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【3話】好きになって恋をして
実は面倒見いい?1
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「ええぇっ!? 修理が一ヶ月先!?」
電話口で思わず叫ぶと、向こうにいる長女に「煩い」と窘められた。
「何でっ?」
『何でって。この時期はそういうもんよ。あんたが世間知らずなだけ』
先日、自室のクーラーが壊れた……といっても、基城が何かしたわけではないのだが。入居して電源を入れようとしたら、うんともすんともいわなかったので、姉と母に助けを求めたのだ。
「どうすんだよ。なー、実家帰ってもいい?」
『リビングは問題ないんでしょ? 敷き布団買ってきてそこで寝たら?』
「そんなとこで寝ても寝れた気しない」
『……実家にいたときはリビングのソファで寝落ちてたでしょーが』
呆れた溜め息が聞こえた。きっと今も姉はクーラーのよく効いた涼しい部屋にいるのだろう。それが心底恨めしい。
『優生くんのところで一緒に寝たらいいじゃない』
「はあ!? 無理! 二人で寝るの狭いんだよ。腕とか足ぶつかるし」
『あら。寝たんだ』
姉に見透かされ、基城は言い返そうとしたが、羞恥でぐっと喉が締まり何も出てこなかった。
子供の泣き声が聞こえてきて、姉はそんな基城をからかうこともなく、手短にじゃあね、と伝えて一方的に通話を切られた。
不満をぶつける相手がいなくなり、基城は誰もいない部屋で悪態をつく。
嫌いなやつとは一分一秒でも一緒にいたくないのに、どうしてこうなるのか。そんな大嫌いな優生は、一人で買い出しに出かけている。暑い中、外に出るのは嫌で、基城は「姉から連絡がくるかもしれないから」と、同行を断った。
「ただいまー」
間延びした呑気な声のほうに向かって、基城はソファにあるクッションを引っ掴んで、そのままの勢いで投げた。両手が買い物袋で塞がっている優生の顔面へヒットした。
「ちょっ……なに?」
基城の顔を見て、優生は察したらしい。冷蔵庫に食材を詰めながら、優生は「残念だったね」と言う。
「一ヶ月もお前と一緒に寝るとかやってらんねー……」
基城がそう溢すと、優生が頬を緩ませて笑ったので、睨み返してやった。仕草に苛ついたが、悪い笑みではなくて、何故か子供がするような屈託のない笑顔だったので、それ以上愚痴も言えなくなる。
──こいつの笑い方、嫌い。
優生と初めて会ったとき、周りから浮いている優生に話しかけたとき……今と同じような笑い方をしていた。
──というか、何で優生って浮いてたんだっけ?
どうでもいいやつなんかと、友達になったきっかけなんて、今さら思い出せなかった。
「今日の夕飯何?」
「冷麺」
「えー……レトルトのやつだろ。食いに行ったほうがよくないか?」
「そんな頻繁に外食してたら生活費がかかる」
「いいじゃん。姉ちゃん優生大好きだから足りなかったらいくらでも出してくれるって」
「それは余計節約しないといけないな」
優生は苦笑いを浮かべる。実家では仕事に忙しい両親や姉の代わりにお手伝いさんがいて、基城の食事をつくってくれていた。住み込みではなく、十八時には帰ってしまうので、基城が遊びなどで帰宅が遅くなる日は、食事の作り置きは断っていた。
夜、小腹が空いたときにレトルト食品を食べる機会があったのだが、プロの家事代行がつくる味と比べてしまい、どうも最後まで完食できなかった。
「俺、あんまりレトルト食べないんだけど……」
「そう? 最近のやつ結構美味しいよ。あーそっか。基城、ブルジョア育ちだから」
「何だよ、バカにした言い方だな。それだけ言うんならちょっと食べてみる。残したらお前が食えよ」
「はいはい」
そんなやり取りをしながらも、優生は手際よく麺にのせる具材を用意する。続けてトマトを切ろうとした優生を止めた。
「俺いらない!」
「一切れだけでも食べなよ」
「……薄く切れよ」
優生は適当に返事を寄越す。基城の指示した通り、優生はトマトを一センチ未満に薄く切った。こっそり二枚のせられたが、もういいやと諦めて、できあがったばかりの冷麺を運んだ。
──優生って、結構器用だな。
細切りのチャーシュー、きゅうり、焼き卵が彩りよく並べられているのをかき分け、麺を啜った。悔しいことに、レトルトながら味はさっぱりしていてとても美味しい。
男二人の同棲生活──優生に家事ができるなど期待していなかったが、いい意味で裏切られた。
「……なあ、四宮の怪我、どうだった?」
「ん? ああ、軽い捻挫だって。歩くのにも支障はないって言ってた」
「そっ……か。よかった」
安堵する基城に、優生は柔らかく笑った。
「気にしてたんだ」
「そりゃそうだろ。俺から当たっちゃったんだし。顔に傷でもついたら大変だろ」
「基城にも怪我がなくてよかった」
「俺は別に……傷が残っても気にしない」
「俺が気にするよ」
「何だそれ。意味分かんねぇ」
「心配してるのに」
突っぱねても優生は嫌な顔一つしない。さすがに言い過ぎた気がして……でも、素直に謝れるような性格ではないので、罪滅ぼしに冷麺の味を褒めた。珍しく見せた素直さに、優生は照れくさそうにはにかんだ。
「へ……」
「へ?」
「変な顔すんな!」
「え、してた?」
「してたっ! お前の顔なんか一緒に暮らしてて飽きるほど見てんのに! 変な顔されると余計疲れる!」
電話口で思わず叫ぶと、向こうにいる長女に「煩い」と窘められた。
「何でっ?」
『何でって。この時期はそういうもんよ。あんたが世間知らずなだけ』
先日、自室のクーラーが壊れた……といっても、基城が何かしたわけではないのだが。入居して電源を入れようとしたら、うんともすんともいわなかったので、姉と母に助けを求めたのだ。
「どうすんだよ。なー、実家帰ってもいい?」
『リビングは問題ないんでしょ? 敷き布団買ってきてそこで寝たら?』
「そんなとこで寝ても寝れた気しない」
『……実家にいたときはリビングのソファで寝落ちてたでしょーが』
呆れた溜め息が聞こえた。きっと今も姉はクーラーのよく効いた涼しい部屋にいるのだろう。それが心底恨めしい。
『優生くんのところで一緒に寝たらいいじゃない』
「はあ!? 無理! 二人で寝るの狭いんだよ。腕とか足ぶつかるし」
『あら。寝たんだ』
姉に見透かされ、基城は言い返そうとしたが、羞恥でぐっと喉が締まり何も出てこなかった。
子供の泣き声が聞こえてきて、姉はそんな基城をからかうこともなく、手短にじゃあね、と伝えて一方的に通話を切られた。
不満をぶつける相手がいなくなり、基城は誰もいない部屋で悪態をつく。
嫌いなやつとは一分一秒でも一緒にいたくないのに、どうしてこうなるのか。そんな大嫌いな優生は、一人で買い出しに出かけている。暑い中、外に出るのは嫌で、基城は「姉から連絡がくるかもしれないから」と、同行を断った。
「ただいまー」
間延びした呑気な声のほうに向かって、基城はソファにあるクッションを引っ掴んで、そのままの勢いで投げた。両手が買い物袋で塞がっている優生の顔面へヒットした。
「ちょっ……なに?」
基城の顔を見て、優生は察したらしい。冷蔵庫に食材を詰めながら、優生は「残念だったね」と言う。
「一ヶ月もお前と一緒に寝るとかやってらんねー……」
基城がそう溢すと、優生が頬を緩ませて笑ったので、睨み返してやった。仕草に苛ついたが、悪い笑みではなくて、何故か子供がするような屈託のない笑顔だったので、それ以上愚痴も言えなくなる。
──こいつの笑い方、嫌い。
優生と初めて会ったとき、周りから浮いている優生に話しかけたとき……今と同じような笑い方をしていた。
──というか、何で優生って浮いてたんだっけ?
どうでもいいやつなんかと、友達になったきっかけなんて、今さら思い出せなかった。
「今日の夕飯何?」
「冷麺」
「えー……レトルトのやつだろ。食いに行ったほうがよくないか?」
「そんな頻繁に外食してたら生活費がかかる」
「いいじゃん。姉ちゃん優生大好きだから足りなかったらいくらでも出してくれるって」
「それは余計節約しないといけないな」
優生は苦笑いを浮かべる。実家では仕事に忙しい両親や姉の代わりにお手伝いさんがいて、基城の食事をつくってくれていた。住み込みではなく、十八時には帰ってしまうので、基城が遊びなどで帰宅が遅くなる日は、食事の作り置きは断っていた。
夜、小腹が空いたときにレトルト食品を食べる機会があったのだが、プロの家事代行がつくる味と比べてしまい、どうも最後まで完食できなかった。
「俺、あんまりレトルト食べないんだけど……」
「そう? 最近のやつ結構美味しいよ。あーそっか。基城、ブルジョア育ちだから」
「何だよ、バカにした言い方だな。それだけ言うんならちょっと食べてみる。残したらお前が食えよ」
「はいはい」
そんなやり取りをしながらも、優生は手際よく麺にのせる具材を用意する。続けてトマトを切ろうとした優生を止めた。
「俺いらない!」
「一切れだけでも食べなよ」
「……薄く切れよ」
優生は適当に返事を寄越す。基城の指示した通り、優生はトマトを一センチ未満に薄く切った。こっそり二枚のせられたが、もういいやと諦めて、できあがったばかりの冷麺を運んだ。
──優生って、結構器用だな。
細切りのチャーシュー、きゅうり、焼き卵が彩りよく並べられているのをかき分け、麺を啜った。悔しいことに、レトルトながら味はさっぱりしていてとても美味しい。
男二人の同棲生活──優生に家事ができるなど期待していなかったが、いい意味で裏切られた。
「……なあ、四宮の怪我、どうだった?」
「ん? ああ、軽い捻挫だって。歩くのにも支障はないって言ってた」
「そっ……か。よかった」
安堵する基城に、優生は柔らかく笑った。
「気にしてたんだ」
「そりゃそうだろ。俺から当たっちゃったんだし。顔に傷でもついたら大変だろ」
「基城にも怪我がなくてよかった」
「俺は別に……傷が残っても気にしない」
「俺が気にするよ」
「何だそれ。意味分かんねぇ」
「心配してるのに」
突っぱねても優生は嫌な顔一つしない。さすがに言い過ぎた気がして……でも、素直に謝れるような性格ではないので、罪滅ぼしに冷麺の味を褒めた。珍しく見せた素直さに、優生は照れくさそうにはにかんだ。
「へ……」
「へ?」
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