24 / 52
愛されSubは尽くしたい
不穏2
「Kneel. パパのコネを使って仕事をしていました。すみませんでした、ってな。Say」
──従いたくない。そのCommandには。
心の声と、Glareを与えられて喜ぶSubの本能で、頭の中はぐちゃぐちゃになる。不快さがこみ上げてきて、汐は床の上へ嘔吐してしまった。身体は拒否反応を示しているのに、その男の元へ跪き、言うとおりにしようとしている自分がいる。
「パパの……っ」
汐は唇を噛み締めて、腹の底から沸き起こる衝動を堪える。いくらGlareを放っても怯まないと分かると、本庄は舌打ちをする。
「くっそつかえねーSub。Come. 四つん這いでな」
屈辱的な命令にいっそのこと意識を放り出してしまいたかった。応えようとする本能には抗えず、嬉々としてCommandを受け入れてしまう。
犬のように汐は四足歩行で、主人の後ろをついていく。汐は本庄とともにプレイルームへ入った。
のろのろとした動きに苛立った本庄は、汐の鳩尾を蹴り上げる。ベッドの足に背中を打ちつけた痛みで、呼吸が止まる。
助けを求めるため、汐は通話メッセージのアプリを立ち上げる。配置はある程度覚えている。画面を見ずに、ポケットに入ったままで操作をした。
履歴の一番上は深見のはずだ。
──来てくれるかも分からない。それに、こんなところを見られたら……。
プレイルームに入るには必ずDomとSubの合意が必要だ。明らかなルール違反での事態だが、深見は訝しむしれない。汐が他のDomとプレイをしようとしていたと。
「あ……っ」
躊躇している間に、本庄に見つかってしまう。
スマートフォンの電源を切られ、汐の手の届かないところへ取り上げられてしまった。
──やばいな。
以前までの汐だったら、このくらいのGlareでは脅かされなかった。しかし、深見とのプレイを通じて、少しずつGlareを受け入れるように体質が変化している。Domに応える心地よさを知ってしまったからだ。
「ハイランクって言われてるわりには、ご主人様の言うこと聞けねぇんだな」
「……あんたが雑魚なだけなんじゃないの?」
乾いた笑いの後に、強烈な蹴りが飛んでくる。目的が汐とプレイをすることではなく、ただ痛めつけたいだけだと分かり、汐は内心ほっとしていた。
「その冷めた目が昔から気に食わなかった。なあ、引退したのはSubだって分かったからだろ?」
「……さあ」
その気に食わない目で、さっきから本能を満たせていないDomを睨みつけた。内蔵を圧迫される苦しさと、骨が軋むことで生まれる熱。全て汐には初めての感覚だった。
「はは……マゾには全部ご褒美になっちまうか」
「……そーだよ。ごちそーさま」
ごつ、と鈍い音が脳内で弾けた。ちかちかとした白い火花が目の奥で散る。汐の意識も手足の感覚も、同じ光の中に消えた。
……────。
腹の痛みがずっと消えない。本庄はいなくなっているし、奇跡的にSubdropにもなっていない。しかし、体調は最悪だ。顔や手足には被害はないが、服の下は徹底的にやられている。
──こんな汚い身体じゃ、誠吾さんとプレイ出来ないな……。
シャツの下は酷い有様になっていた。インクが跳ねたみたいにくっきりとした赤黒い痣が、皮膚の上に乗っかっている。汐に対する長年の恨みもあっただろうが、動機はそれだけではないだろう。自分の中のDom性を明らかに制御出来ていなかった。
なるべく痛みを表情に出さないようにして、汐はプレイルームを出る。時刻はとっくに十二時を過ぎていた。昼間はバーのフロアは開いていないので、汐はエレベーターで一階へと降りる。
「あっ、汐。あらあら、お寝坊したのー?」
「まあ……そんな感じ」
島長は今から出勤なのだろう。やたらとにやにやしているのは、汐と会えたからだけではないらしい。
「だれ……彼氏?」
「そっ。かわいーでしょ! 新人の子! こういう仕事は初めてだって言うから、俺が手取り足取り教えてあげてねぇ……俺、ピュアな子好きなんだよねー」
「えっ、本当に付き合ってんの?」
汐は目をぱちくりとさせた。親友の歴代の恋人は、もっと年上で見目にお金をかけている男だったからだ。一歩後ろに隠れているのは、いかにも気弱で控えめそうな子だ。騙されているようで何だか気の毒になる。
「……そいつ、ちゃらちゃらしてるから、真面目に付き合ってるともたないよ」
「ちょっとー。もっと俺のいいところを宣伝してよー」
「例えば? 何かある?」
「エッチがめちゃくちゃ上手いです、とかさー」
はあ、と汐は疑問混じりの溜め息を溢した。そんなことを言って、自分と島長の関係を誤解されても困る。汐は「お幸せにー」と片言な台詞で済ませた。
そのままの足で病院へ行き、鎮痛剤と湿布をもらい帰宅した。両親にこのことが知られたら、サロン通いを止められるかもしれない。会員の月会費を払っているのも創一だ。
──誠吾さんにこんな身体、見せられない。
かと言って事情も話せない。傷の回復を待っている間に、深見は他のパートナーを見つけるかもしれない。送ったメッセージに返信が届いていたが、既読もつけなかったし返さなかった。「明日サロンで会えたら嬉しい」なんて最初から送らなければよかった。
──従いたくない。そのCommandには。
心の声と、Glareを与えられて喜ぶSubの本能で、頭の中はぐちゃぐちゃになる。不快さがこみ上げてきて、汐は床の上へ嘔吐してしまった。身体は拒否反応を示しているのに、その男の元へ跪き、言うとおりにしようとしている自分がいる。
「パパの……っ」
汐は唇を噛み締めて、腹の底から沸き起こる衝動を堪える。いくらGlareを放っても怯まないと分かると、本庄は舌打ちをする。
「くっそつかえねーSub。Come. 四つん這いでな」
屈辱的な命令にいっそのこと意識を放り出してしまいたかった。応えようとする本能には抗えず、嬉々としてCommandを受け入れてしまう。
犬のように汐は四足歩行で、主人の後ろをついていく。汐は本庄とともにプレイルームへ入った。
のろのろとした動きに苛立った本庄は、汐の鳩尾を蹴り上げる。ベッドの足に背中を打ちつけた痛みで、呼吸が止まる。
助けを求めるため、汐は通話メッセージのアプリを立ち上げる。配置はある程度覚えている。画面を見ずに、ポケットに入ったままで操作をした。
履歴の一番上は深見のはずだ。
──来てくれるかも分からない。それに、こんなところを見られたら……。
プレイルームに入るには必ずDomとSubの合意が必要だ。明らかなルール違反での事態だが、深見は訝しむしれない。汐が他のDomとプレイをしようとしていたと。
「あ……っ」
躊躇している間に、本庄に見つかってしまう。
スマートフォンの電源を切られ、汐の手の届かないところへ取り上げられてしまった。
──やばいな。
以前までの汐だったら、このくらいのGlareでは脅かされなかった。しかし、深見とのプレイを通じて、少しずつGlareを受け入れるように体質が変化している。Domに応える心地よさを知ってしまったからだ。
「ハイランクって言われてるわりには、ご主人様の言うこと聞けねぇんだな」
「……あんたが雑魚なだけなんじゃないの?」
乾いた笑いの後に、強烈な蹴りが飛んでくる。目的が汐とプレイをすることではなく、ただ痛めつけたいだけだと分かり、汐は内心ほっとしていた。
「その冷めた目が昔から気に食わなかった。なあ、引退したのはSubだって分かったからだろ?」
「……さあ」
その気に食わない目で、さっきから本能を満たせていないDomを睨みつけた。内蔵を圧迫される苦しさと、骨が軋むことで生まれる熱。全て汐には初めての感覚だった。
「はは……マゾには全部ご褒美になっちまうか」
「……そーだよ。ごちそーさま」
ごつ、と鈍い音が脳内で弾けた。ちかちかとした白い火花が目の奥で散る。汐の意識も手足の感覚も、同じ光の中に消えた。
……────。
腹の痛みがずっと消えない。本庄はいなくなっているし、奇跡的にSubdropにもなっていない。しかし、体調は最悪だ。顔や手足には被害はないが、服の下は徹底的にやられている。
──こんな汚い身体じゃ、誠吾さんとプレイ出来ないな……。
シャツの下は酷い有様になっていた。インクが跳ねたみたいにくっきりとした赤黒い痣が、皮膚の上に乗っかっている。汐に対する長年の恨みもあっただろうが、動機はそれだけではないだろう。自分の中のDom性を明らかに制御出来ていなかった。
なるべく痛みを表情に出さないようにして、汐はプレイルームを出る。時刻はとっくに十二時を過ぎていた。昼間はバーのフロアは開いていないので、汐はエレベーターで一階へと降りる。
「あっ、汐。あらあら、お寝坊したのー?」
「まあ……そんな感じ」
島長は今から出勤なのだろう。やたらとにやにやしているのは、汐と会えたからだけではないらしい。
「だれ……彼氏?」
「そっ。かわいーでしょ! 新人の子! こういう仕事は初めてだって言うから、俺が手取り足取り教えてあげてねぇ……俺、ピュアな子好きなんだよねー」
「えっ、本当に付き合ってんの?」
汐は目をぱちくりとさせた。親友の歴代の恋人は、もっと年上で見目にお金をかけている男だったからだ。一歩後ろに隠れているのは、いかにも気弱で控えめそうな子だ。騙されているようで何だか気の毒になる。
「……そいつ、ちゃらちゃらしてるから、真面目に付き合ってるともたないよ」
「ちょっとー。もっと俺のいいところを宣伝してよー」
「例えば? 何かある?」
「エッチがめちゃくちゃ上手いです、とかさー」
はあ、と汐は疑問混じりの溜め息を溢した。そんなことを言って、自分と島長の関係を誤解されても困る。汐は「お幸せにー」と片言な台詞で済ませた。
そのままの足で病院へ行き、鎮痛剤と湿布をもらい帰宅した。両親にこのことが知られたら、サロン通いを止められるかもしれない。会員の月会費を払っているのも創一だ。
──誠吾さんにこんな身体、見せられない。
かと言って事情も話せない。傷の回復を待っている間に、深見は他のパートナーを見つけるかもしれない。送ったメッセージに返信が届いていたが、既読もつけなかったし返さなかった。「明日サロンで会えたら嬉しい」なんて最初から送らなければよかった。
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
Dom/Subユニバース読み切り【嘉島天馬×雨ケ谷颯太】
朝比奈*文字書き
BL
🖤 Dom/Subユニバース
毎週日曜日21時更新!
嘉島天馬(クーデレ・執着Dom)× 雨ケ谷颯太(ワンコ系・甘えんぼSubよりSwitch)
読み切り単話シリーズ。命令に溺れ、甘やかされ、とろけてゆく。
支配と愛情が交錯する、ふたりだけの濃密な関係を描いています。
あらすじは各小説に記載してあります。
双子のイケメン執事達と恋愛しています
すいかちゃん
BL
母親の再婚により、平野家の息子となった勇人。超お金持ちの家では、驚く事ばかり。そんな勇人は、双子のイケメン執事に気に入られてしまう。やがて双子の気持ちを知った勇人は、驚きながらもその気持ちを受け入れる事を決める。
回を重ねるごとに、勇人と双子の関係が濃厚になっていきます。
長編ですが、1話1話は短めです。
第5話で一旦完結となります。
ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話
NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……?
「きみさえよければ、ここに住まない?」
トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが………
距離が近い!
甘やかしが過ぎる!
自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!