溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【1章】はじめまして

小さな命2

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……────。


男体のオメガ……さらに千歳は平均よりも小柄であったため、胎児が二五〇〇グラムほどになったあたりで、帝王切開で産むことを担当医から説明された。

術後、体調は安定しており、予定では三週間ほどで退院できるとのことだった。仕事の合間や終わった時間に、レグルシュは毎日千歳の病室を訪れる。

季節は梅雨が明け、日に日に日差しの強さが増している。病室は冷房が適度に効いていて、快適で過ごしやすい。

「千歳。体調は大丈夫か?」
「うん。忙しいのにごめんね。いつもありがとう」

レグルシュは「気にするな」と、千歳を安心させるために笑った。手には大きな紙袋を携えている。

「今日もまた……すごく大きいね。一人だと食べきれないよ」
「夏場だし何でも食っておいたほうがいい」
「何でもって」

レグルシュが備えつけの冷蔵庫を開く。病院で用意してくれる食事は残さず食べているし、体調も特に悪いわけではない。

それなのに、レグルシュは面会の度に甘いものを大量に買ってくるので、冷蔵庫の中ははち切れそうなほどいっぱいだ。千歳はレグルシュに、一緒に食べようと提案する。

そう言うと、いつも「千歳のために買ってきたのに」と不満を言うが、そのときの表情はすごく嬉しそうだ。

「……姉貴に聞いた話とは違うな」
「どうしたの?」
「いや。別に」

軽いスポンジのスフレケーキに、生クリームがたっぷりと入っている。千歳に食べさせたいというよりは、甘党のレグルシュが食べたいのではないかと、密かに思っている。

けれど、忙しい仕事の合間にこうして会いに来てくれ、二人で甘いものを食べるのが、一日のうちで一番幸せな時間だった。

「美味しいか? 他に食べたいものがあるなら遠慮なく言ってくれ」
「う、うん。お腹はいっぱいだから大丈夫だよ。ありがとう」

ちょうど授乳の時間になり、検診を受けていた赤子が看護師に抱かれて戻ってくる。千歳は教えてもらったように、口元に乳首が来るように抱きかかえる。

「この子の名前、産まれるまでに決まらなかったね」
「そうだな。……俺の候補が多いせいか」

性別が男の子だと分かった頃から、レグルシュは赤ちゃんの名前を考えるのに熱心だった。

「こういうのは顔を見れば直感的に湧くものかとも思ったが……悩んで決められない」
「ふふ。あのね、レグ。実はぼんやり考えてて」

レグルシュの手のひらに、千歳は指で漢字を書いた。

「……斗和とわ?」
「うん。斗和。僕よりもずっと長生きして幸せになってほしいから」

千歳が千年という意味を持つから、それよりも大きな意味をこの子に与えたい。由来を伝えると、レグルシュは大きく頷いた。

「斗和か……いい名前だな」
「ありがとう。レグはたくさん考えてくれていたし、僕だけの考えが入ってるから、迷ってたんだけど」
「俺は斗和で大賛成だ。……ただ、一つ訂正させてくれ」

レグルシュが千歳のいるベッドへ半身だけ寄りかかり、二人をそっと腕の中へ抱いた。アルファのフェロモンが千歳の鼻腔に満ち、心臓の鼓動を速くさせる。

「千歳も斗和も、どちらも幸せにする。俺が必ず。だから約束だ」

レグルシュが千歳の小指を、自分のものと絡ませる。そして、斗和の丸めた小さな手に触れさせた。

「お前に散々酷いことを言った、俺が言えた義理ではないが」

レグルシュは苦い顔をする。千歳はううん、と左右に首を振った。

「もう気にしてないよ。レグは優しいって分かってるから」
「……お前は優しすぎる」
「だめ?」
「俺が千歳を好きになった理由なのだから、駄目なわけがない」

甘い言葉と共に、レグルシュは千歳の髪にキスを落とした。どきりとして身体を強張らせると、斗和が顔をくしゃっとさせて泣いてしまった。千歳はよしよしと我が子を宥める。隣のレグルシュは泣き続ける斗和におろおろとするばかりだ。

「眠かったのかな。ごめんね。レグといっぱいお話しして」

ベッドから離れたレグルシュは、看護師を呼ぼうか迷っていたようだ。足音を立てないようにぎこちなく動く様子が新鮮で、千歳は笑いを堪えるのに必死だった。

──これからよろしくね。斗和。

元気で健康に産まれてきてくれて、本当によかった。名前を呼ぶと、斗和が微かに笑ったような気がした。
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