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【1章】はじめまして
ただいま
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……────。
退院日になり、千歳は三週間ぶりに自宅へと帰ってきた。レグルシュと、新しく誕生した斗和を連れて。斗和は目鼻立ちがくっきりとしていて、可愛いと病院のスタッフに持て囃されていたので、千歳が退院する日は「寂しくなるわ」と口々に言われた。
毎日見舞いへと足を運ぶレグルシュのことも、院内で話題になっていたようで、彼の素性ことや馴れ初めなどをよく聞かれたものだ。
斗和は本当にレグルシュの生き写しのようで、髪も睫毛の色も、彼にそっくりだ。
家の中の香りを懐かしく感じていると、リビングへ続く扉を開けたレグルシュがばつの悪そうな顔をして振り返った。
「あ……」
整理整頓がまめな彼にしては珍しく、部屋の中が散らかっている。とりあえず、斗和を安全なベビーベッドへと避難させてから、「どうしようか」と二人揃って首をひねった。
「このところ忙しくてな……悪い」
「う、ううん。……何だか、ユキくんがいたみたいだね」
シッター時代をふと懐かしく感じてしまった。寂しがりやで、けれどもパワフルなユキをなるべく一人にさせまいと、レグルシュと千歳は奮闘していたのだ。「ユキのほうが酷いぞ」と、レグルシュは呟き、些細な対抗心を芽吹かせる。
「あいつの面倒を見るのは身体がいくつあっても足りない」
「ふふ。でもこれから、そんなことも言っていられなくなるよ」
千歳は今は大人しく眠っている斗和へ、顔を向けた。含み笑いをしながら冗談を飛ばしていたレグルシュの顔つきが、神妙なものへと変わる。
「……そうだな」
「あのね、レグ。この子がアルファでもベータでもオメガでも、僕とレグが親でよかったって思ってほしいんだ」
レグルシュの意思を確認するように、千歳はありのままの気持ちを語った。幼少期、レグルシュのアルファの父母は運命として現れたオメガに切り裂かれたのだ。
アルファとオメガの運命の番同士の間に産まれた千歳自身も、オメガだと分かった瞬間に二人から突き放された。だから──どんなことがあっても、斗和の一番の味方でいたい。
レグルシュも千歳の覚悟を受け取ったように、頷いた。
「俺も千歳と全く同じ気持ちだ。俺や千歳が受けたような苦しみは、斗和には味わってほしくない」
「レグは、斗和がオメガでも、ずっと愛してくれる?」
「当たり前だろう。だからもう、そんな心配はするな」
千歳が涙ぐんだ声で返事をする。同時に向こうのベッドで斗和が同じようにあー、と声を上げた。
泣いてしまったのかと思い、斗和の顔を覗き込んだが表情はすぐに穏やかなものへと変わり、夢の中に再び落ちていった。
「もしかして、お返事したのかな。お利口さんだね」
ちょっと親バカかもしれないが、自分達の会話と噛み合っていたので少し感動してしまった。レグルシュも続けて「どんな子に育つか楽しみだ」と、千歳の肩を抱き寄せる。
「できれば千歳のほうに似てほしいが」
「斗和はレグそっくりだよ。パパの血が濃いのかな」
困る、と吐いた言葉には似つかわない表情をする。喜色めいた横顔が美しく、千歳は毎度のことながら見惚れてしまう。
斗和がお腹の中にいるときも、レグルシュはまじないをかけるように「千歳似で」と語りかけていた。
くうくうと寝息を立てながら、可愛く眠る斗和をたっぷりと見つめた後、二人で散らかった部屋の掃除に取りかかった。レグルシュは溜まった洗濯物を片付けていき、千歳は微力ながらその手伝いをする。
「千歳は休め。後は俺がやる。まだ身体が万全ではないのだろう」
「このくらい、力仕事じゃないから大丈夫だよ。レグの仕事も手伝わないと」
「……お前に働かせたら、俺が心配で倒れそうだ」
レグルシュはわざとらしく額に手をやり、溜め息をつく。千歳が畳んでいた洗濯物は取り上げられ、次の授乳の時間まで眠るようレグルシュは進言する。
「レグのほうこそ倒れちゃうよ」
「何度も言っているが、俺は丈夫だから気にするな」
疲労を隠しきれていないので、どうしても気にかかる。結局、千歳のほうが折れる形で、ベッドへと移動した。
久々の寝室……レグルシュの匂いに包まれて、レグルシュの顔をずっと見ていたいと思うのに、睡魔には勝てず夢の中へ落ちていく。愛する番の隣で、千歳は久々に深く眠った。
退院日になり、千歳は三週間ぶりに自宅へと帰ってきた。レグルシュと、新しく誕生した斗和を連れて。斗和は目鼻立ちがくっきりとしていて、可愛いと病院のスタッフに持て囃されていたので、千歳が退院する日は「寂しくなるわ」と口々に言われた。
毎日見舞いへと足を運ぶレグルシュのことも、院内で話題になっていたようで、彼の素性ことや馴れ初めなどをよく聞かれたものだ。
斗和は本当にレグルシュの生き写しのようで、髪も睫毛の色も、彼にそっくりだ。
家の中の香りを懐かしく感じていると、リビングへ続く扉を開けたレグルシュがばつの悪そうな顔をして振り返った。
「あ……」
整理整頓がまめな彼にしては珍しく、部屋の中が散らかっている。とりあえず、斗和を安全なベビーベッドへと避難させてから、「どうしようか」と二人揃って首をひねった。
「このところ忙しくてな……悪い」
「う、ううん。……何だか、ユキくんがいたみたいだね」
シッター時代をふと懐かしく感じてしまった。寂しがりやで、けれどもパワフルなユキをなるべく一人にさせまいと、レグルシュと千歳は奮闘していたのだ。「ユキのほうが酷いぞ」と、レグルシュは呟き、些細な対抗心を芽吹かせる。
「あいつの面倒を見るのは身体がいくつあっても足りない」
「ふふ。でもこれから、そんなことも言っていられなくなるよ」
千歳は今は大人しく眠っている斗和へ、顔を向けた。含み笑いをしながら冗談を飛ばしていたレグルシュの顔つきが、神妙なものへと変わる。
「……そうだな」
「あのね、レグ。この子がアルファでもベータでもオメガでも、僕とレグが親でよかったって思ってほしいんだ」
レグルシュの意思を確認するように、千歳はありのままの気持ちを語った。幼少期、レグルシュのアルファの父母は運命として現れたオメガに切り裂かれたのだ。
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レグルシュも千歳の覚悟を受け取ったように、頷いた。
「俺も千歳と全く同じ気持ちだ。俺や千歳が受けたような苦しみは、斗和には味わってほしくない」
「レグは、斗和がオメガでも、ずっと愛してくれる?」
「当たり前だろう。だからもう、そんな心配はするな」
千歳が涙ぐんだ声で返事をする。同時に向こうのベッドで斗和が同じようにあー、と声を上げた。
泣いてしまったのかと思い、斗和の顔を覗き込んだが表情はすぐに穏やかなものへと変わり、夢の中に再び落ちていった。
「もしかして、お返事したのかな。お利口さんだね」
ちょっと親バカかもしれないが、自分達の会話と噛み合っていたので少し感動してしまった。レグルシュも続けて「どんな子に育つか楽しみだ」と、千歳の肩を抱き寄せる。
「できれば千歳のほうに似てほしいが」
「斗和はレグそっくりだよ。パパの血が濃いのかな」
困る、と吐いた言葉には似つかわない表情をする。喜色めいた横顔が美しく、千歳は毎度のことながら見惚れてしまう。
斗和がお腹の中にいるときも、レグルシュはまじないをかけるように「千歳似で」と語りかけていた。
くうくうと寝息を立てながら、可愛く眠る斗和をたっぷりと見つめた後、二人で散らかった部屋の掃除に取りかかった。レグルシュは溜まった洗濯物を片付けていき、千歳は微力ながらその手伝いをする。
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「……お前に働かせたら、俺が心配で倒れそうだ」
レグルシュはわざとらしく額に手をやり、溜め息をつく。千歳が畳んでいた洗濯物は取り上げられ、次の授乳の時間まで眠るようレグルシュは進言する。
「レグのほうこそ倒れちゃうよ」
「何度も言っているが、俺は丈夫だから気にするな」
疲労を隠しきれていないので、どうしても気にかかる。結局、千歳のほうが折れる形で、ベッドへと移動した。
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