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【3話】好きになって恋をして
実は面倒見いい?2
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適当に箸で掬ったのが、基城の大嫌いなトマトで口に入れたときにそれが分かった。甘いとも酸っぱいとも言えない、どっちつかずな味が口の中に広がり、基城は不快に眉毛を寄せた。今さら吐き出せず、どうにか飲み込んだ。
「エアコンの工事、やっぱり長いことかかりそうだった?」
「ああ、一ヶ月先だって。かかりすぎだよなぁ」
「まあこの時期は仕方ないよ」
「はあー……それまで優生と寝ないといけないのかー」
嫌味ったらしくぼやくと、何故かテーブルを挟んだ向こう側の優生が、ごほっと盛大にむせる。あまりにも長く咳き込んでいるため、基城は哀れんでティッシュボックスを手繰り寄せてやった。
「……大丈夫か?」
「あ……うん。ごめん」
──変な顔するし、変な反応するし……何なんだよ。
そんなことを聞いても、また変なリアクションで基城のほうが困りそうだったので、結局聞けずじまいだった。
……────。
自室のエアコンの工事は一ヶ月先と判明し、眠るときも起きるときも嫌いな優生が引っついてまわる……まあ、起床時間は相手のほうが一時間ほど早いが。基城は今日も苛立ちを、有坂にぶつける。
「優生いちいち煩いんだよなー。外食は金がかかるから基本自炊だし、嫌いなトマトは入れてくるし。まだ学生だからそんなにケチケチしなくてもいいのにな。あと二年したら嫌でも働くんだから」
「あーはいはい。惚気ね」
「は? どこが? 一〇〇パーセント愚痴だわ!」
談話室で有坂にノートとプリントをコピーさせてもらいながら、基城は叫んだ。遅刻と居眠りで講義はまともに受けた試しがない。対して、女にだらしなくて基城よりも悪い遊びをしてそうな有坂は、勉強に関しては真面目だ。昔から、遊びも勉強もきっちり楽しむタイプだった。
「優生は家でゆっくり食べたいんじゃないの? 暑い中、行って帰ってくるのが嫌なんだろ」
「そうかぁ? 俺からしたら買い物とか洗い物する手間考えたら、外食でいいと思うけど」
「ふーん。俺の考えが間違ってるなら、優生は基城に手作り料理を食べさせたいわけか」
それを聞いて、基城の肌が粟立った。
「あーもう! お前まで変なこと言うな! じゃあ、デリバリーすれば解決するじゃん」
「それは夫婦間でよく話し合って決めてください」
これ以上何を言っても茶化されそうで、基城は閉口した。
「これで期末考査も何とかなりそう。ありがとな、有坂。何か好きなもの奢るわ」
「あ、今回は奢りはいい」
「……そうか? じゃあこれで」
「奢るのはいいから、優生との同棲生活のこと教えろ」
「はあ!? 何でそんなことお前に教えなきゃ……」
有坂は余裕の表情で手のひらを差し出す。基城が今手に持っているコピーしたばかりの書類を、没収するという意図が垣間見える。友人とは違い、単位数がいつもギリギリで進級している基城は観念してつらつらと話し始める。
「俺の部屋だけエアコンが壊れた話はお前にしたっけ?」
「聞いてないな」
「入居日に壊れたんだよ。最悪」
「あらら」
有坂はあっさりとした反応だった。どうして自分の親が持っている物件で、そんな外れくじを引かなければいけないのか。姉に至っては「優生くんじゃなくて弟の部屋でよかった」などと言ってくる始末だ。
「でさー、工事が一ヶ月先で! あいつ本当疫病神だわ。寝るところないから優生と一緒に寝てて……」
ぱさりと書類が落下する音がした。有坂が落としたものだ。いつまで経っても拾おうとしないので、基城は仕方なく屈んで集めてやった。
「有坂……? おーい……」
──有坂も変な反応だな……疲れてんのか?
フリーズした有坂の眼前で手を何度か振る。我に返った有坂は、へぇ……と、今度は訳あり気な表情で基城を見た。
「そうか……一緒にか。こりゃ優生も大変だなぁ」
「はあ? 何でお前が優生の味方するんだよ?」
「いやいや、俺は基城寄りの中立。優生、鋼の精神じゃなきゃ毎日やってられねぇな」
「何だそれ。優生は何にも考えてねーよ。俺が嫌がらせで一緒に寝るって言ったときも、あんまり気にしてなかったし。全くのノーダメージ」
有坂は染めたてで赤っぽくなっている髪をかき上げた。独り言でぶつぶつと呟く言葉は、何故か優生の身を心配するものばかりで腹が立つ。話せと強要したわりには、基城ではなくて、優生の肩ばかりを持つので面白くない。
課題と期末考査の対策を終えた後、二人は談話室を離れた。時刻は五時になっているが、昼間かと見間違うほど外は明るい。
「なあ、有坂。今日どっかで食べる?」
「ごめん。今日バイト」
「バイト?」
「そ。ボンボンの基城と違って、俺は使えるお金が少ないんだよ」
「使い過ぎなだけだろ」
これからバイトに行く有坂とは帰る方向が逆だったので、帰路は一人になる。
基城の向かう先が何やらざわめいているな、と思ったら、優生と四宮が一緒に歩いていた。
何を話しているんだろう。周りの喧騒で基城の元までは届かない。それでも、優生の横顔は穏やかで、四宮の大きな身振り手振りを交えて話す内容に、いちいち相槌を打っている。基城の話を聞くときは「はいはい」と二つ返事なのに。
「エアコンの工事、やっぱり長いことかかりそうだった?」
「ああ、一ヶ月先だって。かかりすぎだよなぁ」
「まあこの時期は仕方ないよ」
「はあー……それまで優生と寝ないといけないのかー」
嫌味ったらしくぼやくと、何故かテーブルを挟んだ向こう側の優生が、ごほっと盛大にむせる。あまりにも長く咳き込んでいるため、基城は哀れんでティッシュボックスを手繰り寄せてやった。
「……大丈夫か?」
「あ……うん。ごめん」
──変な顔するし、変な反応するし……何なんだよ。
そんなことを聞いても、また変なリアクションで基城のほうが困りそうだったので、結局聞けずじまいだった。
……────。
自室のエアコンの工事は一ヶ月先と判明し、眠るときも起きるときも嫌いな優生が引っついてまわる……まあ、起床時間は相手のほうが一時間ほど早いが。基城は今日も苛立ちを、有坂にぶつける。
「優生いちいち煩いんだよなー。外食は金がかかるから基本自炊だし、嫌いなトマトは入れてくるし。まだ学生だからそんなにケチケチしなくてもいいのにな。あと二年したら嫌でも働くんだから」
「あーはいはい。惚気ね」
「は? どこが? 一〇〇パーセント愚痴だわ!」
談話室で有坂にノートとプリントをコピーさせてもらいながら、基城は叫んだ。遅刻と居眠りで講義はまともに受けた試しがない。対して、女にだらしなくて基城よりも悪い遊びをしてそうな有坂は、勉強に関しては真面目だ。昔から、遊びも勉強もきっちり楽しむタイプだった。
「優生は家でゆっくり食べたいんじゃないの? 暑い中、行って帰ってくるのが嫌なんだろ」
「そうかぁ? 俺からしたら買い物とか洗い物する手間考えたら、外食でいいと思うけど」
「ふーん。俺の考えが間違ってるなら、優生は基城に手作り料理を食べさせたいわけか」
それを聞いて、基城の肌が粟立った。
「あーもう! お前まで変なこと言うな! じゃあ、デリバリーすれば解決するじゃん」
「それは夫婦間でよく話し合って決めてください」
これ以上何を言っても茶化されそうで、基城は閉口した。
「これで期末考査も何とかなりそう。ありがとな、有坂。何か好きなもの奢るわ」
「あ、今回は奢りはいい」
「……そうか? じゃあこれで」
「奢るのはいいから、優生との同棲生活のこと教えろ」
「はあ!? 何でそんなことお前に教えなきゃ……」
有坂は余裕の表情で手のひらを差し出す。基城が今手に持っているコピーしたばかりの書類を、没収するという意図が垣間見える。友人とは違い、単位数がいつもギリギリで進級している基城は観念してつらつらと話し始める。
「俺の部屋だけエアコンが壊れた話はお前にしたっけ?」
「聞いてないな」
「入居日に壊れたんだよ。最悪」
「あらら」
有坂はあっさりとした反応だった。どうして自分の親が持っている物件で、そんな外れくじを引かなければいけないのか。姉に至っては「優生くんじゃなくて弟の部屋でよかった」などと言ってくる始末だ。
「でさー、工事が一ヶ月先で! あいつ本当疫病神だわ。寝るところないから優生と一緒に寝てて……」
ぱさりと書類が落下する音がした。有坂が落としたものだ。いつまで経っても拾おうとしないので、基城は仕方なく屈んで集めてやった。
「有坂……? おーい……」
──有坂も変な反応だな……疲れてんのか?
フリーズした有坂の眼前で手を何度か振る。我に返った有坂は、へぇ……と、今度は訳あり気な表情で基城を見た。
「そうか……一緒にか。こりゃ優生も大変だなぁ」
「はあ? 何でお前が優生の味方するんだよ?」
「いやいや、俺は基城寄りの中立。優生、鋼の精神じゃなきゃ毎日やってられねぇな」
「何だそれ。優生は何にも考えてねーよ。俺が嫌がらせで一緒に寝るって言ったときも、あんまり気にしてなかったし。全くのノーダメージ」
有坂は染めたてで赤っぽくなっている髪をかき上げた。独り言でぶつぶつと呟く言葉は、何故か優生の身を心配するものばかりで腹が立つ。話せと強要したわりには、基城ではなくて、優生の肩ばかりを持つので面白くない。
課題と期末考査の対策を終えた後、二人は談話室を離れた。時刻は五時になっているが、昼間かと見間違うほど外は明るい。
「なあ、有坂。今日どっかで食べる?」
「ごめん。今日バイト」
「バイト?」
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これからバイトに行く有坂とは帰る方向が逆だったので、帰路は一人になる。
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何を話しているんだろう。周りの喧騒で基城の元までは届かない。それでも、優生の横顔は穏やかで、四宮の大きな身振り手振りを交えて話す内容に、いちいち相槌を打っている。基城の話を聞くときは「はいはい」と二つ返事なのに。
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