、優生に見せてとお願いしているようだ。優生の耳元に顔を近付けて、内緒話をするように。あまりにも近い距離……少なくとも、基城のいる前では、あんなふうに誰も近付けさせなかったのに。

「何なんだよ……優生のやつ……」
「基城。声出てる」

苦悩する基城をくつくつ笑うのは、前に座る有坂だ。また後で話を聞かせろ、とジェスチャーされた後、彼は忙しそうに手元のスマホへ顔を戻した。

講義が終わった後、基城は速攻で有坂を連れ出した。女子にまた囲まれる前に抜け出す。構内のカフェテリアでアイスコーヒーとサンドイッチのセットを注文する。講義後すぐに駆け込んだので、店内はそれほど人はいない。

「ありえねー……手出すの早すぎだろあいつ」
「何でそんな怒ってんの」
「怒ってねーわ!」

基城はクラブハウスサンドに食らいついた。

「基城ちゃんは相変わらず潔癖だなー。手繋いでるとこ見たら失神しそう」
「するわけないだろ。俺だってなぁ……手繋いだり、キスしたり、いろいろあるわ!」
「あーはいはい。まあそこは深く触れないであげるけど、優生が他のやつとそうなってもいいのか、って話」
「別に……いいんじゃねぇの」

基城は意趣返しとばかりに、四宮の話題を振った。女子や色恋の話は好きなようだし、食いついてくるかもと思ったが、意外にもあっさりとした様子だった。

「有坂は四宮のこと好きじゃねぇの? 可愛い子皆好きじゃん」
「そんな人を節操なしみたいな言い方酷くない?」
「実際そうだろ。お前の噂、大学でめちゃくちゃ聞く」

先ほど有坂の周りに集まっていた女子の中に本命がいるのか、全員そうではないのか、基城は知らない。有坂はアイスコーヒーを口にした後、「四宮なぁ……」と呟いた。

「あんまり好きじゃないな」
「そうなのか? ああいうタイプ、好きだと思ってた」
「基城、俺の理解度低すぎ」

適当に出した話題は有坂に笑われ、基城はむっとする。いつも優生のことでからかわれているのだ。たまにはこっちが恋愛観を聞いたっていいだろう。

「そっちこそ四宮の噂聞くだろ。アルファのセフレが何人もいるって話。いくら可愛くてもああいうのは無理だな」
「へ、へぇ……」

悪友の暴露に、基城は何でもないふうを装って相槌を打つ。内心はどぎまぎしていたが。

──何か、あんな可愛いのにな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜
BL
優等生・聖利(ひじり)と校則破りの常習犯・來(らい)は、ともに優秀なアルファ。 ライバルとして競い合ってきたふたりは、高等部寮でルームメイトに。 來を意識してしまう聖利は、あるとき自分の身体に妙な変化を感じる。 すると、來が獣のように押し倒してきて……。 「その顔、煽ってんだろ? 俺を」 アルファからオメガに転化してしまった聖利と、過保護に執着する來の焦れ恋物語。 ※性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※2021年に他サイトで連載した作品です。ラストに番外編を加筆予定です。 ☆登場人物☆ 楠見野聖利(くすみのひじり) 高校一年、175センチ、黒髪の美少年アルファ。 中等部から学年トップの秀才。 來に好意があるが、叶わぬ気持ちだと諦めている。 ある日、バース性が転化しアルファからオメガになってしまう。 海瀬來(かいせらい) 高校一年、185センチ、端正な顔立ちのアルファ。 聖利のライバルで、身体能力は聖利より上。 海瀬グループの御曹司。さらに成績優秀なため、多少素行が悪くても教師も生徒も手出しできない。 聖利のオメガ転化を前にして自身を抑えきれず……。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

俺は完璧な君の唯一の欠点

一寸光陰
BL
進藤海斗は完璧だ。端正な顔立ち、優秀な頭脳、抜群の運動神経。皆から好かれ、敬わられている彼は性格も真っ直ぐだ。 そんな彼にも、唯一の欠点がある。 それは、平凡な俺に依存している事。 平凡な受けがスパダリ攻めに囲われて逃げられなくなっちゃうお話です。

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル
BL
運命を受け入れたスパダリα(30)×運命の恋に拾われたΩ(27) ──愛してる。俺だけの運命。 婚約者に捨てられたオメガの千歳は、オメガ嫌いであるアルファのレグルシュの元で、一時期居候の身となる。そこでレグルシュの甥である、ユキのシッターとして働いていた。 ユキとの別れ、そして、レグルシュと運命の恋で結ばれ、千歳は子供を身籠った。 新しい家族の誕生。初めての育児に、甘い新婚生活。さらには、二人の仲にヤキモチを焼いたユキに──!? ※こちらは「愛人オメガは運命の恋に拾われる」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/590151775/674683785)の続編になります。

処理中です...