溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【2章】ユキと斗和

久しぶりのユキ1

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それから三ヶ月ほどが過ぎ、肌寒いくらいの季節になった。健診も特に異常はなく、体重が平均より少し軽いくらいで、斗和は健康体だ。

ミルクの飲みっぷりもよく、千歳の分だけでは間に合わない。レグルシュも忙しい身ながらも、率先して育児を手伝ってくれているのでありがたかった。

今日はレグルシュの実姉であるエレナと、その家族が赤ちゃんを見に家へ訪れる予定になっている。

「ちいぃー!!」

玄関まで出迎えると、ユキは千歳の太腿にぎゅうと抱きついた。千歳のことを「ちー」と呼ぶのは今でも変わらない。レグルシュの甥──周防 瑚雪こゆきは、ユキという愛称で皆から呼ばれている。

相変わらず天使のような可愛さで、憔悴していた千歳の心はふわっと舞い上がる。最後にユキと会ったのが小学校の入学式以来なので、約半年ぶりだ。

「ごめんね。千歳くん。行儀が悪いけど、ちょっとの間だけ許してあげてね」
「いいえ。僕もユキくんに会えてすごく嬉しいですから」

千歳がそう言うと、ユキはよほど嬉しかったのか、千歳の足へ赤くなった頬をすりすりと寄せた。

産後も家の手伝いに来てもらったり、斗和のベビー用品をいろいろともらってばかりで、千歳は恐縮する。今日はエレナもいつきも、大きな紙袋を持参していた。

「これ、よかったら使ってね。赤ちゃんって結構汚しちゃうから何かと入り用でしょう?」
「そんな。この前もいただいたのに。お返しもまだ」
「このくらい気にしないでいいのよ。まだ車に積んであるから、ちょっと待っててね」

──え……まだ!?

かろうじて口には出さなかったが、千歳は青ざめる。これから寒くなるから、とエレナから乳幼児用の寝具セットをプレゼントされる。

「本当にありがとうございます。何から何まで本当にすみません」
「いいのよ。気にしないで。うふふ、私も孫が産まれたみたいで嬉しいから」
「孫にはまだ早いと思います」

木製のベビーベッドはユキが使っていたお下がりだ。斗和は夜泣きはするものの、昼時は気持ちよさそうに眠っている。リビングから仕切られた部屋で、斗和はエレナ達が来訪したことも気付かずに目を閉じている。

「可愛いっ! 寝てるの?」
「お昼寝してるみたい。あともうちょっとしたらミルクの時間だから、よしよししてあげてね」
「うん! 分かった。ちっちゃくてかわいー」

ユキは柵の間から斗和の寝顔を見つめている。エレナや樹が斗和を見守ってくれている間に、千歳は人数分の紅茶と菓子の準備を始めた。

「ユキに似てるね」という声が聞こえてきて、千歳の顔に自然と笑みが浮かぶ。レグルシュが聞けば、複雑な顔をしそうだけれど。

「すみません。レグは午前だけ仕事なので……帰ってきたら、ご飯の準備をしますね」

予定ではあと三〇分ほどだ。先ほど車に乗ったところだと連絡がきた。

「千歳くん、ちょっとお疲れ気味ね。目の下、隈ができてる」
「そ、そうですか」
「大変よねー。夜ずっと眠れてないんじゃない? 睡眠細切れになっちゃうからしんどいよね」

子育ての先輩に共感してもらえると、疲労がすうっと取れていくような感じがする。おむつなどの消耗品も、ほとんどが義姉に買ってもらったものばかりで、二人のサポートがなかったら……と頭が下がる思いだ。

「レグはちゃんと育児手伝ってるの? 千歳くんに負担かけてないか心配だわ。不満があったら何でもいいから私に言ってね。叩き直して返してあげるから」
「い、いえ! お恥ずかしい話……レグのほうが家事を頑張ってくれていて。もちろん、斗和のお世話も」

夜、寝落ちてしまうことが度々あり、目を覚ますとレグルシュがすでに帰ってきていて、中断していた家事や斗和の世話を済ませている。

朝と昼はレグルシュがいないため、千歳一人で斗和を見なければいけないのでずっと側にいるのだが、やはり知らず知らずのうちに気詰まるようで。自分が感じている以上に、レグルシュには負担をかけさせてしまい、いつも申し訳なく思っている。

夜泣きには手を焼いているようだが、家事も育児もレグルシュのほうが千歳よりも要領がよく、本当に疲れているときは「自分などいなくても……」なんて、ネガティブな思考に陥る。

──口にして謝ってはいるんだけど、「気にするな」「お互い様」って返されてしまうし……。

千歳の気付かないところで、レグルシュが鬱憤を溜め込んでいないか心配だ。それ以外にも、レグルシュと気持ちが通じ合わせたときから、心配事が一つあって──。
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